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『運命の出会い 』
オーマ・シュヴァルツ1953)&シェラ・シュヴァルツ(2080)

「なぁぁにをしているっ! 被告人はどうした!!」
 赤ら顔の男が、つやつやの額を真っ赤にさせて怒鳴り散らしている。
 胸にずらりと並べた勲章を見れば、その男がどれだけ偉いのかを誰でも知る事が出来、そしてここはその男に頭が上がらない者たちが集って雁首を揃えていた。
 国際特務機関と、ヴァンサーソサエティ。ゼノビアの二大機関であり、その二つから幾人もの人物が顔を出すなど滅多にあることではない。
「……ソサエティに戻り次第出頭するように伝えてある筈ですが……」
 必死で国際特務機関の上層部の者を取り成そうと青い顔をしているのは、ソサエティマスターの代理としてこの場へ出てきた男だった。
 そこへ、ばたばたとヴァンサーが駆け込んでくる。
「どうだ。見付かったか?」
「い、いえ――それが、発覚していらい、ソサエティにも自宅にも戻っていないそうです」
「なっ、何だとぉぉぉ! 何故被告がおらん! 本人がいない状態で、どう裁判を行えと言うんだ!!」
「ま、誠に申し訳ない事態で……」
「もういい。裁判は休廷とする。次回開廷は被告――オーマ・シュヴァルツが見付かってからだ!!」
 どすどすと男がそう吐き捨てるように言って広々とした議事場から去って行くのを見て、残りの国際特務機関とソサエティの両方の者がほうっと息を吐いた。

 そもそも、事の起こりはこうだ。
 ソサエティ創設期からヴァンサーとして登録し、その実力たるや噂のヴァレキュラインをも凌ぐと言われている大物ヴァンサーが、オーマその人である……が、その彼が相当の古株として在籍しているにも関わらず、今もって実動隊として動き回っている事からも分かる通り、彼は普段の素行に難があり過ぎた。
 行きずりの恋と称し、自分の好みの相手であればそれがどんな相手であろうとアタックする、その気概は素晴らしいものなのかもしれない。
 ――相手が、国際特務機関……その長官の妻という立場の相手に手を出す、などと言う事がなければ。
 ヴァンサーは、これだけゼノビアに自分たちの価値を見出し、ソサエティという土台を築いていたとしても、元は殲滅戦争の元となった『異端』の血を持つ者であり、その生活には一般の市民よりも遥かに厳しい制約の中で生きている。
 その現状に反発しているのか、それとも――ただ、自由に生きているだけなのか。
 オーマは多種族の女性にも頻繁に声を掛けており、まさに春を謳歌していたのだった。
 長官が妻の不貞に気付き、問い詰めたところで発覚したこの事実を重く見た両機関が、査問会と名付けた裁判を行うために待っていたのだが、どうやらオーマはばれたと気付いた途端、消息を絶ってしまったらしい。
 こうして。
 不良ヴァンサー、オーマへの包囲網が各機関に通達される事となった。

*****

「何やってるんだい。だらしないよ、いい男が」
「そうは言っても、シェラさん」
「言い訳は要らないよ。あたしたちは犯罪者を捕まえてナンボの仕事をしてるんだ。弱音を吐く暇があったらさっさと捕まえてくるんだね」
 きゅッ、と音を鳴らして仕事着……つやつやしたレザー風の、それも胸元と太ももに激しく切り込みが入ったスーツを身に付けながら、シェラがきつい視線を部下に向ける。
「は――はいッ」
 その視線だけで竦み上がった青年が外へ駆け出していくのを見て、やれやれ、と肩を竦めるシェラに、入れ違いに入って来た男がにやりと笑って、
「新人イビリは止めてくれないかなぁ。ただでさえ現場の連中は居着かないんだから」
「実力の無い子は事務の方に回ればいいだけさ。……あんただってね」
「ひゅう。相変わらず厳しい事で。それだけ気力が溢れてるなら、例のヴァンサーを捕まえるのも楽なんじゃないか?」
「……ヴァンサー?」
 ちょっと眉を寄せたシェラに、知らないのか? と今度は男の方が驚いた顔を見せた。
 このところ現場に出ずっぱりだったシェラの耳には届いていなかったらしいが、何でもここ特務機関の長官の妻に手を出したヴァンサーがいるのだと言う。
 急遽査問会が開かれたのだが、フケた上に現在行方不明であり、ソサエティ側もこちら側もその男を追いかけているのだと。
「……ほう」
「馬鹿なやつさ。ソサエティの掟くらいは知ってるだろ」
 ――絶対法律と呼ぶ特別な法律が、彼らを律しているという話はシェラも聞いている。特に最重要事項となるのが、『異端』たるヴァンサーと異種族との恋愛――引いては結婚、子を成す事は許されないのだと。
 だが。
「そうだねぇ……馬鹿なやつだ」
 自分の得物を片手に、流していた髪を手早くまとめてバイザーを被り、スーツからいくつかコードを伸ばしてバイザーと接続し。
 にぃ、とバイザーから覗く赤い唇で壮絶な色気を見せると、彼女専用の中空戦闘もこなせる二輪車に乗り込み、空へと飛び出して行った。
「おいたにも程があるんじゃないかい? 人様のもちものに手を出すなんてさぁ」
 空へ綺麗な螺旋を描き、そんな言葉を呟きながら。

*****

「ふあぁ……っ。ったくよー、いいじゃねえかよ。恋愛くらいは自由だろーに。それが生きてる者の権利っつうもんだぜ」
 ごうんごうん、と身体に微振動を浴びながら、船倉にごろーんと横になる銀髪赤目の青年が天井を見る。
 長年のよしみで移動用戦艦の中にかくまって貰いながら、オーマは暇で暇で仕方がない。
「だいたいな? ありゃあ、向こうから誘ってきたんだぜ。毛色の珍しいおもちゃと見たんだろうが」
 幸い、オーマの好みとも合致したため、一夜限りのアヴァンチュールを楽しんだのだが……後朝の別れとかでねだられて渡したのが、オーマが具現の力で作り上げた凶悪な面構えのスカルリング。
 ……当然、そんな類のモノを持つ筈のない女性が身に付けていれば、ばれない方がおかしいのだが、ばれようがオーマには関係なかったらしい。
 オーマの理論によれば、あくまであれは行きずりの関係であり、後腐れの無いものなのだから。
 なのに、皆で七面倒くさく問題視して顔を出せと言う。出したって結局オーマ一人が悪者にされて終わりだろう。
「そんなんに誰が顔出すかってぇの」
 この際だから数年くらいバカンスに出ちまうかね、輝くような砂浜も水着のお姉ちゃんもいねえけど、とごろんと固い床の上で寝返りを打った、その時。
 本能が危険を感知してアラームを鳴らしたのに気付いて飛び起きた瞬間、

 一条の光が床を薙いだ。

「な!? な、何だ!?」
 何が起こったのかと思う間も無く、ぱかりと二つに割れた移動戦艦が思い思いの場所に落ちて行く。
「ってちょっと待てぇぇぇ!!! 誰だ、こんな常識外れな事しやがったヤツは!」
「ああら。自分こそ倫理観から桁違いに遠く離れた癖に良く言うよ」
 きらりと逆光から反射するバイザーの下で、女らしい声と唇がにやりと笑い。
 そして――戦艦は墜落した。

*****

「じょ、冗談じゃねえっ」
 あれだけの爆発を起こしておいて、何故か怪我人一人出さなかった戦艦での出会いから――七日程過ぎただろうか。
 墜落時の煙を煙幕に、ついでに自分で煙幕を具現し文字通り煙に巻かれながら逃げ出した後、情報屋から聞いて知ったのが、特務機関でも検挙率と作戦成功率が群を抜く女性の事。
 災厄の女神と一部で噂されるその女性……シェラは、豪快さと気風の良さから信奉者も多く、そして彼女自身は出世を幾度となく打診されながらも、現場での指揮以上の特権は必要ないときっぱり断り続けているのだと言う。
 望めば長官補佐くらいにはなれただろうと言うもっぱらの噂に、オーマはどんどん不機嫌になっていた。
 高飛車な物言いといい、ヴァンサーである己をまるで怖がる様子の無い所と言い、気に食わなかった。
 オーマの好みは、まず一に大人しい女性である事。そして自分が守ってやりたいと思う相手である事。
 ――得物の巨大な鎌を振り下ろして、戦艦を真っ二つにするような女性は完全に範疇外だった。
 おまけに、たかが上官の妻を寝取ったくらいで執拗に追いかけて来るその思考回路が彼には全く理解出来なかったのだ。
 ただでさえ、ソサエティからは何度も呼び出しサインが届き、同僚や新人ヴァンサーにまで追いかけられていると言うのに、これ以上面倒ごとを呼び込むつもりは無い。
「いったいどこに鼻が付いてやがんだ。犬よか鋭過ぎるぜ」
 オーマの知る限りのつてを辿りつつ、逃げて逃げて逃げ回る……そして、ほとぼりが冷めた頃にソサエティに戻ればいいとたかをくくっていたオーマにとって、この伏兵は予想外の事であり、それだけに対処の仕方が分からなかった。
 ――少なくとも。
 今までの逃亡中なら、どこぞのお嬢さんとしけこんでいる部屋を斜めにぶった切られる、などと言う事は無かった筈だから。
「い――いい加減にしやがれそこのアマ!」
 これで何度目か……逃亡先の家を半壊にされ、その瓦礫から這いずり出て来たオーマがさすがにキレてシェラに噛み付く。
「それはこっちの台詞だよ色男。いったいどれだけあたしから逃げ続ければ気が済むんだい?」
「へっ。おまえさんから逃げてるわけじゃねえってえの。――そう言うのは鏡を見てから言う台詞だろ」
 ソサエティは未だに、オーマに何らかのペナルティを与えようと探し回っているが、特務機関の方は長官を除いてオーマを探そうとする者はいない。
 開かれなかった裁判が休廷になってから、そろそろ一年を迎えようとしており、特務機関が持つ特殊な仕事内容は、そうそう長い間一人の男を捕まえるためだけに用意されているわけでは無かったのだ。もちろん、ソサエティがオーマを引きずり出せば特務機関側でも何らかのペナルティは与えるつもりでいるのだろうが。
「だいたい何でおまえさんだけいつまでもしつこく俺を追いまわすんだよ。特務機関ってのはそんなに暇なのか?」
「おあいにく様――あたしはね。決められたノルマはきちんとこなしてからあんたを追いに来てるだけさ。でなきゃこんなに間を空けて探しに出はしないよ。逃げるだけしかしてないあんたとは違うんだからね」
 鏡――のフレーズにかちんと来たのか、ぷいと顔を横向けて、それでもしっかりと言い返しはするシェラ。
「口が減らねえなぁ、相変わらず」
 やれやれとオーマが首を振って、
「そんなにしつっこいと男に嫌われるぞ? せーっかく綺麗な顔してんのによ」
「う――うるさいよ!」
 初めてかっと顔を赤くしたシェラが怒鳴りつけたのを見て、オーマがにやりと笑い。
「珍しい。赤くなるなんて……まるで女みたいだな」
 そう言い残して再び脱兎の如く逃げ去って行った。
「あた、あたしは……っ、……女だよ」
 最早誰もいなくなったその場に、シェラが珍しく動揺した姿のまま取り残される。
 ある意味では、オーマの指摘は的を得ていた。
 男性経験が皆無に近いシェラにとって、恋の駆け引きなど出来る筈も無く、押して押しまくる姿勢になり、そして大抵の男性よりも仕事の面でも収入の面でも上、態度も当然上――となると、恋そのものが長続きする訳が無かったからだ。
「女みたい――か」
 男らしいと言う言葉を聞く方が圧倒的に多いシェラには、例えオーマがからかうつもりで言った言葉であったとしても、それはとても新鮮で、ちょっぴり甘い響きを持っていた。

*****

「――?」
 ぶるっ、とオーマが突如襲って来た寒気に首を傾げる。
「風邪でも引いたか――――」
 ぽつん、と言葉を切ったのは、首を回した先で、物陰に隠れてこっそり……のつもりらしいシェラとばっちり目が合ったためだ。そして、シェラは目が合ったと気付くと、口元に薄く笑みを浮かべたまま暗がりからぬううっ、と姿を現わして来る。

 ――怖い。
 何が何だか良く分からないが怖い。捕まってしまったら、文字通り最後と言う気がして仕方ない。

「見付かったからには仕方ない……さ、大人しくお縄になりな」
「だ、だれが……ッ!」
 前に見たシェラとは明らかに態度も気配も違う。それなのに、精度はますます上がり、オーマは気付けば日に一度の頻度でシェラと追いかけっこを繰り返していた。
「いっ、一体どうなってんだ?」
 シェラからその場を逃げ回りながら、オーマがぼやく。
 そう――オーマは、知らなかった。
 それは、無意識にせよ純粋な娘を相手にした事がなかったからかもしれない。そして、その一途パワーに触れた事が無かったからかもしれない。
 ……今までの検挙率や仕事の腕からしてみれば考えられないくらい、オーマを逃がし続け、その事によってオーマをある種認め始めたシェラが、次第次第にオーマを特別視し始めたとは露ほども思っていなかったのだから。
 からかい混じりにかけた自分の言葉が、引き金になっていたとも気付かずに。
 そして――ソサエティからではなく、シェラ個人から逃げるために住居を転々としていたオーマの住まいに、時々『毒』としか思えないモノが投げ込まれるようになったのもこの頃からだった。
 ソサエティは、とうにオーマを追う事を諦めていた。それよりも、日々凶悪さを増すウォズを退治する事の方がずっと重要課題となり、処分保留のまま現場復帰を果たしたオーマだったが……。
 凶獣を相手するようになってからは、何故かシェラが捕まえに来ようとはせず、それがどう言うわけか物足りなさを感じるようになっていたのだ。
 最初は来なくなってせいせいした、と仲間内で飲みに行ったり、そのついでに女の子を誘ったりしていたのだが……気付けばいつものように女の子を連れてどこかに行く、という事が無くなっていた。
「おかしいな。俺、病気になっちまったわけじゃねえのに」
 その原因を全く思い付けないまま、仕方なく仕事に勤しむ毎日。そうやって表向き真面目に仕事に取り掛かれば元々実力のある男だけに、たちまちいくつもの功績を上げていた。
 それでも――気が晴れる事は無い。
 何か、小さな刺が胸に刺さったような、そんな僅かな苛立ちを隠し切れず。それが油断を誘ったのかもしれない。
 とある、今までに無い巨大なウォズと対峙した時、何とか封印はしたものの、体中に少なくない傷を負って、それがために珍しく熱を出して寝込んでしまったのだった。

*****

「おはよう」
「ああ、おはよう……ふぁあ」
「寝ぼけてないで身体起こしなよ。包帯や薬を変えなきゃ」
「おう。すまねえな」
「何言ってるのさ。あんたらしくない」
「そうか?」
 まだ熱がある身体の手当てをしてくれたのだろう。聞き覚えのある声に礼を言わなければ、と声のする方を向いて――。

 ――ぴしり、と固まった。
「どうしたのさ、オーマ」
「お、おま、おまえ――何で!?」
 汚れた包帯と張り替えた薬を手に、シェラがにこりと笑いかける。
「あれだけ怪我をしてるっていうのに、手当てする子のひとりもいないようだからねぇ。あたしがわざわざ来てあげたんだよ」
 ぎゅっ、と絞ったタオルで身体を拭きに来るのをままままて、と止めながら、必死に今の状況を整理する。
 怪我をして寝込んだのは覚えているし、熱を出していたらしいのも気付いている。その間に誰かが来て手当てしてくれて……しかもそれがシェラで自分に向かって笑いかけた顔が意外に可愛いってそんな事はどうでも良い事でなんで彼女がここにいるんだとか薬はどうしたんだろうとか次々に頭に浮かんでは消える。
「全く。起きた途端に嫌がるんだから。まだ暫く寝ててくれたっていいのに」
 どうにか背中だけはシェラの熱意に負けて拭いてもらいながら、今何か重要な事を言わなかったか、と熱に浮かされた頭で考えて考えて――顔を上げる。
「あれからどれくらい経ってるんだ?」
「2、3日ってとこじゃないかい? あたしもあんたの怪我の治療や着替えや薬を飲ませたりとか忙しかったから、あんまり覚えてないけどね」
「……そ、そうか。すまなかったな」
「いいのよ。あたしとあんたとの仲なんだから」

 …………………………はい?

 もう一度顔を上げると、シェラが、オーマがどぎまぎするくらい、ちょっと照れたような――オーマから見たらめちゃくちゃ可愛い笑顔を見せて、
「……忘れたのかい?」
 ちら、とオーマを見る。
 忘れたも何も覚えていないオーマだったが、聞き返すのも怖く、またそのままスルーするにも怖く――ただひとつ自覚したのは、シェラが別の意味でオーマを捕らえにかかった、という事だけ。
 その事は、最初の出会いの頃に比べると自分でも不思議な程嫌では無かったのだが、オーマが自分の中に芽生えた感情に気付くのはもう少し後になる。

 そして――結局はソサエティも特務機関をも無理やり納得させた最強――あるいは最凶のカップルが誕生する事になるのだが、それはまた別の話である。


-END-
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
間垣久実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年11月18日

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