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『『イカサマの龍 〜終局 幻の役満〜』 』
本郷・源1108

 元旦、あやかし荘の中庭には『第六回あやかし杯お正月だよ麻雀大会ぱふぅぱふぅ』と書かれた大段幕が張られていた。
 老いも若きも男も女もみんなが牌をかき回している。
 ジャラジャラ、ジャラジャラ。ジャラジャラ、ジャラジャラ。
 元旦から仕事がある者や恋人と旅行に出かけたい者もいたが、不参加はあやかし荘の立ち退きと決まっているために渋々みんな参加している。
 あやかし荘に住む全員が駆り出され、元旦初日から三日三晩かけて予選がおこなわれた。しかも、トーナメント方式ではなく、総当たり戦ということもあり、全員休む暇もなく麻雀三昧だった。
 ジャラジャラ、ジャラジャラ。ジャラジャラ、ジャラジャラ。
 一月四日の朝、ようやく予選が終わって決勝戦がおこなわれることとなった。予選落ちしたあやかし荘の住民たちの多くが、廊下やこたつで爆睡している。
 だが、その中で元気な人間がたったふたりだけいた。
「うれしいのう。やはりおぬしが勝ち上がってきたか、源」
「嬉璃殿こそ予選落ちなどしたら幻滅するところじゃった」
 くくく、とおたがいの顔を見ながら笑う。
 ふたりの霊力が炎となってふくれあがり、龍虎の形をして牙を剥いていた。
 今回決勝戦まで勝ち上がったのは、やはり本郷源と嬉璃だった。
「では、優勝賞品ですが、優勝した人にはあやかし荘のみなさんにたったひとつだけお願いができるという特権が与えられます」
 主催者の宣言に、源と嬉璃のふたりは目を輝かせた。
「わしが優勝したら、絶対にあやかし荘全員にアフロヘアになってもらうんじゃ」
「わしが優勝したら、絶対にあやかし荘を男子禁制にして女人をはべらかすんぢゃ」
 ぐっ、とふたりとも強く拳を握りしめる。
「決勝に安物の牌ではもったいない。わしがじいさまにもらった牌がよかろう」
 突然、源は象牙の牌を取り出した。細かい模様が入った牌は、高級な雰囲気を漂わせていた。
「ほう。なかなか美しい牌ぢゃのう」
「そうじゃろうそうじゃろう。これはわしのとっておきじゃ」
 源は誇らしげに牌を雀卓に並べようとしたが、その手を嬉璃が掴んだ。
「だが、源。わしはこの牌は使いとうない」
「どうしてじゃ、嬉璃殿。わしの用意した牌にけちでもつけるつもりか」
「大ありぢゃ。おぬし??ガン?≠?するつもりぢゃな?」
「うっ。な、なんのことやらさっぱりじゃ」
 そう言いながらも、源のおでこからだらだらと汗が流れる。
「ガンとは牌に目印をつけておくイカサマ技ぢゃ。どの牌かわかれば山をつくるときに自分に有利に並べることもを簡単ぢゃ。源、おぬしこの模様を全部暗記してるな?」
 ちっ、と源は舌打ちをする。
「今までのように牌はこのあやかし荘が用意したものにするんぢゃ」
「ばれてしまっては仕方がない。嬉璃殿の言うとおりにするかの」
 嬉璃はほっと息を吐いて磁器の牌を雀卓に並べる。
「さあ、気を取り直してさっそく始めるぞ」
 ふたりは山をつくって麻雀を打ち始めた。
 嬉璃の方は思ったように牌がそろわずに四苦八苦している。
「うむむむ。どれを切れば源に勝てるんぢゃ」
 嬉璃は源に勝つことで頭がいっぱいで源に目が向いていなかった。
(チャンスじゃ! 秘技ツバメ――)
 源がわずか一秒にも満たない速度で牌を折りたたんだ刹那、
「ちょっと待つんぢゃあ!」
 嬉璃は源の手をつかんだ。
「な、なんじゃ、嬉璃殿?」
「源。おぬし今??ツバメ返し?≠?しようとしたな?」
「ツバメ返し? なんのことやらさっぱりじゃ」
「ツバメ返しとは自分の牌を二段ある山の上段の上に乗せて、下段にある牌をだるま落としのごとく引き抜くという荒技ぢゃ。しかも、この場合……」
 嬉璃は源の下段の牌を取り出して目の前に広げた。
 十三種類の牌がすべてそろっている。
「下段に用意してある牌は役がそろっており、いつでもあがれるようになってるんぢゃ。にしても、いきなり国士無双とは大技を狙いすぎぢゃ」
 ちっ、と源はふたたび舌打ちをした。
「源。おぬしの背中が焼けこげじゃのう。イカサマをしなければわしに勝つ自信がないのか」
 ふっ、と嬉璃は勝ち誇った顔で鼻で笑う。
 対して、源は上目づかいで嬉璃を見上げる。
「嬉璃殿だって、人のことが言えるのか? その裾を振ってみるんじゃ」
「な、なんのことぢゃ?」
 源が嬉璃の着物の裾を振りまわした。
「―――っ!?」
 嬉璃の着物の裾から、ぼろぼろと牌がこぼれ落ちてきた。
「嬉璃殿。??握り?≠ニは古い手を使うのう」
 握りとは牌を指の合間に忍び込ませておくイカサマ技だ。牌がひとつだけでも取り替えることができれば、それだけ役の幅が広がる。通常ひとつだけ牌を隠し持っているのに対して、よりにもよって嬉璃は大量の牌を隠し持っていた。
「嬉璃殿。おぬしの背中は焼けこげじゃ」
 うぬぬぬ、と嬉璃は唇を噛みしめる。今度は源が勝ち誇った顔をした。
「こうなったら、イカサマ抜きでおぬしに勝ってやるわい」
「こっちもじゃ。正々堂々と勝負せい!」
結局、厳戒態勢の中、源と嬉璃のふたりはイカサマ抜きの勝負をすることとなった。
 雀卓はツバメ返しや元禄積みといったイカサマができないように全自動麻雀卓に変更され、嬉璃と源は握りができないように赤外線センサーをくぐった上に、寒い中、肌着だけで麻雀をすることとなった。
 それからはまともな勝負になったが、一進一退の攻防が続いて、なかなか勝負はつかなかった。
「源。そろそろあきらめたどうぢゃ」
「嬉璃殿こそあきらめたらどうじゃ」
 三日三晩の徹マンの上に、さらに食事も取らずに麻雀を続けているために、すでに体力も気力も限界まで達しようとしていた。お互いに眠気と空腹からふらふらとなり、目の前の牌もろくに見えない状態であった。
 もはや何局目かわかないほどに勝負は続き、白々と夜が明けようとしていた。
 医者の判断から、この局が最終局となっていた。もはやテンパイでも負けることは許されない。
「来た来た来た来たじゃ――!」
「こっちも来た来た来た来たぢゃ――!」
 お互いにいきなり最高の配役が並び、最初の牌であがれる地和(チーホー)の可能性があった。
「勝負じゃ、嬉璃殿!」
「さあ、来い、源!」
 源が最初の牌を引こうとしたそのとき。
「にゃ〜ん」
 野良猫がいきなり庭先から雀卓に飛び乗った。
「わあー!」
「なんてことをするんぢゃ!」
 呆然とするふたりの前で山は崩れ去り、猫の手によってぐちゃぐちゃにかき回された。
 けれど、その中でたったひとつだけ生き残った山があった。
 ふたりがおそるおそる山をひっくり返すと、信じられないものが目に飛び込んできた。牌が萬子のイーワンからチューワンまでで統一されている。
「こ、これは……」
「なんとめでたい……」
 九連宝燈。それは一生に一度見ることができるかどうかという幻の役萬であった。

 こうして嵐のような麻雀大会は終わった。
 ふたりは再勝負を主催者に願い出たが、あえなく却下され、その代わり……。
「ううっ。腰が痛い。なんであやかし荘の廊下はこんなに広いんじゃ」
「ぶつくさ言っとらんで、さっさとやらんと夜になるんぢゃ」
 イカサマの罰として源と嬉璃は、あやかし荘の大掃除をすることとなった。
 今年こそは相手を打ち負かすことを胸に誓いながら、ふたりは仲良く大掃除したのだった。

***あとがき***
 いつも大変お世話になっております。
 今回は元旦ということで一番珍しい役萬をご用意させていただきました。
 ご指定いただいた台詞は著作権の関係からアレンジさせていただきました。
 では、今後ともよろしくお願い申し上げます。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
大河渡 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月12日

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