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『『ゆったりと、ゆっくりと。〜ダイエットのススメ〜』 』
門屋・将太郎1522

「さて、どうやって痩せたもんかなあ」
 俺の脇には、今大量のダイエット本が山となって積まれている。取りあえず片っ端から読んだものの、すぐに痩せるとうたっているダイエット本は荒唐無稽なものばかりで、本当に痩せられるのか疑問なものが多かった。
 中には『読むだけで痩せる本』なんていうものもある。脳の栄養分は糖質だから、本を読んで頭を使えば痩せるというらしい。
 だが、その割に本の内容は大したものが書いていない。
「読むだけで痩せるわけねえだろ」
 本を読むだけで痩せるなら、俺はとっくにがりがりになっている。よしんば、本を読んで痩せても、運動不足でたるんだ体型を元に戻せるわけがない。
 痩せるだけではなく、理想的な体型をつくるためには、やはり運動も必要だ。
「やっぱ楽して痩せる方法ってねえんだろうな」
 俺はくだらないダイエット本を大量にゴミ箱に投げ捨てると、一番実用性のありそうな本を手に取ってみる。
 栄養学の権威やらスポーツインストラクターやらが全員口をそろえて、ダイエットに必要な要素はたったふたつだけと言っている。
「カロリー計算と運動ねえ」
 摂取カロリーよりも消費カロリーが上回れば体重は痩せる。
 いたってシンプルな論理だ。
 成人男性が一日に必要なカロリーは、平均二五〇〇キロカロリーらしい。つまり、一日三食食べるとして、一食あたり約八〇〇キロカロリー弱におさえなければいけないわけだ。
 しかし、これはあくまでも食事以外の間食は取らず、飲み物も水かお茶、あるいはブラック珈琲ということが前提だ。珈琲にミルクやら砂糖やらを入れたり、晩酌をしたりすれば、当然カロリーは加算されていくわけだ。なんてえげつない。
「なんだと? 小さいハンバーガーで二五〇キロカロリー? スティックシュガーが一本七五キロカロリー? ビールがジョッキで五〇〇キロカロリーだとぉ?」
 ビールジョッキとハンバーガーひとつ食べれば、一食分のカロリーになってしまう。ビールを二杯飲めば、簡単にカロリーはオーバーする。
「くう。人生の楽しみまで俺は奪われるのかよ」
 しかも、本にはバランス良く栄養を摂ることと、一口三十回以上噛むことで脳の満腹中枢を刺激させることも必要だと書かれてある。肉中心の生活をしていたのを、今度は野菜や魚も取り入れて、バランスのいい食事にしなければいけないだなんて。
 めんどくさいカロリー計算をしなければいけない上に、食べたいものも食べられないなんて、逆に病気になってしまうじゃねえか。
「俺は病人じゃねえ。こんなことやってられるか!」
 俺はダイエット本を机に投げ捨てて、午後の診察へと向かっていった。

 だが、帰宅した後、本を片手に一生懸命カロリー計算をしている俺がいた。
 一度はめんどくさそうでダイエット本を投げ捨てたものの、やっぱりこのままではいかんという意識が俺の中にはあった。年末までには、元のいい男に戻らなくては楽しい年明けを迎えることができない。
「なんだ。意外と好きなもんを食えるんだな」
 カロリー計算をしてみると、意外と食いたいものが食えることに気づいた。
 ステーキをメインディッシュにしても、脂身をそぎ落としたり、油を変えたりすることでカロリーをおさえていく。まして、肉本来にはカロリーは少なく、付け合わせのポテトやライスなど炭水化物の方がカロリーがつきやすいということがわかった。
 だから、無理に食事のメニューを変えなくても、一工夫すれば、同じようなメニューでも全然カロリーが違うらしい。
「そういや、どこかの美白の女王も、きちんと食事を取れって言ってたな」
 バランスのいい食事を取ると、いつもよりも量は少なかったが、意外と腹はふくれた。外食ばかりせずに自分の体が欲している栄養を素直に摂ることがいいんだろう。
 やはり運動不足と早食いはデブへの大きな原因なんだ、とあらためて自覚する。
 食事を終えた俺は風呂に長めに入った後、寝る前によく柔軟体操をした。
 柔軟体操は体の代謝をよくしてカロリーを効率よく消費できるそうだ。だから、同じ生活をしていても、体の柔らかい人の方がかたい人よりもより多くカロリーがする。
 ビールは飲まなかったものの、布団に入ったら、またたく間に眠りに落ちていった。

 俺は驚くべきことに、朝六時には起床して、ジャージ姿で家の前に立っていた。
「いいねえ。ご来光ってやつだな」
 朝陽を見上げていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
 人生でこんなに目覚めがいい日というのは初めてではないかと思うほどに、心地のいい目覚めだった。いつもならば目覚まし時計をとめてから二度寝を楽しむのだが、その日にかぎっては目覚まし時計が起きるよりもはやく目が覚めた。
 タオルを頭に巻いて、よく準備運動をする。眠っていた体がゆっくりと目覚めていくのが自分でもわかる。準備運動をするのは怪我をしないためでもあるが、なによりも運動したときに脂肪を効率よく燃焼させることが目的だ。
「さて、行きますかね!」
 俺は早朝の街へと歩き始めた。
 早朝の凍った風が街へと吹き下ろし、白い朝陽はまばゆく街を照らしている。
 十分間のマラソンよりも、二十分間のウォーキングの方がダイエットには向いているそうだ。マラソンは短時間で多くのカロリーを消費するものの、その分体に疲労が出て空腹感が強くなる。けれど、ウォーキングは体に負担がかからない上に、ゆっくりと体が脂肪を燃やすためにダイエット効果が続く。
 朝の街並みは思いの他、景色がすばらしい。普段とは違う顔を見せてくれる。
 朝露に濡れる花も、風の香りも、街の風景もさわやかだった。
 早朝から開いている喫茶店や、近所の学校で早朝練習に勤しむ子供たちの姿など知らなかったものもたくさん見ることができた。
「おはようございます。今日は寒いですね」
 普段はろくにあいさつなどしないが、近所のばあさんたちともあいさつした。
 最後に公園にたどり着いた俺は、スクワットや腕立て伏せなど軽い筋力トレーニングをした。ウォーキングやマラソン、サイクリングなどの有酸素運動は、実は効果が持続しない。
 忙しい上にめんどくさがりな俺は、毎日ウォーキングをすることができないだろう。徹夜明けで仕事をしなければいけないこともあるし、雨が降って外に出ることがおっくうなこともある。
 そんなとき、体の筋肉をつけておけば、柔軟体操と同じようにカロリー消費を多くすることもできるし、疲れにくい体をつくることもできる。
 筋力トレーニングをしていると若い頃の自分を思い出すようだった。
「この調子、この調子」
 早朝の風は冷たかったが、体は内側からぽかぽかとあたたかくなっていた。
 朝陽を浴びて、次第に色に染まっていく街並みがあざやかだった。
 新しい発見をした朝だった。

***あとがき***
 いつも大変お世話になっております。
 今回もご依頼ありがとうございました。
 今後もよろしくお願い申し上げます。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
大河渡 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年12月09日

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