▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『cardinal 』
久良木・アゲハ3806


 知らないことを批判することなんて出来はしません。
けれど、知っているからこそ、否定も肯定もできない時があるんです。
正しい答えなど見つからない、あるのかすらわからない。


何も言えない。

何も…



 「お願いします、私も連れて行って下さい!」
一族の人たちがしている仕事。
何をしているのかわかっているけれど、それでもどうしてもこの目で見ておきたかったから。
無理を言って仕事について行ったことがありました。
法で裁けない、けれど依頼人の慟哭は拭えない事件。
怨んでも怨んでも、なお憎しみと悲しみが心を引き裂いていく。
心底悲しい時は涙すら流せない、それほど深い思いがあることも知りました。
そしてそれは相手が生き続ける限り延々と続くことも。

殺してしまうのは、本当に瞬きの間です。
一瞬のことでも、決して目を逸らしてはいけない。
逸らしてしまえばそれが一族を否定することになるから。
依頼を完了して、偽装処理を始めたとき、咄嗟に手伝いますと言って駆け寄りました。
ただついて来ただけでは、ただ傍観していただけでは目を逸らしているのと何ら変わりはありませんから。
私の行動に、処理を進める手が止まりほんの少し返事に間があったものの、すぐに指示があって言われたとおりに手早く後処理を手伝いました。
その僅かな時間の中、手伝うに吝かではない自分がいて、この人物が悪人で、こうでもしないと依頼人の心が死んでしまうと解っていても、もっと他に方法があったのではないかとやりきれない自分がいることも確かで…
まだ温かみのある身体が徐々にその体温を失っていく…それを肌で感じながら、心はいっそう強く揺れて、表しようのない思いが胸中を占めたました。
ホンの僅かの時間で、依頼人が死を望んだ相手が殺されたとわからないように手を施され、あたかも自然死のような姿で。
証拠などひとかけらも残さず、誰に見られることも無く、迅速に…迅速に…
戻るまでの間、お互いに声を掛け合うことなど勿論ありません。
家に戻れば今回の一件は全て終わる。
全て見届けた。
だけど、私はずっと一つのことを考えていました。


本当に、殺すしか道はなかったのでしょうか?

その思いを、言葉にも態度にもできなかった。
尋ねれば、あったかもしれないという返答が返ってくる気はします。けれどどうしても尋ねられなかった。
隠しているつもりでも、きっと何を考えているのか御見通しだったでしょうけどね。
まぁそれも、私の未熟さゆえなので何か言われたとしても返す言葉もありません。
あの人物が死を迎えることで、依頼人の心が多少なりとも救われたということも解っています。
一族がしていることが必ずしも正しいことではないということも解っています。
法が裁けぬ者を、「裁く」権利は当然ありません。
一族がしているのは、やり場のない思いを解消することも出来ない人々の代行をしているだけであることも。

――解っています。

解っているんです――…けれど…
他に手段があったかもしれない。
殺す以外の道があったかもしれない。
依頼人の心を救う手だてが他に…

どうすれば善かったんだろう。
どうすれば――…


その後数日、私はずっとこのことを考えていました。
ある日こと、答えも出せずただただ悩んでいた私をみかねたのでしょう。
ちょっとしたお使いで学校帰りに職場へ立ち寄った折、踵を返し帰ろうとした矢先でした。
自分がしたいことや出来る事からすればいい。と。
振り返った時には既に仕事に戻っていたので、どんな表情でそう言ってくれたのかはわかりませんでしたが、その言葉が出口のない迷路を右往左往していた私に一つの道を示してくれたんです。
仄暗かった視界が一気にひらけ、心地よい風を受けたような爽快感が全身を駆け巡り、身体が軽くなった気がしました。


 あれほど悩んでいたのが嘘のようで少し可笑しくて、可笑しいのに、何故か目頭が熱くなったのを覚えています。
何でそういう考えが思いつけなかったんだろうと、今にして思えばその当時の自分に歯がゆさを感じますね。
けれど、今は言える。
今だからこそ、ハッキリと言えます。
誰かを傷つける力ではなく、守る為にこの力を揮いたい。
その為に何をすればいいのか、納得のいくようにゆっくりと考えて行こうと思います。
「――私は、痛いのは嫌です。でも誰かが傷つくのはもっと嫌です」
誰かが傷つくのを見たくないから、傷つくような道を選択したくないから。

今の私が出来うる限りのことを


後悔することの無いように…




たとえ、どんな結果が待っていても…それが自分で決めた道なんですから。


― 了 ―


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3806 / 久良木・アゲハ / 女 / 16 / 高校生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

鴉です。この度はWR登録後初の発注有難う御座いました。


 さて、この話のタイトル「cardinal」ですが、
アゲハ嬢の根底となる部分のシチュエーションだと感じたので意味合いとして
「きわめて重要な、主要な、基本的な」という意味を持つこの言葉を選ばせていただきました。
後はアゲハ嬢の瞳の色にかけて「深紅色の、緋色の」という二つの意味合いを籠めて。
でも恐らく辞書で引いても別の意味の「枢機卿」しか出てきません(涙)
タイトルに籠めた想いはこっそり胸のうちに収めてやって下さい。

ともあれ、このノベルに際し何かありましたら遠慮なく御報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年11月29日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.