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『クリスマスの王様 』
オーマ・シュヴァルツ1953)&サモン・シュヴァルツ(2079)


 オーマは真っ赤な衣装に身を包み、首元にジャラリとアクセサリーをつけ、黒いブーツをはき、鏡の前でグッと親指を立てて『グッジョブ!』とポーズをつけていた。
 背中の『聖筋夜下僕主夫上等筋★』がよく映えている。
「さすがだぜ。このムキムキ悪筋クリスマススペシャル2005・〜大胸筋に飛び込みたいの〜聖夜バージョン! どんな姿でも似合うってのは罪ってもんだよな!」
 一頻り己に賛辞を送ったあと、がば、と勢い振り向く。サンタ衣装に身を包んだもう一人。娘の姿が、そこにあった。

 ヴァンサーとしての給料がもらえない今、オーマは医者として働くことでしか生活費が入らない。
 けれど増える人面草に霊魂軍団。もはやシュヴァルツ家は一家だけではないのだ。それ以外が多すぎる。
 そんなわけで、日雇いの仕事をするオーマ。
 季節柄クリスマスケーキを売るバイトはどこにでも転がっている。
 その一つに娘を巻き込んで挙手をした――というわけだった。

「どうでもいいから……仕事」
 件の娘はというと同じサンタでもミニスカートの『サンタガール』に扮装している。膝までの黒いブーツが衣装との相性もよく、非常に目を引く姿。
「ぐはぁっ!!」
 思わず鼻元を押さえてオーマはのけぞった。ゴンッと勢い頭が鏡にあたったが、そんなことを気にしていられない。
 なんだ、なんなんだ、その激プリ筋炸裂ピンクオーラ蔓延クリスマス衣装@ドキがムネムネっぷりは! なんなんだーーーー!!
「サ、サモン! そんなミニスカートをはいて!! お父さんはーーー!」
「……変態?」
「そうだ、お父さんは変態……違ぇッ!! ウッカリ頷いちまったが違ぇ!」
「違ってても…違ってなくてもいいから……仕事して」
 父の狼狽振りなどどうでもいいと、さっさと店先へと歩き出すサモン。
 その娘のミニスカートからにゅっと覗く足――
「その生足、見せるわけにゃいかねぇ!」
 どこの馬の骨とも分からん、街行く男達に!
 勢いのまま、オーマはサモンの背後からタックルをかけた。「わっ」と前につんのめったのはサモン。そしてそのまま手前にあったケーキのワゴンに手をついて、そうして当然どうなるかというと。
「ノーー!?」
 オーマの叫びとともに滑車はすべり、積んでいたケーキの箱は揺れ、しかも一部が道へと落ちてしまった! 嗚呼無残!
 すっかり地べたに膝をついてしまったサモンがゆるりと立ち上がる。彼女を包むオーラがそこだけ非常に熱い気もしたが、いっそそのあたりは無視したいオーマ。大丈夫かとおそるおそる声を掛けて、すっころんでいた自分も立ち上がった。
「……ケーキが」
 ふと声を発した彼女につられてオーマもケーキへ目を向けた。こんなに派手に落ちては、中身はエライことになっているだろう。店主が気付く前にとりあえず体裁だけでも取り繕わねばと、慌てて箱を拾う。
 軽い。
「あん?」
 とてもケーキが入っているようには思えないその軽さに、オーマは箱を開けた。
「……なんだこりゃ」
 本当に、中身はエライことになっていた。



 ワゴンから落とした箱は五つ。クリスマスツリーに飾る、金色の星も五つ。一つずつ箱の中にはいっていた。
 そして星にもまた文字が一つずつ。並べ替えると――
「あ・り・が・と・う? なんだってまた……つーかこのままじゃ、ケーキ……俺達が搾取したことになんねぇか?」
「……なる、ね……」
 幸い店主は二人が起こした騒動には気付いていないようだった。バイト開始まで余裕はある。やるならば――今しかない!
「行くぜ、サモン! ケーキ奪還だ!」
「……いいけど……どうやって?」
「……どうするか」
 真顔で口にしたオーマにサモンがスイと手を伸ばした。彼女はゆるりと唇を開く。
 一瞬後、鮮やかに光を纏う銀龍が二人の前に現れた。
「甘いもの……好きだから……」
 サモンのポツリとした一言に、オーマが手を打つ。
「そうか、鼻は利くだろうしな!」
 銀龍は犬か。
「たぶん……」
 やっぱり犬扱いなのか。
 頷いたサモンに銀龍が目を瞬かせた。そうして見えるケーキの箱――中身は空。
「――!」
「あ、ショック受けてる。つーか急げ! ケーキを探すんだ!」
 オーマの言葉に、銀龍は燃えた、ようだった。

 たぶん。



 銀龍は非常に優秀だった。
 こと甘いものに関しては、その目に緊迫したものを感じ取ることが出来る。
 けれど銀龍はあくまでも龍なので。あくまでもサモンの龍なので。
「ちょっとまったぁ!」
「……一人で遠回りしたら」
「そりゃ、お前は通り抜けられるだろうけどよ!
 オ・ヤ・ジ★パワー全開ムキムキ悪筋マッスルな俺にゃそんな狭いとこ通れねぇ……って無視して行きやがるか娘よ!」
「それじゃ、あとで」
「あとでじゃねぇー!」
 通りに一人残されることも多いオーマ。これでは一向に娘との距離は縮まらない。心の距離も縮まらない。
 おかしい、たしか、乙女心調査の為に一緒にバイトをすることにしたはずじゃなかったのか。
 それがどうして、銀龍とサモンとケーキを追うはめになっているのだろうか。
 そうだ、サモンはあの可愛らしいサンタガール姿ではないか。
 あんなミニスカートで、ケーキの匂いを追う銀龍の後を、立ったり座ったりましてや匍匐前進などしようものなら、あのミニスカートの中身(イヤン)がチラッと。
「……チラッとーー!?」
 見せてたまるか親父筋炸裂今こそ立ち上がるときだ!
「サモン、待て、サモーーーン!」


 ーーン、モーン……
 銀龍を追ってやってきた町はずれ。イイコイイコと頭をなでて解放した瞬間だった。
「……呼んでる……?」
 自分を呼ぶ騒々しい声が山彦のように響いた気がしたけれど、そこはそれ。サモンはもう一度視線を目の前に向ける。
 目の前に、ケーキがいる。
 ある、ではない。『居る』のだ。ケーキが。
「クリスマスは、もっと楽しく過ごすべきだケーキ!」
「そうだケーキ!」
「親子だって楽しく過ごすんだケーキ!」
 ケーキに手と足がついている。目もある。
「……どうしたの」
 サモンがひょいとしゃがみこむ。苺と生クリームがたっぷり乗ったそのケーキ達は踊るように体を動かしながら、エッヘンと胸を張る。
「クリスマスには願いを叶えてあげるケーキ。だからぼくたちが叶えてあげるんだケーキ!」
「かなえ、る? ……誰の、願い?」
 首をかしげてサモンが問うと、五つのケーキが喋りだす。
「君のお父さんの願いだケーキ!」
「君ともっと仲良くなりたがってるケーキ! だから今日は一緒にケーキを探してもらったケーキ。そうすればもっと仲良く……」
「い、1のケーキ! 娘一人で来てしまったケーキ!」
「……あわわわ! し、しまった! これじゃぼくたち、願いを叶えられないケーキ……」
「叶えられないケーキ………」
 一気に盛り上がったかと思えば、急にしょぼんと項垂れるケーキたち。サモンは首をかしげたまま手を伸ばした。
 けれど相手はクリームや苺ののったケーキなので、よしよし、とは出来なかったけれど。そのフリだけ。
「……大丈夫、願いは、叶ってる、から」
「……ほ、ほんとだケーキ?」
「仲良くしてるケーキ!?」
「……してる、よ。大丈夫。……ほら」
 サモンが呟いたとほぼ同時に、ものすごい噴煙を上げながら一人の男がその場所まで走ってくる。イカれたサンタの格好をした大男――オーマであった。
 ぜぃぜぃと肩を上下させているところを見ると、相当急いでやってきたのだろうか。
 しかし一体、どうしてそんなに急いでいるというのだろう。そんなに息を切らせるほどのことをなにかしたのだろうか。
「サ、サモン!」
 オーマは息を整えながら足を踏み出した。がっしとサモンの肩を取った。
「ケーキ……見つかった……」
 足元見て、と指を刺すサモンにもお構いナシ。
「大丈夫か! と、途中で変な男に襲われたとか……破廉恥行為に泣きそうになったとか……!! おおぉおぉ、むしろ泣きたいのは俺のほうだ、サモン!」
「……何……言ってるかわからない……けど……」
 ふと気がついて、サモンは視線をケーキに落とす。
 ケーキたちの目がキラキラと輝いているように見える。望んでいるように見える。――何を?

『願いをかなえるんだケーキ!』

 あぁ、だからあの星には、あんな言葉が書いてあったのだろうか。
 ほんの一言。
 ぐんと仲良くなれる魔法の言葉が。

 妙に真剣なオーマの顔に、サモンが笑った。勿論小さくではあったけれど、それはオーマにとってはとても重大なことで、とても嬉しいことで。
 そうして。
「……よく、わからない、けど……あり、がとう……」
 サモンは、口にした。その、魔法の言葉を。

「願いが叶ったケーキ!」
「やった、ぼくたちもやれたケーキ!」
「これで親方様にも誉められるケーキ!」
「やった!」
「やったぁ!」

 彼女の声に足元のケーキ達が嬉しそうな顔をして、そして一瞬後、まばゆい光を放つ!
「うぉっ!? ケーキ、なんで、ケーキが喋っ……!」
「まぶ、し……」
 光は二人を包み辺りを包み、そうして――



「店先だな」
 オーマの言葉にサモンが無言で頷いた。
 光に包まれたと思ったら、そこはバイトの店先だった。ワゴンもきちんと揃っている。もちろんケーキも。どこもなにも、不備は無い。
「……どうなっちまってんだ」
「気まぐれウォズ……?」
「なんだそりゃ。どんな気まぐれだ。――夢、でも見てたのか?」
 はて、とオーマが首をかしげる。

 夢ではない。夢ではないはずだ。

「――これ」
「なんだ、星?」
「あの、星」
 星はたった一つになってしまってけれど。サモンが差し出した星には、『ありがとう』と一言記されている。
「……参った。一体何がどうなってんのか」
 星があるということは、現実だったということだ。
 けれど、一体どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが夢だったのか――それは、オーマにもサモンにも分かりかねたけれど。
「……お? おい、サモン。雪が降ってきたぜ」
 ひらひらと舞う、まるで羽のように軽やかな結晶は、そういえば今年初めての雪かもしれない。

 ケーキたちは言っていた。
『親方様にも誉められる』と。

「……クリスマス、だから、かな」
「あん?」
 クリスマスだから。きっと、今の自分達と同じ格好をした『親方様』が――奇跡を?
「雪……綺麗」
「そうだな」
 思ったことを、サモンは口にはしなかったけれど。
 なんだかオーマとの距離が、そしてオーマはサモンとの距離が。
 ぐんと近づいたような――クリスマス目前の日。

 サモンの持つ星は、ほんわかと暖かいような気がした。



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2005年11月29日

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