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『再会の夜に… 』
綾和泉・汐耶1449)&綾和泉・匡乃(1537)&桐苑・敦己(2611)

「さて、と今日の仕事は終わり、と……」
 綾和泉匡乃(あやいずみ・きょうの)は自らの職場である予備校をの出口の階段を下りながら体を伸ばす。
 階段を下りたところで今までマナーモードにしてあった携帯を鞄から取り出し、着信をチェックする。
 匡乃が取り出した携帯には一件のメールが入っていた。
「おや?メールが来てる…。誰からだ?」
 メールをチェックすると携帯の液晶画面には懐かしい差出人の名前が写っていた。

−−−−

『今日東京に戻ってきたんだけど、良かったらまた例の店で飲みながら話をしないですか?

                                       敦己』

−−−−

 その名前を見て匡乃は驚いた。
 ここの所旅に出ると言ってずっと行方知れずだった人間の名前だったからだ。
 匡乃は慌ててそのメールを送ってきた人間に返信をする。
「まさかあいつが戻ってきてるとは思わなかったな…」
 匡乃はメールの返信をして一人呟くと時計を見る。
「この時間だと汐耶はまだ仕事中か……、仕方ない、メールを打っておくか」
 今日のはもう一度携帯を取り出すと妹である綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)へメールを送る。
「どうせ敦己のやつ、連絡してないだろうしな」
 そう言いながら匡乃は携帯をしまい鞄を持ち直し待ち合わせの場所へとゆっくり歩き出すのだった。


 待ち合わせたいつもの居酒屋では、以前会った時と変わらぬ様子で敦己がいつものテーブルで待っていた。
「お久しぶり」
 まるで昨日判れた友人に挨拶でもするかのように敦己は匡乃に挨拶をする。
 こういう風に人なつこく、それでいてそこにいついてもおかしくない雰囲気を持つのはこの青年、桐苑敦己(きりその・あつき)ならではだろう。
「まったく、帰ってくるなら帰って来るで、もっと早く連絡してくれれば良かったのに」
「ああ、ごめんごめん。東京に来ようと思ったのが今朝思いついたから…」
 こうやって、自分の住んでいる街さえも旅先の一つのように話をするのも敦己ゆえでそう考えると匡乃は無性におかしくなってしまった。
「まぁ、そういう所も敦己らしいといえば敦己らしいんだけど…」
「匡乃は最近は元気でやってるのか?」
「まぁ、ぼちぼちだよ。そういう敦己こそ今度はどこに行ってたんだ?」
「まぁ、西へ行ったり東へ行ったりいつもの通り気のむくまま風の向くまま気ままにやってるよ。関東まで戻ってきた事はあったけど、神奈川の辺りでまた違うところに行ったから」
「そうか…」
「しかし本当にいつも突然だから敦己にはびっくりさせられるよ」
「まぁ、神出鬼没が俺の得意技みたいなものだから」
 そんな風に話す敦己に匡乃も思わず苦笑してしまう。
 仕事が終わり、一息ついた所に携帯に入った一通のメール。
 それが唐突な敦己の帰宅を示す連絡であった。
「で、今回の帰宅は何か理由があってのもの?」
「ああ、それはね…」
 敦己がそう言いかけた所で、匡乃が自分の後ろにある何か別のものに意識をとられてるのに気がつき敦己もそちらへ振り向く。
 振り向いた敦己を待っていたのは、頬を引っ張る痛みであった。
「な・ん・で私には一報の連絡もないのかしら?敦己さん?」
 そこには敦己の頬を引っ張りながら目が全然笑っていない笑顔で話す女性、綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)が立っていた。
「いたいいたい、汐ちゃん痛いってばー!ごめん、連絡しなかったのはごめんだから離してー」
 情けない声を上げた敦己を見て少し気を取り直し満足した汐耶はゆっくりと手を離す。
「全く、今回だって兄さんが気を利かせて連絡してくれなきゃ知らなかったんだから」
「だからごめんってば」
 平謝りする敦己を見て今まで尖った表情だった汐耶の顔がふっと緩む。
「まぁ、便りがないのは元気な印というからそこまで心配はしてなかったけどね」
「そ、それは少し寂しいよ汐ちゃん」
 敦己を横目に汐耶も開いてる席に座り熱燗を注文する。
 そんな二人を見ながら匡乃は思わず笑みを抑えることが出来なかった。
「全くそういう所は全然、変わってないね」
「こういう所は変えようと思ってもなかなか変えられないよ、匡乃」
 思わず頭をかきながらどこかとぼけたように答える敦己であった。


「そういえば、こうやって三人で顔を合わすのってずいぶん久しぶりだよね」
 匡乃がそんな風に切り出す。
「そうね、どっかの誰かさんが糸の切れた凧の様にどこかに行ったきり帰ってこないからね」
 汐耶がそんな風に言いながら、敦己の事を見る。
「そりゃそうなんだけど……」
「でも、まぁ、こうしてると大学時代の事を思い出すよね」
 匡乃のその台詞に一瞬場が静かになる。
 匡乃と敦己は高校時代に同じクラスになった事がきっかけで知り合い、なぜか気があったのかそのままなし崩し的に腐れ縁に。
 そして二人が大学に上がった頃、敦己は匡乃から話に聞いていただけだった汐耶と出会う事となった。
「大学の頃は兄さんは当然だけど、敦己さんとも毎日のように顔をあわせていたから…」
 その頃を思い出し懐かしむように汐耶がいう。
「そうだね、あの頃は俺もまさか今みたいな風来坊な生活をすることになるとは思わなかったし。ただ当時から旅は色々してみたいとは思っていたけどね」
 そんな事を言いながら敦己は汐耶に燗をしてもらう。
「でもあれから何年もたつのに敦己さんは敦己さんのままだし、兄さんもちっとも変わらないし…」
「汐ちゃんの方は変わったよね、なんていうかそう…言葉には出来ないけど変わったと思うよ」
「全然汐耶は変わらないよ。というか僕達三人揃ってあの頃のままなのかもしれない」
 思わず自分でそう言いながらも匡乃は苦笑いを浮かべる。
「そうなのかもしれないけど、寂しいような嬉しいような、だね」
「多分良い事なんじゃないかしら?と私は思うわ。少なくとも私は良い事だと思うわ」
「汐ちゃんがそう言うならそうなのかもな」
 汐耶のその言葉に先ほどまで疑問符を述べていた敦己が同意の声をあげる。
「一番変わったのはそう言ってる敦己さんだと思うけど?」
「え?俺?」
「ええ、大学時代の頃は今ほど浮世離れしてなかったと思うし…」
「まぁ、確かに旅から旅へなんて少し浮世離れしてるのかもしれないなぁ」
「少しじゃないと思うわよ。ところで今度の旅はどこに行ったの?」
 日本酒の注がれたお猪口を傾けながら汐耶が敦己に旅について聞く。
「どこって言われても本当色々行ったよ、海も山も街も…」
 肉じゃがを美味しそうにつつきながら敦己は自らの旅の思い出にふける。
「そんな風に一人で思い出されても僕達にはさっぱり判らないんだけど?」
「そう言われてるとそうか…。今回の旅にも色々あってさ…」
 敦己はそうきりだし、今回の旅で印象に深かった事を話始めた。


 敦己の話したのは昨年の同じような冬に神奈川の海岸で見た白い女性の影の事であった。
 その話を話始めたのは敦己がその時の女性の影の事が今も心のどこかで引っかかっていたためかもしれない。
 とても現実のものとは思えずただの幻であったのかもしれないが…。

「へぇ、そんな事があったんだ…」
 二人は話に聞き入っていた。
 敦己は話終わると、喉が渇いたのかくいっとお猪口に残っていた日本酒を飲み干す。
「でもそんな風に印象に残るくらい、その人は美人だったのか?」
 匡乃が聞くと敦己は腕を組んで考え込む。
「うーん、どうだったかな……?ものすごい絶世の美人、というわけではなかったと思うのだけど…」
 天井を見上げながら敦己は呟く。
「でも何か……、どこかで見たような気がして…」
 敦己はそう呟いて汐耶の事を見る。
「あ…、そうか!」
 敦己は思わず大きな声をあげる。
「どうしたんだ?」
 驚いた匡乃が不思議そうに敦己の事を見る。
「その人汐ちゃんに似ていたんだ」
「私に?」
「そうそう。ずっとどっかで見た気がしていたんだよ。あーすっきりした」
 今までずっと心に引っかかっていた疑問が解けて行った敦己は嬉しそうな声をあげる。
「そういう話って、大事な人の姿に見える、とかってよく言うよな」
 匡乃が少しからかうような口調で二人に話しかける。
「ちょ…ちょっと兄さん。それってどういう…」
「まぁまぁ、気にしない気にしない」
「気にしないって気にするわよ」
「っと、もうこんな時間か、そろそろお開きにするか」
 焦るような汐耶の事をはぐらかす様に時計を見た匡乃は立ち上がる。
「そうですね、そろそろ行きましょうか」
 敦己も深く突っ込まれたくなかったのか同意して立ち上がり会計を匡乃に任せゆっくりと外に出る。
 汐耶もそうしていてても仕方ないと思い、会計を済ませた匡乃と一緒に外に出る。
 三人が外に出ると外には白い雪が舞い降りはじめていた。
「雪…か…もうそんな時期なんだな」
 匡乃が呟く。
「敦己さんは次はいつ帰ってくるの?」
「さぁ?また風のむくまま気が向いた時、かな?」
 先ほどの匡乃と同じようにどこかはぐらかすかの様に舞い降りてくる雪を見て敦己はつぶやく。
「それじゃ俺はそろそろ行くよ、また今度」
 敦己はそう言って手を振るとゆっくりと歩き出す。
「ああ、また今度」
 匡乃と汐耶も返事をする。


 そして二人と一人はそれぞれの帰途へとつくのであった……。


Fin

2005.12.27.
Written by Ren Fujimori
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
藤杜錬 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月28日

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