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『『船上からあけましておめでとう』 』
山本建一0929



○オープニング

『ニューイヤーパーティー・2006、ただ今受付中』
 そんなチラシが、旅行ガイドに記載されていた。それを目にした客は、旅行案内の女性に、首を傾げて尋ねてみた。
「このパーティーは、船の上で行われるのかい?」
「はい。港を31日の夕方に出発し、ディナーや余興を楽しんだ後、船上でカウントダウンを行います。そして、カウントダウンのあとに、船の上でご自由に過ごしてもらい、明け方、船の上から、一番に見える初日の出を見る、という流れになります。もちろん、初日の出のあとも、ご自由にして頂いて構いません。船内で、スタッフ達が料理や音楽、ショーや映画等、様々なイベントを行っておりますから」
「成る程な。じゃあ、客は基本的に、船の上で自由にしていていいわけだな。どんな船なんだ?」
 客に言われ、女性は笑顔で、その船の上のパーティーのガイドブックを差し出した。そこにある写真には、豪華客船の姿が雄雄しく映し出されていた。
「楽しいイベントも盛り沢山です。是非、お友達やご家族と、御参加下さいね」



 山本建一(やまもとけんいち)は、吹き付ける冷たい海風を体で受けながら、これから『ニューイヤーパーティー・2006』が開催される船を見上げた。
「さすがに賑やかですね」
 建一の耳に、船の上からジャズのような軽快なバンドミュージックが届いてくる。船ではすでにバンドによる生演奏が行われているのだろう。
「思ったよりも沢山の方が、このイベントに参加されるのですね。楽しみになってきました」
 そう言って、建一はあたりを見回した。母親に手を引かれた幼女、杖をついた老人、友人同士で騒いでいる女子学生に、落ち着いた雰囲気の中年夫婦。この船で行われる年越しイベントに、老若男女あらゆる人々が、参加しようとしているのであった。
 建一は、早速船へと乗り込み、入り口のスタッフに案内されて、自室へと通された。白いシーツのかかったベッドに、クリーム色の壁が何とも上品な雰囲気のある部屋で、壁には中世時代のものと思われる船が描かれた絵画が飾られていた。窓は建一の顔ほどの大きさしかなく、普通の窓に比べるととても小さかったが、この部屋に止まるのは自分ひとりだけなのだから、これでも十分な大きさであろう。
 建一はしばらくベッドに寝転んで、出航の時刻を待つ事にした。部屋の上の方から、バンドがずっと音楽を響かせているのが聞こえており、時々廊下から子供の走る音や、人の話す声が聞こえていた。
「そろそろ、時間でしょうか」
 建一は壁にはめ込まれた時計へと視線を移した。時刻はすでに午後4時20分をまわっており、出航の時間まであとわずかであった。
「せっかくですから、外へ出てみましょうか」
 建一は部屋のドアを開けると、先程通って来た通路を逆戻りし、船の入り口であった場所へと向かった。
 さらに、そこから階段を上がって上の階へ行き、先程よりも強い海風を受けながら、船の甲板へと出たところで、アナウンスが入り、そのあとに船がゆっくりと動き出した。
「やっとですね」
 建一はどんどん小さくなっていく港を見つめながら、このあとどうしようかと思っていた。船のあちこちでイベントを行っているので、スケジュールに合わせて動こうかと思っているところであった。
 食事の時間が来るまで、このあたりをゆっくりと周り、楽しんでいこうと思っていたから、あたりを見回して、この場所ではどんなイベントが行われているのかを確認した。
「ちょっと冷えてきました」
 船の上では、すでに小さなライブショーや、パフォーマンス等が行われており、乗船客はそれぞれの場所で、思い思いに楽しんでいるようであったが、日が落ちてくるに連れて、まわりの温度もかなり下がってくるのを、建一はその肌で感じ取っていたのだ。
 真冬だから、空気が凍てついているのは自然の摂理ではあるが、今年は例年よりも寒さが厳しいとあり、海風が通るたびに、寒さで震え上がりそうであった。
 しばらく船のデッキの上を歩き回り、楽団の演奏する曲や、演芸ショーを立ち見した後、食事の時間が近づいているのもあって、船の中へと戻る事にした。
 自分の部屋には戻らず、そのままディナーの用意されている大ホールへと足を進めた。



 大ホールはまるでホテルのような作りで、床には色とりどりの花が描かれた上品な絨毯が敷かれ、天井には、まるで欧州の美術館をイメージさせるような、天使や自然風景等の絵画が描かれている。
 百合のような形のライトがついたシャンデリアがホールを照らし、建一がホールに到着した時にはすでに、食事の準備が終わろうとしているところであった。何故そう思ったのかと言うと、まわりのテーブルには他の客が詰め合って座っていたし、中央と左右の壁際にある白いテーブルクロスがかけられたテーブルには、埋め尽くそうな食事が用意されていたからだ。
「本当に、ホテルのバイキングのようです」
 建一が空いている席に座ってしばらく待っていると、白い料理服を着たシェフが奥にある部屋から姿を見せて、マイクスタンドの前へ立った。少々緊張したような表情でシェフは、マイクに顔を近づけ、口を開く。
「皆様、船上ディナーへようこそ。今夜はこの美しい部屋の中で、バイキング料理を皆様にお召し上がり頂きます」
 シェフの声が、鼻声っぽい事からして、やはり大勢の前で話をするのは緊張するのだろう。
「さて、今日では気軽にバイキングを楽しむ事が出来ますが、どうしてこのような形式の料理を、バイキングというのがご存知でしょうか?」
 シェフが客へと問い掛ける。と、群集の中から若い男の声で、海賊料理!という叫び声が上がった。シェフはそれを聞くと、ゆっくりと満足そうに頷く。
「そうですね。中世時代、ヨーロッパを荒らし回った海賊、バイキングは有名ですのでご存知の方も多いでしょう。彼らの食事の仕方は大変に下品で、丸ごと焼いた肉を引きちぎって食べたり、その他の料理も自分達の思うままに、次々と自由に口にしておりました。バイキング達の、このような食行動から由来して、自由に好きな食事を取って食べる形式の料理を、バイキングと呼ぶようになったと、そう伝えられております」
 シェフがそう言い終わると、シェフの後ろで待機していた他のスタッフ達が、料理テーブルのそばへと駆け寄っていく。
「余談になりましたね。ここは船の上。勿論、私達は文明人ですから、綺麗に盛り付けたお皿で食事を楽しみますが、ある意味では本当のバイキング気分が、味わえると思う次第です。それでは、食事をお楽しみ下さい」
 シェフがそう言い終わり、頭を下げたと同時に、客が一斉に動き出し、我先にと料理を自分の皿へ盛り付けていった。
 特に女性の方が食に対しては物凄いパワーを発揮するようで、中年のおばさん達は、皿をいくつも持ってメイン料理をあっという間に盛り付け、若い女性達はデザートを確保するのに必死であった。
「沢山ご用意しておりますから、ゆっくりと食事をとってください!」
 スタッフの声も客の騒ぎ声でかき消されてしまっていた。建一も、人々の隙間から手を伸ばして食事を皿に盛り付けた。
「危ない!」
 皿を片手に持っているものだからバランスが悪く、建一は他の者のとぶつかり、あやうく皿を落としそうになった。
「もう少し、時間を外した方が良かったでしょうか」
 やっとの事で、サラダと肉料理、それに飲み物として絞りたてのグレープジュースを手にした建一は、会場の端の方の席に座り、一人静かに食事を取った。
 食事はなかなかに良い。このような場所だから、腕の良い料理人を取り揃えたのだろう。まわりからも、食事を楽しむ歓喜の声が聞こえており、皆もそれぞれに楽しい食事を楽しんでいるに違いない。



 食事を終えた建一は、一度部屋へと戻り食後の休憩を取ると、大ホールを出て再びデッキへと向かった。外はすっかり暗くなっているが、船はライトで明るく照らされ、船の様子を伺うには十分な明るさであった。
 今年の終わりが近づくに連れて、人が多くなってくる。さすがに、小さな子供は少ないが、年の終わりを楽しむ人で、船上は大いに盛り上がっていた。
「僕も参加させて貰いましょうか」
 すぐそばのステージの上で、カウントダウンパーティーのコンサートが始まろうとしていた。
 このコンサートは、客でも参加出来るもので、様々な者が集まってひとつの曲を奏でるというものであった。
「僕も演奏します」
 建一は、空いている席へと腰を掛け、竪琴を取り出した。
「変わった形の竪琴ですね」
 隣の女性に、建一は話し掛けられた。
「ええ。大切な竪琴なんですよ」
 そう答えて、建一はにこりと笑った。
「では、演奏会を始める前に、皆で練習をしましょう」
 建一の目の前に、『第九』と書かれた楽譜が置かれていた。
 年末といえばこの曲である。誰もが知っている曲であるから、練習時間はスムーズに過ぎていき、練習を終えた後、建一達は特設のステージへと移動し、沢山の観客の前で『第九』を演奏した。とたんに、所々から歓声が聞こえ、音楽は年の終わりの空と海へと響き渡った。
 ステージの上は見晴らしがよく、遠くまで見渡す事が出来る。とは言っても、夜中でまわりはほとんど暗闇なので、あまり面白い景色とは言えないが。
 建一はしばらくの間楽譜にある曲を奏で、まわりの者達を音楽で楽しませた。そして、楽譜の最後の曲を演奏し終わり、手を止めた時、皆が船の上の方を一斉に見上げた。
 そこには巨大なデジタル時計があり、刻の変化を告げている。時刻は31日・午後11時59分。誰かが、カウントダウンを始めた。それに乗せて、皆も一緒に刻を数え始める。
「11時59分30秒」
 建一は、1年の終わりを全身で感じ始めた。
「20秒」
 船の乗客の心が、そのカウントの為に1つになる。
「10秒」
 新しい年がどんどん迫ってきた。
「9,8,7,6,5」
 何故か、心が躍っていた。
「4,3,2,1…年明け!」
 その瞬間、船の進んでいる少し先にある小さな明かりから、大きな花火がいくつも上がり、夜空を彩った。演奏者は元気の良い音楽を演奏し始め、まわりの人々は言葉をかけたり、手をとったりして、新しい1年の訪れを喜び合っている。
「新しい年。いよいよ、迎えたのですね」
 建一はまわりの歓声や花火の音を聞きながら、新しい年を心の中で迎え、そして静かに祝った。
「新年を楽しみましょう」
 建一は、徹夜をして、今年の始まりを祝う、船上でのイベントを楽しんだ。船では新年の酒や食べ物が振舞われ、様々なイベントで皆を楽しませてくれた。
 多少の眠気もあったが、せっかく船のパーティー、寝ていては勿体無いと、建一は演奏会に参加したり、食事を口にしたりして、年の初めの祝賀会を楽しむのであった。
 やがて、海の向こうがうっすらと白く染まり始め、デッキにいた人々は、海へと身を乗り出した。
「初日の出だ!」
 頑張って起きていたのだろうか、幼い少年が、昇ってくる太陽を指差していた。
「太陽の光。この世界はまるで魔法に満ちているようです。太陽は変わらずに、毎日昇ってくる。それ自体が、不思議な出来事と言えるかもしれませんね」
 建一は、寒さの事はすっかり忘れて、今年最初の夜明けを船の上でじっと見つめ、新しい年の始まりを目と心で感じているのであった。(終)



◆登場人物◇

【0929/山本建一/男性/19/アトランティス帰り(天界、芸能)】

◆ライター通信◇

 あけましておめでとうノベル2006にご参加頂き、ありがとうございました。WRの朝霧です。
 イベントの様子等をスケジュールに合わせて、建一さんの行動とともに描写をしてみました。特に多く描いたのが食事のところと演奏のところで、食事会の様子等は、私の実体験なども踏まえて、賑やかに書いてみました(笑)
 それでは、どうもありがとうございました!
PCあけましておめでとうノベル・2006 -
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聖獣界ソーン
2006年01月05日

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