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『道の行方 』
オーマ・シュヴァルツ1953

 全てを愛するが故に、その代償を受けねばならなくなったとしたら。
 その『道』は、正しいと言えるのだろうか。

*****

 オーマ・シュヴァルツは、この地に足を踏み入れてからずっと、ひとつの道を探し続けている。それは、はじめ漠然としたものだったが、今では自分の人生のためにも必要なものだと確信を得るようになっていた。
 それは、嘗て自分がいた地――ゼノビアと、ここソーンとの間を恒久的に繋ぐ道。
 自分たちがこの地に訪れた時にあった道は既に塞がれており、逆に向こうへ行こうとしてもままならない状況だと頭では理解していても、向こうで自分がやらねばならない事もあり、そして仲間たちが待ってくれているだろうという思いが頭に残っているため、いつかは道を見つけ、気軽に行き来出来るようにしたいと考えているのだった。
 何よりも、あちらがオーマにとっての故郷であり、日に日に愛しさが増すこの世界と同じように、嘗て自分が存在した地もまた、愛して止まない場所であるのだから。
 尤も――どうやら、なのだが、ゼノビアとここソーンとの間に流れる時間の感覚は少しずれがあり、ソーンから見てみればゼノビアの時は非常にゆっくりと進んでいるようで、自分たちがこの地を訪れて結構時が過ぎているが、ほとんど向こうでは時が経っていないのかもしれない。それならば、まだあちらに残してきている約束や、大切な場面に顔を出す機会は残されている可能性が高い。
 その前に、出来る事ならば、かの地とここを繋ぐ『道』が欲しい――何故なら、オーマの心は既にここソーンをも第二の故郷として認識しているからで、どちらの地にも自分の居場所を残しておきたい、と、非常に贅沢な望みを持っているからだった。
 そんな中、冬も押し迫ったある日の事、オーマはひとつの考えに辿り着いていた。
「そうだ――もしかしたら、これでいけるかもしれねえ」
 ゼノビアから『道』が開く理由は、この地へ、と言うよりはゼノビアとの接点に対する強い思いが引き起こすもの。
 それを逆手に取れば、自分が強く強くゼノビアへ思いを向け、道を具現化してしまえば、ひとつの道が開くかもしれない。
 それが恒久的な道かどうかはまだやってみないからなんとも言えないが、例え僅かでも可能性があるのなら、試してみるのも悪くない、そう考えたオーマは、身が軽く力が戻ってきている今なら出来るかもしれない、とやってみる事に決めた。

*****

「ここら辺でいいか」
 エルザードを離れ、旅人が通ることも無さそうな草原の真ん中でオーマが足を止める。
 万一、事故が起こってもここならば周囲にそれほど迷惑をかけずに済むだろうとの考えがあってのことで、自分としても初めての試みだけに慎重にならざるを得ない。
 思いがけず広範囲に影響が出たらどうしようか、と言う心配もちらと頭を掠めたのだが、その時はその時と半分開き直って、オーマはどっかりとその場に腰を降ろした。
 何日も前からこの日の事を考えていただけあって、座ってすぐに精神がその一点へと集中する。冬の訪れを感じさせる強い寒風も、その集中を途切れさせる事は無く、オーマはそうしてかの地への思いを力に載せはじめていた。
 ――手応えは、意外に早く訪れた。と言っても、その場に座り続けているオーマの体がすっかり冷え切るだけの時間は過ぎていたのだが、僅かに生じた接点らしきものへ、具現波動を流し込み、そこから通り抜けられるだけの道を作り出そうとして、目を閉じたオーマの眉がぎゅっと寄せられる。
 それは、体内から生じる抵抗にも似た感覚に、違和感を覚えたためで。
 自らが望んで行っているこの行為に対し、無意識に反発しているとでも言うのか、と集中が途切れそうになるのをぎりぎり押し止めながら、オーマは今度は具現を行おうと言う力の先からの、空間に具現空間を敷く時以上の激しい抵抗に合い。
 両方ともをなんとか力技でねじ伏せ、自分が作り出した『道』に身体を入れようとする頃には、まるで戦闘にでもあったかのような気だるい疲労感が漂っていた。
 ――が。
 ここでこれを放置して帰るわけにはいかない。何より、いつ閉じるかも知れず、また、閉じなかったとしても向こうから何がこの地に訪れるか全く予想が付かないからだ。
 重さを感じる自らの身体を『道』の中に潜り込ませる、と、見たことも無い空間がそこにあり、行く先も見えないまま、背中の入り口が閉じる気配と共に、過去にゼノビアで封じた筈のウォズたちが床から、壁から、天井から染み出すように現れ、一斉にオーマへと剥き出しの殺意を向けながら襲い掛かって来た。

*****

「……っちくしょ、ここが出口だろうな、きっと」
 まだオーマを狙い続けるウォズの攻撃をかいくぐりながら、必死で駆け抜けた空間の先にぽつんと空いた隙間をようやくの事で見つけ、荒い息の中でようよう言葉を発するオーマ。満身創痍になりながらも、ここまで辿り着けたのが奇跡のようだ、と自分を内心で大いに褒め称えながら、隙間をぐいと開いてその先に進む。
 オーマに狙いを定めていたウォズたちの手に持つ武器や、自らの身体を変形させて作り上げた凶器が、隙間をくぐろうとするオーマの背をぎりぎり掠めたところで、オーマは外へと転げ出た。
 そして――ぶるんと頭を大きく振ってから立ち上がり、目の前に広がる光景に愕然とした。
「どこだ……ここは」
 空気は、それでもまだ懐かしい香りを含んでオーマの身体を包み、風はこの光景に関係なく穏やかに髪を揺らす。
 だが、そこに人の姿は無い。それどころか、建物も、空に浮かぶ大地も、全てが蹂躙され尽くし、死したる大地となってそこに横たわっていた。
 かろうじて、空に浮かぶ機能だけは残っているらしく、それでも僅かに斜めに傾いだ大地には、屍としての印象しか見受けられない。
 遠くに見える他の大陸もまた、焦土と化したのか、砂の色をした、まっ平らな土地だけを残した残骸のような姿で空を彷徨っている。
 それが、確かに自分が存在した地だと、分かっていても、目の前に広がる無残な世界を身体の方が認められず、言葉も無く立ち尽くすだけのオーマ。
 そして――その世界を統べるものは、大陸の上に、空に在って声も無く蠢いていた。
 世界を破壊し尽くし、それでも足りないらしく、今も尚大陸に攻撃を繰り返す無数のウォズたちが。
 それが、昨日今日の出来事ではない、とようやくオーマが気付いたのは、建物の残骸らしいものが、触れただけでぼろりと手の中で崩れて細かい砂となったのを見たからだった。
 『道』の繋ぎ方を間違えたのか、それとも――これは、避けようのない現実なのか。
 逃げるように、オーマは元来た道へと踵を返していた。
 これは、自分が見るべき世界ではない。
 こんなのは、間違っている。
 そう……何度も何度も呟きながら。

*****

「……」
 帰り道にも当然のように現れたウォズの大群を切り抜けて、冷たいながらもソーンの大地に戻って来たオーマはほうっと息を吐いて具現を解いた。
 あっという間にそこにあった隙間は消え、来る前と同じ、冬の訪れを強く感じさせる冷たい風がオーマの全身を撫でて、半ば遠くに飛んでいたオーマの意識を覚醒させる。
「……っとと、いけねえいけねえ」
 ぱしん、と両手で自分の頬を叩き、オーマがふうともう一度息を吐いて空を、そして大地を眺め回した。
 人だけではなく、全ての生き物がそれぞれの生活を行い、それが見事な命の循環を見せるこの地、ソーン。
 それがあるべき姿だと分かっていた筈なのに、大地から自分たちの住処だけを切り取って逃げ出した人間には、あのような姿になる事しか残されてはいないのだろうか。
「――そんな筈はねえ。いくらなんでも」
 ぶるぶると自分でもオーバーなくらい大きく首を振ったのは、もしかしたら内心に生じた恐れと怯えの現れかも知れない。
 オーマは気付いていた。
 あれが、もしかしたら見る事になるかもしれないゼノビアの未来の姿だという事に。
 道を繋ぐ時に間違えた――とは、思ってはいない。まるでそこに誰かの意志が介在したかのようなあの道は、ただ、観客としてのオーマに見せつけるためだけに生まれたかのような、そんな気持ちに捕われ、オーマは三度目の息を吐き出した。ただし、今度は何かを振り切るかのような強い力が込められており。
「ったく。余計なモノを見せられたって、俺様の気持ちは動かせねえぞ。それくらいでめげるようなら、最初っからやってねえよ」
 がしがしと髪を掻き上げながら、誰にともなく呟くオーマ。
 無謀な戦いだと、そんな事はとうの昔に気付いている。ゼノビアに在していた頃から気付いていた世界の変調……人間のためだけに作り変えられていく世界からの反発じみた出来事を、何度も目の当たりにしているのだから。
 それが進むと先程みたような光景になる可能性が高いと言う事も、嫌と言うほど分かっている。分かっているからこそ、無謀と知りつつもオーマは足を踏み出したのだ。
 そんな世界であっても、ひたすら絶望の道を突き進む人々であっても、オーマにとっては愛さずにいられないもの。
 その心までは、誰だって否定する事は出来ないだろうと、オーマは今も思っている。

*****

 薄暗くなって来た帰り道をのんびりと歩きながら、この地が奇跡とは思わない、とオーマは何度目かの呟きを洩らしていた。
 この地が奇跡であるのなら、自分たちの世界は当たり前のように崩壊へ進むしかない。……そんな事は、認められない。
「むぅ。道を繋ぐには、もっと他からのアプローチが必要かもしれねえ」
 そしてまた、かの地との『道』を繋ぐ事も、オーマは諦めていなかった。
 ただ、今日のような事を二度とするつもりは無かったが。それは内心にある恐怖心の現れでもあったのだが、オーマはその事に気付こうとはしないままだった。


-END-
PCシチュエーションノベル(シングル) -
間垣久実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年12月05日

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