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『■引退サンタの物語■ 』
由良・皐月5696

「兄さん、あそこでサンタさんがぼーっとしてます」
「ん? サンタ? 時期ハズレもいいとこだろ」
 言いながらも草間武彦は、妹の零が指さした歩道橋の階段の上を見やる。自分達も昇っていく最中なので、よく見えた。確かに、歩道橋の上でじーっとサンタ服のおじいさんが白ひげはやして、どこかうつろな瞳で下の、びゅんびゅん飛ばしている車を見下ろしている。
「それより零、急がないと次のバーゲンにまにあわな……わあ!!」
 武彦が腕時計を見てもう一度顔を上げたとき、サンタのおじいさんは歩道橋から飛び降りようとしているところだった。
 零が軽く悲鳴を上げる。
 武彦が駆け寄り、サンタのおじいさんの身体をがっしりとつかむ。
「早まるな爺さん! クリスマスに子供にプレゼントのいちゃもんでもつけられたのか!? 同業者にいびられたのか!? 愚痴ならいくらでも聞いてやるから、この時期に限って自殺なんてしてくれるな!」
 武彦の気持ちも、よく分かる。
 今日は、年の瀬も迫る大晦日だった。



 とりあえずバーゲンはあきらめて、サンタのおじいさんを連れて興信所に戻る。
「はい、お茶です。あ、紅茶や珈琲のほうが良かったら言って下さいね」
 にっこりと優しい零に、ほろりときたのか、サンタのおじいさんはほろほろと泣き出し始めた。
「わしゃあ、サンタをするのが生きがいなんじゃ。けど、もう身体もサンタをするにはガタがきちまって、50年相方のトナカイももうたくさんのプレゼントを運べない。だからわしとトナカイのチョナは引退させられたんじゃ」
「へえ、サンタの世界にも引退なんてあるのか。人手不足だから逆だと思ってたな」
「人手不足でも、プレゼントを置く前に子供を起こしちまって姿を見られたり、家に突っ込んじまうガタのきたサンタよりずっとマシなんじゃ」
 ……それもそうかもしれない。
「サンタがずっと生きがいじゃった。だからわしゃ、もう生きる道が見つからないのじゃ」
 サンタ協会とかそんなところに聞いて雑用でもいいから働かせてもらえないだろうかと武彦と零は考えたが、どうやら無理のようだった。今まで引退したサンタは数人いたが、どの元サンタもそれぞれに暮らしを楽しんでいるという。
「『とにかく年を越えればサンタ服も消えるから』って……ダメ押しじゃないですか……」
「んー。転職は無理だろうな、爺さんだし……せめて普通の老人として暮らしていけるように、楽しみを他に見つけてやらないとなあ」
 草間兄妹が悩む後ろで、窓を開けて自分の相方のチョナを呼んでいたサンタだが、
「おかしい、チョナはどこにいてもわしの声を聞けば飛んでくるのに。やつは鈴の音が大好きじゃから、どっかで夢中になってるかもしれん」
 と、おろおろし始めた。
 もう一度サンタのおじいさんに聞いたサンタ協会に問い合わせている武彦である。零はサンタのおじいさん───名前はショナといった───を宥めている。
『だからあ、年こえればいいんですって! それまで自殺なんてさせないでくださいよ! いらぬ暮らしの世話も!』
 来年のクリスマスの準備で大忙しなんですよ、というサンタ協会の事務のサンタに、武彦は「?」マークが頭の中をよぎった。
 まるで年をこえさえすれば、何かが起きるとでもいうような口ぶりだ。
 まあ、それでなんとかなるならそれまでサンタの爺さんの気を引いておけばいいってことか。
『ああそれと、』
 切ろうとした瞬間、事務のサンタが口早に言う。
『年越しの時に相方のトナカイは必須ですから! くれぐれもお別れなどさせないように、怪我もさせないようにどちらもしないように!』
 今度こそ、電話は切れた。
「兄さん、兄さん」
「ん?」
 受話器を置いた武彦の肩を、零がぽんぽんとたたく。
「トナカイのチョナさん、多分ここにいったんじゃないでしょうか」
 ひらりと、零は一枚のちらしを差し出す。郵便受けに入っていたらしい。そこには、あの生涯の宿敵、生野英治郎の棲家(多分)である、狗皇(いのう)神社の図がでかでかと書いてあり、
『来年は戌年。あなたも一日、犬になって楽しんでみませんか? 好きな犬種になれますし、空も飛べてちょっとした魔法の使える鈴も首輪につけてさしあげます。ご要望の方は、この図の神社前まで夕方5:00までにお集まりください』
 と、説明文があった。
「あいつ、また何か発明したのか……というか、そのトナカイもこの首輪の鈴がほしいのか、それとも鈴がたくさん集まってるからにおいでかぎつけたのか……?」
 ひとまず英治郎への怒りを押し込めたのは、武彦としては上出来なほうだろう。
「わしは、わしはいくぞ、そのなんとか神社とやらへ! チョナがいなくてはわしは本当にやっていけん!」
 はあ、とため息をついた武彦は、どうやらチョナを探すのに人手が必要だと判断し、協力してくれそうな者たちに事情を話して狗皇神社の場所も教えてそこに集合、ということになった。
 ───目的は、とにかくこの元サンタとトナカイを一緒にさせて、そして元サンタのおじいさんを悲嘆にくれさせないようにすること、だった。



■素敵なお年玉■

 狗皇神社に行く道々、しょんぼりしていたサンタ・ショナだったが。
「ショナさん、協会は仕事柄心配りの出来る方々だと思うの」
「じゃけど、引退した途端あんなに態度が酷くなるとは思わなんだ……」
「でもね、それは裏を返せば引退後に不安がないことを知っているための態度とも取れるわ。ね? だから変な気は起こさず、相方と一緒にわくわくと新年を待ちましょ?」
「じゃけど……」
 シュライン・エマが丁寧な態度で、優しく愚痴を聞きつつ巧みに気持ちを傾けていくよう話を進めている。そこへ更に、彼瀬・えるも(かのせ・─)の登場である。
 遅れて走ってきたえるもは、この一件を聞いた途端に目を輝かせ、「サンタさんなの!? たけひこちゃん! ほんものなの!」と今にも飛びつきそうな勢いで興奮していたのだが、ちょっと寄るところがあると言っていた。そのわけが、えるものトレードマークの狐帽にふわふわのファーのついた狐色のコートが風に翻るのを見つつ、足を立ち止めた全員には分かった。
 えるもは、小さな体に持ちきれないような大きな花束を抱えてきていた。
「そっか、この準備だったのか」
 今日は珍しく初瀬・日和(はつせ ひより)と一緒ではない羽角・悠宇(はすみ ゆう)が、微笑ましそうにしている。こくんと頷き、えるもはきょとんとしているサンタ・ショナに、自分の身体の半分ほどもあるその花束を差し出す。
「えるもね、ことし、はじめてプレゼントをもらったの、ありがとうをいいたかったの」
「真っ赤な薔薇一輪の周りにふわふわのカスミソウ……緑色のリボンでまとめてるところがいいわね」
 事情を聞いて脱力しつつあった由良・皐月(ゆら さつき)が少しその脱力感も忘れてつい微笑む。サンタ・ショナは元はサンタである。子供大好きである。その子供に「えるものおこづかいでかったの、サンタさんのいろなの」なんて台詞を言われ、こんな花束なんてもらった日には。
「わしは……わしは……」
 サンタ・ショナはえるもから花束を受け取るとそれを抱きしめ、おいおいと泣き出した。
「わしはやっぱりサンタをやめたくない! こんなに思ってくれる子供がいるんじゃー!」
 困ったものである。
 へたりこむサンタ・ショナをシュラインと皐月が励ましつつ両側から悠宇と武彦、微力ながらもえるもが支えて歩かせようとしているところへ。
 見覚えのある者はある高級車が、すーっと一同に近寄ってきて停まった。言わずもがな、身体は弱くてもなかなかに食えない財閥の美青年、セレスティ・カーニンガムの車だ。彼にも事情は話してはいたが、恐らくこの寒さに狗皇神社まで歩くのはきついのだろう、広く豪華な車で全員を迎えにきたといったところなのだ。
「へえ、高級車の中ってこうなってるのね。乗るのは初めてだから」
 およそ、そんな世界とは無縁な家事手伝いの皐月が物珍しそうに、しかし失礼のないように車の中を見渡している。
「車のほうが早いですし、この時間なら寒さもきつくなってきますしね。大晦日のこの時間から初詣の準備なんて、大きな神社なら分からないこともありませんが普通の神社で並んでいる人もいないでしょうから」
 なるほど、サンタ・ショナも年である。如何に狗皇神社が歩いていけないこともない距離だとしても、車の心遣いは、理由は違えど身体の不自由なセレスティには分かったのだろう。
「確かにひとけがあまりないなら車のほうが楽だわ。ありがとう、セレスさん」
 シュラインが礼を言い、ふとその隣にいた悠宇が助手席に誰かが座っていることに気がついた。
「あれ? お前、クリスマスの時に会わなかったっけ?」
 そう言った悠宇の言葉に振り向いたのは、華麗なパーティードレスに身を包んだ可愛らしい女の子、プティーラ・ホワイトだった。
「パーティーに行く途中で迷子になったと思ったら、またこっちの世界にきちゃったんだ。事情は聞いたよ。その秘密結社も酷いよね」
 6歳の女の子からそんな台詞が出るものだから、一瞬車内の空気が凍りつく。それには気づかず、プティーラは眉根にしわを寄せ、どこか憂いを含んだ表情で、あんぐりと口を開いているサンタ・ショナを見つめる。
「でもね、プーは思うんだ。
 サンタって、よく知らないけど【審判の日】に絶滅したような超能力者組織? じじょ〜聞く限りだと、“サンタ”でなく、“一般人”になるんじゃない? 記憶や能力なんかがなくなって───これって組織を抜けるとよくやられるよね。トナカイが処理を実行するのかな、事務の話を信用する限り、立場や代替記憶は組織の人たちが用意するのかな、わからないけど秘密組織にしては良心的だよね」
 その【審判の日】とかはよく分からなかったが、プティーラが異世界の人間だということと、そしてその異世界がどんな世界でプティーラがどんな人生を歩んできたのかが少し知れて、車内の多数の人間の涙を誘った。
「かわいそうにのう、お嬢ちゃんのいる世界には、プレゼントをくれるサンタはおらんのか」
 サンタ・ショナはそう言うと「そうじゃ」とウィンクし、プティーラとえるものほうを見て二人それぞれにウィンクすると、右手の人差し指と親指で丸を作り、自分の心臓の辺りに持ってゆく。すると、ぽんと音がして───見事な黒こげ大型クッキーが現れた。
「出来立てほやほやの香りだけど、焦げてるわ……」
 気の毒そうに、皐月。慌ててシュラインが、フォローを入れる。
「でもほら、こんなに大きなクッキーなんて私、初めて見たわ。ショナさん、どういう種明かしなの?」
 サンタ・ショナはがっくりと肩を落とす。えるもはそれなりに驚き喜んでいたし、プティーラも興味深そうに大型クッキーを触ったり見たりしていたのだが、そんなことも目に入らないらしい。
「サンタにだけしか出来ない魔法なんじゃ……子供にプレゼントを贈るためにサンタが一番に必要とする、心の魔法なんじゃ……」
 サンタの魔法もなくなってしまったわけか、と口には出さない一同。
「というかセレスティ。初対面なのに事情を話したのか? こんなに小さな子に」
 武彦がなにやら含みのある目つきで一番端っこにいるセレスティに視線を注ぐと、涼やかな声が返ってくる。
「たまたま私の家のお庭に出現されて、色々と尋ねられたものですから。私も車を呼ぶ途中でしたし。かなり聡明な方ですよ、小さなお子さんとは言いましても」
「俺はまた、とうとうお前がそっちの趣味に走ったのかと思ったよ」
「それはどういった意味でしょう? 草間さん」
 にっこりと絶対零度の微笑みを送るセレスティに、武彦は急いで「いやなんでもないなんでもない」とそ知らぬふりをする。見ていたシュラインは、頭が痛くなった。
「いや、でもこのクッキー結構美味しいぜ? 苦いけど大人向けならイケるんじゃないか?」
 悠宇はおくびもなく食べている。しかしサンタ・ショナは「子供向けじゃなければ意味がないんじゃ」と言う。
 行き先は「あの」英治郎の棲家だというし、このサンタはしょげてばかりいるしと、皐月はついため息が出た。
「と、ここですね。駐車場は……わりと混んでいますね」
 セレスティが、前方を見たので武彦は助かった。
 運転手が巧みな腕前で狗皇神社の駐車場に車を乗り入れる。それほどにいつになく、狗皇神社は混んでいた。
 運転手に待っているように言い置くと、セレスティは車椅子に乗ってひざ掛けをかけ、降りる。もちろん、ステッキも忘れない。
「せれすてぃさん、えるもがおしてあげるの」
 興奮しきっているえるもが親切心から言うと、セレスティも少し微笑んで「ありがとうございます」とお願いした。もっとも初めて押す車椅子は案外重くコントロールがきかないので、シュラインが先導し、プティーラも一緒に押すことになったのだが───階段の部分は一度車椅子を降りて、ステッキを使う。こちらは皐月が支え、車椅子は悠宇が軽々と手に持った。
「うわあ、すごいひとといぬなの!」
「あれ、日和? やっぱりここに来てたのか」
 えるもがそう言うのと、悠宇がようやく日和と合流したのとは同時だった。
 日和はサンタ・ショナの手伝いをしたいと、事情を聞いてから思っていたのだ。だがその前に愛犬バドの散歩にと外に出たらここに来てしまい、何を勘違いしたのか狗皇神社で動かなくなってしまったというわけなのだ。それで困ってしまって悠宇に携帯で電話を入れておいたというわけなのだ。
「すみません、かえって足手まといになってしまったみたいで……バドがこの人だかりや犬たちに喜んで飛びつきまくってしまっていて……もしかしたら犬達のどれかは本当は人間さんかもしれないのに……」
 ついでに悠宇を待つ間、チョナらしきトナカイも探してみたのだが、見当たらないという。
「で、生野さんは? 見当たらないわね」
 皐月が手をかざす。確かにそこには、楽しそうに鈴を持ったり犬と戯れている人々や、それよりも多い犬しかいない。ふと、シュラインが嫌な予感に思い当たった。
「もしかして……生野さんのことだから、既に自分も犬になって遊んでいる、とかなんじゃないかしら」
「そういえば、私がここに来たときは、もう生野さんの姿もありませんでした。てっきり神社の中にいるものだと思いましたが、中は真っ暗みたいですし」
 日和の発言で、さてどうしたものかと全員首をひねって考えることになった。



 とりあえず犬になっているかもしれない英治郎に「魔法の鈴にどんな効果や副作用があるか確かめる」ことも重要だが、もっと重要なのはトナカイ・チョナが怪我でもしていたら大変だ、ということでトナカイ・チョナを探すことにした。
 何よりも、大晦日から新年にかわる瞬間にサンタ・ショナと一緒にいなければ意味がないらしいから、これは優先するしかないだろう。
 精神的に参っているサンタ・ショナの相手は皐月とえるも、悠宇が担当することに。
 シュラインと日和にセレスティはそのままの姿で武彦と共にトナカイ・チョナを探すことに。プティーラもこちら担当だったが彼女は魔法の鈴のことを聞くと、「さすが、オリエンタルマジック、師走っ! 肉体操作系の超能力だよね。おもしろそうっ♪ プー、アイリッシュウルフハウンドっていうおっきな犬になってみたい。首輪して飼われてみたいかも」という発言のもと、「魔法の鈴」と墨で達筆に書かれた札がはりつけてある箱の中から金色の鈴をひとつ取り、見事、アイリッシュウルフハウンドという犬に変化した。
「この子の行く末を心配してしまうのは私だけかしら」
 とシュラインが真剣に見つめていたが、無理もないだろう。
「でもシュラインさん、『犬側』のほうから探す人も一人は必要かもしれませんから」
 セレスティは冷静に、どこか面白そうな色を瞳にたたえて言った。
 確かに、犬になっている人間達も次々に増えてゆく。そして、犬になっても人間語も話せるというのにせっかくだからと思ったのか犬語しか皆話していない。さてここからどうやってトナカイ・チョナの居場所をつきとめるか───。



「へえ、そんなことがあったのね。なかなかいい思い出、たくさん持ってるじゃないショナさん」
 とりあえず年明けまでショナチョナペアに思い出話をしてもらう形で、と思っていた皐月だが、この際ショナだけからでもいい、と聞きだしていたのだが、話を聞いていると本当に微笑ましい思い出話ばかりだ。
「しかし、引退サンタねぇ。じゃあ私の子供が生まれるまで、チョナと一緒に長生きして子供にプレゼントしてほしいなぁ」
 今だけ先の予定があればいいんだから粘れ私、と思いながら皐月がにこやかに言うと、サンタ・ショナはそこで再びしょげる。
 狗皇神社の近くの自動販売機で珈琲等を買ってきていてよかった。境内の前の階段に4人は座っているものの、さすがに風も冷たく寒い。しかしサンタ・ショナはぶるりと身体を震わせて、そのことにも哀しんでいるようだった。
「無理じゃ。サンタの機能も失われてきておるようじゃし……」
「サンタの機能って?」
「そうなの! トナカイさんがまいごってきいたの!」
 興味深そうに、悠宇とえるもが身を乗り出す。えるもは自分の台詞で思い出したのか、「えるももさがすのてつだうの、さみしくてかなしくなってるかもしれないの!」と走っていこうとしたが、サンタ・ショナに「ああ、出来るならまだわしの傍にいてくれないかのう」と言われ、戸惑っていたが、悠宇と皐月に両腕をつかまれて再び座らされた。
 きょとんとするえるもにココアの次に今度はコーンボージュの缶を渡しながら、皐月が耳打ちする。
「サンタのおじいさんは、子供が大好きなの。だから一緒にいてほしいのよ。お願い、えるもちゃん」
「うん、わかったなの!」
 自分も役に立てることが嬉しいのだろう、えるもは目を輝かせてこくんと頷く。
「何が分かったのじゃ?」
 ぼーっとしながら棒読みで尋ねるサンタ・ショナには、悠宇がさり気ない笑顔を作って対応する。
「サンタの機能ってもしかして、寒さも感じなくなる凄いことだって分かったってことだよ」
 無論、あてずっぽうだ。だがそれは、当たっていたらしい。
「うむ、そうなんじゃ……。その通り、わしらサンタは寒さを感じることもなく、自由に冬の空を相方のトナカイと共に飛ぶことができたのじゃ。じゃが今はどうじゃ。身体の芯まで凍りつくような寒さを感じる。引退したからといって、これはむごすぎじゃ」
 悠宇はしばらく考えていたが、ふと口を開いた。
「サンタさんにも引退があるなんて正直、ちょっと意外だった……。でもサンタ協会の人の話を聞いてみると、どうも新年と共にもう一度活力あふれる頃に戻れる、って事なのかな、とは思ったよ」
「どういうことじゃ?」
 きょとんとするサンタ・ショナの虚ろな瞳を見返して、悠宇は屈託なく笑う。
「ま、今はそんなこといいよ。実際大晦日と新年の境になったら分かるんだろうしさ。
 それより、よかったら聞かせてくれないかなぁ、一番思い出に残ってるプレゼント配達のこととかさ、もっともっと。……サンタの仕事に誇りをもってるんだよね? そんな話、聞かせてもらえたら嬉しいんだけど。俺がもらったプレゼントも、ショナさんが届けてくれたのかもな?」
「そうじゃなあ……」
 やはり、思い出話という案と、えるもという「子供」が傍にいる、というこの二点は正解だったようだ。
 武彦達がトナカイ・チョナを探し出す時間稼ぎにはもってこいだったと、皐月と悠宇はえるもの手を握り締め、ウィンクしあった。



「ショナさんの声やたくさんの鈴の音を聞かせれば傍にくるかも、って思ったけれど……考えが甘かったのかしら」
 犬達の間をぽつぽつと縫ってゆっくり歩きつつ、シュラインが口元に手を当てる。
 確かに今の状況はサンタ・ショナもいるし、鈴の音もうるさいくらいにしゃんしゃんと鳴り響いている。が、トナカイ・チョナらしきトナカイも犬も見当たらない。
「私も、鈴を持っていたのでこの鈴をもとに、と思ったんですが……」
 日和が、どこから出したのかいくつかの小さな鈴を、ちりん、と鳴らしてみるが特に犬達のどれも反応を示すものはいない。
「日和さん、その鈴いつも持って歩いているの?」
 不思議そうに尋ねるシュラインに、日和は恥ずかしそうに笑う。
「いえ、その……私、うっかりなので、落としてはいけないので貴重品にはなんでも鈴をつけているんです。シュラインさんこそ、その包みって、なんですか?」
「ああ、これ?」
 日和に指摘されてシュラインは、興信所を出る時から持ってきていた風呂敷包みを見下ろす。
「中身はあとでのお楽しみ。早い話が、差し入れなのだけれどね」
 ふふ、と微笑む。
 ふと、武彦が押していた車椅子のセレスティが、二人の会話の折を見て口を開く。
「少し思ったんですけれど、チョナも犬になる鈴をつけていれば、トナカイじゃなくなっているということですよね……そう考えますと犬になったチョナが年を越す前に元のトナカイに戻さないといけないような気がするんですけれど。ショナさんがうっかり犬にならないように悠宇さんや皐月さん、えるもさん達が生野さんから守ってくれると信じつつ、私達は犬になった他の人にチョナを元のトナカイに戻す魔法をかけて貰えれば戻るかもしれない、と思うんです。
 もっともそれには、探し出さないと、という前提があるのですが」
「ろうほうろうほう〜!」
 その時、一頻り他の犬達と遊んだりしながら、しっかりと聞き込みをしていたプティーラが犬の姿で走り寄ってきた。
「『しょうの』っていう人と一緒にトナカイがいて、かなり懐いてたって犬達が話してくれたよ。それで、『しょうの』っていう人が自分と一緒に犬にしちゃったんだって」
 やっぱり。
 そんな顔色で、他のメンバーががっくりと肩を落とす。
「それで、どんな犬種か分かりますか?」
 セレスティが尋ねると、こくん、と犬のプティーラは頷く。
「どっちも同じ犬種で、シーズーだって」
 シーズー。
 世界にはたくさんの犬種がいるというのに、何故シーズー。
 誰もがそう思ったが、英治郎の性格を考えれば、分からないこともない。
「シーズーって……プライドが高く、賢く、のんびりした性質の犬って聞いてますから……なんとなく分かる気がします」
 片手に愛犬バドの首輪の端っこをしっかりと掴みながら、歩く犬大辞典のような日和。
「確かに英治郎はプライドも高いし『ずる』賢いしのんびりした性質だよ日和見だよ、だけどなあ、わざわざそんな小型犬になって犬達の中にまで埋もれそうで見つけにくいような、トナカイのチョナまでそんな犬にすることはないだろう!」
 武彦がわなわなと手を震わせると、シュラインがいさめる。
「武彦さん、その言い方じゃシーズーに失礼だわ」
 シュラインも何気なく、かなり某御仁に失礼かもしれない。
 その間にセレスティが、どこから入手していたのか英治郎の写真を見せつつプティーラに英治郎のことを教えている。
「しかし、トナカイってサンタさんと一緒で本当に一心同体みたいな感じなのですね。50年もトナカイが生きるとは、やはり相方と言うだけあって何かあるのでしょうか」
 ゆっくり人差し指を折り曲げて顎に当て、思案するセレスティである。プティーラのほうは、再び犬達の中に駆けこんでゆく。犬の聴覚でもって、シーズー特有の鼻をすする音や鳴き声を聞き分けようというのである。
 と、その時プティーラは、信じられないものを見た。
 目の前にいた犬達が、次々に喜び勇んで空に駆け上っていくのである。自分も空へ、と思ったがその前に急いで駆け戻り、ほぼカンで言った。
「チョナさんか生野さん発見! チョナさんか生野さん発見! みんなを空に連れてってるよ〜!!」
 叫びながら神社の境内を一回りし、シュライン、日和、セレスティ、皐月、悠宇、えるも、武彦全員がその言葉を聞いて空を見上げるのと同時に、自分も思い切り強く地を蹴った。
 声が聞こえるのだ。犬達だけの声が。
「プティーラさん、あなたまで行ったら困っちゃいます、戻ってきてください!」
 日和が手をメガホンにして叫ぶのが聞こえるが、プティーラだって好きで空を駆けているわけではない。犬達だけに聞こえる声が何かの周波数のように「空へ駆けろ」と脳に直接命令しているのである。
 そのことを人間語で大きく叫ぶと、もうプティーラの意識ははしゃぐばかりでいうことをきかなくなっていた。



「あれね、あの先頭のシーズー。二匹目もシーズーだから、どっちが生野さんでどっちがチョナさんか分からないけれど」
 シュラインが手をかざして、既に夜も深くなってきている空を見上げる。
 捜索から実に数時間が経っていて、もうあと3〜4時間もすれば新年である。
「時間が経ったことに全然気づかなかった」
 合流した悠宇が、呆然と言う。それだけサンタ・ショナの話は面白かったのだ。それは皐月にもえるもにも同じだったらしい。引退されたとはいえさすが元サンタ、人の心を掴む話をするのがとてもうまかった。
「どうですか? ショナさん、あなたになら相方がどちらか分かるかもしれませんので呼んだのですが」
 セレスティが尋ねる。
 サンタ・ショナは目を凝らしていたが、「ダメじゃ」とうつむいた。
「わしにはわからん……サンタも引退させられたんじゃ、わしに分かるわけがなかろうて……」
「そんなことでどうするの! チョナはあなたの傍に来たいのに決まってるのよ!? もっと自信を持たなくちゃ!」
 皐月がサンタ・ショナの背を叩いて励ます。
「がんばるのなの! ずぅっといっしょにいたなら、まちがうはずないのなの! えるも、さんたさんしんじてるのなの!」
 えるもの言葉で、サンタ・ショナは再びそろそろと恐る恐る顔を上げた。
 子供に信じてもらえることが、サンタにとっては一番の薬の一つだった。
 そして、星が光る中、どこまでも走り続けようとしてぐるぐると狗皇神社の空の上を走り回っている犬達を見て、サンタ・ショナは指さした。
「あれじゃ、あの先頭の一番目のシーズーじゃ。チョナ!! チョナー!!」
 サンタ・ショナに続き、よしきたとばかりに悠宇とえるも、皐月がチョナの名を呼ぶ。武彦と日和、セレスティは見守り、シュラインもその声量でもってひときわ高く叫んだ。
 く、と一番先頭を率いていたシーズーが軌道を変えた途端、次々に犬達が降りてきて、人間だった犬は人間に戻り、犬達にかかっていた鈴の魔法もとける。
 シーズーもくるくると目を回した英治郎に戻って倒れこみ、そして。
「チョナ!」
 サンタ・ショナに飛びついたのはもう一匹の、全員の犬を先導していたシーズー、今はトナカイの姿に戻ったチョナだった。



 プティーラもふらふらしていたが、英治郎より酷くはないようで、みんなと一緒にチョナの話をサンタ・ショナの通訳で聞くことができた。
 つまりは、チョナもチョナで鈴の音に惹かれたはいいもののすぐに迷子になってしまい、英治郎に食べ物をもらい、気晴らしに犬になろうと思ったのだと。しかし犬になったはいいが、淋しさが募りに募り、サンタ・ショナを世界の果てまで探しに行こうと強く思ったのが犬達にも伝わってしまい、空を飛ぶとかつてサンタ・ショナと共に子供達にクリスマスのプレゼントを分けて歩いていた思い出が頭を占め、はしゃいで降りられなくなってしまっていたのだと。
「ちょっとした魔法が使えるっていっても、たいした魔法だよね。空を飛んだり、あと、プーが試したことの中では好きな食べ物が出せたり好きな場所に行く錯覚が持てたり、何より犬達にとっては飼い主さんと実際に話すことができたのが嬉しかったみたい」
 とは、がらにもなくすっかりはしゃぎきってのびてしまった、いわば「トナカイの善の気にあてられた」英治郎のかわりに「魔法の鈴」の効果を説明する、プティーラである。
 一同は、境内の後ろの、洋風の墓場が何故かあるという森林に面したところにハンカチやタオルを敷いて座っていた。主に英治郎の介抱をしてやっているのは、何故か皐月である。恐らく、苦手な人間相手でも彼女には「こんな状態」の者を黙って見ているだけ、というのは出来ない性格なのだろう。
「年越しまで、あと1時間くらいね。思い出話とか聞いてると、本当に時間が経つのも早くなるのね」
 シュラインが、隣に座っている武彦の腕時計をちらりと見下ろして、差し入れの包みを開けつつ言う。日和が微笑んだ。
「やっとシュラインさんお手製の何かが食べられるんですね。今回もレシピは内緒ですか?」
「ううん、そんなことないわよ。例えばこれなんかはね」
 と、シュラインの手の中で開かれてゆくのは、調理済みの御節である。皆は折角だから一緒に年越しをしよう、と飲み物をそれぞれ飲みつつ、サンタ・ショナとトナカイ・チョナの思い出話を聞いていた。
 その後はセレスティの案で、なんと全員が、「二人」の一つだけ残った能力として、それでも弱ってはいたからここら辺りしか無理だったが───大きなソリを取り出したサンタ・ショナが引くトナカイ・チョナの運転で、夜空の散歩を楽しんだ。
「すごいのなの! えるも、ことしはふたつもおくりもの、もらっちゃったのなの!」
 一番興奮しているのは、えるもである。ソリから落ちそうになるまで身を乗り出して空からの地上の光景を目を輝かせて見下ろすえるもの身体を支えているのは、こちらも感動を隠せない悠宇。
「空は何度か悠宇に連れてきてもらったけど、これはこれでまた感動が違うものなのね」
 こっそりと悠宇に耳打ちして頬を赤くする、日和。そうだな、と素直に相槌を打って、悠宇。
「見事なものですね。引退してもこれだけの力があるのですから、死ぬなんて勿体無いです。サンタとしては引退かも知れませんが、プレゼントを贈るのが好きなのでしたらそれはいつでも出来ますしね」
 車椅子は地上に置いてきて、ステッキだけで身体を支えているセレスティ。サンタ・ショナは夢中で操縦しているせいか、黙ったままでいる。ただ、しょげた雰囲気はさっきまでよりはかなり緩和されたようだ。
 そしてその最後尾には、何故か英治郎も連れてきてしまった皐月が、起き上がってぼんやりとした彼に肩を貸してやりながら、
「アンタね、せっかくの絶景なんだからちゃんと目を開いて見なさいよ!」
 と、なんだかんだ言いながら楽しんでいる。
 起きた英治郎に一言言ってやろうと息巻きそうになる武彦だが、英治郎もまだ脱力して皐月の肩にくてーっとしている様子を見たり、シュラインに、
「せっかくショナさんが見せてくれて、はりきってくれてるんだから。ね?」
 我慢しましょ、と慰められ(?)て不承不承座りなおす。
「空に駆け上がったときは犬だったけど、これはこれで楽しいね。そういえば犬になる瞬間の変身の時、体感したあの快感、忘れられないな♪」
 またも末恐ろしいことを可愛らしい笑顔で言いのける、プティーラである。
 ソリで御節や飲み物を広げ、絶景を楽しんでいると本当に時間が早送りされたように過ぎるのが早かった。
 やがて宴会のようになり、サンタ・ショナも淋しそうではあったものの自殺はもうするまいと心に誓った、と全員に言うと。
 最後の除夜の鐘が、鳴った。
「明けましておめでとう!!」
 全員で、そう言う。
 サンタ・ショナも言おうと口を開いた───その時である。

 ぱぁっとまぶしい光が、サンタ・ショナとトナカイ・チョナを包み込んだ。

 とたんに、ソリがみるみるうちに馬車へとかわってゆく。
 不思議な丸型の馬車で、引く馬もいない。ショナとチョナの姿もいない。

 いや、
 いた。

「これは───どうしたことじゃ」
 そこには驚いた表情の、全身真っ白な豪奢な品の良い服に身を包み、月と太陽を象った不思議な葉を交差してつくられた冠を頭にいただき、かたわらに、こちらも真っ白な衣服に身を包んだ男の子を連れたショナが馬車の外、空に立っていた。
 あの子供は───まさか。
 固唾を呑んで見守る者、やはりという顔で微笑ましく見守る者。
 そんな中、男の子はにっこり微笑んでショナに両手を差し出した。
「ああ、悪いなあ坊や。わしゃもうプレゼントは創れもしないし出せもしないのじゃ。こんなこげた大きなクッキーしか、」
 そう言って、夕方セレスティの車内でえるもとプティーラにやってみせたような動作をしたショナの手からは、ビー玉くらいの大きさの黒い玉が転がり落ちた。その中では、きらきらと星が息衝いている。
 男の子はにっこり笑うと、ショナに向けて何か身振り手振りで伝える。どうやら、その動作で空からたくさん玉を落とせ、というふうに感じられた。
 ショナが困惑しつつもその動作を続けると───

 わぁっ

 世界中の子供達の声が、聞こえたような気がした。
 その間にも次から次へと、夜空に神々しく輝くショナの手から、銀河そのものをこめたような玉があちこちに飛んでは消えてゆく。
「わあ、えるもにもきたの!」
「プーにもきた、なんだろ? これ」
 不思議そうに手の中に転がり込んできた玉に首をかしげる二人に、もう分かった、といったふうにシュラインが教えた。
「きっと『お年玉』よ」
「お年玉?」
「あれ、悠宇。私達の手にも入ってるわ」
 聞き返した悠宇と、そして気づいた日和の手の中にも同じように、お年玉が入っている。どうやら大人子供問わず、その「お年玉」は入ってくるようだ。セレスティやシュライン、皐月や武彦、英治郎の手の中にもあった。
 見てみると、ショナが創ったお年玉に白い衣服の男の子がふうと息を吹きかけると、勢いづいたように黒く輝いてどこかの誰かの手の中に飛んでゆくようなのだ。
「お前……チョナじゃな」
 ようやく気づいたショナが、子供を抱きしめる。
 男の子───チョナはにっこり笑って、泣きながらショナを抱きしめ返した。
「やっと あなたの・ほんとうの こどもに なれた・よ しょな」
 たどたどしく人間の言葉を話したチョナと、そして「世界中の人間に見えないお年玉」をあげる重大な役目に人生を変えたショナは、しばらく涙がやむことがなかった。



 その後、思う存分「新しい人生」を満喫する二人に別れを告げ、地上におろしてもらった全員は、興信所へと行き、そのまま御節をご馳走になることにした。
 シュラインが下準備もしてあったので、御節に違う料理も入る。
「兄さん、今さっきサンタ協会の方から電話があったんですよ。この度は『二人』を護ってくれてありがとうございました、って」
 零が、お茶を飲みながらそんなことを切り出した。
「どういうことだ?」
 零が聞くところによると、大体の者が想像していたとおり。
 引退したサンタは新しく「見えないお年玉」を世界中の大人や子供に創り配る重大な役割に生まれ変わる。それはすべてのサンタがなれるわけではなく、人間になって相方のトナカイと共に膨大な年金をもらって優雅な生活をしている者もいれば、また違う役割を持った者もいる。
 今回ショナとチョナがこんな役割になったわけは、二人の関係にあった。
 元からチョナは、ショナに拾われた、怪我をして仲間に見捨てられたトナカイだった。それがちょうど今までのトナカイと不遇な事故で永遠の別れを告げたショナの相方に抜擢され、今まで親子のように敏腕サンタとトナカイとして役割を果たしてきた。
 二人の気持ち、そしてどんな気持ちでサンタの役割をしてきたか、その微妙なところで引退したあとの生活がそれぞれにかわるのだという。
「そっか、それであの二人、本物の親子になれたんだね」
 プティーラが、物珍しい料理に舌鼓を打ちつつ、納得する。
「年はかなり違いますけれど、あの様子ではもう不遇な事故など起きないでしょうね。ランクアップしていたような感じを受けましたから」
 いつのまにか掌の中に消えてしまった「銀河を切り取ったようなお年玉」を思い浮かべつつ、セレスティ。
「見えないお年玉……私達の心次第で、新しい一年がどうかわるか、というものなのでしょうか?」
 日和が、悠宇に黒豆をよそってあげながら零に尋ねる。
「それが、『見えないお年玉』のことは本当は内緒らしいんですが、今回は二人の命を、忙しい自分達のかわりに護ってもらったお礼として───絶対に口外なしを条件に教えてもらいました。
 それは、心がけ次第で希望もかなう、脱落もする、まっさらな、『本来すべての人が持つ生まれたての宇宙』なんだそうです」
 零の言葉に、悠宇がつぶやく。
「まっさらな……生まれたて……そうか、だから新年にもらえる『お年玉』なんだ」
「さすが、サンタの考えることは夢がありますね。まるで私の発明品のようです。ねえ、『皐月さん』?」
 ようやくまともに喋れるようになったはなったではた迷惑な英治郎が、何かあったのか含みのある笑顔を皐月に向ける。皐月は心底嫌そうな笑顔で、
「アンタはまたそこで落とすか! その挑戦、私が受けてやるわ!」
 と、取って返す。
「なんだか俺のかわりが出来たみたいだな」
 ぽつりとつぶやく武彦に、「おや、私の一番は間違いなく武彦、あなたですからご安心ください」とこちらにも笑顔を向けるのを忘れない英治郎である。
「えるも、こころのおとしだま、だいじにするなの!」
 最後にショナとチョナにきっちりと礼儀正しく挨拶をしてきたえるもが、満面の笑みで海老を食べる。
 そんな和やかな雰囲気を目を細めて楽しみつつ、誰も見ていないことを確かめてから、シュラインはそっと、武彦の肩に頭を預けた。
「犬の変身も楽しそうだったわよね。今回は無理だったけれど、とても興味があるし、また一日お休みの日にでもやれないか頼んでみようかしら」
「馬鹿言うなよ。英治郎の作った鈴だぜ」
「ふかふかな毛並み、きっと気持ちいいと思うの。ね、武彦さん」
 婚約者にそんな素敵な笑顔でそんな台詞を言われてしまうと、さしもの武彦も赤くなって何も言えなくなってしまうのである。

 しかしてその数日後、やはり隠しカメラでとられていた狗皇神社や興信所内での写真が英治郎によりとられていた、ことはいつものように全員に送られてきた封筒で分かったのだが。
 その封筒とは別に、全員に。
 ショナとチョナから手紙が届いたのは、ここだけの話、なのである。


《完》
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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2006★┗━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5696/由良・皐月 (ゆら・さつき)/女性/24歳/家事手伝
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
0026/プティーラ・ホワイト (ぷてぃーら・ほわいと)/女性/6歳/ エスパー
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
4379/彼瀬・えるも (かのせ・えるも)/男性/1歳/飼い双尾の子弧
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、今年は東京怪談PC様にはこれが初ノベル、サイコマPC様には二つ目のノベルになりました。そして番外編ではありますが受難初ノベル、にもなるのかもしれません。
ラストは受難シリーズの「大掃除」ノベルのライター通信にも少し書きましたように、「マグノリア」や「大掃除」ノベルとリンクしています。どこがどのように繋がっているのか、は皆様のご想像にお任せということで創ってみたお話なのですが、如何でしたでしょうか。
ほのぼのしすぎていてだらけてしまった方、すみません;
なんだか番外編にしては生野氏の出番が断然少なかった珍しいノベルとなりました。
また、今回は全PC様、統一ノベルとさせて頂きました。

■由良・皐月様:いつもご参加、有り難うございますv 今回は(も?)色々と我慢して頂くことが某氏によって多かったことと思います。ショナチョナコンビについては、思い出話等を聞くのは家事手伝いさんのプロなら大の得意なのではないかな、と思いつつ書いてみました。ラストのほうの展開等はお察しください(笑)
■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 御節料理などのご用意、嬉しかったです。本当は生野氏があれだけチョナに振り回されていなければ(笑)甘酒など振舞おうと思っていたのですが、なかなかにそうもいかない展開になりました。ラストは生野氏がいる場面では珍しく、今回はしっとりした婚約者同士らしい会話を少し、草間氏との間に入れてみました。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv 鈴を貴重品につけている、というところだけはしっかり書きたかったので(笑)そこだけはと書かせて頂きました。トナカイ・チョナに乗っている日和さんの姿も想像してみたのですが、展開的にできずに終わったので、また次の機会にでも何かの動物の背にでも……と思っております。興信所では愛犬バドさんは恐らくお相伴に少し預かりつつ、またまた番犬をしているのだと思います。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 引退するサンタが意外だった、と素直に言って頂けて嬉しかったです。というか、そこに突っ込んできてくださる方がいるとは思わなかったので、サンタ・ショナを想像以上にへこませてしまった反動で、至上の喜びをあげることができました。
■プティーラ・ホワイト様:いつもご参加、有り難うございますv サイコマPCさんからは今回もお一人だけとなってしまいましたが、かえってそれがノベルの味を出してくださったのではないかな、と感謝しております。今回は変身シーンが書けなくてざんね……いえ、犬に変身という方がひとりでもいて下さったのでとても助かりました。プティーラさんにとっては迷惑だったかもしれませんが(爆)如何でしたでしょうか。
■セレスティ・カーニンガム様:いつもご参加、有り難うございますv 人間でない何かなのだろうかというトナカイ・チョナへの突っ込みは、勿体無いのでセレスティさんの心の中だけに、そしていざ「新しい人生」を二人で歩みだしたその瞬間にセレスティさん的に「やっぱりそうだったんですね」とにっこり微笑んでいるというある意味美味しい役回りをして頂きました。車での移動を今回使わせて頂いてしまいましたが、これがなければ伏線である「特大黒こげクッキー」も出なかったのではないかと感謝しておりますv
■彼瀬・えるも様:初のご参加、有り難うございますv プティーラさんに続き二人目の子供PCさん、ということで色々な面で重大な役割を果たして頂きました。感謝しております。言葉遣いや言動など、おかしな点はありませんでしたでしょうか。最後の挨拶は、プレイング通りに書くと流れ的に考えて、えるもさんのキャラではないな、と思ったのではっきりとは書きませんでしたが如何でしたでしょうか。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」を草間氏に提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。今回書いていて一番思ったのは、東圭個人的な状況からもありますが「幸せはどこに転がっているか分からない・どこに繋がって幸せになるのか物事は分からない」ということでした。
次回受難シリーズは今現在受注しているものを納品し終えましたら、少し早いですが納品の時期を考えて、バレンタインもののお話になると思います。サンプルは公開してしまうかもしれませんが、窓開けは今現在の受難納品までしばらくお待ちくださいねv

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2006/01/13 Makito Touko
PCあけましておめでとうノベル・2006 -
東圭真喜愛 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年01月13日

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