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『義姉妹の紅葉狩り 』
御柳・狂華2213)&九条・真夜(3071)

 神聖都の中庭にはいつものんびりしている女の子が独り。そして、野良犬が……いや、狼が一匹だ。秋も深まり御柳狂華が狼にこういう事を言った。
「お姉ちゃん、今度紅葉狩りしよう」
 と。
「? “もみじがり”ですか?」
 考える狼、九条真夜。
「良いですね」
 と、何かウズウズしている。
 真夜の狼姿は小犬ほどである。何かの一族のようであるが、今回は関係ないだろう。
「お弁当作って、一緒に」
「はい」
 にっこり微笑む2人は秋の空を眺めていた。


 そして当日。
 ピクニックに相応しい格好をする狂華に対して、真夜はどことなくおかしい。しかし、
「お姉ちゃん似合ってる♪」
「ありがとう、きょーか」
 と、何かずれている。
 真夜の意気込みは何か違っているのだが、楽しみにしていたのだから気合いが入っておかしくはないのだろう。狂華の服装は登山用のズボンにジャンバー、運動靴だ。後ろにリュックを背負っているのでどう見ても登山客にしか見えない。真夜というと、いつもは狼であるが、今は人になって服を着ている。しかし、登山用には見えるのだが普段着と言ったところだ。問題は其処ではない妙な気迫。
 さてさて、電車を乗り継いでいくと、都会から静かな山に向かっている事がよく分かる。車窓からは既に色とりどりの木々が見えているのだ。田んぼは未だ黄金色の部分があるのだが、殆ど借り入れている。
「どれだけ狩れるのでしょうか?」
 と、ウキウキする真夜。
「? いっぱいあるよ?」
 何かニュアンスが違うよなぁと思いつつ、狂華は笑って答えた。

 そして、散策ルートに付いた狂華と真夜は、
「わあ、綺麗」
 と、感嘆の声を上げる。
「ふふふ」
 何か真夜はやる気のようだ。
 そんな事狂華が分かるはずもなく、歩いて山道に入る。やはり、行楽日和という事で、人がいっぱいである。あまり人混みを好まない2人は少し別のルートを辿ることにする。それでも、紅葉のハッキリとした赤色は非常に綺麗だと、2人は見とれていた。
 しかし、真夜の背中に紅葉がひらりと落ちようとしている時……
 何も言わず、真夜は抜刀し、其れを斬った。
「お姉ちゃん スゴイ!」
「ありがとう。いつ襲ってくるか分からないですね……」
 お、何か妙な会話が。
「これだけ居ると私の真価が問われるかも知れません。狂華気をつけて下さい」
「??」
 首を傾げる狂華。
 何か獲物を狙う目、そのものの真夜。完全に戦闘態勢である。
 シークタイム1秒はかかっていない。真夜の考えたものは全く違うんだと狂華は気づき、
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! ち、ちがうの。紅葉狩りって言っても“狩猟”じゃないから!」
「え? そうなのですか? きょーか?」
 キョトンとする真夜。

 実際何故紅葉狩りと言われるのかは、それなりに由来があるのか単にミカン狩りなどと一緒にされたのかだろうとか考えられるモノは多々ありそうだが、あまり人間の世界を知らない真夜にとって、言葉形だけの意味をそのまま捉えてしまったのである。“狩り”は獲物を捕って其れを食うか其れに似たものとして。いっても狂華も厳密には此処の世界の人間でもなければ、完全に人間でもないのだが。

 必死に止めた狂華の言葉に、真夜は赤面して子狼の姿に戻り、
「は、恥ずかしい」
 と、椛の木の陰に隠れる。
 22年も生きて人間の言葉の奥深さを知っていなかったという事に恥ずかしさを感じて。
「あ、えっと、私もしっかり教えてなくてごめん」
 と、謝る狂華。
 もっとも、刀を振り回す事自体がかなり危険という事を知らなかった真夜。人がいなくて良かったものだと内心狂華は思った。もし分かれば何処かの黒ずくめの男達によって捕縛されていただろう。
 暫くその状態になっていたが、お互い同時にお腹が鳴った。
「あう……」
「うう」
 お互い赤面する。
「お姉ちゃんご飯にしよう」
「はい、そうですねきょーか」
 と、クスクス笑って近くの湖畔に向かいおにぎり卵焼き、唐揚げの入った、ランチボックスを広げ楽しく食べた。
 リラックスしてしまえば、本当に楽である。狂華も真夜も何もかも忘れて秋の景色を見ていた。これ以上はないぐらいの平和。紅葉の綺麗な色つきを楽しみ、たまに通りかかる人と挨拶を交わし、
「きょーか 走ると危ないですよ」
「大丈夫。この景色いいな。写真撮ろう♪」
 と、写真を撮って年相応の元気さを見せていた。
 途中で行き交う人に写真を撮って貰う時
「こんにちは、すみません。写真お願いできますか?」
「こんにちは。いいですよ。……可愛いお嬢さんだね。仲が宜しくて良いですね」
「ありがとうございます」
 とも言われる。
 その言葉に少し頬を染める。
 
 そして色々写真を撮っては歩き、日も暮れかけていた。
「かえりましょう、きょーか」
「うん」
 と、手を繋いで、駅に向かった。

 電車の中。彼女たちは寄り添うように眠っていた。電車はゆりかごのように揺れている。

End
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
滝照直樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年11月22日

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