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『■クリスマスに落ちた道標■ 』
御柳・狂華2213)&御影・蓮也(2276)

 ちゃぷんちゃぷんとみずのおと
 おとは きっとひとのなかにも



 クリスマスだというのに、静かだ。
 普通クリスマスの夜といったらどのデートスポットもカップルばかりで溢れかえっているところだが───。
「ここ、座る?」
 狂華が、ゆっくりと進めていた足をとめ、一方向を指さした。
「ああ」
 一方こちら、怪我がまだ治ったばかりなので、満足に動けない蓮也である。
 ここは、横浜。
 「港の見える丘公園」の、噴水方向───園内右手奥を更に進み、そこにある橋の当たりにる石のベンチを狂華は示しているのだった。
 夜だが、ライトはついている。けれど夜景が充分に楽しめる程度に抑えてあるところは、この施設を考えた者の気配りが感じられて嬉しい。
 特に今は───二人、一緒だから。
 もっと言えば───二人きり、だから。
「狂華、待った」
「ん?」
 ベンチに座ろうとした狂華をとめておいて、蓮也は自分のポケットからハンカチを取り出す。それをベンチに敷いた。
「いいぞ」
「あ……ありがとう」
 蓮也も狂華も、なんだか今日はいつもより少し鼓動が早い。
 何を話そう、という雰囲気が互いに感じられ、それもまた何か気恥ずかしい。
 うっとりと二人肩を抱いて夜景を楽しむ、なんて大人なことはまだ出来ない。
(それとも)
 蓮也は、ちらりと隣に座ってぶらぶらと間が持たずに足を揺らしている狂華を見る。
(抱いて、みようか)
 肩を───抱いて、みようか。
 考えただけで、手のひらに汗がにじんできた。
 見るからに細い肩。どのくらいの距離から、どんなタイミングで、どのくらいのちからで掴めばいいのか。
 まだ、蓮也には分からない。
 彼が悶々としているうちに、狂華が、「そうだ」と顔を上げた。
「どうした?」
「蓮也、怪我治ったばかりでしょ? だから、あの……寒い、よね?」
 狂華の言葉、その語尾が心なしか細くなる。うつむき加減にバッグから取り出しているのは、長い……マフラーに見える。
「そりゃ、寒いけど……」
 こたえた途端、ふわと視界が一瞬覆われた。すとんとやわらかく首に落ちたのは、長い長い一本のマフラーの左端のほう。
 狂華は微笑んで、はにかむようにもう片方の端を自分の首に巻く。
 狂華はある時は、蓮也よりも潔ぎがいい。
(なんとなく先、越されたかな)
 そんなことを思いながらも、知らず頬が緩んでしまう蓮也である。
「ねえ、綺麗だね、結構夜景って」
 狂華もいつもよりも、綺麗に見える。
「ねえ、聞いてる?」
「ああ、うん。聞いてるよ。綺麗だ」
 こちらを向いた狂華にどきりとし、蓮也は慌ててそうこたえた。
 ふと、公園に流れていた、クリスマスだけの特別な曲が終わりを告げる。急にしんとなった公園に、ますます鼓動が早くなる。
 だが、だからこそ、だった。
 その「音」に気づいたのは。

 ぱしゃぱしゃ、

 二人揃って、噴水のほうを見る。ひとけのないその噴水に、何かが───誰かが、溺れているような。
 噴水なんて浅いところで溺れるなんて、小さな子供に決まっている。
 知らず、狂華と蓮也の表情は引き締まり、繋がったマフラーもそのままに走り出した。瞳をちらりと交わしただけの、ツーカーの合図だった。
「あ。蓮也、犬だよ、これ」
「え?」
「ほら、だいぶ奥のほうにいっちゃってる。赤ちゃん犬かな、子犬と赤ちゃん犬との合間みたいな感じ?」
「って、死ぬってそれ!」
 慌てて蓮也は噴水の周りを回り、マフラーと繋がっている狂華も手伝って、いつからか溺れている子犬に一番近づける場所を探した。
 もう少しで手が届く、というとき。
「あっ!」
 なんとお約束であることか。
 蓮也は見事に噴水に顔から突っ込んでしまった。
「大丈夫? 蓮也。早くあがろう」
「いてて……あれ、子犬は?」
 また傷口が広がる、と心の中でごちながら、すっかりびしょぬれになってしまった全身を起こそうとする。
 が。
 きゃんきゃん、と背中で鳴いている子犬がそこにいた。
「俺は横浜の橋じゃないんだぞ……」
 げんなりと、そう言った蓮也だった。



 ウィンドウショッピングは終えていてよかった、と思う二人である。
 クリスマスにあいているのだろうかと思ったが、近くの銭湯は臨時休業と張り紙がしてあった。
「ついてないなあ」
「まだ分からないよ、子犬だってこのままじゃ風邪引いちゃうし」
「でもこのままだとさすがにタクシーにも乗せてもらえないし電車も無理だよな」
「んー……じゃあ、旅館行こう」
 狂華の一言を受けて、一瞬蓮也の瞳が点になる。
「……へ?」
「旅館。だってクリスマスだし、ホテルは多分満室だろうから。旅館なら、まだ大丈夫そうじゃない?」
 しかし、こんなところに旅館なんてあるのだろうか。
 うろうろ探すこと30分。
 なにしろ歩いているため、びしょぬれでクシャミをする蓮也と子犬は如何せん目立つ。
 そのうちに寒さに耐えられなくなったのか、子犬が狂華の腕から飛び降りて、走り始めた。
「あ、待って!」
 クリスマスの夜、繁華街は流石に人ごみがすごい。子犬を一瞬目で追った隙に、蓮也とはぐれてしまった。
 とたんに、心細くなる。
 心細い、とも違うのかもしれない。なんだか胸がきゅん、と切なくしぼんだように思えた。
「蓮也! どこ? 蓮也!」
 こたえは、ない。
 ふと、人ごみの間に子犬の色が見えた気がして、狂華はそちらに向かった。だが、いつまで経っても追いつけない。
 道を曲がり、アーケードをくぐり、小さな公園をまたいで。
 それでもまだ、びしょぬれの子犬にたどり着くことは出来なかった。
(おかしいな)
 狂華は胸の内で、つぶやく。既に息が切れて、空気が白く踊っていた。
 なんだか、子犬まで輪郭がぼやけ、光り輝いているように見える。まるで───そう、まるで蛍がどこかへ導く道標のように。
(この道標の向こうには、蓮也がいるのかな)
 ぼんやりと、疲れた頭でそんなことを思う。
 ぶるぶるとかぶりを振り、狂華は再び走り出した。
 子犬は時折立ち止まって狂華を待つようにして、距離をある程度おいて走っている。誰かが、意図しているかのように。
「どこまでいけば、いいの」
 息切れしながら言った、そのときだった。

 ぱすん、

 角を曲がったとたん、暖簾に顔が当たった。
「あ───旅館?」
 それは、小さな旅館だった。かなり廃れてはいるようだったけれども、どこかあたたかな雰囲気があった。子犬が入っていくのを見て、慌てて追いかける。
「すみません、子犬が勝手に───、」
 入ったとたん、狂華はふと声をとぎらせた。
 旅館の中は、フロントも何もなく。
 ただそこに、旅館の枠をつけただけという感じの、大きな露天風呂があった。
 不思議な───いい香りのする露天風呂。

 ぴしゃ、………

 かがみこんで、手を入れてみる。あたたかく、ミルク色の、心の中まで暖かくなるような感じがした。
「狂華?」
「!」
 煙の向こうから声をかけられて、狂華は驚いて───体勢を崩してしまった。
 激しい水音と共に、狂華は露天風呂に落ちた。
「大丈夫か、狂華!」
 蓮也がここにいる。顔が見えた。
 声をかけてきてくれている。
 この露天風呂は、何か媚薬のような効果もあるのだろうか。それとも、心を少しだけ解放する何かの作用があるのだろうか。まるで酔ったような感覚で、ふふ、と狂華は笑った。
 全身服ごとぬれてしまったのに、マフラーも蓮也と外れてしまったのに、嬉しくて仕方がない。
「蓮也」
「風邪引くって、服のまま入ったら」
「蓮也」
「ほら、手出して。なに?」
「マフラー、もう一回さっきみたいに、しよ?」
 差し出された蓮也の手が、とまる。たとえ服ごととはいえ、気持ち悪いのはこの際なしに考えて───やはり恥ずかしい。
 狂華がどうしてこんな風になるのかも、分からなかった。
 けれど、蓮也は勇気を出して足を入れる。

 ぱしゃり、

 狂華のそばに近寄ったとたん、今までが寒すぎたのと怪我が治ったばかりだったのとで足がふらついた。
「、!」

 くちびるが、かさなるかとおもった。

 狂華が咄嗟に蓮也を支えたので、唇が触れそうな距離でお互いの顔をみてしまう自体になったのだ。
 けれども───もしも、支えていなかったら今頃二人で倒れこんでいるか、唇が───触れていたか、だ。
 自然、二人とも真っ赤になる。
 蓮也のほうも、この不思議な露天風呂にやられたのか、どこかうっとりと狂華を見つめてくる。自然に手が伸びて、

 肩を、抱いた。

「蓮也、あったかいね」
 ため息と共に、狂華の唇がほほえみを浮かべる。
「狂華はやわらかい」
 いつもなら絶対に言えないだろう、こんな台詞。この不思議な露天風呂のせいだ。そう思い込んで、蓮也はおぼろげになってきた頭をもう片方の手で少し抑え、その手ものばして狂華を抱き寄せた。
 腕の中にくるめてしまう。
 しばらく、そうしていた。
 気持ちがほかほかして、服を通しても二人の鼓動が早鐘のように聞こえて。

 ずっと一緒にいたい

 そう自然に感じられた。
 けれども、魔法は突然にとけた。



 ぱっとあかりが消えたかと思うと、二人は元いた公園の噴水のところに佇んでいた。
 どちらの服も、不思議と濡れていない。
 でも二人とも、まだ頭のぼうっとした感覚は消えていなくて、だから。
 離れないで抱き合ったままでいた。
「蓮也、どこに行ってたの?」
 やがて狂華が尋ねると、蓮也はこたえる。
「ずっと狂華の名前を呼びながら狂華を追いかけてたよ。でも狂華はどんどん先に走ってくから、焦った」
「うそ、狂華は子犬追いかけてたよ?」
 初めて、二人は顔を見合わせる。
 あの子犬はなんだったのだろう?
 今までのことは───二人が共有して見た夢、なのだろうか。
 くすり、とどちらからともなく笑みがこぼれる。
「サンタクロースからのプレゼント?」
「かもな」
 ───好きあっている者たちの気持ちが、よりいっそう強まるように。
「きっかけ、くれたのかな」
 ぽつり、つぶやく蓮也の腕の中で、狂華は「なあに?」と顔を上げる。
「なんでもない」
 蓮也はそうして狂華の手を取り、
「クリスマスの夜はまだ終わってないぞ。さ、狂華、次はどこに行きたい?」
 と、すっかり緊張の取れた笑顔で言ったのだった。



 夢か否かは、定かではないけれども。
 ただ、二人の身体からはしばらく、あの不思議な露天風呂のいい香りが抜けなくて───随分と周囲の人間からからかわれた、ということである。

《END》
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こんにちは、ご発注有難うございます。今回、「クリスマスに落ちた道標」を書かせていただきました、ライターの東圭真喜愛と申します。ラブラブに、ラブラブに……と思って書いていたのですが、どこまで書いていいのかなとなかなか突っ込めず、無難なセンでとめてしまいました(^^;)
多分後日何日間かからかわれた内容は、お客様の考えている通りのことを想定してのことですが(笑)
口調や行動など、おかしなところがありましたら仰ってくださいね。またご縁がありました時の参考にさせて頂きます。

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで書かせて頂きました。本当に有難うございます。
お客様にも少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2005/12/29 Makito Touko
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
東圭真喜愛 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月29日

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