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『Happy×Happening Xmas 』
シャロン・マリアーノ0645


 招待状

 日ごろの御愛顧に感謝して、ささやかながら当方にてパーティの席を設けさせていただきました。
 皆様ふるってご参加ください。


2005/12/25



【パーティにようこそ!】


 そんな招待状が届いたのも先日の事、今このパーティ会場にはいろいろな世界の人々が続々と到着していた。
「おや、三下クン。タイが曲がっていますよ」
 正装を着慣れているセレスティ・カーニンガムは、普段まったく着ることの無いタキシードに身を硬くしている三下・忠雄のタイをくすくす笑いながら直す。
 完全にカチコチになっている三下は、あっちのテーブルこっちのテーブルにぶつかり、それを見る碇・麗香の盛大な溜め息が聞こえてきそうだった。
「う…ふ、踏む……」
 色とりどりの刺繍が施された民族衣装で参加したリージェ・リージェウランは、ちょっと大きめな衣装に足元で裾を踏みそうになりながらも、その場で堪えている。
 もう少し身体にあった衣装は無かったのだろうかと心配になるが、その小麦色の肌に民族衣装はとても似合っていた。
「ほら、武彦さんしゃんとして」
「折角のパーティなんですよ? お兄さん」
 ブラックスーツに身を包みながらも、早くもやる気をなくしている草間・武彦に向けて、シュライン・エマと妹の草間・零も小さく叱咤の声を上げる。
 シュラインはパーティ内にあるであろう喫煙スペースを探して、会場内を見回したのち、まただれる草間の手を引いて会場内へと進んでいった。
 招待状に正装という言葉に驚きつつも、兄に頼んで急いで見立ててもらった燕尾服に身を包み、その場の雰囲気に流されそうになりながら会場内を歩く梧・北斗。
「あの…お兄さん……」
 背後から声をかけられ振り返れば、キリスト教関連の祭服に身を包んだ柊・秋杜に、手と足が両方一緒に出ていると言われて、自分がかなり緊張していると気が付いた。
 スラリとした体型に、カシュクールのホルダーネックに、赤い髪に良く似合うワインレッドのロングドレスにストールとミュールという姿で現れたのは、シャロン・マリアーノだ。膝下辺りまで入ったスリットによって、ドレスといえど動きやすい作りになっている。
 儀式服として正装としても使える黒の服に身を包んだアレスディア・ヴォルフリートは、辺りをきょろきょろと見回しては、どこかそわそわとしている。その様子からこういった場になれていないのだと言う事が見て取れた。まだ開始早々から壁の花としての自分の位置を確立していた。
(な…なんだか大人ばかり……)
 辺りをきょろきょろとさせながら、裾にレースが付いたワンピース姿でパーティ会場内を徘徊するメイ・フォルチェ。
「大丈夫?」
「わ…!」
 思わず驚いて声を上げてしまった事にばつが悪そうに振り返ると、キョトンとした顔の柏木・深々那が立っていた。
「大人ばっかりだものね」
 相当不安そうな顔をしていたのだろう、深々那はメイを安心させるように笑うと、手を引いて歩き出す。
 メイは同年代くらいの子供が居た事にほっとしながら、その後を付いていった。
「おや、お前と同年代くらいの子もいるみたいだぞ」
 クスクスと笑いながら、もうパーティの料理に眼が行っている自身の逢魔クリスクリスに向けて声をかけたのは、チリュウ・ミカだ。
「え? そうなの」
 すっかり食い気なのか? とミカはやれやれと思いながら、マーメイドラインの濃紺のカクテルドレスの裾を巧く捌きながらクリスクリスの元へと歩み寄る。
 流石に昔と比べれば(特に胸が)大きくなったが、まだまだ子供なのだろう。スパンコールが輝く水色のハンカチーフスカートのショートドレスの裾を翻して振り返った。
 カツカツとヒールの音を響かせ、何時もは首の横で束ねている金髪をアップにして、黒のベルベット地のイブニングドレス姿で会場内に足を踏み入れるキング=オセロット。何時もは軍服のような格好に身を包んでいるため分からないボディラインが、今回はばっちりと晒されてしまっている。
 華やかな席に出る柄ではないが、せっかくの聖夜なのだし、とサクリファイスは何時もは着ない白いドレスを着て、この場に立つ。
「コール!」
 人ごみの中で何処の世界のものか良く分からない礼装に身を包んだコールを見つけ、サクリファイスは軽く手を上げて駆け寄った。
「あー、綺麗だね。サクリファイスちゃん」
 白いドレスに身を包んだサクリファイスを見て、コールは至極普通にそう口にする。
「そ…そうかな」
 うん。とニコニコ笑顔で大仰に頷いたコールにどぎまぎしつつ、言葉を続けるように顔を上げる。
「あ」
 突然のコールの声に、サクリファイスもつられてそちらに視線を向けた。
 集まった中でも一際目立っている、オーマ・シュヴァルツとその妻、シェラ・シュヴァルツに、娘サモン・シュヴァルツ。
 洋装が多い中紋付袴や色留袖、振袖といった正装で、そこまでであったならば普通の正装で終るのだが、シェラとサモンの着物に施された意匠が異彩を放っている。
 いつもだったら豪快に笑うオーマも、なぜかビクビクと縮こまっているのは、隣にシェラが居るせいだろうか。シェラの眼光は常にオーマに向けられ、ふざけた事をしようものならいつでも血に満ちた愛の抱擁が出来るよう準備されていた。
「…何だか…この服……随分と動きにくい…ね…。…やたらと…ごてごてしてるし…」
 着慣れない着物に少々むず痒さを感じているのか、サモンは自分の服を見下ろして呟く。
「いいや、可愛いぞ! 可愛すぎるぞ、我が娘よ!!」
 オーマの横からの力説にも、サモンはただ一瞥くれただけでぷいっと視線を外す。
「あれ〜」
 間延びしたような声がして視線を向ければ、コールがサクリファイスの横でオーマたちに向けて手を振る。
「おぉコールじゃないか。サクリファイスも」
 オーマもそれに答えるようにして手を振り返すと、

『皆様本日はお集まりありがとうございマース』

 という軽快なアクラ=ジンク ホワイトの声で、パーティの幕は開けた。





 さすが正装参加と言う事もあって、どこかいい緊張感が辺りに立ちこめる。
 しっかり未成年チェックでお酒を禁止されてしまったアレスディアは、ワインカップで白ワインならぬ白葡萄炭酸ジュースを飲みつつ、開始からずっと動く事無く壁をキープしてパーティ会場を眺めた。
「壁にもたれて、どうしたんだ?」
 アレスディアは声をかけられふと顔を向ける。
 そこに立っていたのは大量の料理を皿の上に乗せた北斗。
 立派な正装であるものの、どこか背伸びしている感が否めない北斗ではあったが、こういった場にであったとしても料理に感心が行く辺り食べ盛りな少年に変わりは無いらしい。
「あまり……こういう場はなれていなくてな」
 北斗の問いかけにアレスディアは軽く苦笑して答える。
「勿体無いだろう? 折角いろんな人と知り合えるチャンスなんだぜ?」
 にっと笑う北斗に圧倒されつつ、ついおかしくなってアレスディアは口元を押さえて笑い始める。
「な…なんだよ! 笑うなよ」
 その笑顔に顔を仄かに赤く染めて反論する北斗は、やはり正装に身を包んでいても年頃の男の子である事に変わりはなかった。
 そんな会場の隅の二人を横切るように過ぎ去るサンタクロース。
「刺繍とても綺麗ね。何処の国の服?」
 巧く裾を捌けるように集中して歩いていたリージェに声をかけたのはメイだ。
「どこだったかな?」
 今まで沢山の国を旅して、たくさんのものを見て、故郷の民族衣装だったかもしれないし、どこか旅の途中で立ち寄った国の衣装だったかもしれない。
 確かに皆洋装や和装の中で、民族衣装に身を包んだ自分はちょっと浮いているかもしれないが、正装である事に変わりはないのだ。
「いいなぁ。凄く綺麗」
 純粋な子供の瞳でそう見上げられて、歌を誉められるのとはまた違った賛美にリージェは軽く照れる。
「あら、メイちゃん」
 シャロンは見覚えのあるシルエットに記憶を手繰らせ、その名前を呼ぶ。
「シャロンさん」
 メイは名前を呼ばれたことにキョロキョロと辺りを見回すと、シャロンを見つけて手を振った。
「あなたも来てたのね」
 と、シャロンはメイの元に赴くと、リージェに向けて軽く微笑む。
「初めまして、こんにちは」
「初めまして」
 と、シャロンとリージェは軽く自己紹介を交わす。
 世界広し人多しといえど、話してみればどうやらやってきた世界が違うという事が分かる。
「凄いねここ」
 メイも来たばかりでちょっと不安になった時に声をかけてくれた子は、自分達の世界の子じゃなかった。
 こういった出会いもまたクリスマスだから…と、言えるのかもしれない。
「あのサンタ……」
 正装で。となっていたのに、わざわざサンタクロースの格好で来るなど、確かに時期には沿っているが、場にそっていない。
 サンタを追いかけるように視線を移動させれば、パーティ会場で用意されている四角い何も乗っていない机が目に入る。
 誰が言い出したのか、どうやらシャンペンタワーをする事になったらしい。
 料理が並んでいるテーブルに次の料理を取りに来た北斗は、小さくグラスが鳴る音に顔をあげ、へぇっと声を漏らし、
「こんなの結婚式くらいしかやらないと思ってたなぁ」
 と小さく呟く。
 相変わらずアレスディアは壁の定位置から動いていないが、どうやら気になるようで視線だけはそちらへ向ける。
 グラスを組み立て始めた少年――瀬乃伊吹を見ていると、どうやら彼が言い出したことらしい。意気揚々とグラスを積み上げている。
『シャンペンタワーできましたぁ』
 マイクを持って放さないアクラの声が会場中に響き、そちらへと視線を向ける。
 最後、頂上のグラスをバランスよく置き、周りから歓声の声が上がる。
『さて、此処からが本番だよ』
 無礼講という事だからか完全に会場中を縦横無尽に飛びまわり、アクラのスピーチは響き渡る。
「シャンペンいきまーす」
 言いだしっぺの伊吹は台に乗って、上から金色に光るシャンペンを一番上のグラスに注ぐ。
 グラスから溢れたシャンペンはその下のグラスに溜まり溢れ、またその下のグラスへと移動していく。
 その真後ろから迫る、サンタクロース。
「伊吹くん!?」
「へ?」
 一生懸命バランスを保ってグラスにシャンペンを注いでいた伊吹は、突然の呼び声にびくっと肩を震わせ、ゆっくりと振り返る。

 ガシャ――――ン!!!

 天性の反射神経でさっと横に避けた伊吹だが、折角積み上げてもう少しでシャンペンも一番下のグラスに到達したはずのシャンペンタワーは跡形もなく粉砕する。
「な…何!?」
「うげ!」
 サンタクロースは風船が膨らむようにどんどんと膨張していき、パンっと弾ける。
 その瞬間、視界が暗転した。



【風になりたい】


 サンサンと降る太陽の光。
 煌めく蒼い海。青い空。
 そんな中、シャロンはえぇっとと考える。
 が、しかしとりあえず熱い。
 パーティ会場でサンタが妙に膨張したところまでは覚えている。
 それがなぜ、いまやこんな見た事も無い場所へと来ているのか。
「一体ここどこかしらね?」
 もしここにビーチパラソルやビーチマットがあったなら、海水用に最適だろうと思われるような銀色の輝く砂浜を一瞥し、シャロンは現状を把握しようと軽く歩き出した。
 オセロットは一切動じた様子もなくその場に立ち、ふぅっとゆっくりと煙草の紫煙を吐き出す。
「……季節は真夏の12月……」
 そう、クリスマスと言えば12月25日に行われる行事であるし、夜になれば色とりどりの灯りが街を飾り、聖堂の鐘が厳かに響く中、聖夜を祝う声が聞こえてくる。はずなのだが。
 オセロットはふむ……と辺りを見回して、
「どう見ても、常夏の……」
 と、ここで一旦言葉を止め、
「…園、だな」
 と、目の前はバカンスにぴったりのハワイヤンビーチ。振り返れば野性味あふれるジャングルというこの場所を評して言葉を発する。
 どう見ても無事ですまなさそうな予感が、オセロットに『楽』園と言わせることを躊躇わせた。
 じゃりっと砂浜を踏みしめたような音がして振り返れば、シャロンが羽織っていたケープを手に持ってこちらへと歩いてくる姿を捉える事が出来た。
「あなたもこの場所に飛ばされたのだな」
 オセロットは合流したシャロンに、そう問いかける。
「飛ばされたというと?」
 どうも膨張サンタより後の記憶があいまいなシャロンには良く思い出せないのだが、冬のパーティ会場からこんな真夏とも言える場所へ来てしまっているのだから、飛ばされたという言い方はあながち間違いではないのかもしれないと思いつつも問いかける。
「どうやらあの会場自体も時空が不安定だったようだ」
 それがあの膨張サンタのせいで完全に乱れ、自分達はこんな所に飛ばされてしまった。という事らしい。
 オセロットは一応この綺麗な自然に煙草を捨てるのは躊躇われ、小さな携帯用灰皿を取り出すと煙草の灰を落とす。
 とりあえず一息ついたような声音でシャロンは髪をかきあげると、
「他にも人がいて良かったわ。まだ対策を練れるもの」
 しかし、言葉とは裏腹に、シャロンの視線は海と対になっているジャングルへと注がれている。
「どうしてこんな時に限って紙もペンも持ち合わせてないのよ」
 じっとジャングルを凝視したままそう呟いたシャロンに、オセロットは、ん? と視線を向ける。
 何か見たことない植物がありそう。と口にするその瞳は完全に今の状況に困っているとは思えないほど輝いている。
「まあ、その前に食料と水の確保が先よね」
 ここまで常夏だと、調査やなんやらを行うより先に脱水症状を起こしてしまいそうだ。
 それにパーティでの料理をお腹いっぱい食べる暇もなく飛ばされてしまったのだから、いつか空腹が襲ってくるに違いない。
「…脱水症状と飢えはもう二度とごめんだわ」
 普通の人間だと思うのに、シャロンはシャロンで何か辛い過去があったのだろう。
 小さく呟いたその言葉が全てを物語っているような気がした。
「そうだな、何時元の場所へ帰れるか分からないからな」
 もしかしたら直ぐに戻れるかもしれないし、もしかしたら一生この常夏と付き合っていく事になるかもしれない。
 そう考えれば食料や水の確保は最低限やっておかなければならない事だろう。
「とりあえず木があると言う事は、真水が存在していると思うの」
 男手が無いことが少々歯がゆいが、シャロンとオセロットならばさしたる差しさわりは無いだろう。
「ジャングルに入るのだな」
 スカートの裾を切ってしまえば多少涼しくなるだろうが、ジャングルの背の低い草で足を傷つける可能性を考えれば、多少動きにくくてもスカートは立派な防具となってくれるだろう。
 そうして、二人は水と食料を探してジャングルへと踏み入った。
 一方、サクリファイスは手で扇を作って輝く太陽をふと見上げる。
「……えー……確か、冬、だったはずだよな」
 目の前に広がるサンセットビーチ。打ち付ける波の音が、まるで全てを癒すかのように穏やかな音楽を奏でる。
「なのに、なんでこんなに暖かい、ていうか暑いんだ」
 常夏と言ってしまっても差しさわりが無いようなこの場所で、白いドレス姿の自分。
「いや、それ以前に……ここは、どこ、なんだ……?」
 疑問を呟いてみても答えてくれる人はなく、時々吹く風にやしの木の葉がこすれあう音だけが聞こえる。
 サクリファイスはただ呆然とその場に立ち、思考を一生懸命フル稼働して、とりあえずどうしたらいいのかを考える。
「え、えー……」
 しかし考えても考えても、暑い、冬、暑い、を繰り返し、思考は前へと進まない。
「ぼうっとしてても、仕方ないよな」
 結局考えはまとまらず、サクリファイスは逆に考える事やめると、とりあえず動いてから考えようと、背中の4枚の翼を広げる。
「飛べば、周囲の状況も確認できる…はず」
 すっと飛び上がり、見下ろしてみれば、今までサクリファイスが立っていた場所が小さな島である事が分かった。
 他に陸地(特に大陸)は無いものだろうかと辺りを見回してみても、何処までも続く蒼い地平線だけが360度切れ目なく続いている様しか見えない。
「島だけ…なのか?」
 海と島しかない場所もあるものだな。と、ちょっとずれた感想を持ちつつ、サクリファイスはそのまま島へと高度を下げ、
辺りを見回すように顔をきょろきょろさせながら飛び続ける。
 空から見て分かったのだが、この島の中心部から約半分はジャングルで、外周半周ほどが砂浜になっているらしい事が分かった。
 サクリファイスはただ漠然とジャングルの中に入ると翼が邪魔そうだ、などと考え、砂浜の端から端までとりあえず観察してみる。
 砂浜の端はごつごつとした岩が積み重なり、その先より向こうは小さく崖になっているようで、そこだけ波が跳ね返っている。
「南の島だ…」
 いい語呂が思いつかずに、ただうんうんと頷き、サクリファイスは砂浜に足をつけた。
 その瞬間、ジャングルの方から草を掻き分けるような乱暴な音が響く。
「誰だ!?」
 むしろ人が居たのか!? という意味合いも含んだ声音で強く問いかければ、
「だ〜ず〜けぇて〜〜!!」
 と、なんだか見るからに情けない眼鏡の青年――三下が転がるようにジャングルから這い出てきた。
 そして、その後から程なくして今度は掻き分けるなどという可愛い音ではなく、木を踏み倒すと言わんばかりの音が響く。
「…!!?」
「シャギャァアア!!」
 サクリファイスの前でガタガタと震えて丸まる三下と、それを追いかけてきたらしい、ええっと大きなブタ。
 大きなブタは、まるで助走をつけるかのように地面を何度か蹴り、その肌色の頭をこちらに突き出して全力疾走。
 一瞬何が起こったのか分からずに呆然と立ち尽くしてしまったサクリファイスだが、ドドドド……という足音にびくっと我を取り戻すと、一目散に走り出す。
「ま、待ってぇ! 置いてかないで下さいぁい!!」
 転がっていた三下も、血走るブタの目を見た瞬間、また背筋をびくっと飛び上がらせ、走るサクリファイスを追いかける。
「あなたが追われているんだろう!!」
 つい逃げてしまったが、どう考えても自分は巻き込まれたような気がしてならない。
 しかしこういう時こそ空へ逃げればいいのだが、逃げる=走るといった変な方程式によって、サクリファイスはなぜか走る。ひたすら走る。
 それを追いかけるように三下も走る。
 さらにそれを追いかけるように巨大ブタが走る。
 距離はあるといっても、この海岸には終わりがある。適当なところで森に逃げなくては…とサクリファイスは漠然と考えながら、結局飛んで逃げると言う選択肢を思い出せずにただ走った。
 食べれるものを探しているはずが、なぜだか終始シャロンの瞳は輝いている。
「あぁもう、本当になんでこんな時に限って!」
 スケッチして観察記録が取りたくて仕方が無い。
 確かにジャングルにはバナナに似たような木の実や、オレンジ色をしたウリのような木の実と、多分食べられそうなものを幾つか発見する。
「あぁ、これってブラジルのあの木に種類が―――」
 云々と言い始めたシャロンにオセロットはただ首を傾げる。
 一つだけ分かるとすれば、オセロットの目には瞳を輝かせたシャロンが映っていると言う事だけ。
「水の音が、するが」
 小さく耳を済ませ、オセロットがそちらの方向へと顔を向けると、シャロンははっとして上腿を起こす。
「あ、ごめんなさい」
 そして先へ進もうと歩き出したとたん、ビリっと何かが破れる音がふと響いた。
「あら」
 破れたのは、水の確保に全ての神経を尖らせていたシャロンのスカートだ。
 シャロンはふと考えると、破れた部分からスカートをあっさり破き、
「これに包めば持ち運びが楽になるわね」
 と、簡単に折りたたみ、袋のように作り上げる。
「そうだな」
 これなら途中途中で果物を収穫して行っても、行動にさしたる支障は出ないだろう。
 枝の先で草を掻き分けながら先へ先へと進むと、程なくして小さく流れる水音が響いてきた。
「あった…!」
 最後の草を掻き分け辺りが開けると、小さな小川が流れている場所に出る。透明に澄んだ小川には小魚が泳いでいた。
 道になるように草を掻き分けるようにして歩いてきた道を振り返れば、さして砂浜から遠くない事が分かる。
 きょろきょろと辺りを見回し、大きめの葉っぱを手折り、下流で洗ってからその少し上流で水を汲んで飲んでみる。
「大丈夫そうだわ」
 そうして二人はジャングルからバナナに似た果物や木の実を抱えて砂浜に戻ると、なぜかドドド…という地響きに似た音が近づいてくる事に顔を見合わせる。
「な…なにあれ!?」
 鼻息荒く走る巨大なブタに、シャロンの手からフルーツがコロリと落ちる。
「はっはっは。大きなブタだな」
 驚くシャロンをしりめに、オセロットは笑顔を浮かべながらさらりとそんな事を口にする。が、
「だ〜ず〜け〜て〜」
 という聞き覚えのない情けない三下の叫びと、どこか見覚えのある4枚の翼が全力疾走していることに、おや、と視線を移動させる。
「サクリファイスじゃないか」
 あまりのブタの大きさに視線がそちらへと向いていたが、どうやらサクリファイスと三下が追いかけられているらしい。
「…っていうか、ブタよね……アレ」
「あぁ、ブタだな」
 オセロットがそう答えた瞬間、植物専門のシャロンの目が光った気がした。
「ふふ……」
 なんか語尾にハートとかついてるような錯覚がしたのはきっと気のせい。
「飛んで逃げないのか〜?」
 オセロットは走るサクリファイスに向けてそう叫ぶと、サクリファイスはやっと何かに気がついたかのようにはっとして、翼を広げると一気に空へと舞い上がる。
「置いていかないでぇ!!」
 一人地上でブタに追いかけられたままの三下。しかし、まるで女神のように微笑んだシャロンの顔に、ブタの足が一気に急ブレーキをかける。
「はぇ??」
 行き成りやんだ地響きに、走る速度はそのままに少し振り返ると、そのままシャロンとオセロットの足元に転がるようにして足をもつらせて転ぶ。
「ありがとう!」
 サクリファイスは自分が飛べることを思い出させてくれたオセロットにお礼を述べ、そして巨大ブタと対峙したシャロンは―――
 走って逃げ帰る巨大ブタによって、一方的な不戦勝でシャロンの勝利となった。
「ブタ肉…惜しかったわね」
 なんだか舌打ちが聞こえてきそうだが、去ってしまったものを追いかけて逆に迷子になるのはごめんだ。それに充分フルーツを手に入れる事が出来たのだし、深追いする必要もないだろう。
 飛び上がっていたサクリファイスも砂浜に降り、他にも人が居た事にやっとほっと胸をなでおろす。
 落ち着いてみれば、女性3人がこの熱い真夏のビーチに飛ばされてしまったのは何の因果だろうか。それともコレは別の意味での策略か!?
 いや、ふざけた言動はいいとして、結局のところこれからどうするかという案は出ていないどころか決まっていないわけで、人が増えたところで状況を打破できたわけではない。
 3人寄れば文殊の知恵とも言うし、女三人寄れば姦しいとも言うし……
 何より男手がこのひ弱そうな眼鏡の男のみというのが不安、どころか存在を一瞥で終るほどに気にかけてもいない。
「とりあえず、そのシャツ脱いでもらえる?」
 シャロンは三下にびしっと指を差して宣言する。
「え…えぇ!?」
 確かに熱いが脱げってそれはどういう事か、この人まさか痴女…なんて心の中で思っていると、
「あんた、今失礼な事思ったでしょ」
 シャロンの半眼の言葉に、三下はひぃっと背筋を凍らせると、高速でスーツとカッターを脱ぎ、なぜかきっちりたたんで正座でシャロンに差し出す。
「たたむのはどっちでも良かったんだけどね」
 と、シャロンは自分が羽織っていたストールを加えて、スーツとカッターを巧く繋ぎ合わせると、砂浜から一番近い木と木にテントの屋根のように括りつける。
「ジャングルに入ってしまえば涼しいには涼しいが、確かに安全とは言いがたいからな」
 シャロンの行動に、オセロットはなるほど…と感心すると、
「さて、当面はこれで大丈夫か」
 当座の準備が終ってしまえば後やる事といえば、
「季節外れのバカンスでも楽しむとしようか」
 海だけ見ていればどんな楽園にも見劣りしないだけの美しさがある。ビーチチェアやパラソルがないだけで、この浜辺を楽しまないというのも損なような気がする。
 またジャングルへ足を踏み入れる事になったとしても、何処に何があるのかは大体把握したし、何かあっても今更驚く事もないだろう。
 オセロットは大胆にもドレスの裾を切り捨てると、ビキニとパレオ状態で辺りをきょろきょろと見回し、ただ生えるだけのやしの木にもたれかかる。
 シャロンのスカートは、ジャングルの中へ赴いた際にとっくの昔に短くなっている。果物を運ぶのに使用したその切れ端は、また果物を取りに行く際役に立つだろう。
 サクリファイスもふと考えると、
「怪我をしたら私のスカートを包帯代わりにすればいいな」
 と、できるだけ白いドレスを汚さないように適度な部分で破り、そこからまた細く丸めていくようにしていびつながらも幅4センチ程の長い包帯を作り上げた。
 収穫した果物を割り、本当にのんびりゆっくりと日は落ちていく。
 オレンジに染まる夕陽の太陽が、やけに酷い陽炎となって視界を歪ませる。
「??」
 何事かと目をパチクリとさせれば、いきなり世界が反転した。



【パーティはこれから】


 次元が歪み、別の場所へと飛ばされた人達がパーティ会場に戻ってくる。
 パーティ会場自体も、あのアクラとお友達(と言うとどつかれそうだが)の影モンスターによって盛大に壊されてしまったが、何処へ飛ばされたのか、シャロンやオセロット、サクリファイスといった面々は、とても涼しそうな格好に変わっていた。
「さ…寒いですよぅ」
 きっと同じ場所に飛ばされたのだろう三下が、身体を抱えて泣き言を漏らす。
「シュライン! 零!」
 独りパーティ会場に残された草間は、流石に心配だったのだろう戻ってきたシュラインと零に駆け寄る。
 シュラインと零は顔を見合わせ、そして同じ場所に飛ばされた面々に向けて振り返る。
 その誰もがどこか満たされたような穏やかな表情を浮かべて、ただ微笑んでいた。
「さぁて、仕切りなおしと行こうか」
 何時もどおりのテンポと、何時もどおり場を気にしないタイミングでアクラは口を開く。
「そもそもこの状況はキミのせいでしょう? ホワイト君」
 セレスティが苦笑しながらアクラを諌め、当のアクラはそんな事聞こえませーんと言わんばかりに両耳を塞ぐ。
「ボクは白。空“白”を操る時空の旅人―――」
 にっとアクラが微笑んだ瞬間、壊れたはずのパーティ会場は見る見るうちに元に戻り、別時空に飛ばされて涼しい格好になっていた4人の衣装も元に戻っていく。
「クリスマスだから、特別だよ」
 程なくして、時計は進んでいるものの、パーティが始まった最初まで全てが元に戻り、何事も無かったかのような時が訪れる。
「料理は元に戻らないのか…」
 他の場所は元には戻ったが、テーブルの上の並べられた料理だけは減ったままで修復されていない事に、北斗は少々残念そうにそう呟く。
「えー有機物まで戻せっていうのー?」
 そんなの料理する前まで戻しちゃうかもしれないよ? と口にしたアクラに、オーマがざっと羽織りの袖をめくり、何処に持っていたのか長い鉢巻を取り出すと、袖をたすき掛けにする。
「料理が足りねぇ、なら作れば済むこった」
 そう言うと厨房に向けてズンズンと歩いていき、パーティ会場から姿を消す。
「そうね、まだ殆どパーティも満喫しないまま、飛ばされてしまったのだもの」
 折角来たのにこのまま帰るのも癪に障る。しかしシャロンにはそれよりも、あの飛ばされた地で見つけた新しい植物のサンプルを持って帰れなかった事の方が重大らしく、
「あの場所…また行けるかしら」
 などと小さく考え込みながら呟く。
「ねね、ミカ姉。もしかして知っててお出かけ誘ってくれたの?」
 クリスクリスはどこか懐かしげな微笑を浮かべているミカに向けて問いかける。
「いや……確信があったわけじゃ、無かったのだがな」
 あの場でパーティ会場から聖堂へと飛ばされてしまったのはもしかしたら偶然だったのかもしれないけれど、3年前に出会った小さな天使達にまた出会えたことは偶然ではなかったと信じたい。
「そう言えば、サンシタと言ったっけ」
 飛ばされた南の島で、なぜか一緒に怪獣から“走って”逃げていたサクリファイスと三下。
「あの、僕はサンシタじゃなくてミノシ――…」
「ご無事でなによりですよ。サンシタクン」
 車椅子を移動させてこのパーティ会場の中で一番ひ弱な三下に、労いつつもちょっと意地悪なセレスティ。
「今はこの場所も元に戻ったけれど、あなたも大丈夫だったのか?」
 セレスティの力を知らないサクリファイスは、単純に車椅子では騒動に対応しづらかったのではないかと問いかける。
「えぇ、私は大丈夫ですよ」
 ご一家の方々が活躍してくれましたから。と、今会場に残っているシェラとサモンに視線を送る。
「それに、少々面白い事もありましたし」
 と、ふとアレスディアに軽く視線を向けて、クスクスと笑う。
「無事ならば、それで良かったのだけど」
 結局話を逸らされたおかげで、三下はサクリファイスに自分の名前の読みは『ミノシタ』であると告げられず、かくっと肩を落として涙を流した。
 そして一人ぶちきれたアレスディアは、自己嫌悪に壁に手を付いて反省ポーズ。
「凄い活躍だったねぇ」
 そんなアレスディアの肩をぽんっと叩いたのはシェラだ。着物の裾を華麗に翻して戦ったおかげで着物が着崩れたかと思ったが、そんな事はなんのその、一寸の乱れも無く振り返ったアレスディアににこっと微笑む。
「いや、私は……」
 まさか自分も切れてしまうとは思わずに、アレスディアはただ俯いて照れるばかり。
「アレスも飲みな? ほら」
 と、何気に手に持っているのは赤いワインの入ったグラス。
「あ…いや、私は」
「未成年の飲酒は禁止だよ」
 腕組みをして二人の間に割って入った高良だったが、その後盛大なシェラの抱擁にどこか誤魔化されてしまった様な気がした。
「中々面白い趣向だったな」
 メイン会場から少し離れた場所にある喫煙所で、オセロットは数時間ぶりの煙草をふかす。
「武彦さん、私たちが居ない間も、ちゃんと喫煙所で煙草吸っていた?」
 シュラインが喫煙所のソファに座って、もう疲れましたと言わんばかりの表情の草間に向けて、心配そうに声をかける。
 物も多い人も多い場所での歩き煙草は危険極まりない。
「あぁ、大丈夫だ」
 本当かどうかを知る事は出来ないが、草間のこの答えにシュラインは微笑み、飲み物を取ってくると喫煙所を後にする。
 オセロットはその背中を見送り、大仰にソファの背にもたれかかった草間に向けて、
「彼女は、しっかりとした人だな」
 初対面でありながらも、ソファにダレる草間を見ていると、何となく性格は予想が付いた。
「あ…あぁ、うちの事務員なんだがな」
「本当にその程度か?」
 フフ…と笑うオセロットに、草間は眼を逸らし髪の毛を誤魔化すようにかきあげる。
 程なくして飲み物を持ってきたシュラインに手を引かれ、草間は手を振る零の元へと喫煙所を後にした。
「リージェさん、竪琴凄く上手なのね」
 聖堂で聞いたリージェの歌に、メイは感動した瞳でリージェを見上げる。
「あたしはこれでも歌で生きているから」
「凄い! リージェさんは歌手なのね」
 歌手―――…確かに歌い手だが、世界が違えば名称も違うものなのだろうと、リージェは素直に肯定する。
「聖堂で歌った歌。教えて…欲しいのだけど……」
 聞かせたい人がいるの。と、メイは言葉を続け、照れ隠しに俯く。
 そんなメイの姿にリージェはどこかピンと来たのか、にっこり微笑むと、
「あぁ、いいよ」
 と、竪琴を軽く爪弾いた。
 サモンは一人会場の隅っこから、辺りを見回すようにして瞳だけを動かす。
 違う世界の人間が居るだけじゃなくて、あんなにどたばたとしてしまったのに、どうして今では何事も無かったかのように語り合えるのだろう。
「サモンちゃん、どうかしたの?」
 人の輪から離れていた事に気がついたコールが軽く声をかける。
「別に……」
 何でもない。と呟いて、興味ないと言わんばかりにすっと瞳を逸らす。
「何でもないなら、何でもいいよね」
 笑顔で軽く小首をかしげて宣言したコールに、サモンは何を言っているんだこの人。と怪訝そうに眉を寄せて顔を上げる。
「何でもいいなら、楽しんでもいいよね」
 何だその三段論法は、と突っ込みたいところだが、このお気楽顔に何を言っても無駄な気がして、言葉を噤む。
 しかしコールはそんなサモンの心情などお構いなしで、ナチュラルにその手を引くと、人の輪へと入り込む。
「よーし、パーティはこれからだぞぉ」
 あまりの事に驚きに瞳を大きくしたサモンだったが、ふっと肩の息を抜くと誰にも見えないように薄らと微笑んだ。



Fin.





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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


■東京怪談■

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男性/17歳/退魔師兼高校生】

【NPC/瀬乃伊吹(せの いぶき)/女性/13歳/自称中学生】
【NPC/柏木深々那(かしわぎ みみな)/女性/12歳/中学生兼神官】
【NPC/柊秋杜(ひいらぎ あきと)/男性/12歳/中学生兼見習い神父】
【NPC/草薙高良(くさなぎ たから)/女性/13歳/中学生】
【NPC/アクラ=ジンク ホワイト/無性別/?歳/時空間旅行者】


■聖獣界ソーン■

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2872/シェラ・シュヴァルツ/女性/29歳/特務捜査官&地獄の番犬(オーマ談)】
【2872/サモン・シュヴァルツ/女性/13歳/ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー】
【2919/アレスディア・ヴォルフリート/女性/18歳/ルーンアームナイト】
【3033/リージェ・リージェウラン/女性/17歳/歌姫/吟遊詩人】
【2872/キング=オセロット/女性/23歳/コマンドー】
【2470/サクリファイス/女性/22歳/狂騎士】

【NPC/コール/男性/?歳/迷子】


■サイコマスターズ アナザー・レポート■

【0645/シャロン・マリアーノ/女性/27歳/エキスパート】
【0712/メイ・フォルチェ/女性/11歳/エスパー】


■神魔創世記 アクスディアEXceed■

【w3c964maoh/チリュウ・ミカ/女性/33歳/残酷の黒】
【w3c964ouma/クリスクリス/女性/15歳/ウインターフォーク】


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■         ライター通信          ■
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 H×H Xmasご参加ありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。ライター自身が略してれば世話無いですね(笑)
 今回はもう今まで経験した事のない大人数で、8人でも多いと思っていたのにそれ以上…自分の中で収拾がもう…ねw(聞くな)多分パターンだけで8パターンほどあると思います。といっても組み合わせが違うだけで場面?@が3パターン、場面?Aも3パターンあるものを組み合わせての8パターンなので、完全に個別と言う部分は今回ありません。ご了承ください。
 メイ様との初めての出会いがばってん兎Xmasだったのですが、今回サイコマからのご参加二人だけでしたので、お知り合いといった感じで書かせていただきました。南の島大活躍ですね!(笑)なんだかジャングルはシャロン様にとって本当に楽園だったかもしれませんね。
 それではまた、シャロン様に出会える事を祈って……

クリスマス・聖なる夜の物語2005 -
紺藤 碧 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2005年12月21日

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