▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『サンタクロースの贈り物〜君に相応しいプレゼント〜 』
グレン3106

【オープニング】

「Oh。今年もワタシたちがイチバン忙しい時期がやってきたネ!」
 怪しい言葉づかいでるんるんと机に向かうは、赤く暖かそうな服装、赤い帽子――白いひげ。
 サンタクロース……であるらしい。
「そうだネ☆ ボクたちもガンバらなくっちゃ、ダネ!」
 おじいさんサンタの傍らに、小さな子供。こちらも赤い服装に、白いつけひげ。
 見習い孫サンタである。
「ホラ、これをごらんお前。これが今年ワタシたちをお待ちのお客様リストだヨ」
 おじいさんサンタは、束になった紙を孫サンタに見せた。孫サンタは嬉々としてそれをめくっていく。
「いっぱいだネ☆」
「そうとも。今年も忙しくなるネ」
 そしておじいさんサンタは、優しい目をしてそっと孫に言った。
「いいかいお前。ワタシたちが届けるのは――ただの贈り物じゃナイ。心を、届けなくちゃダメだってことを、忘れるんじゃナイぞ?」
 孫サンタは元気な顔で、「ハイっ☆」と大きくうなずいた。

【君に相応しいプレゼント】

 ふわ〜あ、今日も疲れたなあ……
 冒険者たるもの、このていどで疲れちゃいけない!……と思いつつも、疲れるものは疲れるんだよね。
「こちらにお名前をご記入ください」
 宿屋のお姉さんに言われて、僕は今にもまぶたがくっつきそうな目をこすりこすり宿帳に名前を書いた。
『グレン』
「では、お部屋にご案内します――」
 親切に対応してくれる案内役のお姉さんの姿に、僕はきょとんと首をかしげる。
 ――なんで真っ赤な服着てるんだろ?
 おまけに、なんで真っ赤な帽子かぶってるんだろ?
 そう言えば、あの服装どこかで見たことあるなあ……
 そう思った僕は、二階へのぼったところでふと見つけたモノで、すべてを悟って手を打った。
 ――クリスマスツリー! そっか、今日はクリスマスか……!
 にしても、宿屋のお姉さんまでクリスマスな格好なんて、シャレてるなあ。
「こちらでどうぞ。ごゆっくり……」
 サンタ姿のお姉さんは、ひとつの部屋のドアを開けながら、僕に向かってにっこり笑った。

 ふあ〜……
「ダメだ……眠い」
 昨日、ちょっと魔物と戦って、その日は野宿で、今日ようやくありつけた宿屋。
 気が抜けてるんだな。冒険者として油断は禁物!
 ……でも、眠いもんは眠いんだ。
「……寝よう」
 僕は、自分に素直になることにした。

     ■□■□■

 かたん

 かすかな物音がして、僕ははっと目を覚ました。
 僕は有翼人だ。耳がいいんだ。ほんのかすかな音でも聞き逃したりしない。
 ぱっと起き上がり、目をこらす。
 ぼんやりと人影が見えた。

「こら。物音を立ててはいけないネ」
「ごめんなさい、おじいちゃん」

 何か話してる。二人いるんだ。でも――
 有翼人は夜目がきかない。僕には人の影らしきもの以外、まったく姿が見えない。
 こんな真夜中。物音を立てちゃいけないときたら――
 ――泥棒だ!

 僕はベッドの傍に立てかけてあった槍を手に取り、
「逃がさないぞ、泥棒!」
 ベッドの上に立って、威嚇の姿勢をとった。「どこから入ってきたんだ! 宿の人呼ぶからな……!」
 Oh! と聞いたことのない発音の声が返ってきた。
「NO,NO。ボウヤ、ワタシたちは泥棒ではないデス」
「ドロボーじゃないよ☆ ねえ、灯りつけてみて☆」
 二人に言われ、僕は槍で威嚇するのを決してやめないようにしながらも手探りでランプをさがした。
 ぽっと灯りがともる。
 薄明かりに浮かび上がったのは、赤い服に赤い帽子――ちょうど宿屋のお姉さんたちがやっていた服装に似た服を着て、白い袋を肩にかついだ、白ヒゲのおじいさん。
 隣にいるのは同じ服装で、僕よりずっと歳下に見える子供だ。こっちも白いヒゲ……作り物かな?
「誰だよ!」
 ますます怪しい。僕はきっとにらみつける。
 おじいさんのほうが、おだやかに両手を広げてみせた。
「ワタシたちは、サンタクロースネ。だからボウヤ、槍をおろして」
「サンタクロースだよっ☆」
「……サンタクロース……?」
 そんなバカな。そんなのいるわけないじゃないか。何言ってるんだろうこの人たち。危ない人たち?
 僕は今度は少しだけおびえた。だってヘンなことを言う人たちだったら、怖いじゃないか。
 槍は絶対に手放さないでおこう。そう決めた。
「……ふむ。信用してくれないようだネ。まあ、それも仕方がナイ」
「ちょっと、寂しいネ☆」
 小さいほうがしょぼんとして、少し胸が痛んだ。
「そ、そのちっちゃい子……誰?」
「Oh。この子はワタシの孫ね」
「まご、さんたくろーすだよっ☆」
 ……サンタクロースに、孫?
「まだ六歳ネ。君より七つも歳下ネ。優しくしてやってほしいヨ」
 ――あ――
「ぼ、僕の歳を知ってる……の」
 僕はたしかに、実年齢十三歳だ。けれど、外見が十歳にも届かないほどしかないから、誰も一目で年齢を当てられない。
 おじいさんサンタ――らしき人――は、にっこりと笑った。
「ワタシは、サンタクロースだからね」
 答えになっていない答えだったけれど……
 ふっと肩から力がぬけた。
 怪しいけど、不思議な力を持った人なんだ。それだけは分かった。
「ボウヤ。危ないから槍をおろして……こんな暗い場所だから、へたをすると君も危ないヨ」
 優しく言ってくれる声。
 信用したわけではないけれど、僕はとりあえず、威嚇姿勢はやめることにした。
 槍は手放さないまま、槍先ではないほうをベッドにのせるように置く――

 ぐしゃ

「――っ!?」
 何かをつぶした音がして、僕は慌てて足元を見た。
 たった今、槍の先を置いた場所。
 ――その下で、何か箱状のものが潰れている。
「あ……」
 もしかして……サンタクロースの、プレゼン……ト……?
 Oh、とおじいさんサンタがぺしりと額を叩く。
 あっ、と孫サンタが悲しそうな声をあげた。
 僕は呆然とつぶやいた。
「つ、潰しちゃ……った……」
 ――本物のサンタだった――
 それを悟ると同時に、そのプレゼントを潰してしまったことが思い切り僕の胸をしめつけて。
 僕の目に――涙が浮かび、あっという間にぼろぼろとこぼれだした。
「ごめんなさい……! ごめんなさ……」
 僕は槍を手放して、ベッドの上にしゃがみこんだ。そして、しゃくりあげながら謝り続けた。
「Oh、ボウヤ、落ち着くネ」
「お兄ちゃん、落ち着いてっ」
 二人がかけよってきて、一生懸命慰めようとしてくれる。
 だけど、止まらない。
 だってせっかくのプレゼントを自分で潰しちゃった。二人を疑ったあげくに、潰しちゃったんだ。
「ボウヤ、気にすることはないんだヨ」
 おじいさんサンタが、優しく囁いた。
「……っ……っ」
 僕はしゃくりあげながら、サンタクロースのほうを向く。
 おじいさんはにっこりと笑っていた。
「プレゼントが壊れてしまったということは、あれは君に相応しいものではなかったということネ。ワタシたちが間違えたんだヨ」
 気がつけば孫サンタが、潰れた箱を回収している。
 中に何が入っていたのだろう。知りたかったけれど、二人は教えてくれなかった。
「さて、代わりに今度こそ君にあげるべきものをあげないとネ。何がいいかな――」
「ねえ、こんなのは、どうかなっ?☆」
 きらきらと、瞳に星があるような目で僕を見ながら、孫サンタクロースが僕の顔に手を伸ばす。
 僕はびくっと震えた。
「まず、なーみだっ☆」
 頬に流れていた涙をちょっとだけとって、次に「お兄ちゃん、その翼の羽根一枚もらっても、いーい?」
「………」
 僕は翼から一枚羽根をぬいて、孫サンタクロースに渡した。
 孫サンタは羽根に涙のしずくをふりかけて――
「そー、れっ☆」
 羽根を、天井まで放り投げた。
 重さがないはずなのに、羽根は天井までまっすぐ飛んでいった。そして、空中で止まり……

 羽根が、ぱあっと銀色に輝いた。

 そして次の瞬間には、
 銀色の輝きの粒が、羽根からちらちらと降り始めた。
 まるで雪のように。
 部屋中を舞うように。
 きらきら、ちらちら……銀色にきらめきながら。

 薄暗かった部屋に、銀色の光はいっそう映えた。

 中央にある僕の羽根が、まるで天使の羽根のように綺麗だ。
 降ってくる銀色のきれいな光が、僕の手に落ちては溶けるように消える。
「うわあ……っ☆」
 孫サンタが、嬉しそうにはしゃいだ声を出した。「お兄ちゃん、かざられて、きれー☆」
「……僕が?」
 よく体を見てみたら、肩に腕に足に、銀色の光が次々と降ってくる。溶けても溶けても次々と。
 きっと、翼も輝いている。
 りんかくを飾られて、今僕はどんな風に輝いているんだろう。
「ずるいよっ。二人だけ僕の姿見て……」
 僕はむくれた。けれど、降ってくる光の不思議な感触は、僕にもよく分かった。
 冷たいわけでもなく、あったかいわけでもない。だけど、何だか無性に気持ちいい。
 二人のサンタクロースも銀色の光に飾られていた。赤い服に、その色はとてもよく似合っていた。
「ボウヤの涙は、雪よりキレイね」
 おじいさんが言った。微笑んで。
 僕の涙。この銀色の光、が……?
 僕は、相変わらず涙の浮かんだ目で、えへへと笑った。
「だって、僕の涙だもん」

 二人のサンタクロースが「そのとおり」と二人でうなずいた。
「お兄ちゃんはねっ☆ きれいな心のヒトだもんねっ☆」
 僕は照れ笑う。二人を泥棒と間違えた僕なのに、何ていい人たちなんだろう。
「ごめんなさい、泥棒と間違えて」
 僕はしょぼんとしながら謝った。と、
「NO、NO。もっと違う言葉がほしいネ」
 サンタクロースは言った。
 違う言葉? もっと違う、ほしい言葉……
 考えて、僕の中でぽっとともるように思いついた言葉。
「そうだよね!……ありがとう!」

「ありがとうネ、ボウヤ」
「ありがとう、お兄ちゃん☆」
 なぜか二人にまでお礼を言われて。
 とっても寒いこの夜が、とってもあったかくなった。
 次のお客様のところへ行ってくるヨ、と窓から出て行く二人を、僕は窓から身を乗り出して見送った。
 夜目がきかないはずの僕なのに、サンタクロースのソリははっきりと見えていた。
 ふと、気がつくと、外には雪。ちらちらと目の前を落ちていく。
「ホワイトクリスマスって、言うんだっけ……」
 だけど、と僕はひとりでくふふと笑った。
「僕の銀色の雪のほうが、キレイだな……!」
 手の中には、孫サンタが使った僕の羽根がある。
 それを見下ろして、僕はもう一度微笑んだ。
 サンタクロースと三人だけで迎えた最高の時間。決して忘れない。
「また会えるといいな」
 つぶやいて、僕はもう見えなくなったサンタのソリが向かった先を、ずっとずっと見つめていた。


【END】


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3106/グレン/男性/9歳(実年齢13歳)/冒険者】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

グレン様
こんにちは、ライターの笠城夢斗です。
このたびはクリスマスイベントにご参加くださり、ありがとうございました……!
グレンくんとは二度目のご挨拶になりますが、相変わらずかわいいプレイングで楽しかったですv
プレゼントは「形のないもの」となりましたが、これでよろしかったでしょうか?
少しでも喜んでいただければと思います。本当にありがとうございました。
またお目にかかれる日を願って……
クリスマス・聖なる夜の物語2005 -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年12月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.