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『“ Dead man's smile ” 』
浅葱・漣5658



■◇◆◇◆□


 変わって行くものを、止める事など出来ない。
 ソレは無意識の産物だから
 ソレは時の流れと共に在るものだから
 けれど、それが幸か不幸かは―――――


□◆◇◆◇■


 「それでは、どうも有難う御座いました。」
 「いや・・・。」
 丁寧に頭を下げ、心底嬉しそうな、安堵したような笑みを浮かべながら去って行く男性。
 その後姿を追いながら、浅葱 漣は微かに笑顔をたたえていた。
 暗い夜道。
 人通りなんてほとんどない。感じる気配は、男性と漣のモノのみ。
 男性の背中が路地の向こうに消える。ふっと、角を曲がり・・・
 その瞬間、漣の表情から笑みが消えた。
 まるで波が引くかのように、すっと、顔を上げた時には冷たいまでの無表情だった。

 ・・・何故なら、彼の笑みは作り笑いでしかないから・・・

 あえて作り笑いをしているのではない。
 漣は、ソレしか知らないのだ。


 ―――漣は、笑い方を シ ラ ナ イ ・ ・ ・ ―――



■◇◆◇◆□


 漣は生まれてからの16年間、九州の浅葱本家でずっと療養状態にあった。
 彼の現在年齢は17歳。今まで生きて来た時のほとんどをそこで過ごしたと言う事になる。
 浅葱の血脈に受け継がれる“呪い”
 その規模は、術者の力の大きさに比例する。
 まして、空間に無理やり干渉して結界を作り出す“異能者”の漣は、殆どが発作との戦いだった。
 微熱のせいで霞む意識、それを繋ぎとめるかのように、痛む胸。
 咳は呼吸を酷く苦しいものにさせる。
 吸う空気は、いつだって血の味。

 漣の寿命は、もって後二年。
 つまりは、二十歳まで生きられない計算。
 ありとあらゆる手を尽くしてきた。
 それこそ、考えられる全ての方法を試した。
 それなのに・・・解決策は未だ見つからず仕舞だった。
 漣を診た医者は、今まで持っている方が奇跡だと言った。
 こうして呼吸をし、モノを考え、心臓が動き、“漣”として生きている事が、奇跡だと・・・医者は言った。
 奇跡と言う、不安定で儚いものの上に成り立っている自分の命。
 それは果たして、本当に“生きている”と言う事になるのだろうか・・・?
 限りなく死に近い生を持つ自分を、漣は“生者”(せいじゃ)と見なさない。


   “死者”(デッドマン)と見なす・・・・・。


 不死身の身体を持ちながら、短命の呪いをかけられた矛盾の存在。
 永遠を謳いながら、期限を有する存在。
 ―――故に、自己犠牲を平然と行う。
 生者の命を前に、死者の命がどれほどの価値を有しようか?
 “彼ら”のためならば、自分がどれだけ傷つこうが、血を流そうが、構わない。
 例えそれで命を落としたとしても―――

  そして、漣は“思わない”

   自分の運命が、過酷だと、思わない。

 そう思うだけの心は・・・持っていないから・・・。
 “ソレ”が漣にとっての生きて来た道だから。
 “その考え”を基に、漣は今まで生きて来たのだから。
 今更その考えを覆す事は出来ない。

 覆してしまえば、それは今までの“漣”を否定する事になるから・・・。


■◇◆◇◆□


 一度持った考えは、変わらないものだと思っていた。
 人が人としてしか生きられないのと同じように、“漣”は“漣”としてしか生きられないのだと思っていた。
 勿論、その考えを否定する理由はない。
 自分は自分。
 現実主義者である漣は、楽観的な考えを嫌う。
 世界に数多に存在する“もしも”を空想的に考える事も、時間の無駄以外に思わない。
 “もしも”を考える時は、物事の最悪の状況を考える時。
 最悪の状況を考えておけば、万が一そうなった場合、いくらでも対処がきく。
 相手を確実に護りたいと思う気持ちが強い反面、漣は自分の身を疎かにしがちだった。
 身を挺して相手を護る事も厭わない。
 ・・・それを“犠牲”だと、思わない・・・。


 その考えは今でも変わらない。
 それなのに、東京に出て来てから少し“何か”が変わった気がする。
 未だに現実主義者ではあるし、楽観的な考えが嫌いなのも変わっていない。
 でも、確実に漣の中で“何か”が変わった。
 ・・・もしかしたら、変わって行く途中なのかも知れない。
 過ぎ去る時に便乗するかのように、人の生は確実に前へと進んで行く。
 緩やかに見えて、時が流れるスピードは速い・・・・・。
 その時に、置いていかれないように・・・時と共に、前へと進めるように・・・。




   それが幸か不幸かは、また別のお話―――――







       ≪ E N D ≫




PCシチュエーションノベル(シングル) -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年01月19日

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