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『Fairy Kingdom 』
桐生・暁4782



☆★☆ Opening ★☆★


  Sing a song of sixpence
  A rocket full of rye
 Four and twenty blackbirds
 Baked in a pie.

 楽しそうな歌が聞こえる。か細いか細いその歌は、キラキラと輝いて聞こえる。
 何人もの小さな子供が歌っているような、ソプラノの声・・・。
 花の香りがどこからともなく漂ってくる。
 Camellia(カメリア)・・・Poppy(ポピー)・・・。
 その花々の上では、悪戯好きな妖精Pixy(ピクシー)が楽しそうに歌いながら飛び回っている・・・。


 「あ〜〜〜〜っ!!!!」
 そう叫ぶと、ティンクルは思わず飛び起きた。
 時刻は夜中の12時過ぎ。
 「大変大変!寝坊しちゃった・・・どうしようっ!!」
 慌てて布団から這い出て、仕事着に着替える。
 真っ赤な帽子をかぶり・・真っ白な袋を掴み・・・。
 「だめ、無理!間に合わない!とても私一人で全部は回れないわ!」
 手に持ったメモを見ながら、そう呟いた。
 「こっちの方は大丈夫・・・間に合うわ。でも、Fairy Kingdomまではとてもじゃないけど回れないっ!どうしよう・・・。」
 とりあえず、考えていても始まらない。
 ティンクルはソリをトナカイに繋ぐとそれに乗り込んだ。
 冷たい真夜中を疾走する。
 「どうしよう・・どうしよう・・・。誰か・・・そうだ!誰かに頼めば良いわ!そもそも、私の姿は普通の人には見えないんだから・・。」
 ティンクルはそう呟くと、下を見下ろした。
 徐々に徐々に高度を落としてゆく・・・。
 「私の姿が見えるって言う事は、素質があるって事。きっとFairy Kingdomにも入れるわ。」
 シャンと、鈴の音を一つだけ鳴らす。
 「確か・・あそこに入るためのカプセルは余分に持ってるわ。これを飲んでもらって・・・Kingdomの入り口まで私が連れて行って・・・。」
 腰に下げた袋をあさる。
 小さなガラスの小瓶に入った、ピンク色のカプセルを見つめる。
 「ちょっと縮んで、背中に翅が生えるけど・・・大丈夫・・・かなぁ・・・。」
 そこら辺は心配だ。相手がパニックにならなければ良いのだが・・・。
 「そこのところはちゃんと説明しないと・・驚いちゃうわよね。」
 ティンクルはそう言って頷くと、小瓶を袋に戻した。
 「帰りは私がKingdomの入り口で待って、元に戻る用のカプセルを渡して・・・うん、大丈夫・・よね。」
 ティンクルは再び下を見下ろした。誰か・・・手伝ってくれる人がいる事を願って・・。
 まだまだ夜は始まったばかり・・・。


★☆★ Aki Kiryuu ☆★☆


 シャンと、鈴の音が聞こえた気がした。
 暁はカラカラと窓を開けた。ぶわっと、冷たい空気が部屋の中に入り込み、真っ暗だった部屋を舞い踊る。
 ベッドサイドに置いたうさぎのぬいぐるみが、微かに揺れた。
 空を見上げる。相変わらず空は遠く、散りばめられた星々はまるで小さな硝子の破片のように七色に輝いている。
 吐く息が真っ白で、ゆらゆらと外を漂い消えて行く。
 クリスマスムード一色に染まる街は華やかで――それがどこか居たたまれなくて、暁は自宅に帰って来ていたのだ。
 何の装飾もされていない、普段と変わらない部屋は、今日と言う日は浮いている。どこか寂しく、物悲しげに。
 「・・・あれ・・・?」
 すいっと、上空を何かが通った気がして暁は目を擦った。
 シャンシャンと聞こえてくる鈴の音は、確かにこちらに近づいて来て――あれは、ソリだろうか?
 「嘘でしょ・・・?」
 サンタなんて信じる歳でない事は、暁にもよく解っていた。けれどもそれは、ヘリコプターや飛行機と言った類のものでないのも、また事実だった。
 近づく――トナカイと、目が合う――――――
 「え・・・えぇ〜!?」
 ドンと、体当たりしかねない勢いで、ソリは部屋の直ぐ前で止った。ソリの中には少女が一人、どこか縋る様な瞳で座っていた。
 真っ赤な服に、真っ白な袋。何処をどう見ても、お話に聞くサンタにそっくりで・・・。
 「あの、私、ティンクルって言います。その・・・サンタをしてて・・・今日、寝坊しちゃって、配達に間に合いそうも無いんです。」
 ティンクルの視線が左右に頼りなく揺れる。この話を信じてくれるのだろうかと言う、不安から来るものなのだろう。暁は表情からそれを読み取ると、微笑んだ。
 「俺で良いの?」
 「あ・・あのっ・・・協力・・・していただけるんですか?」
 「可愛い女の子の為なら何でもしちゃうよ〜まっかせて♪」
 その言葉に、ティンクルの瞳が輝いた。子犬の頭を撫ぜてあげた時に良く似たその瞳に、思わず手を伸ばしてしまいそうになる。
 「それで、配達を手伝って頂きたい所はFairy Kingdomと言って、妖精達が住む所なんです。」
 「へぇ〜・・・楽しそうじゃん。」
 普通の家ではなく、妖精達の住む家に配達とは、それこそ一生に一度あるか無いかの事かも知れない。
 暁はそう思うと、突然降って沸いたこの貴重な体験に思わず頬を緩めた。
 「でも・・・その・・妖精達は悪戯好きで・・・」
 「そう言うのには慣れてますから大丈夫vちゃんと用意しますって。」
 暁が部屋の中に戻り、そこらのものを色々と物色する。
 「紐が切れるようにナイフとか〜明かりになる物とか〜・・・俺、何気に色々持ってんじゃない?」
 部屋にはちまちまと使えそうな物が小奇麗置かれていた。
 それを掴むと、暁は再びティンクルの元に戻って来た。
 「それじゃぁ、これに着替えてください・・・えぇっと・・・」
 「桐生 暁って言うんだ。よろしくね、ティンクルちゃん。」
 暁はにこっと微笑むと、一旦部屋から出て、ティンクルから手渡された真っ赤なサンタ服に着替えた。
 中々体にフィットするそれは、かなり動きやすく作られており、少々驚きの色を滲ませる。
 思い描くサンタ服は、もっとモコモコとしたものだったのだから――。
 「それじゃぁ、ソリに乗ってください。」
 ティンクルがそう言って、手を差し出す。
 右手でティンクルの手を掴み左手でソリのふちを掴むと、左手だけで全体重を引き寄せて暁はソリに乗り込んだ。
 手綱を掴み、鈴の音をシャンと1つ鳴らすと、ソリは軽快に走り出した。
 真っ暗な闇夜を疾走する。上空には星々が瞬き、地上ではイルミネーションがキラキラと煌く。
 その真ん中を切り裂くように暁達は走っていた。
 「暁さん、見えました!Kingdomの入り口です!」
 ティンクルが目の前の小さな点を指差して言った。それは5円玉の穴ほどにも満たない小さな小さな点で・・・。
 「え・・・コレ・・・??」
 「あ、そうです。コレを飲んでください。」
 ティンクルがいそいそと腰に下げた袋から小さなガラスの小瓶に入ったピンク色のカプセルを取り出して暁に差し出した。
 少し怖いが――飲むより他に道は無い。
 暁は覚悟を決めると、それをゴクリと飲み・・・ポンと、目の前が真っ白な煙に包まれ、それが晴れた瞬間、目の前に巨人が居た。
 真っ赤な服を着た、高層ビルかと思われるほどに巨大な―――それはティンクルだった。
 「え・・・?な・・・なにコレ・・・。」
 背中に違和感を感じ、振り返る。そこには淡い水色の翅が4枚、透けるような薄さでくっついていた。
 「あぁっ・・・もしかして私、説明してませんでしたか・・・?えっと、どうしよう・・・この薬を飲むと、小さくなって翅が生えて・・・」
 それは今、実験済みだ。
 兎にも角にも、この大きさならあの穴から中に入る事は可能だろう。
 「とりあえず、プレゼントを配って来れば良いんでしょ?」
 「はい。えっと・・・これが袋で・・・中にメモが入ってますから、それを頼りに行って下さい。あと、帰りは私がここで待ってますので、その時に戻る用のカプセルを渡します。」
 「了解☆」
 暁はそう言って微笑むと、Kingdomの入り口まで飛んだ――。


☆★☆ Fairy Kingdom ★☆★


 そこはまるで御伽噺の国だった。
 Belladonna lily(花水仙)がしっとりと咲き乱れ、Primrose(西洋桜草)が舞い散る。
 色とりどりの花が、所狭しと狂い咲く――甘い甘い香りが鼻をくすぐり、柔らかく思考を溶かす。
 「すごっ・・・」
 暁は思わずそう呟いていた。
 何処からともなく、か細い歌声が聞こえてくる。
 それはまるで硝子の粉のような、七色に光る砂粒のような、そんなキラキラとしたものを纏っていた。

   Sing a song of sixpence
   A rocket full of rye
   Four and twenty blackbirds
   Baked in a pie.

 声のする方に足を向ける。
 Baby's breath(霞草)が小さな白い花を揺らし、まるで雪のようにふわふわと広野を揺れる。
 何処からともなくFragrant olive(金木犀)の香りが甘く香って来る――目には見えないけれど、直ぐ近くにあるかのようにはっきりと、Fragrant oliveの香りがする――。
 暁はそっとその場で足を止めた。Dogwood(花水木)の影から様子を窺う。
 小さな小さな妖精達が、楽しそうに歌いながら踊っていた。

   When the pie was opened
 The birds began to sing
 Was not that a dainty dish
 To set before the king?

 キラキラと光り輝く粉を撒き散らす。それは儚く七色に光り、花々の上に舞い降りた。
 成長する――花が、甘く濃く香る。
 『あらあらあらぁ〜??貴方、だぁれぇ??』
 ふいに背後から可愛らしい声が聞こえて、暁は思わずビクリと肩を上下させた。振り向いたそこ、淡いピンクの髪の毛を頭の高い位置で2つに結んだ妖精がいた。
 悪戯っぽい瞳は、新しい玩具を与えられた子供の様に活き活きと輝いている。
 「俺は・・・」
 『解った!サンタさんね?ふふ、子供達の枕元にプレゼントを置きに来たのね?』
 全て分かっていると言う風に、人差し指を目の前で左右に振る。暁は仕方がなく頷いた。
 『あたしの名前はエアリア。貴方は?』
 「桐生 暁。」
 『アキね。見たところ・・・貴方、此処に来るのは初めてじゃなくて?新米のサンタさん?』
 「此処に来るのは初めてだよ。頼まれたんだ。」
 『そう――ティンクルったら、こんな場所に新米サンタをよこすなんて・・・』
 「ティンクルを知ってるの??」
 『えぇ。勿論よ。だって此処は毎年ティンクルが受け持っているんだもの。』
 エアリアがそう言った時、どこからともなく悲しそうな泣き声が聞こえてきた。しくしくと、小さな啜り泣きだったのが、みるみる大きくなり、ついには叫ぶような声で泣いている。
 「これは・・・??」
 『Banshee(バンシー)よ。人間界の方へ行くわね――誰かが亡くなったのよ、きっと。もしくは、近いうちに亡くなるか・・・。』
 「え・・どうして??」
 『Bansheeはそう言う妖精なの。死期の近づいた人の衣服を川のほとりで洗いながら泣くの。・・・貴方、知らないの?』
 ただでさえ大きいエアリアの瞳が、更に大きくなる。信じられないとでも言うかのように、唇が微かに震える。
 「うん。だって俺、別に妖精に詳しいわけじゃないし・・・」
 それに、ティンクルも特に何も言っていなかった。だから、必然的に専門的知識を必要としないと思っていたのだが・・・。
 『それじゃぁ、あたしがPixyだって言うのも知らずに話してるわけね?』
 Pixyくらいなら、どこかで聞いた事がある。あまりにも曖昧なその知識は、Pixyが妖精だと言う説明から抜け出せない。
 「聞いた事はあるけど・・・。」
 『Pixyはね、悪戯好きなの。ほら、あそこで歌いながら踊ってる妖精が見えるでしょう?あれも全てPixyよ。』

   The king was in his counting-house
   Counting out his money
   The queen was in the parlour
   Eating bread and honey.

 「それじゃぁ、ティンクルが言ってた悪戯好きって・・・」
 『おそらく、Pixyを指してたんだと思うわ。あぁ、でも大丈夫よ、あたしは悪戯なんてしないから。あたしはどちらかと言うと、貴方の味方よ。』
 「俺の味方?」
 『そう。子供達は貴方を待っていたんだもの。』
 エアリアはそう言うと、にっこりと微笑んだ。その瞬間、金色の煌きが弾けた。エアリアの周囲をキラキラと輝かせる・・・。
 『あたしが案内してあげるわ。子供達の家へ――もちろん、妖精達が何か悪戯をするかも知れないけれど、貴方に協力してあげるわ。』
 「有難う。」
 ほっと、暁は頬を緩めた。
 エアリアの道案内で、色とりどりに咲き乱れる花畑を後にする。
 Edelweiss(薄雪草)の花が、白く揺れる。Magnolia(木蓮)の紫の花が、舞い落ちる。

   The maid was in the garden
   Hanging out the clothes
   There came a little blackbird
   And snapped off her nose.


★☆★ Mischief ☆★☆


 ひゅんと、空を切りながら突進してきたボールを避ける。華麗に避けた瞬間、暁はいつの間にか地面よりも遥か下に落ちていた。
 「いったたた・・・」
 『だぁいじょうぶ〜!?』
 エアリアが直ぐに飛んできて、暁の腕を引っ張り上げる。
 先ほどからこんな感じで、暁とエアリアは広大な花畑を突っ切っていた。
 この花畑の向こうが、子供達が住んでいる場所だと言うにも拘らず――ここは仕掛けの宝庫だった。
 一番最初、足元の草が結ばれていた。
 それを難なく跨ぎ、数歩進んだ先、突如上から巨大な棒が降ってきた。それをギリギリのところで避けた瞬間、暁は足元に草に引っかかって転んでしまった。
 今度からはそんなせこい手には引っかからないぞと意気込み、再び数歩先に進む。
 足元で草が結ばれており、それを避けた後、上空から巨大な棒が降ってきて――避けた途端に今度は落とし穴にはまった。
 「ねぇ、さっきから思ってたんだけど・・・なんか、段々数が増えて来てない?」
 『そこはあんまり考えちゃ駄目よ。』
 エアリアの言葉を聞くと同時に、暁は前から襲ってきたボールを避け、足元の草を飛び越え、落とし穴ギリギリのところでなんとか踏ん張りそれを避け、上から落ちてきた棒を避け、更に前から飛んでくる小さな針のようなものを避け、落とし穴を避け・・・・・。
 『あらぁ。かなり頑張ってるみたいね・・・でも、そんなんじゃ、最後までたどり着く前にボロボロになっちゃうわ。』
 突如、そんな声がして暁の目の前にエアリアと同じ格好の妖精が現れた。その青色の髪は酷く短く切り揃えられており、一見すると男の子のようにも見えた。
 『ティディア!』
 『はぁ〜いvみんなで歌って踊ってたら、こっちの方から変な音がするから・・・何かと思って見に来たのよ。』
 「お友達??」
 『そう。こっちはティディア。あたしと同じスクールの友達なの。』
 スクール・・・つまりは、学校なのだろうか?
 へー、妖精の国にもちゃんと学校があるんだ。なんだか少し感心してしまう・・・。
 『ねぇ、お兄さん。私の出す問題に答えられたら、一気にあそこまで飛ばしてあげる。』
 ティディアはそう言うと、花畑の向こう、子供達の住んでいる場所を指差した。
 「え?どうやって・・・?」
 『妖精魔法に決まってるでしょ。やるの?やらないの?』
 「それってさ、答えられなかった場合はどうなるの?」
 『この悪戯の花畑を地道に進みなさい。ほらほら、時間は限られてるのよ。やるの?やらないの?』
 「やる・・・やるよ。」
 妖精の出す問題なんて、答えた事が無いから分からないが――もしも答えられたら、それこそ幸運だ。
 この悪夢のような花畑を突き進まなくて良いのだから・・・。
 『それじゃ、問題』
 ティディアはそう言ってにっこりと微笑むと、すぅっと息を吸い込んだ。
 か細くも繊細な歌声が紡がれる――。

   As I was going to St. Ives
   I met a man with seven wives
   Each wife had seven sacks
   Each sack had seven cats
   Kits, cats. sacks, and wives
   How many were there going to St. Ives?

 『さぁ、答えて頂戴。』
 とは言っても、全て英語だ。なんだかお勉強をしているみたいで、じんわりと頭が痛くなってくる・・・。
 『騙されちゃ駄目よ!答えは簡単なんだから・・・。』
 エアリアの声が響く。
 そうは言っても、既に中盤の部分が記憶から薄れて行ってしまっている。
 最後は・・・How manyだから、数をきいているわけで・・・going to St. Ives・・・つまり、セント・アイブスに行った人数をきいているのだ。
 えぇっと・・・最初が・・・I was going to St. Ives・・つまり、自分がセント・アイブスに行こうとしていて・・・。
 中盤が・・・確か・・・I ment man・・・その後は・・・。
 ・・・待てよ。・・・つまり・・・。
 『もー、まだ考えてるの??ほら、早くしないと・・・5・・・4・・・3・・2・・・』
 「解った!」
 暁はそう叫ぶと顔を上げた。
 「一人だよ!つまり、自分だけ・・・中盤のは、擦れ違った人の人数なんだ!」
 『正解よっ!!』
 ティディアが言う前に、エアリアがそう言って暁に抱きついた。
 『それじゃぁ、仕方ないわ。約束は約束だものね。』
 肩を竦め、小さな溜息をついた後で暁とエアリアに向かって右手を差し出し――刹那の光の後、気がついた時には既に花畑を抜けていた。
 『流石ティディア!スクール1の優等生。』
 エアリアがそう言った後で、暁の手を掴んだ。
 『さ、早く子供達の枕元にプレゼントを置いてきてあげましょう。』


☆★☆ Present for you ★☆★


 ぐっすりと寝入っている子供には、そっと枕元にプレゼントを置いてあげる。
 「ぷれぜんとふぉ〜ゆ〜v」
 と、甘く小さく声をかけて・・・。
 布団から細い肩が見えてしまっている子には、布団をかけなおしてあげる。布団から足が出ている子は、しまってあげる。
 そっと、子供達が目を覚まさない程度に、優しく――。
 そして一方、起きて待っていた子には満面の笑みと共に元気良く声をかけた。
 「あっれ〜?ま、いっか。こ〜んばんわ♪プレゼントお届けにあがりましたぁ!」
 きゃっきゃとはしゃぎながら子供達が飛んで来て、暁の手からプレゼントを受け取ると、その場で包みを開ける。
 ある子のプレゼントの中身はぬいぐるみだった。ある子のプレゼントの中身は本だった。ある子のプレゼントの中身はマフラーだった。
 人間界となんら変わらないプレゼントは、同じように子供達の心を弾ませ、温かい気持ちにさせる。
 エアリアの助けもあり、暁達は程なくして全てのプレゼントを子供達に渡し終えた。
 空っぽになった真っ白な袋が、風に靡く。それほどまでに袋は軽かった。
 『ティディアに感謝しないとね。そうでなければ、あたし達、まだあそこに居た可能性が大きいわ。』
 そう言って悪戯の花畑を指差す。
 「・・・そう言えば、もしかして帰る時もここ通るの?」
 『あ・・・忘れてたわ。』
 エアリアが真っ白な手を桜色の口の前まで持ってくる。実に愛らしいお茶目な表情ではあるが――こんな大切な事、忘れないで欲しい。
 『どうしよう。あたしが出来なくも無いんだけど、失敗する――』
 『やめた方が良いわね。』
 その声と共に、ティディアが目の前に現れた。キラキラと輝くモノを身に纏い、凛とした美しさを放ちながら降り立った彼女に思わず見とれる。
 『広場までで良いなら、送ってあげるわ。』
 「また、なんか問題が出るの?」
 『“善意”で、送ってあげるの。子供達にプレゼントを渡し終えてくれた事だし――』
 “善意”の部分をやけに強調すると、ティディアは少し目を瞑っているように言った。
 短い詠唱の後で、チカリと瞼の向こうがスパークする。
 そして目を開けたそこは、一番最初に降り立った場所だった。楽しそうな歌声が、今も聞こえてくる。

   Georgie Porgie, pudding and pie
   Kissed the girls and made them cry
   When the boys came out to play
   Georgie Porgie ran away.
 

★☆★ Sing and Dance ☆★☆

 「ねぇ、俺にも歌教えてくれないかな?皆楽しそうに歌ってるから、一緒に歌いたいなって思っちゃった。駄目?」
 暁のその申し出に、エアリアとティディアはしばらく考えてから、笑顔で頷いた。
 妖精達の輪の中に暁を引っ張って行く。
 『あれ?それは誰??』
 『あたし達の友達よ。素敵な素敵なサンタさん。』
 『お、君が今年のサンタかい?プレゼントを配るのは大変だったろう?』
 『寝てない子供とか、いたでしょう?大丈夫だったの?』
 労いの言葉と、心配の言葉を体いっぱいに浴びて、暁は困ったように微笑んでいた。なんだかとてもくすぐったくって・・・。
 『それでね、一緒に歌を歌いたいんですって。そうね・・・あたし達が歌う歌って、人間界の歌と同じよ?』
 『そうだわ、これなら知ってるんじゃない?かなり有名だから――』
 そう言って、ティディアはすぅっと息を胸いっぱいに吸い込んだ。
 繊細な歌声を響かせる――

   Humpty Dumpty sat on a wall
   Humpty Dumpty had a great fall
   All the king's horses
   And all the king's men
   Couldn't put Humpty together again.

 聞いた事のあるその緩やかな旋律に、記憶を手繰り寄せる。
 妖精達が笑顔で暁を輪の中に加え、手を繋ぎ、歌いだす。
 ハンプティ・ダンプティ塀の上、ハンプティ・ダンプティ落っこちた。
 王様の馬も、兵隊達も、ハンプティを元には戻せなかった。
 確か、そんなような歌詞だったと思う。
 一番最初にこの歌を聞いたのは、もう遠い過去の事。思い出す事は出来ない。
 でも、歌だけはこうして暁の心の中に残っている。きっと、変わることのないままずっと、この先も――。
 緩やかな歌と、歌に合う緩やかなダンス。
 ハンプティ・ダンプティを何度か歌った後に、暁ははっと思い出した。
 Kingdomの入り口でティンクルが待っていると言う事を・・・。
 「それじゃぁ、俺、もう行かないと。ティンクルが待ってるから。」
 丁度歌が終わって、妖精達が華やかな談笑を始めた頃に暁はそう言うと寂しそうに微笑んだ。
 『そう・・・もしよければ、また来てね?』
 『こっちはアンタみたいなヤツは大歓迎だからさ!』
 口々にかけられる優しい言葉に、暁は微笑んだ。本当に妖精達は口々に言うので、その1つ1つに言葉を返す事は出来ないけれども・・・。
 「最後に、さっき仲間に入れてくれたお礼に俺からプレゼント。」
 暁は妖精達の輪から少し離れると、息を吸い込んだ。
 甘い甘い香り――これが何の花の香りだかは分からないけれど――胸いっぱいに吸い込む。

   蒼の宴の宵闇に 散るは乱華の赤い花弁
   まどろむ月下に 咲く華の香は
   憂う夕闇    嘆きの朝
   聖夜に咲きし  薄雪草
   聖夜に散りし  花水仙
   降るは粉雪   光るは月光
   薫は北風    舞うは我

 舞い終わった瞬間、広場は拍手と歓声で包まれた。
 頬を染めたエアリアが暁の所に飛んで来る。
 『凄かった!本当に綺麗だった!』
 「こっちこそ・・・楽しかったよ、ありがとっ!」
 暁はそう言うと、エアリアに抱きついた。華奢な体は温かくて、なんだかほっと安心してしまった。
 「それじゃ、もう行かないと。」
 『また来てね・・・』
 そっとエアリアを離し、暁はKingdomの入り口に向けて歩き始めた。
 『待ってるから』
 エアリアとティディアの声が、合わさって聞こえた――


☆★☆ And・・・ ★☆★


 入り口で待ってくれていたティンクルから、戻る用のカプセルを受け取り、暁は普通の大きさに戻っていた。
 背中に翅は無い。後ろを向いても、視界を遮るものは何もなかった。
 「本当にありがとうございました・・・。」
 「いや・・・こんなに楽しい事経験させてくれて・・・ありがとう。」
 ふわりと優しく微笑んだ暁に、ティンクルはほっとしたような表情を浮かべた。
 ソリに乗り込み、朝が近づく夜空を疾走する――
 「ねぇ。良い子の所にはサンタさんが来て、プレゼントを置いて行ってくれる・・・サンタさんが来てくれなくなったのは大人になったからかな?」
 そう呟くと、暁はティンクルの瞳を真っ直ぐ見つめた。
 「それとも・・・良い子じゃなくなったからなのかな?」
 ティンクルが何かを言おうとして・・・口を閉ざした。ただ、優しい笑みを浮かべて暁の顔を見つめるばかりだった。
 その顔は、母親を思い出させるような――
 ソリが暁の部屋の窓まで帰って来た。いつの間にか閉まっていた窓を、ティンクルが開ける。
 暁が部屋の中に入り込み・・・。
 「どうしてサンタさんが来てくれなくなったのか、分かりませんか?」
 その言葉に振り返る。窓の外、丸い月を頭上にたたえながら微笑んだティンクルの顔は恐ろしいほどに妖艶だった。
 「サンタさんにお願いするような物は、もう自分で手に入れられるからですよ。」
 暁が配った物――ぬいぐるみ、本、マフラー・・・手に入れようと思えば、暁なら手に入れる事が出来る。
 「それは、大人になったと言えるのかも知れませんが――良い子とか、悪い子とか、関係ないんですよ。」
 ふわり、まるで粉雪のように微笑むと、ティンクルが暁の目の前に手を差し出し――プツリと意識が途絶えた。


 『サンタさんってさ、本当は皆のお父さんやお母さんがやってるんだよ〜!』
 少し大人っぽい同級生のその言葉に、暁は言った。
 『知ってるよ!』
 それでもどこかでは信じていたんだ。赤い服を着た、皆の願いを叶えてくれる素敵なサンタさんは、絶対居るのだと。
 パチリ・・・暁は目を覚ました。
 少しダルイ体を無理にベッドの上に起こす。
 全身が鉛のようにダルイ――
 ふと、その淡いピンクの包み紙が暁の目に飛び込んで来た。赤いリボンをつけた、小さなその包み紙には金の文字で“Merry Christmas”と書かれている。
 リボンを解き、包み紙を開け・・・中から出てきたのはクッキーだった。
 紅茶のクッキー、チョコチップクッキー、メープルクッキー・・・それは全て手作りだった。
 おそらくは・・・ティンクルの・・・。
 「・・・ありがとう。」
 暁は心の底から微笑むと、そっと呟いた。
 閉まった窓の外からは、朝日が部屋を明るく染めていた――


       〈END〉


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 ★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員


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 ■         ライター通信          ■
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  この度は『Fairy Kingdom』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
  そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 

  さて、如何でしたでしょうか?
  2段攻撃の悪戯ばかりでなく、何段攻撃もの悪戯を仕掛けられてしまいました・・・。
  クリスマスなのに暁さんをボロボロにしてしまって申し訳ありませんでした(平伏)
  キラキラと輝くFairy Kingdomの世界を楽しんでいただけたならばと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
クリスマス・聖なる夜の物語2005 -
雨音響希 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月09日

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