▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【 Hare or Labbit 】≪ the latter part ≫ 』
桐生・暁4782)&梶原冬弥(NPC2112)


◇■◇■◇


  『兎を追え 白い子供の兎を』

 淡く雪が舞い落ちる。そこに転々とつく黒い足跡。
 真っ白な雪に覆われた大地は、気持ちが良いくらいにピュアだった。
 ・・・世界には様々な色が混在している。
 1つ1つは純粋な色であるにも拘らず、どうして人はそれらを混ぜてしまおうとするのだろうか?
 疑問には、既に答えが出ていた。
 無論それは自分の中だけの答えなのかも知れないが・・・・・。
 混じり合ったものの方が、安定感があるからだ。
 いや・・・安心感と言った方が良いのかも知れない。
 人は、一人で生きて行く事が出来ないから・・・周りのモノも、1つで置いておく事が出来ないんだ。
 それは・・・人の我が儘なのかも知れない。
 自分達が出来ない事を、簡単にやってのけているモノに対しての嫉妬なのかも知れない。
 なににせよ、世界を構成している色は、混じり合っている――――――。


■◇■◇■


 鬱蒼と木々が生い茂るこの場所は、暗い。
 雪が降り積もった森の中。
 足場が悪く、ヘタをすれば転んで大変な事になってしまう・・・・・。
 目の前に居る男性の背を見詰めながら、必死になってその後を追う。
 暗い森。
 見上げれば、僅かに見える、光。
 木の枝が鋭く皮膚を傷つけ、そこから赤い血液が滲み出る。
 そして、ゆっくりと肌を伝い・・・パタっ
 雪の上に落ちた。
 じわりと滲み、ピンク色に染まる雪。
 走って走って・・・男性の肩に手が届いた。
 「待てよっ!!」
 ビクリと肩を震わせて、振り返った顔は怯えていた。
 怖かったのだろう・・・不安だったのだろう・・・。
 ちらつく考えが、無意識のうちに自分と重ね合わせようとする。
 それをそっと、心の奥底に押し込めて―――。
 「良いか、よく聞け・・・。捨てゴマなんだよ。解るか?どうせ消されんだよ!」
 語尾に力がこもり、どこか遠くで、ドサリと雪が落ちる音がした。
 鳥の羽ばたきが聞こえる。
 ここはあまりにも静かで、そんな些細な音すらも・・・大きく響いて聞こえるのだ。
 「何とか出来そうな内に、手を引いてくれ。」
 言った言葉が、虚しく宙を彷徨う。
 先ほどまでの怯えたような表情は何処へ行ったのか、相手は今は強気な表情でこちらを見詰めていた。
 「お前の情報は、まだ上まで行ってなかった。」
 「だからどうした?」
 冷たい言葉に、思わず唇を噛み締める。
 どう言ったら良いものか、考える。
 脳の回転が遅い気がする。普段ならこんな時にこそ、ポンポンと言葉が出てくるはずなのに・・・どうしてだろう。かける言葉が見つからない。
 「お前に何の関係がある?」
 「・・・俺は・・・」
 「俺は俺の意思でここに居る。それが、お前に関係あるのか!?」
 「俺は・・・!!!」
 らしくもない、怒鳴り声。
 余裕がないのは・・・お互い様だ。
 「俺は・・・お前が殺されるの・・・気分的に・・・嫌なんだよ。」
 弱々しい声だと、自分でもわかっていた。
 だから嫌なんだ。本音を言ってしまうのは。自分がどれだけ弱い存在なのかをマザマザと見せつけられてしまうから・・・・・。
 「ごめん・・・。」
 それが何に対しての謝罪なのかはわからなかったが、相手はそう言うと、そっと手を取った。


□◆□◆□
 

 森の中で別々に分かれ、彷徨う事ほんの1時間ばかり。
 突如目の前に現れた人物に、桐生 暁は思わず目を丸くした。
 「冬弥ちゃん、どしたの?こんなトコで・・・。」
 それがあまりにも間の抜けた発言だとは、自分でも解っていたのだけれども・・・。
 梶原 冬弥は暁の言葉に、冷たい視線を向けた。
 酷く怒ったような表情からは、青白い炎が見えるかのようだった。
 「どうしたのだと?ふざけんな!!」
 ビクリと、思わず肩が上下した。
 「お前が見つけろっつーから、こっちは必死に捜したんだよ!」
 「・・・ごめん・・・。」
 「お前、解ってんのか!?自分がどれだけ人に心配かけてるか!必死になって捜してたヤツの気持ち、ちゃんと解ってんのか!?」
 言葉が上手く出てこなくて、代わりに・・・手を伸ばした。
 それはまるで助けを求めるかのようで―――
 冬弥が冷たくその手を払った。
 視線が訴える。“触るな”と。
 ズキリと痛む、ココロが悲しい。
 冬弥がバサリと何かを雪の上にばら撒いた。
 それは紙だった。何枚も何枚も、バラバラと雪の上に落ちては水に濡れ、ジワリと滲む。
 「見ろよ。」
 その言葉に、暁は一番手前にあった紙を手に取って返した。
 何かの報告書のようなものだった。ネットから取ったのだろうか?右上に載った写真は、まるで証明写真のように硬い顔つきだった。
 その下に、パラパラと人物説明が載っていたが・・・読まなくても、それが誰だか解っていた。
 見知った顔。
 「これ・・・」
 「トップだ。知ってるのか?」
 「うん・・・。俺が一時期ヤサグレてた頃・・・ね・・・。」
 初めて声をかけられた時は、また大人の説教かと思った。
 大して偉くもないクセに、年齢が行っていると言うだけで物知り顔で色々と説教をする大人を、暁は心底嫌悪していた。
 この世の地獄を味わった事もないクセに、上辺だけの言葉を並べて尤もらしい口調で話す。
 薄っぺらい人間の話す言葉に、どれだけの価値があるのだろうか?
 ・・・けれど、あの人は違った。
 暁に色々と“遊び”を教えてくれた。
 大っぴらに悪ぶらなくても楽しめるのに、勿体無いだろうと言って・・・笑って・・・。
 確かに・・・飽きてたまにウマく遊ぶ程度―――。
 「あの人がトップなんてね。」
 囁いた言葉は、きっと冬弥に届いていなかった。
 声にならないほどに小さいその言葉は、微かに暁の唇を開いた程度だったから。


◆□◆□◆


 「そっか・・・」
 今度はきちんと声に出して、暁はそう言うと、ヒラリと紙を放した。
 僅かに吹いた風が紙を乗せて、ふわりふわり、舞わせる。
 「分かるんだ。なんとなく。」
 「なにがだ?」
 「俺も・・・同じだから。」
 「は?」
 「俺も同じで、狂ってるから。」
 意味が分からないと言う風に、冬弥が顔をしかめる。
 そう・・・それで良いんだ。
 意味なんて、分からなくて良い。・・・分かって欲しくない。
 目の前には見えない壁があるんだ。
 こちらとあちらを分け隔てる、見えない厚い壁―――。
 「お前・・・なに言ってんだ・・・?」
 冬弥が低くそう言って、1歩前に出る。
 そして暁の腕を掴み・・・・・・・・
 「狂ってるヤツを、こんなに必死になって捜しに来る馬鹿がどこにいる!?」
 「・・・っ・・・」
 言葉は出てこなかった。

  馬鹿だよ、冬弥ちゃん。
  狂ってるヤツをそんなに必死になって捜して・・・

 「帰るぞ。お前、皆に詫びいれろよ?ったく、心配かけさせやがって。」
 グイっと腕を引っ張られ・・・
 その手の温もりは酷く心地良くて―――


  赤いランプが目の前で点滅する

   キケン キケン
 
  逃げろ・・・逃げないと・・・!

   キケン キケン

  これ以上はキケンだ・・・



  優しさに触れるのは、これ以上―――





   それでも腕を振り解けないのは、きっと俺がヨワイから・・・






       ≪END≫

PCシチュエーションノベル(シングル) -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年01月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.