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『【Lament Nocturne 〜 animato 〜】 』
桐生・暁4782)&梶原冬弥(NPC2112)



□■□

 天国と言う場所があると信じるならば、地獄と言う場所もあるのだろう。
 天国はあってほしいと、切に願う。
 貴女が居る場所は、天国以外にあり得ないから。
 花が咲き乱れる暖かな場所が、貴女にはとてもよく似合うから。
 鳥達に囲まれながら、無邪気な微笑を浮かべて、花の冠なんか作ったりして―――。
 楽しそうに笑う、貴女の声が直ぐ近くで聞こえる気がするんだ。
 こんなにも冷たい地上にいながらも・・・・・。
 けれど・・・もしも天国に貴女が居るならば、きっと逢えないね。
 だってそうだろう?
 天国があるのなら、地獄がある。
 2つは対だから・・・。
 天国と地獄の狭間に、この場所があって、それで世界は成り立っているのだから。
 俺はきっと、地獄に行くだろう。
 罪を背負いながら、貴女の元に昇る事は許されないだろう。
 地上に居る人々は地面にへばりつきながら生きている。
 天国に昇れる人は、背に翼が生える。
 地獄に落ちる人は、罪を背負わされる。
 ・・・もう、2度と逢えないと知って、それでも罪を背負い込んだ。

  『貴女を救いたかったなんて言うのはエゴで・・・』
  『本当は自分の心を少しでも慰めたかっただけじゃないのか?』


    【そう言われると、何も答える事は出来ないけれど】
    【そう言われると、どうしようもなく哀しくなるけれど】


 【貴女を想いながら、地獄で永遠を過ごすのも悪くないかななんて、思ったり・・・】
 【きっと貴女が聞いたら、酷く怒って、泣くだろうね】
 【泣き顔を見たくないから、俺はそこには行けないね】


     【貴女に逢わせてくださいと、神に頼みたいのは山々だけれども】


■□■

 「それを見つけたのか・・・?」
 驚いたようにそう訊かれて、暁と冬弥は顔を見合わせた。
 痛々しい程に血が溢れる足を、冬弥が必死に手当てする。
 「あぁ。ってかこれ、あんたのお姉さんでしょ?」
 「よく見つけられたな、あの紙の山の中から。」
 「宝探しが得意なんだよ、俺の飼い犬は。」
 「・・・それって俺の事?」
 憮然とした表情の暁に、軽い笑顔を見せてから冬弥はコクリと頷いた。
 「他に誰がいる?」
 ・・・どちらかと言うと、自分よりも冬弥の方が犬っぽい気がするのは気のせいだろうか?
 「それにしても、双子の姉を持つ双子の弟―――珍しいな。」
 「血は繋がってない。」
 青年はきっぱりとそう言うと、冬弥の手から逃れるように体をひねった。
 鈍い痛みが足を襲ったのか、眉根を寄せて耐えるように顔を歪めると、息を吐き出した。
 「アイツの書いたシナリオだった。最後、探偵に追い詰められた犯人達が崖から海に身を投げる・・・ボートが、置いてあるはずだったんだ。」
 青年にとっての苦い記憶―――痛みを散らすかのように、ふらふらと揺れる視線が無性に切なくさせる。
 「置き忘れたんだ・・・ずさんな管理のせいで・・・海の藻屑に・・・」
 泣くのを必死にこらえているのか、握った拳が小刻みに震えている。
 唇を噛み、全身に力を入れ、なんとか意識を“ソコ”から遠ざけようとしているようだ。
 「愛してたんだ。俺は・・・本気で・・・。」
 愛する者を奪われる悲しみを、暁は知っていた。
 全てが真っ暗に染まり、底の見えない迷宮に突き落とされる。
 右を向いても左を向いても同じような道があるだけで、どこにも出口なんてない。ただ一人、見知らぬ世界で必死に耐える、あの言い知れぬ恐怖を含んだ感情―――。
 愛する者を奪った相手を憎む心は、きっと誰にでも生まれるだろう。
 どんなに心の清い者でも、囁く悪魔の言葉はあまりにも甘美なのだから・・・。
 それでも、憎む心からは何も生まれない。ただ、湧き上がるように溢れる憎しみと悲しみが、心を真っ黒なものへと染め上げる。
 「愛する者を奪われたから、だから復讐ってわけ?」
 暁の静かな言葉に、男性は顔を上げた。
 驚きの後に、怒りを含んだ光が瞳に宿る。
 「お前に何がわかる・・・!?おまえに・・・」
 「じゃぁ訊くけど、あんたに俺の何がわかるんだ?“ソノ”感情を俺がわからないって、あんたは決め付けてるよな?あんたは俺の過去を知ってるわけ?俺がどうやって生きて来たのか知ってるわけ?愛する者の死を見てないと、あんたは断言できるわけ?」
 冷たく響く言葉の中に、哀しみが宿っている。
 声が震えているのは・・・怒りと言うわけではなさそうだ・・・。
 「その年齢でか?」
 「哀しい事が起きるのに、年齢は関係ないっしょ?起きる時は・・・起きるんだよ。」
 2人の会話に冬弥は入って来なかった。
 どこか遠い目をしながら黙って、静かに2人の言葉に耳を傾けている。
 「復讐なんてしたところで、どうしようもないじゃん。もう・・・戻って来ないんだから。」
 “ナクシタ”ものは、かけがえのないたった一つの“モノ”。決して他の何かで補えるようなものではない。
 また新しいものを見つければ、心の隙間が埋められるとか、そう言う事ではない。

 ―――そんな簡単な事じゃない・・・・・。

 「戻って・・・来ないんだよ・・・・・・・。」
 再度呟いた暁の声が、空気中で儚く霧散する。
 感情が含みすぎてしまった言葉は、霧散する瞬間に周囲の雰囲気を引き連れて行ってしまう。
 重く暗い沈黙。
 誰も何も言わない。それは、誰も何も言えないから・・・。
 愛する者を奪われた哀しみなんて、その人にしか解らない―――本当にそうだろうか?
 確かに“解る”事は難しいかもしれない。感情は複雑なものだから・・・でも、きっと“分かる”事は出来るのだと思う。人には、同情や共感と言った感情もあるのだから。
 「それでも、罪には罰を・・・そうじゃないのか・・・!?」
 男はそう言うと、キっと鋭い視線を暁に向けた。
 傍らに落ちていたナイフを取り上げ、足を怪我しているとは思えないほどのスピードで立ち上がり、暁の腕を掴んだ。
 グイっと引き寄せられ、喉元にナイフを突きつけられる。
 「動いたら、殺す・・・。俺は・・・まだ罰を与えてないっ!あの物語を作ったヤツだけじゃなく、ボートを置き忘れた・・・アイツ・・・。」
 耳元で聞こえる声が、掠れる。
 「明らかに・・・殺されたのに・・・なんで・・・。なんで罪にならない・・・?不運が重なった事故だって・・・それで・・・終わりなのか・・・?」
 暁の腕を握る手が強くなる。
 細い腕が更に細く締め付けられ・・・それでも、暁は表情を変えなかった。
 痛みなんて―――感じない。
 体の痛みなんて、取るに足らない痛みなのだから。
 「・・・そんなに人を殺したいんならさ、俺の事を殺せよ。」
 ポツリ、低く呟いた言葉に場が硬直する。
 背後にいる男の顔は見えないが、目の前にいる冬弥の顔なら見えた。目を見開き、強張った様な表情で暁を見詰めている。
 「そのさ、ボートを置き忘れた“アイツ”の代わりに、俺を殺せば良い。」
 暁は腕を振り解いた。
 簡単に腕は抜け、驚いたような表情で佇む男の方を振り返る。ナイフを持った手を両手で掴み、真っ直ぐに―――自分の喉元に先端を当てる。
 ヒヤリとした冷たい感触を喉仏の上に感じ、微かに眉根を寄せた。
 「あんたにとっては、誰だって同じだろう?そう・・・誰の命も同じだ。平等に人は創られているから・・・だったら、いっそ俺を殺せよ。」
 「・・・嫌だ・・・」
 「出来るだろう?あんたは既に1人の命を奪ってる。これからもう1人殺すつもりだったんだろ?だったら、ソイツだと思ってやれよ。」
 「無理だ・・・」
 「無理なわけないだろう?人の命は平等なんだよ!あんたのお姉さんも、あんたも、俺も、ソイツも!」
 暁は握った手に力を込めた。
 真っ直ぐに男の瞳を見詰める・・・・・・・・。
 「出来るだろ?」
 酷く優しい微笑をした後で、暁は自分の喉元にナイフを引き寄せようと―――カランと、乾いた音を立てて男の手からナイフが落ちた
 カラカラと、揺れるナイフはまるで踊っているかのようだった。
 「俺・・・思うんだけどさ。あんたに人殺しって向かないよ。」
 その言葉の裏に、隠れている想いを、そっと隠す。
 人を殺すなんて寂しい事をやって良い様な人柄ではないのは、会った時直ぐに分かった。酷く純粋な輝きを放つ瞳は、暗い事には向いていない。
 ―――純粋すぎるから、こんな寂しい事をやってしまったのだけれども。
 「なぁ。どうせ明日には迎えが来るんだし・・・一緒にさ、ちょっとお話しよーよ。」
 ニカっと笑うと、暁は男の肩を叩いた。
 「あんたは笑ってた方が似合ってるし・・・そーだ、冬弥ちゃん、漫才でもしよっか?俺が突っ込みで、冬弥ちゃんがボケで・・・」
 「・・・逆・・・だろ?」
 なにかを押し込めているような瞳を向けながら、冬弥はふっと微笑んだ。
 「朝まで話すか。あー・・・んじゃぁ、なんか適当に料理でも作って・・・」
 「冬弥ちゃん、料理できるの?」
 「・・・あんなぁ、普通に出来るだろ。普通に。」
 長い長い溜息をついた後で、冬弥は暁の喉元をクイと拭った。
 チリリと鋭い痛みが走る―――どうやら、少しだけ切れていたらしい。とは言っても、ほんの少しだろうけれど・・・。
 「ほら、朝までの時間は短いんだよ!?早く立って立って!」
 そう言って暁が手を伸ばす。男がその手を取り・・・・・・・・


□■□

 迎えの船には、警察の人も乗っていた。
 男から手渡された無線機に全ての事情を吐き出し、その向こう、顔も知らない相手が警察を呼んだのだ。
 連れて行かれる男の顔は笑顔だった。先ほどまで騒いでいた、その余韻なのかも知れない。
 男とは違う船に、暁と冬弥、そして他のキャストは詰め込まれた。
 ツインベッドの1室で、2人はボンヤリと窓の外を見詰めていた。
 変わりばえのしない風景だったが、なんとなく、じっと見詰めていたくなるような海の色だった。
 「・・・なぁ、あの時さ、お前・・・本気だっただろ?」
 「へ?」
 急な問いかけに、思わず間抜けな声を上げてしまう。
 振り向いたそこで、酷く暗い表情の冬弥が虚ろな瞳で海を眺めていた。
 「“俺を殺せ”って言った時、お前、本気だったろ?」
 「・・・そんなわけないじゃん。」
 「そ・・・っか・・・。」
 そう呟くと、俯いた。
 なんだか様子がおかしい・・・。暁は立ち上がると、冬弥の前に―――ギュっと、腰の辺りに抱きつかれ、しばし固まる。
 ベッドに座った冬弥が、強い力で暁の腰を抱きしめる。
 「どうしたの・・・??」
 混乱する頭をなんとか落ち着かせ、暁は冬弥の髪を優しく撫ぜた。
 普段は見上げる事の方が多い冬弥を、今は見下ろしている・・・なんだか新鮮だった。
 「・・・お前は・・・いなくなるなよ・・・。」
 「え・・?」
 凄く小さな声で囁かれ、暁は思わず聞き返していた。
 冬弥がそっと暁の体を放し、ふわりと微笑んだ。
 「なんでもない。・・・それより、喉は平気なのか?」
 「え・・・あ、喉?平気だよ。ちょっと掠った程度だし・・・」
 「そっか。ったく、お前は本当に無鉄砲だよな。あー・・・どうして俺の周りってこうも後先考えない無鉄砲なやつが多いんだ・・・。」
 冬弥が天を仰ぐ。大げさなそのリアクションに、一瞬だけ意味を探ろうとして―――やめた・・・。
 「なにそれっ!俺はちゃんと考えて行動してるって!」
 「例えば?」
 「・・・例えば・・・。えーっと・・・」
 「ほらみろ。」
 「と・・・とにかく、俺は考えてますっ!」
 必死な暁の様子に、思わずと言った様子で冬弥が笑い出す。
 最初はそんな冬弥を見て、むくれていた暁だったが・・・最終的には笑いに引き込まれてしまい・・・。


  『ねぇ、どんなに辛い事があっても、人って笑えるじゃない?』
  『声を上げて笑って、ほんの少しでも、寂しい事が吹き飛んでしまえば素敵よね。』
  『また明日、頑張ろうって、思えたらもっと素敵よね。』

  『ねぇ、人生って楽しい事ばかりじゃないんだよ?』
  『辛い事も、哀しい事も、沢山沢山起きるんだよ?』

  『それでも・・・笑おう?』
  『貴方と一緒なら、笑えるはずだから・・・』

  『私が笑って、貴方が笑う・・・ね?』
  『少し心が軽くなったでしょう?』


    【貴方の笑い声は、私の心を軽くさせるの】
    【私の笑い声は、貴方に・・・届いてる?】


     〈END〉




◇★◇★◇ライター通信◇★◇★◇

 この度はLament Nocturneシリーズにご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 かなり長く続いてしまいましたが・・・。
 Lament(ラメント)とは、死者を悼む音楽・・・嘆きの音楽の事です。Nocturne(ノクターン)は夜想曲の事です。あの、少し哀愁を帯びた感じの・・・。
 lento(レント)は緩やかにと言う意味です。accelerando(アッチェレランド)はだんだん速く。allegro moderato(アレグロ・モデラート) はほどよく速く。a tempo (ア・テンポ)はもとの速さで。animato(アニマート)は元気にやいきいきとと言う意味です。
 全て音楽用語です・・・。
 最近私の描く暁様は、やや可愛らしくなって来ているな・・・と思いまして、思い切った路線変更を試みてみました。
 カッコ良い部分を前面に押し出した感じで・・・その反面、冬弥が幼くなってしまいましたが(笑)
 いつもいつも、冬弥を構っていただいてまことに有難う御座います。
 今後の2人の関係がどう変化して行くのか・・・執筆していて大変楽しみでもありますw

  それでは、またどこかでお逢いいたしました時は宜しくお願いいたします。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月22日

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