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『【 Hare or Labbit 】≪ the first volume ≫ 』
桐生・暁4782)&梶原冬弥(NPC2112)


◇■◇■◇


  『 First catch your hare 』

 ふっと紡いだ言葉は風に揺られて溶け消えた。
 この世界の音として存在し、そしてこの世界に消える。
 音も色も匂いも、全て・・・全てそうなんだ。例えば自分だって、例えば友達だって。
 こんなちっぽけな世界だけれど、途轍もなく広くて、だからこそ・・・思うんだ。
 全てを見る事は叶わないのに、全てを見たいと思ってしまうのは、我が儘なのだろうかと。
 昔誰かが言っていた。
 小さいと思っているものほど複雑で、大きいと思っているものほど簡単なのよ、と。
 その意味は、未だに解らないままだけれども―――――。


■◇■◇■


 寒い夜。
 雪こそちらつかないけれど、風は凍てつくように冷たく、滲んだ月が静かに地上を撫ぜる。
 ふっと息を吐けば白く宙を漂い、公園の街灯に包まれてふわりと消えた。
 ザっと砂を蹴る音がして、怪訝な顔をしながら1人の男性が公園に入って来た。
 「で?なんだ?こんな真夜中に呼び出しやがって。」
 「うん。ゴメンネ?」
 素直に謝られて拍子抜けしたのか、彼は一瞬不思議そうな顔をした後で「どうした?」と小声で囁いた。
 「なんかね、最近身近で不穏な空気がね。」
 「不穏?」
 「んー・・・どう言ったら良いかは解んないんだけど・・・。」
 「まぁ、良い。それで?」
 「で、調べるの手伝って欲しいわけよ。」
 「俺で事足りるのか?」
 なんだったら、他の連中も引っ張り込んだ方が良くないか?と、続ける。
 「俺よりもその道のプロっぽいの、居るだろ?お前の頼みなら喜んでやるぜ?アイツラなら。」
 「でも、俺は冬弥ちゃんが良いんだよ。」
 桐生 暁はそう言うと、梶原 冬弥の瞳を真っ直ぐに見詰めた。
 冬弥が視線を落とし、小さく溜息をつくと「解った」とだけ言って頷いた。
 そして―――
 「お前は大丈夫なのか?」
 小首を傾げながら、真っ直ぐな瞳を向けられて・・・暁は目を閉じた。
 「なにが?」
 大丈夫だとも、大丈夫じゃないとも、言わなかった。


□◆□◆□


 別に手伝ってもらう相手は、カレじゃなくても良かった。
 カレが言った通り、頼むアテなんて沢山あった。
 そう・・・カレじゃなくて良かったはずだった。それなのに、どうしてだろう。カレに頼んでしまったんだ。
 「ここに来て・・・後悔・・・かな。」
 自嘲気味に呟いた言葉は、無機質な部屋の中で不安げに揺れ、消える事無くその場に重く残った。
 最初から解っていたはずじゃないかと、心のどこかで責める声が聞こえる。
 今回の事に知り合いが関わっていると知って、彼を止めなければと思った。
 そして・・・カレに協力を頼んだ。
 「解ってたはずジャン。」
 軽く言った言葉のはずなのに、響きは何故か重かった。ズシリと、暁の肩に乗った言葉は酷く重くて・・・。
 彼を止めるためには、内部に入り込まなければキツイ。
 潜入捜査に近いのかも知れない。
 「labbitか・・・。」
 最初暁は“hare”だった。ソコに属さない者は皆そう。
 けれど内部に入り込むためには“labbit”にならなくてはならない。
 ・・・その事を、カレに伝えるわけにはいかない。
 理由は沢山あった。本当に、色々―――
 「敵を欺くには、まず味方からってね。」
 だから悪く思わないで欲しい。ココロはそちらに置いて行くから・・・だから・・・。
 「・・・ゴメンネ・・・。・・・冬弥ちゃん・・・。」
 呟いた言葉があまりにも切ない音を持つ。
 月明かりだけが差し込むこの部屋で、1人。
 自力で解決しようとも、助けを求めようとも、思わないまま・・・ただ一人・・・。


◆□◆□◆


 『それがお前の答えか?』
 電話越しに響く声はあまりにも低くて・・・普段のカレとは違う言葉の音に、思わず苦笑する。
 「そうだよ。」
 『・・・っざっけんなよ・・・!?』
 「ふざけてないよ。」
 押し殺すかのような、怒り。
 カレらしいと思った。
 爆発寸前なのに、理性がそれを止める。
 どんな時でも冷静さを忘れないようになのか、それとも・・・感情を爆発する術を知らないのか。
 そのどちらかなのだろうと、思った。
 『・・・labbit 』
 「そう。」
 それっきり、電話の向こうは沈黙した。
 どんな顔をしているのだろうか・・・思いを巡らせてみるものの、到底わかりそうもなかった。
 だって・・・もしも傷ついた顔をしていたならば・・・。
 ―――ゴメン
 心の中で詫びる。
 届かないとは知っていた。でも、口に出して言う事は出来なかった。
 「・・・真実を・・・見つけてよ。」
 『なに・・・?』
 「うさぎだよ、冬弥ちゃん。捕まえて。」
 『だから、それは・・・』
 ピっと、終話ボタンを押した。
 それ以上・・・カレと話をする事は出来なかった。
 「 First catch your ・・・ 」
 そこまで呟いて、ふわり、微笑んだ。
 場違いなまでに柔らかく穏やかな笑みで・・・・・。
 「真実を見つけてよ。」
 見つけられたら・・・真実が解ってしまったら、困るのに・・・。
 それでも分かって貰いたいと思う気持ちは、矛盾以外の何物でもない。
 でも、思うんだ。
 矛盾のない物事なんて、怖いと―――。
 矛盾があるからこそ、どこか捕らえどころがあって・・・矛盾のないものなんて完璧だ。
 コンパスで描いた正確な円のように、入り込む隙のないモノ。
 「・・・俺を・・・ミツケテ・・・。」
 足場が崩れるかのように、ガラガラと音を立てて暗闇に引きずりこまれる感覚がする。
 目も眩むような、不安と恐怖。そして喪失感。
 それでも立っていられる。呼吸をしている。鼓動は動いている。
 不思議だと、どこか遠くで思った。
 ズルズルと壁伝いに床に腰を下ろす。


 ナニモミエナイ ナニモキコエナイ

  それでも生きているから

 ダカラ ミツケテ

  俺を・・・見つけて・・・


 見つけられて、逃げて、そしてまた・・・見つけられて・・・逃げる。
 逃げなければ、ならない理由があるから。
 それでも、ミツケテ。
 追い駆けっこは、ドコマデツヅクノ?
 どこまで行けば、そこへ着くの―――?


   此処は寒くて・・・

   この指はかじかんで



    ドコニモ  ト ド カ ナ イ ・ ・ ・




       ≪To be continued・・・≫

PCシチュエーションノベル(シングル) -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年01月19日

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