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『 戦士の惰眠 』
アレスディア・ヴォルフリート2919

『……なぁ〜……』

『…………』

『……なぁ〜っ!!』

『……何じゃ、騒々しい……』

 各々が各々の風習や趣向を以って、新年を向かえ。既に日は巡り、時刻は今や午後を回ろうと為る頃。
 炬燵に深く身を任せ、行儀悪く頬をべったりと机上にくっつけ乍ら。新年の特番へ寝惚け眼を寄せる帷の上空を、ヴァ・クルが忙しなく旋回為る。

『あ・そ・ぼ!!』

『嫌じゃ、面倒臭い……』

『何でだよ〜っ!!』

『……寒い……』

 逐一即答乍ら、心底遣る気の見られ無い返答にヴァ・クルが。改めて炬燵の中に身を潜らせる帷へと、駄目な人間を見る眼で情けなく捉えて居る中――。
 玄関の向こう側より、来訪者を伝える、軽やかな鈴の音が響き渡った。

 * * *

『いらっしゃ〜い!!』

 景気良く声を張り上げ、一足飛びに玄関へと滑り込んだヴァ・クルの眼前には、アレスディア・ヴォルフリート(あれすでぃあ・う゛ぉるふりーと)が落ち着いた色合いの衣服を纏い。見慣れぬ和の住居が珍しいのか、僅かに戸惑いの色を残し乍らも一人、辺りを見渡し手持ち無沙汰に其処へ立ち尽くして居た。

『其の……。明けまして、おめでとう。元旦の挨拶にと思って、少し立ち寄って見たんだが……。御邪魔しても、良かっただろうか?』

『明けおめっ!! そんなん、当ったり前じゃ〜ん! さあ、姉ちゃんもとっとと、中へ入った入った!!』

『あ、わ。そ、そんなに押すなっ。分かったから……――』

 未だ靴も脱ぎ掛けと言う処に、促すや否や背後へ回ったヴァ・クルが、頻りにアレスディアの背を押し始め。数歩覚束ぬ足取りで廊下へと駆け込むと、其の儘足並みを整え居間への紙障子を滑らした。

『おぉ。ヴァ・クルの客人じゃな……。折角の元旦じゃ、他所程小奇麗な住まいと迄は行かぬが、自分の家と思って寛いで行けば良い』

『は、は、い……?』

 炬燵に力無く、身を任せた儘。机上の頬を僅かにアレスディアの立つ場へと傾け、幼い少女の容姿とは違えて、不釣合いな口調で以って述べる帷に。自身の眼がおかしく為ったのだろうかと、ぎこちなく返事を返すに留まったアレスディアの後に続くヴァ・クルが、そんな状況にも既に慣れた様子で口を開いた。

『嗚呼、其処の遣る瀬無い姉ちゃんは、鳥渡おかしいから適当に放っとけば良いよ……――』

 * * *

 後に互い改めて簡易な紹介と挨拶を済ませ、談笑を交え乍ら炬燵に当たって居る最中。思い掛けずヴァ・クルがテレビの画面に眼を留め、大声を上げ炬燵から飛び出した。

『此れっ、此れだ〜っ!!』

『ど、如何した? ヴァ・クル殿……』

『嗚呼、適当に棄て置けば良い。此奴は鳥渡おかしいからの……』

 前触れの無い、ヴァ・クルの興奮振りに動揺為るアレスディアへと、帷が先に何処かで聞いたような補足を投げ掛け。矢継ぎ早に刺すヴァ・クルの眼付けを物ともせず、そ知らぬ顔で再びテレビへと視線を逸らす帷に、ヴァ・クルが軈て諦めた様に息を吐き、其の先の言葉を繋げた。

『羽根突きっ!! 遣るぞぉ〜っ!!』

『羽根、突き……? とは……。正月に遣る、彼か……?』

 今正に流れているテレビの画面と、先の単語とを照らし合わせ問い掛けるアレスディアに、ヴァ・クルが爛爛と光らせた双眸も其の儘に、力強く数度頷く。
 羽根突きとは詰まり、今季定番。日本伝統の、羽子板で羽根の付いた玉を打ち合うと言う、正月独特の遊戯。
 如何しても遣りたいのだと駄々を捏ね、畳に転がるヴァ・クルを如何しようも無く。困ったように帷へと視線を向けるアレスディアに、一つ溜息を吐いてヴァ・クルへと帷が声を掛けた。

『押し入れの奥に、儂が幼少の頃に貰い受けた物が有る筈じゃ。……其れを使えば良かろう』

 帷の言葉の言い切られる其の前に、既に二人の眼前にヴァ・クルの姿は無く……。
 そして次の瞬間には、息を切らし乍らも有りっ丈の羽子板と羽根の入った箱を咥えたヴァ・クルが、満面の笑みで二人へと何事かの視線を送って居た。

『……儂は、遣らんぞ……』

『何でだよぉっ!! 此の陰険っ!!』

『落ち着け、ヴァ・クル殿。私で良ければ、幾等でもお相手為るが……?』

 此処迄来ても猶、怠惰極まる帷にヴァ・クルが遂には半べそで抗議為る中。アレスディアの仲裁で何とか其の表情を一転させたヴァ・クルが、嬉々としてアレスディアに羽子板を渡し、部屋と部屋とを繋げる襖を開け放った。
 外で遣らないのか……。と突っ込みを入れ様かと、ヴァ・クルを除く各々が暫く思案したが。アレスディアは元旦の羽目外しに。帷は、其れでは自身も強制的に外へと駆り出されて仕舞いそうで、其々がひそりと思考を胸の奥へ仕舞い込む。

『それじゃあっ、行っくぞ〜!!』

『ああ。何時でも良い』

『せぇのっ……。とぉりゃあ〜っ!!』

 口に羽子板を咥え、器用に合図を送るヴァ・クルにアレスディアが応え。両手に挟んだ羽根を放ると、ヴァ・クルが力強く羽根を打ち放った。

『ふっ!!』

 ――――次の瞬間。

 肢体に息を留め、渾身の力で??撃ち?&ヤされた羽根が、猛速でヴァ・クルの脇を抜け。
 其の儘何枚かの襖を突き破ると、炬燵に寝そべる帷の頬を掠め、勢い良く机上へと突き刺さった。

『『………………』』

 未だ摩擦に因り、煙を上げ回転為る羽根に言葉を失くし乍らも。恐らくは同様の感想を抱いたであろうヴァ・クルと帷が、何とも微妙な面持ちで顔を見合わせる。
 一転、アレスディアは何事かと事態を把握して居ない様子で、只小首を傾げて居た。

『私は、実際に羽根突きを試みるのは、此れが始めてなのだが……。何か、間違って居ただろうか……?』

『否っ、良い!! 良いと思う……よ……?』

 間違いを問われれば、一応の処違いは無い応酬に。曖昧に返事を為るヴァ・クルの背後で、帷が箱の中から一つ、徐に護身用の羽子板を握り、自身の手元へと引き寄せた。

『む……? 帷殿も、矢張り羽根突きに参加為るのか?』

『あ〜……。然う、じゃな……。まあ、此処だけでの』

 ちゃっかり。意地でも炬燵からは抜け出さない意志を示し乍らも、自身の命には代えられないと、羽根突きへの参加を決意為る帷を。或る意味此処は不憫な眼で捉え、ヴァ・クルが再びアレスディアへと視線を戻す。

『あ!! え〜っと……。何か多分、もう鳥渡そっと打って貰えたら、きっと嬉しいだろうな〜……何て』

『然う、か……。……羽根突きと言う物は、中々難しいな……』

 不自然に紡がれるヴァ・クルの助言を受け、何の変哲もない羽子板を眺め乍ら神妙な面持ちで呟くアレスディアに、透かさず内心に二人の突っ込みが入る。

 天然から撃ち放たれる猛速の羽根は、危険と言うより何よりも。先ず本来の目的である打ち合いと言う為し易き行為よりも更に、緊張感の有る遊戯へと昇華されて仕舞って居る。

((此れは……。命懸けだ……――))

 ……と、元旦初めの遊戯に徒ならぬ決意を潜ませ。ヴァ・クル達は最強の客人を前に、羽子板を強く握り締め、身構えた。

『はっ!!』

『ひぃっ……!!』

 恐らくは手加減をして居るのであろう、アレスディアの猛速の羽根を間一髪の処でヴァ・クルが避け。先と同じくして帷の元へと向かった羽根を、当人が今度は辛うじて受ける。
 打ち返すのでは無く、アレスディアの撃った力其の物で反射為る羽根は、失速為る事を知らず暫し無意識下での撃ち合いが続いた。

『こらっ、戯け!! ヴァ・クルっ、御主、自分で言ったからには自分の領域位自分で受けんかっ!!』

『そ、そんな事言ったって〜……っ?!!』

 自然、口で羽子板を操るヴァ・クルは、真正面からアレスディアの繰り出す猛速の羽根と合間見える事に為る訳で……。
 普通の人間でさえ逃げ出したく為る世界一危険な羽根を、顔面で対峙して打ち返す事が出来る者は、ヴァ・クルでなくとも然うは居ない。

 然うして壁を打ち抜き、襖を突き抜け……。部屋中に跳ね返り、又撃ち返し不自然に続く羽根突きの応酬は、日が暮れる迄続いた。

 * * *

『何やら……。本当に、済まない』

『気に為るでない、此の家は元から汚いからの。大掃除の序でに為ろう』

 熾烈を極めた羽根突きで、荒れ果てた屋内を三人が三様に、修繕と片付けを試みる。
 気付けば眼も当てられない程の大惨事に、アレスディアが申し訳なさそうに謝罪を述べれば、帷は然して気に為る風も無く穴の開いた襖を纏め上げた。

『嫌な汗と言うか……。まあ、良い汗もかいた処だしの。――掃除も其処迄にして、御主もそろそろ餅でも食べて行くと良い』

『いやった!! 御汁粉〜っ♪』

 一息を吐いた帷が、アレスディアへと勧めた食事の誘いを何処からか聞き付けて。別の部屋から飛んで来たヴァ・クルが、二人の上空を嬉々として舞い跳ねる。

『御主、甘い物は平気かの?』

『あ、ああ。此れは、済まない……』

 所々穴の空いた机へ、救急処置として杜撰にテープを貼りたくり。でこぼこの机上に、御汁粉の注がれた御椀が並べられて行く。
 情緒の欠片も無い机と、御椀とを交互に見遣り乍ら、アレスディアは食事の挨拶と共に一口御汁粉を口に含むと、僅かに顔を綻ばせた。

『……美味しいな』

『だろ〜っ? 矢っ張り正月は、此れに限るよな〜っ♪』

『然し、ヴァ・クル殿。慌てて餅を、喉に詰まらせぬ様にな……?』

 忙しなく御汁粉を啜り込むヴァ・クルへと、アレスディアが微笑ましくも苦笑を漏らし。すっかりと夜も更け、三人が又再び炬燵へと当たりテレビを眼に映して居ると、帷がふとアレスディアへ問い掛けた。

『扨、此れから又、新たな一年が始まる訳じゃが……。御主、何か抱負は有るのかの?』

 帷に依って振る舞われた甘酒を、手持ち無沙汰に揺らめかし、暫し言葉を選ぶに迷い口を閉ざして居たアレスディアであったが。軈て緩慢に、唇を震わせる。

『……強く為れたらな、と思う。護れる程に。命だけでは無く、心も護れる程に。――もう何も、失わない様に』

 帷殿は? と……。言葉では無く、視線で相手の応えを窺うアレスディアに。帷はぺたりと机上の定位置へと自身の頬を落ち着かせ、何処かぼんやりと呟いた。

『然うじゃなぁ……。儂は変わらず、怠けられさえ出来れば何も言う事は無いのぉ……』

『職務怠慢だっ!!』

 アレスディアの真摯な抱負を前にしても、天井を眼に、何処迄も我を通す帷に透かさずヴァ・クルが一喝為る。

『御主も大概、逐一五月蝿い奴じゃのぉ……。義務を果たしてだらだら為るのじゃから、然う相違有るまい……』

『俺はっ! お前何かと違って、ヴ・クティスに永劫の繁栄と加護を齎すんだ……っ!!』

『……其れこそ、御主程度では遣る気が有っても職務怠慢じゃろう』

 机上へと飛び上がり乍ら力説為るヴァ・クルに、帷が小さく突っ込みを入れると。其の一言すらも聞き逃さなかったヴァ・クルが、炬燵の端で小競り合いを始め。アレスディアは何時迄も、微笑ましく其れを見守って居た。

『きっと、出来る。ヴァ、クル殿ならな』

 其の暖かな呟きが、喧騒と為る室内の中。ヴァ・クルの元へと届いたか否かは、定かで無いが……――。

 * * *

『もう帰っちゃうのかぁ? 本当に、泊まってって呉れても良いんだぞ〜……?』

『ああ……。しかし、私もそろそろ行かなくては為らないのでな』

 街灯だけが燈された夜道に、玄関に佇むヴァ・クルがせがむ様に語り掛ける中。困った様にアレスディアが微笑みだけ返すと、改めて帷へと礼を述べた。

『突然に押し掛けて、済まなかった。彼の様な持て成し迄――感謝して居る』

『構わんよ。又今度は、改めて泊まりに来ると良い……。彼奴も喜ぶ』

 帷からの再三の誘いに、今度は確かな笑みを浮かべアレスディアが頷くと。名残り惜しげな眸を湛えるヴァ・クルの頭を一撫でし、ぽつぽつと燈る歩道の先へと軈て呑み込まれて行った。

『何だぁ〜……。詰まんねぇよ〜……』

『散々遊んで貰ったじゃろうに……。呆れた奴じゃな』

 暫く其の背を見送って居た二人が、軈て言葉を交わし。各々が玄関を潜ると、扉が閉ざされ静かに施錠が施される。

 緩慢に更けて行く元旦の日が、又緩りと其の色を濃く。存在を揺らめかせた……――。



【完】


【登場人物表:PCあけましておめでとうノベル2006】

【2919 / アレスディア・ヴォルフリート (あれすでぃあ・う゛ぉるふりーと) / 女性 / 18歳(実年齢18歳) / ルーンアームナイト】
【NPC / 帷 (とばり) / 女性 / 14歳 / 狗憑きの退魔師(齎し者)】
【NPC / ヴァ・クル (う゛ぁ・くる) / 無性 / 999歳 / 寺院守護者】
PCあけましておめでとうノベル・2006 -
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聖獣界ソーン
2006年01月05日

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