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『■ブタの贈りもの■ 』
高峯・燎4584)&高峯・弧呂丸(4583)

 ちゃらちゃらと おとがするのはなんでしょう
 けっしてそれは ひとつだけとはかぎりません



 ある寒い日のことであった。
「……なんだこれ」
 3、4日に一度は燎が暮らす部屋に顔を出しては口煩く小言を言う双子の弟の弧呂丸が、嬉々として「贈り物だ」と燎に手渡してきたものなのだが───どこからどう見ても、ピンクのブタの貯金箱にしか見えない。
「リサイクルショップで見つけたんだ。かわいいだろ? さ、この貯金箱で毎日少しずつでも貯金するんだ」
 どう考えても燎からすれば、これはイヤミだ。
 痛む頭を抱えながら、燎はため息を静かにつきつつ言う。
「……激しくいらねぇな。持って帰れ」
「置き場所はどこがいいかな」
「おい、いそいそと人の部屋に入るんじゃねぇよ」
 そんなことは言っても、弧呂丸は燎が店長をつとめる店の面倒な事務や会計などの仕事を全て担っているし、部屋の掃除をしたり洗濯をしたり、料理こそ出来ないものの、まるで世話女房のようなことをしている。今更「入るな」と言って、聞く弧呂丸ではなかった。
「この前来たばかりなのに、どうしてここまで汚く出来るんだ?」
 今もそんなことを言いながら、片付けをし、ベッドの頭のほうに場所をつくり、そこにしっかりとブタの貯金箱を置く。目がぱっちりとしていて、どうにも捨てられない妙な愛らしさがあるブタだ。
「俺の部屋のテイストに物凄く似合ってねぇんだけど」
「そんなことは問題ではない。いいか、燎」
 びしっと弧呂丸は兄の鼻先に人差し指をつきつける。
「毎日小銭でもいいから忘れずにお金を入れるんだぞ。塵も積もれば山となる!」
 妙に念を押す。しかも気のせいか、妙な迫力がある。
 気にはなったが、これ以上「金」の話をすると面倒だと思った燎は、
「あー分かった分かった。1円でも入れとくさ」
 と、気にしないことにした。
 真面目一辺倒な弧呂丸は、けれどそれからいつになく熱心に「本当だな? 絶対だな?」と10回くらい繰り返し。
「うるせーコロ助! 早く帰れ!」
 ついに燎が怒鳴る頃になるとようやく、にっこりと微笑んだのだった。
「信じるぞ、燎。じゃ、今日は仕事があるからこれで帰る」
「ああ、とっとと帰れ」
「また来る」
「来なくていい!」
 そんな燎の叫びが聞こえたかどうか。
 弧呂丸は兄にプレゼントが出来た喜びにか、心なしか足取りも軽く去っていった。



 さてそれから数日が経つ。
 弟が好意で贈ったブタの貯金箱の存在は、燎の頭からは、はや忘れられていた。
 スッカリサッパリ綺麗に忘れ去られたブタの貯金箱は、燎の記憶とは逆に埃をかぶり、汚くなっていた。
「さて、出かけるか」
 適当に朝食を摂り、燎は店へ出かけるために着替えて扉を開け、外に出た。
 いつも通りの朝だ。寒い空気はかえって清々しく、白い息が舞い踊る。
 だが、何か不穏な気配を感じて、燎は振り向いた。
「? 誰か尾けてるような気がしたんだけどな」
 尾けられる覚えがあると言えばあるし、ないと言えばない。
 気にしても損か、とまた歩き出す。不穏な気配もまた、動き出しているようだ。
(なに、尾けられてるなら今に、それなりの行動をしてくるだろうさ)
 そしたら、こちらも「相応の対応」というものをすればいい。
 道すがら、携帯が鳴った。
 出てみると、ギャンブル仲間からである。徹夜で麻雀をしているのだが、途中になって一人減ってしまってどうしても面子が欲しいのだという。
 数時間でいいから、と泣きつかれ、いつものように軽く「今からそっちにいく」と承諾した。
 店のほうには、下っ端の奴らに一言言っておけばいい。
 行き先を変えた燎の足だが、それは否応無しに止まることとなった。
「………なんだ、これは」
 弧呂丸から贈り物を渡された時とまったく同じ言葉を、燎は呆然と足に当たった「それ」を見下ろしながらつぶやいた。
 それは、ピンクのブタの、あの貯金箱。
 それが曲がり角のところで通せんぼするかのように身体をどかさない。
「なんでこれがここにあるんだ?」
 まさか尾行していたのがこのブタだとは露も知らず、燎不思議に思いながらもはブタの貯金箱をよけて通ろうとした。
 そのときである。

 ぶきっ

 ピンクのブタが、鳴いた。
 その途端、燎のポケットから財布が何かの糸に引っ張られるように引きずり出され、中から次から次へとお金がピンクのブタの貯金箱へと入ってゆく。
「おい! なんだってんだよ、やめろ!」
 慌てて取り戻そうとするが、触ろうとすると電気が走ったような痺れが襲って触れない。しかも心なしか、お金を徴収したこのブタ、少しばかり大きくなっているような気がする。
 ───待てよ。
 焦った燎は、そこでようく考えてみた。
 このブタを渡した時のコロ助の様子。
 いつもより熱心に念を押していったあの態度。
(そうか)
 そういうことか。
 燎は、ふうとため息をつく。
 恐らく弧呂丸が、このブタに術で仕込んだ呪いでもかけておいたのだろう。多分、そう───燎が貯金しないことを見越して、お金が入らなければ今のように強制的にお金を徴収する、とか。
「けど、なんで今になって?」
 ぽつりと、つぶやいてみる。その間に再び携帯が鳴った。
 出てみると、さっきのギャンブル仲間である。なんでも、徹夜して殆ど酒と煙草以外何も腹に入れていないのでついでに何か買ってきてくれというのだ。
 まあ、これは大抵いつものことで、あとでちゃんとお金は燎が「ギャンブルで」徴収するので問題ない。
 分かったよと返事をして電話を切り、───はたと気づく。
「おい、ブタ。金返せよ」
 金がなくては何も買えない。
 だがブタは少し大きくなったまま、しーんと普通のブタの貯金箱のフリをしている。
「さっき『ぶきっ』とか鳴いただろ!? 今更フツーのブタ面してんじゃねーよ!」
 地面に置かれたピンクの可愛らしいブタの貯金箱に向かって怒鳴りつける、燎。そしてそんな彼をどこか気の毒そうに見ては見ぬふりをして通り過ぎていく通行人たち。
(くそブタ)
 腹の中で舌打ちし、燎はしかめっ面でくるりときびすを返す。
 そのまま自分の店に向かった。あそこなら、弧呂丸が管理しているとはいえ少しの隙を見て多少の金額の売り上げをくすねても一日くらい分からないだろう。
 その間にも、燎のあとをブタは尾けてくるらしい。
「ままー、あのおにいちゃんがひっぱってるぶたさんのおもちゃ、ぼくもほしい」
「しっ! 見るんじゃないの!」
 そんな親子連れのやり取りを聞いた時には、本気で振り向いてブタを壊してやろうと思ったくらいだ。
 けれど、「こういう手合い」には無視が限る。
 やがて店につくと、弧呂丸がいて、せっせと事務管理をしていた。
「あれ、随分遅かったんだな。いつもは数分くらいは早いのに」
「随分な言い方だな、コロ助。お前のせいで俺はなあ───」
 危ういところで、燎は言葉を喉の奥に押しとどめる。
「ん? どうかしたか?」
 きょとんとした様子の弟が尋ねてくるが、「なんでもない」とさり気なくカウンターを回り込む。
 今気づかれては、金を取りにきたことがバレてしまう。ギャンブルにも行くなと言われることだろう。そんなのはごめんだ。
「ときに燎、あのブタはどうしてる?」
 そら来た。
 そんなことを思いつつも、億尾にも見せず燎は普通にこたえる。
「毎日一円ずつ貯めてますよー」
「そうかそうか。それはいい傾向だ。で、その玩具はなんだ?」
 にこにこしながら、弧呂丸は燎の後ろを、かた・こと、と僅かな音を鳴らしながらついてくるブタの貯金箱を指さす。
(まさかこいつ、自分の呪いがどんな効果をもたらすのかとか知らないんじゃないだろうな)
 いや、弧呂丸ならあり得る。それともブタ自体に元から何らかのちからがあって、弧呂丸が呪いをかけたことによってとんでもない相乗効果を生み出すとかいうんじゃ───。
「おいコロ助」
「な、なんだ?」
 思わず顔がくっつくほど顔を寄せてきた真顔の燎に、弧呂丸はたじろぐ。
「このブタ、本っ当に『ただのブタの貯金箱』なのか?」
 一瞬、弧呂丸は目をぱちくりさせ───燎とブタの間を視線が行き来し、……つぶやいた。
「私があげたブタの貯金箱なのか? これが」
「ああ。ついてきた挙句、有り金全部取りやがった」
「しかし大きくなっているし動くような呪いはかけてはいないはず───」
 はっと弧呂丸は口に手を当てたが、「もう知ってるよ」という顔の燎を見て、ちょっと肩をすくめた。
「リサイクルショップの店長さんが言ってたんだ。これは『自主的に貯金箱の作用をする画期的な貯金箱』なんだって。でも、よく安いものをそうやって売り込むだろう? だから私は信じなかったんだ」
「それで呪いをかけたんだな、『無駄遣い』をしようとすると金を徴収するように」
「いや、そうだが少しずつだぞ? それに動くだなんてそんなこと私は知らない」
「───相乗効果だ」
 燎がため息をついたとき、店の電話が鳴った。客からの注文が、そういえば今日はいつもより多かったな、と思い出す。慌てて電話に出る弧呂丸を見つめながら、「そうだ金だ」とついでのように思い出す。
 そうっとブタと弧呂丸とを交互に見つめながら───どちらにも「見られて」いないことを確認し───店のレジを開ける。
 途端に。

 ぶきっっっ

 さっきよりも声高く、ブタが鳴いた。
 そして───さながら向かってこようとするイノシシの如く背中を丸めて(陶器の貯金箱がどうやって丸まるのかは摩訶不思議そのものだったが)貯金箱の口を開いたかと思うと───次々に、レジから札束やら小銭やらが容赦なしに吸収されてゆく。
「わ、待て待て!」
 慌てる燎だが、ぐんぐん吸い込みぐんぐん成長していくブタが天井に頭、いや背中がつくほどになってしまうともはや呆然として何も言えない。
 弧呂丸も同じくぽかんとして、慌てて我に返った。
 ブタに歩み寄る。
「そこまでしなくてもいいんだよ。いいかい、今のは店のお金なんだ。返してくれないか」
 またも、しーんと普通のブタのふりをするブタの貯金箱。
「もうそこまで成長したら誰がどう見ても普通じゃねぇから!」
 とうとうキレた燎、叫んだかと思うと能力で破壊しにかかる。ギャンブル仲間が待っているんだ。腹をすかせて、今か今かと燎が食べ物を持って料理してくれるのを待っているのだ。
 何か主旨が変わっている気もしたが、今の燎には問題ではない。
「ハッ───!」
 能力、「神速」を繰り出す。それは素早い動きと共に、いかなるものも破壊する怪力を生み出すものだった。それに格闘技などを交えるのだが───ブタには効かなかった。
 いや、むしろ違うほうに効いたのか。
 ガチン、と物凄い勢いで突進した燎の拳が巨大ブタの横腹辺りに当たったかと思うと───ぱあっとブタはその愛らしい瞳からピンク色の光線を出した。
 何かの怪物のごとく、店の中を見渡すように光を照らしてゆく。
「ああ───もしや破壊光線!?」
 悲愴な声を上げる弧呂丸だが、世間知らずなクセにどこでそんな言葉を知ったのやら。というか、知っていてもおかしくはないがこの場面で普通使わないところを使うあたり、どこかズレている。
 しかしそれでも、燎と共に身構えるところは流石だ。
 どんなちからを持っているか分からない今、この巨大ピンクブタはこの兄弟にとって、色々な意味で最大な敵になっていた。
(店を壊されては、いつ再建出来るか分からない。そうしたら燎はますます悪の道に染まるだろう。なんとか封印して元に戻さなければ)
(俺の店を壊されちゃたまんねぇし、ダチが待ってるんだ、こいつを破壊する)
 ───心の中で思う気持ちは違うと知らずとも、燎と弧呂丸は互いに一度視線を交わして小さく頷き、同時に攻撃しようとした。
 ところへ。

 ぶききーーーーーーーーーっっっっっっっ

 鼓膜がびりびりと震えるほどの大きさで巨大ピンクブタは嘶き、否、吼え叫び───どこかそれは喜びの叫びともとれた───ぱぁんとそれこそ大きな陶器が割れる音をさせ、自ら弾けた。

 ちゃら……ちゃらちゃら……

 そんな音をさせながらきらきらと、それは5ミリサイズの小さな丸いピンクの玉となって粉雪のように店の中を舞い───、
 金も燎のポケットやレジの中に戻っていく。
「ど……どういうことだ」
「分からねぇ」
 弧呂丸と燎が、唖然とする中。
「わあ、きれい! ちょっとちょっと、このお店きてみて! ものすごくきれいなイベントやってる!」
「ホント! ピンクの粉雪が舞ってる!」
 ざわざわと、さっきから店の中を遠巻きに覗いていた通行人たちが、通学途中や通勤途中だというのに、どやどやと店のすぐ前に集まってくる。
 そんな中、ころりと燎と弧呂丸の手の中に、小さなものが転がり込んだ。
 それは、小さな小さな、ひとつずつのブタの置物。片方は赤く、片方は白い。どちらも掌に乗っけてもまだ小さいほどだったが、かなり精密に出来た美しい陶器だった。



 その後、弧呂丸が購入したというブタの貯金箱を売っていたリサイクルショップの店長をつきつめ、ようやくあのブタの貯金箱の由来が分かった。
 昔、売れないブタの小物ばかり作っている陶器職人がいた。
 けれどもあまりに売れないので片っ端から自分で壊してしまい、最後にこの二つの「双子のブタ」だけはどうしても惜しくて遺されたのだという。
 それがめぐりめぐって、このリサイクルショップに流されてきたというわけだ。



「ブタの兄弟か……きっとその職人も貧乏だったから、あんな効果のある貯金箱となった合体してたんだろう」
 弧呂丸が、しみじみと、今日も賑わう客たちと、忙しさに追われている燎の雇っている店員達を見て、再び掌に乗っけた赤いブタを見下ろす。彼は本当にマメで、燎の掌に入り込んだ白いブタのぶんもと「そろいの袋」をお守り入れのように作ってきていた。
「赤と白が合体したからピンクのブタか」
 げんなりと、燎。
 あれから、まだやむことのないピンクの粉雪の中───それは触れると自然に消滅するので髪の毛ゆ服などが汚れることもなく、逆に客の人気を煽って───その煽られた客たちが、燎の作ったアクセサリなどを買ってゆくのだ。それは燎にとっても嬉しいことだったし、弧呂丸にとってももちろん嬉しいことだった。
 けれど、あの巨大ピンクブタが弾けて粉雪になったとき───二人はブタの声を聞いた気がしたのだ。

<年月を経て商売繁盛のちからを持っていた このブタの兄弟の封印を解いてくれたからな もうしばらくはこのまんま お前たちもそのまんまじゃ>

 そう。
 あの粉雪は何故か燎と弧呂丸の身体全体にだけはりついて、さながらピンクの粉を金粉のごとくまぶしたようになっており、いくら風呂に入ってこすってもとれないのだ。
「……はあ……こんな身体でどうやって仕事をしろというのだ……」
「封印を解いた大元の元凶はお前だろコロ助」
「しかしお前はまだいい、燎。私の仕事はこんな格好で行っては追い返されてしまうのがオチだ……」
「俺だってこんなじゃ当分ダチにも顔合わせられねぇよ」
 強制的に商売繁盛+外に出歩けない=貯金、になったわけなのだが。
 それでも店の奥からそっと覗き見ると、ピンクの粉雪はまるでファンタジーか夢の中のようで。
 その中ではしゃぎながら燎の作ったアクセサリ等を見たり買ったりしている心底楽しそうなお客たちや、忙しくもこち

らも楽しそうな店員達を見ていると、
 あながち悪いこととは思えない。
「大事なお守りにしような、燎」
「……もう勝手にしろ」
 そんな双子の兄弟の掌には、幸せそうに袋におさまった双子のブタが在る。

 ピンクの粉雪は、その後しばらく、
 やむことがなかった、という。


《END》
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こんにちは、ご発注有難うございます。今回、「ブタの贈りもの」を書かせていただきました、ライターの東圭真喜愛と申します。コメディタッチに……と思っておりましたら、いつの間にかほのぼのになっておりました。結果的には弧呂丸さんも巻き込んだことになってしまいましたが(;´▽`A``
そして、「ここはもっとこう」「こんなことはしない」などありましたら、遠慮なく仰ってくださいませ。今後またご縁がありました時の参考にさせて頂きますのでv

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで書かせて頂きました。本当に有難うございます。
お客様にも少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2005/12/29 Makito Touko
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
東圭真喜愛 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月29日

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