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『■小春の発掘レポート−金の雫、銀の祈り−■ 』
藤河・小春1691

 ほら そっとひとみをとじて みみをすませてごらん
 どこかで いのりが ないて・いるよ───



「おかしいですねえ……」
 朝の空は寒さに鍛えられた蒼でいっぱいだというのに、藤河小春の第一声は、それだった。
 冬休み、ということで発掘ツアーという曰くありげなものに参加して、キャンプをしていた矢先のことである。
「ちゃんとここにしまったのに、まさか消えてなくなっているなんて……ことは、ないですよね。誰かが持ち出したんでしょうか」
 小春が探しているのは、昨日、キャンプ三日目でようやく見つけた一つの金の指輪。
 発掘したときには泥まみれで何がなんだか分からなかったが、丁寧に復興作業を続けた結果、見事な宝石のついた金の指輪であることが分かったのだ。
「何かはありそうだけれど新しすぎる、残念ながら誰かがここに捨てたものだろうって、ツアーの先生は仰ってましたが……でも、あれだけ泥まみれになってまるで千年も眠りについてたみたいな感じは、不思議だと思ったんですが……」
 だから小春はツアーの先生、初老の、どこかの大学の教授だという彼に許可をもらい、一晩じっくり観察しながら本をたくさん積み上げてキャンプの中でランプをともし、研究していたのだが───明け方頃に少しうたたねをしてしまった間に消えてなくなっている。
 朝ごはんに呼ばれ、とりあえず小春は探す手をとめて朝食係が待つ場所へ走った。
 食べながら聴いてみても、誰も知らない、と言う。
 やはり曰くつき……なのだろうか。
 とりあえず食器を近くの川で洗い終えたあと、小春は研究のための資料本の続きを読み漁った。
 発掘作業をしながらも、片手には本がある。
「藤河さん、ちゃんとやってくれんと困るんだがね」
 そう言う先生の声に「ほへ?」と純粋な瞳を上げる、小春である。
 負けたかのように、先生は苦笑して見逃してくれた。
 そうして午後をすぎ、そろそろ夕餉の支度を今日の食事係の者がしている頃のこと。
「あっ! もしかして」
 小春の声に周囲にいた者の視線が集まるが、本人はまったく気にしていない。相変わらず視線は本の中にあった。
「これ、ここの文章……引っかかります。金の雫は銀の祈りに反応する。けれど祈りがなければ再び姿を隠してしまう───」
 文章の正確な意味は分からなかったが、あの指輪は確かに模様の部分が雫のようだったし、状況からして無関係のはずはないと思った。
 まだ探してるの?そんなガラクタ放っておきなよ、と言う友達と取る夕食こそしっかりと食べたが、小春は一度気になったら、納得するまで追及する好奇心旺盛な娘である。それに曰くつき、ときたら胸が躍って仕方がなかった。
 あの雫の模様には多分、宝石がはまっていたのだ。それが分かっているからこそ、実は宝石大好きな小春にはますます興味深い対象なのである。
(宝石のかくれんぼなんて、面白いです)
 夜になるのが待ち遠しくて、小春はひとりにやにやしながら、寝る準備をしつつ「他の準備」もこっそりと整える。もちろん、その間にも本をしっかりと読んでいた。



 その夜、キャンプ全体が寝静まった頃。
 小春は、こっそりと抜け出した。
 吐く息が、白い。防寒対策はしっかりしてきたものの、この空気、雪が降るかもしれないな、と思った。
 向かう先は、うろうろとしてはいるものの、わりとはっきりした足取りだ。
 手には、鞄と懐中電灯、それに磁石。

 ───雫の埋められていた場所から左足を200メートルのばす。その先にある口の中に祈りのきっかけが眠っている。

 鞄の中に入れてある本に書いてあった文章を口の中で反芻しつつ、「左足の方向」───つまり、「西」へとまっすぐに進む。途中、森の中に入ったがお構いなしだ。
「なんだか本当に探検っていう感じですね」
 夜の森は、さすがに暗すぎてコワい。
 それでも好奇心のほうが先立って、小春は進んだ。
 やがて「口」である小さな洞穴を、見つけた。蔦でびっしりはりついている入り口を、道具を使って苦労して開く。一体何年の間、ここはこのまま放置されていたのだろう。
「確かに、ツアーには『未開の地』とは書いてありましたけど、何百年も人が足を踏み入れてない森みたいです。ある意味今の日本じゃ、貴重ですね」
 ひとり感心しながら、汗をかきつつ洞穴の中に入っていく。小春が入って少しあまりがある程度の道だ。
 それでもだんだんと広がってきて、まるで発掘半ばで放り出したかのような、不思議な壁画のある広い場所にたどり着いた。
 ここで、行き止まりである。分かれ道もない。
「きっかけ……きっかけって、なんのことなんでしょう」
 壁画を懐中電灯で照らしつつ、考え込む。
 それにしても、発掘好きな者には本当に興味深い壁画だ。とても日本人の先祖が書いたものとは思われない。
「きっと……人間以外の『誰か』の歴史を刻んだものなのですね」
 文字らしきものも、見たことがないようなものだ。小春はこれまでにもたくさん発掘に参加してきたが、このようなものは初めて見た。
 改めて、端から端へと順繰りに、恐らくは「何者か」の歴史を刻んでいるその壁画を、小春は照らしてゆく。
 自然でたくさんの場所に棲む、額に角をつけ、耳がとがり、背中に片方だけ羽をつけた、妖精のような生き物が、黒い異形の生き物と戦っている。やがてどちらの姿もいなくなり、妖精のような生き物の長が最期の力をこめてたくさんのシャボン玉のような円形のものを、小さな雫の形をした石に入れている。そしてその石は指輪にはめられ、呪いをかけて地中に埋められた。
 そこで、壁画は終わっている。
「妖精のような生物の終焉を描いたものでしょうか……けれど、この指輪の意味は一体……」
 多分、黒い異形のものは悪魔とかそんなものだろう、とは想像がつく。相討ちになったはいいものの、長は何を指輪に入れたのだろう。そしてその雫部分である「石」はどこへ行ったのだろう?
「ふるい壁画なのに、これほどはっきり見えるのは……やっぱり何か、おまじないがかかっているからなのでしょうか」
 つぶやきながら、何気なく壁画に触れてみる。
 とたん、触れた指先が静電気を起こしたように壁画とこすれてバチリと音がし、光を放った。
「ほ、ほへ?」
 びっくりはしたけれども、天然が幸いしてそれほどパニック状態には陥らない小春である。
 壁画から離してみても、右手のすべての指先が白く光っている。

 ───いのりを───

 声が壁画から聞こえたのは、そのときである。小春が目をぱちくりさせると、声はわななくように洞穴中に響き渡りはじめる。

 ───いのりを───
 ───しろがねのいのりを───
 ───どうか───われらのたましいを・てんへと───

「うう〜っ……頭が割れそうです」
 しゃがみこみ、耳を両手でふさいでも声は変わらず聞こえる。
 なんでもいいから、祈ればいいのだろうか。
 しろがね?
 しろがねは、銀、だろうか。
 銀、銀───そうだ!
「これ!」
 咄嗟に、鞄に入れていた短剣を取り出す。かなりの年代物だが、小春は刀剣登録持ちなので今回も持ってきていた。お気に入りの短剣の、一つである。
 それは丁寧に手入れされていて、しろがねに光っていた。
「しろがねって、これでいいですか!?」
 わんわんと頭の中に鳴り響く「声」に、夢中で尋ねる。ふと「声」が小さくなり、

 ───いのりを こちらに───

 その言葉を最期に、「声」は消え。
 かわりに、

 すぅ───……

 と、壁画の一部、ちょうど雫の指輪の部分が光を放った。
(この壁画からすると、無念さが残ってるって考えたほうがいいかもしれないですね。だったら、祈りは……)
 小春は、目を閉じて……今度は自分のほうから、何かを聞き取ろうと耳を澄ませてみる。
 興味を惹かれたのは、私。
 ここまで来たのも、私の好奇心。
 私の意志。
 だから責任も、持ちます。
 だから、
 だから───教えて、ください。
 ───あなたたちの、望むことを。祈りを。それが分かるきっかけだけでも。

 静に、時は過ぎた。
 小春は、けれども自分でも驚くほど静かな心で、ずっとずっとたたずんで、応答を待った。
 何時間か、それとも実際は何十分か。
 分からなかったけれども、やがて小春の頭の中に小さく小さく、「声」が聞こえた。
 小春は微笑んでうなずき、瞳を開けた。
「分かりました」
 そしてゆっくりと立ち上がり、そうっと短剣を壁画の光る部分に射しこんでゆく。
 のみこむように、壁画が短剣を吸い込んでゆく。
 柄の部分でとまったとき、
 小春は聞こえた小さな「声」から連想した言葉を信じて、
 声にした。

「妖精さん達に、輪廻の魔法を」



 光がひろがり、
     壁画が、
        中央から崩れ落ちた。



 聞こえた小さな「声」は、「妖精の我らが望むは、無念の呪縛からの解放」と言った。
 だから小春は、輪廻という言葉を使った。
 そしてそれは正しかったようだった。
 小春の右目が痛み出したのも、そのときだった───。



 なんぜんねんもむかしにいきたわれらのたましい
 こめたいしも ながれながれてあわれたべもののなかに
 はいったは すうじつのまえ
 そう・ぬしのくちのなかに
 からだのなかに・きっかけはあった

 そんな声が痛みの中聞こえ、小春は思い出していた。
 確かにこのツアーを決定して暫く東京を離れるからと、友達と小さなパーティーを、とある中華料理店でしていた時のこと。
 何かとっても美味しいものが口の中に入ったな、という感覚はあったけれども、それは出された料理のひとつ、小包の味だとばかり思っていたのだ。
「どうりで、小包にしては美味しすぎると思いました」
 痛む右目を抑えた両手。心なしか、右手で触れたほうが痛みがやわらいだ気がして、小春は右手だけをあててみた。
 痛みのため条件反射で出てくる涙と共に、何かが右手の中に転がり落ちてきた。
 それは、雫の形をした───蒼く輝く、美しい宝石。

『金の雫は銀の祈りに反応する。けれど祈りがなければ再び姿を隠してしまう』

 ようやく、あの文章の意味が分かった。
 小春は偶然の積み重ねで「妖精」という生き物の魂を呪縛から解放する鍵となる「銀の指輪」を食べていた。それは「銀の祈り」。
 そして呼応したように、ツアーで発見された「金の指輪」の雫部分は、ごく自然な法則で、小春が眠っているうちに小春自身の身体の中───右目の奥に「姿を隠して銀の祈りと一緒になっていた」のだ。
 だから、こんな現象が起きた。
 小春の右手の指が光ったのも、小春の中に「銀の祈り」があったから。
 小春の右目から雫の形の石が出てきたのも、だからこそ。

 竜の少女よ・感謝する───

 気づけば、崩れた壁画の向こうには、ようやく解き放たれた妖精のたくさんの魂。その声が聞こえた気がして、小春は微笑んだ。
 次々に洞穴から入り口へと向かい、白んだ空に向けて昇ってゆく魂たちに、小春は声をかける。
「金の指輪と銀の指輪、大事にします! 間違っても食べません!」
 どこか、普通の人間が言う台詞ではない気もしたが。
 そんな小春に笑いかけるように魂たちは小春のまわりをくるくると回っては、嬉しそうに消えてゆく。
 きっと彼らは輪廻して、何かに生まれ変わって───今度こそ、誰とも戦うことなく寿命を全うするだろう。してほしい、と心から思った。



 金の指輪と銀の指輪は、時折どこかへ姿を消すこともあったが、必ず戻ってきて小春が大事につくった「寝場所」に入っている。
 今、思い返してみれば。
 「未開の地」ツアーは、小春に助けを求めた妖精たちが仕組んだことなのかもしれない、と。
 ふと寒さで明け方に目が覚め、白んだ夜明けを見るたびに、
 小春は、そう、感じるのだ。


《END》
**********************ライターより**********************
こんにちは、ご発注有り難うございますv 今回「小春の発掘レポート−金の雫、銀の祈り−」を書かせて頂きました、ライターの東圭真喜愛です。
日本の遺跡であれば───すみません、確かに発掘作業ではありますが、厳密に言えば日本に昔棲んでいた妖精の遺跡、ということになりましたが、如何でしたでしょうか。
なんとなく、こんな発掘レポートもいいかなと思いついて書いてみましたが、何かありましたらまた、遠慮なくご連絡くださいね。今後、ご縁がありましたときの参考にさせて頂きます。余談ではありますが、この妖精、東圭のオリジナル作品に出てくるとある名前のある妖精なのですが、名前や詳しい背景を出すと規定違反にもなりますので、書き手側としてはとても残念ですが今回の程度でおさめました。

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで書かせて頂きました。本当に有難うございます。
お客様にも少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2005/12/23 Makito Touko
PCシチュエーションノベル(シングル) -
東圭真喜愛 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月26日

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