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『『プレゼントのために』 』
オーマ・シュヴァルツ1953)&サモン・シュヴァルツ(2079)

――四題話。お題は<ルベリア><ワル筋黒魔術><HM(ヘヴィメタル)帝国><おにゃんこサンタ>――

< 1 >

 妖しい暗い照明の中で、店に不似合いな儚げな少女が、壁に張り付いて瞳を凝らしていた。その壁のボードには、黒山羊亭の依頼がピンで止めてあるのだ。薄いランプの光は壁際には届かず、メモの文字は判読しづらい。だが、酔客たちにはその壁の片隅がぼうっと微かに明るく見えて、しばしまばたきする者もいた。赤い髪が淡く明るく映えていた。華奢で美しく、どこか少年のような清涼さを持つ、不思議な雰囲気の少女だ。いや、注目されているのは、ローティーンの少女が、何の気後れも無い様子で堂々とこの店に立っていたからかもしれない。父親譲りのルビー色の瞳は、世間の視線に気付かないのか気にならないのか、熱心に依頼を探していた。
「サモン。アルバイトでも探しているの?」
 背後にきつい香水が匂った。店の踊り子に声をかけられ、ゆっくりと振り向く。サモン・シュヴァルツは返事もせずに、視線を壁に戻した。特に肯定の言葉も発しなかった。見ればわかることだからだ。
 女は細く整えた眉をしかめた。きっと、『可愛げのないコね』『ほんとに愛想がないんだから』とでも思っているのだろう。
「参加できそうな仕事があったら、いつでも言ってね。歓迎するわ。ただ、危険な仕事が多いから、あなたにはまだ無理じゃないかしら」
 声にからかいが含まれている気がした。だが、そう言われても仕方ない。壁に残っているのは、歴戦の勇士でも二の足を踏むようなものばかりだった。
 クリスマス・プレゼントを買うお金が欲しかった。白山羊亭も覗いた。子守や部屋の掃除など、サモンでもできそうな依頼もあったが、それらは報酬が少ない。

 旅の商人から、「<ルベリア>の花が手に入りそうです」と聞いたのは一カ月前のことだ。ふるさとの伝説の花であり、両親にとっても思い入れの強い花だというのはサモンも知っていた。ソーンでは咲かない、別の世界の花だ。
 父親との確執は消えたわけではなく、あの人には心は開けない。だが、サモンは母親は大好きだった。母に、思い出の花を贈りたい。
「予約をお受けしています。いかがですか?入荷は、ちょうどクリスマスの時期ですね」
 商人の告げた価格は、子供のサモンにとっては息を飲む値段だった。だが、まだ一カ月ある。依頼をこなして、お金を貯めれば、払えない金額ではなさそうだ。サモンはその花を予約し、貯金箱を叩き割って予約金も払った。

 花の受け取り日は、クリスマス・イブ。地球という世界から来た人々が伝え、最近ソーンでも浸透しつつあるイベントだ。あと数日でその日だというのに、サモンが貯めた金はまだまだ足りなかった。
 このままでは、ルベリアは受け取れない。予約金も無駄になってしまう。
「お嬢さん。依頼をお探しなの?」
 先程の踊り子とは違うハスキーな声に、再度振り返った。
 あまり表情を変えないサモンが、目を見開いて驚愕で口を大きく開けた。身なりのいい50歳くらいの婦人、その黒い絹の帽子にはルベリアの花が飾られていた。光の当たり方で七色に輝く、大振りの華やかな花びら。
「マダム。・・・その花を・・・どこで!?」
 サモンの視線は帽子に釘付けだ。老婦人はそれに気付き、レースの手袋で帽子に触れて「ああ、これ?」と、笑みを洩らした。帽子のチュールが揺れた。
「うちの庭に咲いていますのよ。まあ、家はソーンではないですけど」
「・・・。」
「この店の依頼は危険なものばかり。あなたのようないたいけなお嬢さんがやる仕事ではないでしょう。お給料は安いけれど、うちのお店で働きません?
 この花がお気に召したのなら、お仕事の帰りに花束にして差し上げますわ」
「花束!」
 珍しくサモンが大きな声を発する。
「ルベリアが・・・そんなに咲いている?」
 花束にするほどのルベリアなんて!

 同じ時刻に同じ店、大テーブルではシュヴァルツ家の居候の霊魂たちが、一杯の酒をちびちびと嘗めていた。お嬢に似た声がしたので、一斉に依頼ボード付近を凝視した。お嬢が一人でこんな店に出入りしているとしたら、注意して連れ帰った方がいい。
 そこに居たのは確かにサモンだったが・・・。霊魂たちはは口をつぐみ、お互い顔を見合せた。ローブの上からでも隆々とした筋肉を計れる大きな男が一緒だった。サモンは、何故かその男を「マダム」と呼んでいる。頭の黒いベールに付いた髑髏を見上げ、ルベリアの花がどうのと、いつもとは違う興奮した口調で話す声が聞こえた。
『これは・・・<ワル筋黒魔術>か?』
 自分らは霊魂の身なので戦えないし、戦ったとしてもあの男に勝てない。
 オーマの兄貴に、早く伝えなければ!


< 2 >

「音速でオーダーを取れ!」
 スキンヘッドの店長がメニューボードを握ったままで片手を挙げる。
「いえい!」
 お仕着せを着た店員たちも、トレイを握ってそれに応える。
「光速で料理を運べ!」
「いえい!」

 オーマ・シュヴァルツが短期バイト(クリスマス・プレゼントの資金稼ぎだ)に選んだこの店では、開店間際のミーティングが行われていた。店長とウェイターとのコール・アンド・レスポンスをミーティングと呼ぶかは疑問だが、少なくてもオーマはこのミーティングは気に入っていた。
 では、何が気に入らないかと言えば・・・お仕着せのウェイター衣裳だろうか。クリスマスまでの二週間、この店ではきぐるみを着て、その上からサンタの衣裳を着る。サンタのきぐるみを着るのではナイ。どうぶつのきぐるみが、サンタの衣裳をまとっているのだ。
 バイトが決まった時、店長に「好きなのを選んでいい」と言われ、<おにゃんこサンタ>を選択した。にゃんこが良かったワケでは無い。選ばなかった方は、ワニさんサンタだったのだ。四つんばいになって行動するのは、しんどそうだった。
 黒い毛並みに、帽子でなく赤いリボンを付けた姿は、女のコのサンタなのだろう。
 同僚には、象さんサンタ、クマさんサンタ、ライオンサンタなどがいた。
「いらっしゃいませ〜〜〜。<HM帝国>へようこそ〜〜!」
 スキンヘッドにミラーグラス、だがその姿でタキシード(ペンギンのきぐるみ)の店長が、入って来た家族連れにヘビメタ発声の挨拶をかますと、子供はうわあんと泣き出した。
 HMはハングリー・モンスターでなく・・・ヘビィメタルの略である。元々はヘビメタ喫茶だったが、経営不振で、三カ月前にファミリー・レストランに切り換えた。店員のきぐるみ着用が話題になり、客は入るようになった。

 オーマがファミレスでウェイターのバイトをこなす頃、シュヴァルツ病院には、蝙蝠が一通の手紙を届けた。
『久しぶりだな、オーマ君。
 君の娘は無傷で返そう。だが、交換条件は、39年前の、例の、アレだ。私は、アレを再び見たい。
 郊外の黒薔薇屋敷で待つ』
 そして、くたくたに疲れてバイトから帰宅したオーマを待っていたのは、その手紙と、霊魂たちの報告と、まだサモンが帰らないという事実だった。
 オーマは、手紙を力で握り潰した。大きなてのひらの中で、堅い紙質のレターパットがくしゃりと鳴った。甲には青い筋が浮きでた。
『サモン!待っていろ!』

 この季節、庭の荒れた花壇が黒薔薇かどうかはわからなかったが、鉄の門柱には薔薇の飾りが施されていた。黒塗馬車が並ぶ庭に、黒服黒サングラスの柄の悪い男たちが、列になってオーマを出迎えた。
「親分は、奥の部屋でお待ちです」
「こんなことをして、何になるんだ?何が楽しいんだ?」
 オーマの三白眼には憤怒が龍のようにうごめく。その怒りの強さに、頬に傷のある男も怯んで一歩退いた。
「た、楽しみは、人それぞれですから・・・」
 男は、おびえた声で、そう返答した。

 屋敷に入ると、今度は黒服執事が長い廊下を案内した。重い扉を開くと、そこは書斎らしき造りで、黒ローブの男がデスクに肘を付いて紅茶をすすっていた。
「やあ、ようこそ。お嬢さんはそこですよ」
 言われて素早く部屋を見回す。
「オーマ!」
 後ろ手に縛られ、足も括られたサモンが、絨毯にぺたりと座り込んでいた。オーマは慌てて走り寄った。
「怪我はないかっ?」
 オーマはもどかしい手つきで手足の紐をほどいてやった。紐はクッションの効く物で、縛られた跡に痛みはなさそうだ。
「私は紳士のマジシャンですよ?女性に手荒くすることはありません。
 で、問題のブツは?」
「オーマ・・・。オーマ?」
 サモンの眉が顰められた。
「まさか・・・こいつの、言いなりに?」
 オーマは、ふっと唇を歪める。
「おまえさんの安否がかかってたんだ、その『まさか』さ」
 白い袋を、男へと差し出した。布の出っ張り方で、何か四角い物が入っているのがわかる。
 39年前、サモン達の家族にも、そしてサモンの居た世界にも、大変な事件が起こった。それに父が関与していた。
 父は、それに関する物を・・・渡そうとしているのか?
 サモンの赤い瞳が揺れる。

 男は「悪いな」とにやりと笑うと、袋を受け取った。
「俺の娘を誘拐してまで、欲しがっていたとはな」
「代金は払うよ」と、男が袋から取り出したモノは・・・。
 サモンは呆れて目を閉じた。幾つものブロックが重なる立方体。
「・・・。」
 例の、有名な立体パズルだ。

「復刻じゃなく、39年前に流行した、その時の物なんだ」
 男は、はしゃいだ口調でカチャカチャとブロックを動かし始めた。サモンは無言で立ち上がった。
「・・・とっとと帰る」

「あいつは、友達ってわけじゃないが、まあ、俺の知り合いだ。巻き込んでしまって悪かったな」
 帰り道、オーマと並んで歩きたくなくて足早になるサモンだが、コンパスの差ですぐに追いつかれてしまう。父の謝罪は少しも心が籠もっていないように聞こえ、腹が立った。いや、感情を込めたセリフで謝ったとしても、たぶん『芝居がかって厭味だ』と思うに違いない。
「この前、賞金目当てで出たスピード・キューブの大会で知り合ってな。あいつは優勝したが、俺が持参したプレミア・キューブを欲しがったんだ」
「・・・。」
「大会は、俺だって、いいところまで行ったんだぞ?」
「・・・。」
「クリスマス・プレゼント、サモンにもキューブをやろうか?当時は、プレゼントにどの子供もアレを欲しがったもんさ。だが、玩具店ではいつも入荷待ちだ。店頭には入荷予定日が張り出され、当日は朝からみんな並んだもんだよ」
「・・・。いらない」
「サモン?怒ってるのか?」
「・・・いや。考え事してた・・・」
 オーマはほっとした表情になり、またベラベラと、どうでもいいことを喋り始めた。こんな奴に腹を立てても無駄だとサモンは思った。
 それより、ルベリアの支払いだ。早くバイトを探さなければ。

 例の商人が、多くの人から様々な商品の前金だけ受け取ってトンヅラし、今は異国で別のカモを騙していることを、サモンは知るよしもない。
 今日も、ソーンの空は青空であった。


< END >
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2005年12月19日

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