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『〜メッセージ〜 』
御崎・綾香5124)&和泉・大和(5123)



 ‥‥‥目の前には、暖かい光が差している。
 視界は白く、体は布団にくるまっているかのように温かい。
 まるで夢見心地のようだ。その場所が何処なのかは分からないが、そこは、いつまでもいたくなるような場所であった‥‥
 ‥‥‥そこに、二人‥‥‥否、三人の人影がボォッと浮かんでいる。
 一人は男性、一人は女性。靄が掛かっていて誰なのかは分からないが、二人はにこやかに談笑し、それぞれ幸せそうな空気を漂わせている。
 そして、女性の腕には小さな赤ん坊が抱かれていた。キャッキャッと笑い、手を振り、母親の腕の中ではしゃいでいる。何が楽しいのかは分からないが、恐らくは親の楽しそうな空気に当てられているのだろう。
 それはまるで夢のような光景‥‥‥幸福感に満たされた、人々が一度は夢見るであろう、正に理想の境地‥‥‥
 ふと、母親であろう女性が、思わず見とれていた私を見る。靄が掛かっていた顔は見えなかったが、その口元は何かの言葉を紡ぎ出そうと笑いかけ―――





 チュンチュン‥‥‥チチチチチ‥‥‥
 朝の陽射しがカーテンを通り抜けて目に届く。比較的良い天候に恵まれているのか、早朝にも関わらず陽射しは良く、暖かかった。
 それでも季節は未だに冬である。さすがに窓は閉じられているため風が通り抜けては行かないが、それでも夜の内に冷え切った冷気は部屋の中をも冷やし、唯一暖かい布団の中から出ようとする人間を押し戻し、拒んでいる‥‥‥

「ん‥‥‥」

 しかし、そんな寒気など既に慣れきっている。寒いことは寒いのだが、彼女はそんな寒さを無視出来る精神力を持っていた。
 夢から覚めた御崎 綾香は、朝の日課である境内の掃除を済ませるため、急いで体を温めていた布団を抜け出し‥‥‥

「‥‥‥寒い」

 ‥‥精神力を持っているのである。そこ、疑うな!ちゃんと一分後には布団から出ているんだから!

「‥‥ちゃんと起きないと。朝の仕度に遅れるか」

 そうして布団から脱出した綾香は、急いで神社の巫女服に着替えだした。境内の掃除は彼女の日課であり、子供の頃からの習慣で、この服を着て行うことが当然となっていた。
 今では彼女が掃除をしないことには、いつまででも放置されてしまうぐらいに家族も当然と思ってしまっている。
 だからこそ、彼女はこの掃除をサボるわけにはいかなかった。
 着替えを済ませた後、竹箒を持って境内へと出る。さすがに早朝五時ともなると、その寒さは肌を突き刺すものとなっていた。
 冷たくなっていく手を少しでも温めるため、息を吐き付けてみる。息は確かに暖かかったが、白い息の水ッ気は手に付くとすぐに冷め、返ってその後の冷たさを増してしまった。

(まだまだ寒くなるな‥‥‥あの夢の暖かさとは、正に真逆だ)

 心の中でだけ一人ごち、つい先程まで見ていた夢のことを思い出そうと目を閉じた。
 詳細に覚えているわけではないが、それでも感覚だけは思い出せる。あの暖かい空気、感覚、そして流れてきた感情‥‥‥
 もはや朧気ではあるが、それは実に心地の良い場所であった。

(誰かが出て来ていたような気がするが‥‥‥)

 思い出せない。人にもよるが、夢とはそう言うものだ。
 元々比較的夢を見ない綾香に取って、今日見た夢は、今年始めて見た夢‥‥‥つまり初夢である。
 感覚しか思い出せないというのは、少々惜しい気もした。

(っと。夢のことは置いておいて、掃除をすませなければいけないな。朝食を作る時間が無くなってしまう)

 思わず夢を思い出そうと目を閉じていた綾香は、我に返って箒を動かし始めた。ここでボーーっとしていては、新しく加わった日課までもが台無しになってしまう。
 忙しなく箒を動かしながら、綾香は今頃気持ちよく眠っているであろう恋人のことを重い、フッと頬を綻ばせた。
 ‥‥今日は冬休み最後の休みの休日である。





 ‥‥‥‥トントントントン
 朝。綾香と同じように暖かい布団の中で微睡んでいた和泉 大和は、台所から聞こえてくるリズミカルな音によって目を覚ました。
 時刻は朝の七時過ぎ。休日としては比較的真っ当な時間に目を覚ました大和は、音の主がこの部屋に来る前に着替えを済ませようと、昨夜の内に枕元に用意しておいた部屋着へと着替え始める。

(ふぁ‥‥まだ眠いな)

 数日前から始まったプロレスの猛稽古の所為であろう。まだ怪我の部分はリハビリに毛の生えた程度ではあったのだが、怪我とは関係ない部位はそれとは関係なく徹底的にしごかれたため、ほとんど全身が疲労に悲鳴を上げていた。

(結構体には自信があったんだけどな。さすがにプロか)

 基礎的な体は出来上がっていた御陰で筋肉痛にはまだ襲われていないが、体が満足に回復したら、きっと更なるトレーニングでそれぐらいにはなるだろう。

「ま、何とかなるだろ」
「大和?起きてるのか」

 扉の向こう側から女性の声が聞こえてくる。大和は三枚目のシャツを急いで着込み、扉を開けて見慣れた恋人に返事をした。

「起きてる。おはよう綾香」
「おはよう大和。朝食なら出来てるぞ」

 扉が開けられる。そこには、白いエプロンを付けた綾香が立っていた。綾香は大和が既に着替え終わっているのを確認してから、微笑みながら台所に戻っていく。

「顔でも洗ってくるか」

 大和は綾香が来ていることに驚くこともなく、まるで当然のように振る舞っている。
 それも当然と言えば当然だった。綾香がこの家に通い、朝食などを用意してくれる通い妻状態になってから、既に一週間が経過しようとしている。
 お正月よりも前‥‥‥既に去年のことではあるが、大和の父親が御崎家を訪れ、二人の婚約は正式なものとなった。“婚約”と言う所に大和の父親は少々驚いていたが、まぁ、そこは御崎神社である。それぐらいのことはして当然なのだろうと納得し、二人の付き合いは更に進展したのだった。
 ‥‥というのも、大和の家には母親がいないため、大抵一人である。父親も普段は単身赴任で家にいない‥‥‥と言うことで、綾香が和泉家への出入りの自由を申し出たのだ。
 曰く‥‥

『私は大和の妻だ。つまり、その世話をするのは当然だろう?』

 との事だ。いや、本当に強くなったものである。このセリフを自分の両親に言える辺り、出会った時よりは随分変わったものだ。実際綾香の両親は驚いていた。何せ、その世話というのが、和泉家への外泊の申し出だったのだから‥‥‥

「良く許してくれたよな。婚約者とはいえ、男の家へ泊まる事」
「お祖母様が手伝ってくれなかったら、たぶん無理だっただろうな」

 顔を洗い、リビングの椅子に座る大和が言うと、綾香は頷きながら朝食を運んできた。焼き魚に白米、そして味噌汁という、日本人の定番である。さすがは神社の娘なだけはあった。

「お祖母さんね‥‥‥あの人、何言ったんだ?」
「さぁ‥‥私も知らないんだ。お母様にも聞いてみたんだが、ああも露骨に話を逸らされては聞けなくてな‥‥」

 ‥‥二人して苦笑する。触らぬ祖母に祟りなし。無いとは思うが、それでもあの人を敵に回すような詮索は止めた方が良さそうだ。たぶん絶対返り討ちに合う。
 エプロンを外してから綾香も椅子に座る。二人揃った所で手を合わせ、朝食を食べ始めた。本当は三人で食べたかった所であるが、大和の父親は既に赴任先に戻ってしまい、名残惜しそうに綾香に挨拶をしてから戻って行ったのだ。

「親父名残惜しそうだったな。綾香に“お義父様”って呼ばれて、やたら嬉しそうだったし」
「‥‥‥“初孫をよろしく!”などと言われてしまったぞ」
「そこら辺はスルーしてやってくれ。たぶんノリで言っただけだろうからな。全く、あれでよく綾香の両親と仲良くなれたもんだ」
「そう言えば、大和が来ていない時に境内でお祖母様と話している所を見たぞ」
「‥‥‥あの二人のタッグか。あまり考えたくないな」

 大和が苦笑しながら、ご飯を口に運ぶ。以前御崎家に訪れた時にも確認していたのだが、やはり綾香の料理は美味く、何年もの間家の家事を手伝っているだけの事はあった。
 二人は談笑をしながら食を続け、やがてその話し声で目を覚ましたカー助がやってくる。
 二人揃っていた所に更に一羽が加わった事により、談笑で会話が絶えなかったリビングが、今度は一気に騒がしくなる。
 朝食争奪戦を繰り広げる大和とカー助‥‥その二人(?)を眺めながら、綾香は今朝から感じていた不思議な感覚を蘇らせた。

(‥‥暖かいな)

 ノンビリとした談笑。笑う恋人と小さな鴉‥‥‥
 そしてそこにいる女性は自分であり‥‥‥


『この子をよろしくね。あなたなら、大丈夫だから』


 一瞬、頭を過ぎるヴィジョン。それは今朝見ていた夢の、初夢の中で受け取ったメッセージ。靄は刹那だけだが確かに晴れ、幸福な時間が垣間見える。
 綾香はその時、その時間の暖かさが、現在の時間と重なって見えた。

「どうしたんだ?綾香」
「っ!?」

 心配そうに声を掛けてきた大和に驚いた瞬間、綾香に訪れていたヴィジョンが掻き消える。

「調子悪いのか?やっぱり、ここんとこ毎朝来て貰ってたからか‥‥‥」
「違う。ちょっと、夢を見ていただけだ」
「む。やっぱり朝がきついのか」
「そうじゃない。こう……なんて言うかな。幸せだと思えただけだ」

 言ってから自分の発言を反芻したのか、久々に顔を紅潮させる綾香。思わずその顔に見惚れてしまったのか、動きを止めてしまう大和‥‥‥そしてその隙をついて、大和の皿から魚を奪い取るカー助。
 再び起こる大乱闘。それを止めるため、綾香は溜息混じりに二人の首根っこを捕まえに行く。
 これからは、こんな毎日が待っている。明日からは高校の始業式であり、今以上に騒がしい日常がやって来るのだ。





 ‥‥‥夢は思い起こそうとしても、もう用が済んだと言わんばかりに、影ですら思い出せなくなっていた。
 しかしその暖かさは失われない。なぜなら―――



 その暖かさは、既に現実でのものなのだから‥‥‥



Fin






☆☆参加キャラクター☆☆
5124 御崎・綾香
5123 和泉・大和

★★ライター通信★★
 毎度ありがとうございます。メビオス零です。
 結構久々ですかね。今回も書かせて頂きましたが‥‥‥内容が少ないですね。すみません。ボリューム不足は実際どうしたものかと思ったんですけど、どうにも上手くいかないんですよ。
 何度も言ってますね。上のようなセリフ。アハハ。反省します(._.;
 え〜と‥‥‥後書きに書くのは結構苦手なんで、ここら辺で逃げます(ヲイ)
 では改めまして、毎度ご発注、ありがとうございます。
 今年も御多幸の事、お祈り申し上げますです。(・_・)(._.)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2006年01月16日

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