▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『消された記憶 』
オーマ・シュヴァルツ1953)&ジュダ(2086)

 一体、何が起こったのか。
 それを知る術は、もうないのだろうか。

 自分の中に封印していた筈の大量のウォズたちが消え去って、何日経っただろうか。その前後に熱を出して寝込んでいた事もあり、正確な日にちや出来事が分からなくなっているだけに、不安だけが募る。
 それ故にか、それとも他の要素からなのか、オーマ・シュヴァルツはこのところ悪夢に悩まされる日々が続いていた。
 それは、自分の足元が……守るべき世界が揺らぐ夢。まるで本当はそこに何も無かったかのように、溶けて崩れてしまう。
 そうして気付かされる。自分の手の、なんと小さな事か、と。
 握り締めた分だけしか守る事が出来ないというのに、何が守護者だと――そうした自嘲気味な笑みさえも、ぶれて歪んで、そして目が覚める。
 夢は夢だと自分に言い聞かせてみても、それがごまかしに過ぎないとオーマ自身が一番良く分かっていた。
 何故なら、頭のどこかで囁く声がずっと聞こえているからだ。
 ――それが、夢の形を取って、オーマへ何か訴えかけているのだと。その意味を今知る事は恐らく出来ないのだろうが……。
「……」
 目が覚めてからは、これで何度目になるか、消えた封印ウォズたちの行方を、自らの具現波動で探り始める。
 糸のように細く細くなったそれを、放射状に、あるいは網の目のように広げながら。その大きさはエルザードを軽く飲み込んで、ユニコーン地方全域を探り続ける。
 皮肉な事に、ここまで力を駆使する事が出来るのは、オーマの体の中に巣食っていた枷が取り払われたからに他ならない。
 そして――嘗ての地ならば、国全体が震え上がるようなこの事態を、オーマは未だ収拾出来ずにいた。

*****

「それではよろしくお願いしますよ。不埒物が入らないよう、しっかりと見張りをお願いします」
「おう。任せときな」
 にっと笑いながら軽く胸を叩く仕草をするオーマと、もう一人の男を交互に眺めた男たちが建物の中へ入って行く。
 今日の日銭稼ぎのバイトは、遺跡探索……の、見張り役。
 未だ人が足を踏み入れていなかった地から遺跡が発見され、中には聖獣装具らしきものがあったと言う報告に、学者たちが色めきたった。そしてそこを調査するために行き帰りの護衛と荷物持ち、遺跡入り口の見張りと言う役目でバイト募集が成されており、条件の割に実入りの良い仕事だとオーマは一も二も無く飛びついていた。
 ――最近では商売も順調だし、様々な所とコネを作っているのに、これでどうして生活が苦しいんだろうと首を傾げながら。
 それでいて、仲間――特に女性たちの衣装や装飾品が気のせいか増えているような気がして仕方が無いのだが、追求するなどと恐ろしい事は考えただけで体が震えてくるため、オーマは無意識にそちらへ考えを向ける事を避けていた。
 それがために、こうしてバイトに精を出すたびに思うのだ。
 ――どうしてこれで俺様の小遣いが少ないのかな、と。
 遺跡入り口の片側にぼうと立ち尽くしながら、緩慢な仕草で首を回して周辺を見る。
 人類未踏の地、とはよく言ったものだ。実際にはここまで足場が悪くなっている地に足を踏み入れたがらないという現実的な答えの他に、この周辺に生えている木々は食べるに適さない実しか実らず、家具に加工するには柔らか過ぎ、おまけに燃やすと変な匂いがするため、燃料としても使えない。
 ここまで人様の役に立てない植物も珍しいな、とオーマが感心するその木はまるで遺跡を人の目から隠すように、幾重にも重なりあってその地一帯を覆っていたのだった。
「……案外、それが目的で植わってたのかもな」
 隣でも退屈そうに武器を持ち替えたり体重移動をしている男をちらと見ながら、オーマが呟く。
 そこへ、ふうふうと息を切らせつつ、一人の研究者が外に出て二人を見、
「侵入者らしき人影や、気配はありましたか?」
 と、訊ねてきた。
「いいや」
 ほぼ同時に否定する二人に、「そうでしょうね。こんな所ですから」と頷き、
「二人に少々手伝って貰いたい事が出来たので、下に来て貰えませんか。奥に石櫃らしきものがあるのですが、重すぎて開けられないのです」
 その言葉に付いて行くと、床にいくつも無造作に転がる聖獣装具らしきものの大きさやデザインをメモしながら首を傾げている者たちの向こうで、数人が顔を赤くしながら巨大な石櫃の蓋を開けようと四苦八苦しているのが見て取れた。
「ああ、そんな力の入れ方じゃ駄目だ。こういうのはな――」
 もう一人の男と、そして数人の研究者を丁度良さそうな位置に配し、そこから数度に分けて力を加えていく。
 ず、ずず、と、オーマたちの動きに根負けしたように石の蓋が動いていき、そして、小さな地響きを立てて蓋が半分ずれ落ちていった。
「おーし。これでいい」
「助かりました。それじゃあ、こっちもお願いできますか」
 ひんやりした遺跡の中で、次に声を掛けてきた方向へとオーマたちが移動しようとしたその時、
 ――ごうっ、と地上から風が吹き込んできて、遺跡内の砂埃を舞い上げて行った。
 こほこほと咳き込む声があちこちから聞こえて来て、それから少しして、
「す、すみません。誰か入り口に布か何かで風を止めて――けほっ」
「それじゃそっちは俺がやっとこう。終わったらまた手伝いはいるか?」
「またお願いするかもしれませんが、そのまま見張りをお願いします」
 その言葉に男が研究者たちの方へと行き、オーマは足早に外に出て、来る時に持って来た大きな布をばさりと広げ、入り口を覆うようにかけた。上に引っ掛ける部分は具現で鉤状のものを作って設置し、そこにぶら下げて地面にも固定する。
「ようし、これで……」
 ぱたぱたと手を叩いて満足そうにうむうむと頷いたちょうどその瞬間。
「――――ぎゃあああああああ!!!」
 今度は遺跡の中から、異様な波動と共に凄まじい声が聞こえて来た。
 大小の差はあれど、その音に含まれた恐怖の質は同じ。
 それは、断末魔の悲鳴に等しく、それ以上の言葉は無くとも何かが起こった事だけは如実に現わすものだった。
「どうした!?」
 ばっ、と布を捲って中へ飛び込んでいく――が。
 ついさっきまでいた、あれだけの人数が、遺跡の中から綺麗さっぱり消えていた。……オーマと同じく、護衛のバイトで付いて来ていたもう一人の男も含め。
 何が起こったか、その場に立ち尽くして周囲へ油断無く目を光らせながら、今しがた自分の肌に吸い付くように奥から現れた異様な波動を思い出し、その痕跡を探る。
 それにしても。
 ただ、聖獣装具がころんと転がっているだけで、他に何の変化も無いのはどうした事か。
 残るは今しがたまで誰かがいた事を示す沢山の足跡だけ。血にしろ、衣服にしろ、装身具にしろ一切残っていない。もし、今ここに先程の声を聞かなかった者が訪れたとしたら、ここで何かが起こったなど想像すら出来ないだろう。
「……まさか皆でかくれんぼしてるわけじゃねえだろうな」
 自分で言った言葉をこれっぽっちも信じていないオーマが、地面に転がっていた聖獣装具を何気なく拾い上げた。

 ――ざわり。

 途端、
 神経の奥深く、御しきれない何かが蠢く。
「な…っ」
 それと同時に。
 オーマの手に触れた装具がオーマの指先から、ぐにゃりと歪み、肌を伝って右腕を装具の色へと染めていく。
「何だ、こいつ、は……っ!? 侵食してやがる……っっ」
 『それ』は一体何なのか。
 分からないが、このまま放っておけば自分にとって良くない事が起こる事はどんな子どもでも予想が付いただろう。
 ぞわぞわと肌の表面を、そして内側を伝い、神経を文字通り逆撫でしながら肩へ、そしてそこからオーマの体の鼓動を刻む唯一の器官、心臓へとなだれ込もうとしている『それ』。
 ぎりりり、と食いしばった途端、唇を切ったか、つう……とオーマの口の端を赤い筋が伝った。
 このままでは……!
 右腕を侵食し続けるそれを押さえつけながら、奥深くへ侵入される前に、と左手に鋭い刃物を具現化させ、振り下ろそうとした瞬間、刃物が左手の掌へと吸い込まれるように消えて行った。
 その代わり、オーマの左手から、金属色の爪が生え、振り下ろそうとした勢いそのままで右腕に喰らいつく。
「――っ」
 ぶちぶちと嫌な音を立てる右腕から、これだけはしっかりと残っている痛みを感じつつ、右腕を敵と見なしている様子の左腕を何故か制御出来ずにいた。
 体内でも何かが荒れ狂っている。それがオーマ自身のバランスをも崩しているのだろうか、だとすればどうすれば元に戻るのか――その前に、がっちりと食い込んだ爪が更に奥へ潜り込もうとするのをどうすれば止められるのか。
「ぐ……っ」
 自分の意志とは裏腹に、全くコントロールが効かない今の状態にぞおっとしたその時、
「落ち着け」
 オーマの左手が食い込んだままの右腕を、大きな手がぐいと掴んだ。そこから溢れる血に自らの袖口が汚れるのも厭わず。
「……よ、お。遅えじゃねえか」
 悔しいが、目の前にジュダの顔があると気付いた途端、これで安心だ、と思ってしまう自分が情けない。情けないが――任せる他は無いと思うのも事実なのだ。
「ただの拒絶反応に、慌てふためく事は無い。……と言っても、慌てているのは中なのだから仕方ないが……」
 ぐ、とオーマの腕を掴む手に力が入り、オーマが顔を顰めた。
 ――そこに、じわりと、ジュダの『力』だろうか、異質でありながら、抵抗感の無い波動が流れ込んで来る。
 そして。
「――――!?」
 オーマの中にあった何かが、その力と激しく結びついた。
 目の前にいるジュダは、ぴくりとも表情を変えないまま、だがオーマを探るように見詰めている。その顔が幾度もフラッシュバックし、いくつかの景色と重なっていく。
 それは、いつか見た夢の光景。
 巨大な戦艦。
 夢にあるような壊れた戦艦ではなく、目の前の風景は、『生きて』いる。
 次々と、スライドのように風景が映っては消え、自分以外の人が現れては、消え。
 談笑する、自分――? 相手をしている彼らは、誰だ?一人は若かりし頃のジュダに似ているが、もう一人は……。
 いや、そもそもここはどこだろう。そして、目の前にいる男は――自分は、一体――。
 ぱちん!
「っ!?」
 巨大な風船が弾けたような衝撃で我に返ると、右腕に取り付いていたモノは既に無く、遺跡の中のそこここに転がっていた聖獣装具もそこから消えていた。
「……」
 ぼう、っとあたりを見回し、静かにこちらを見ている男――いや、ジュダに気付いてようやくふっと息を付くと、
「すまねえ。また迷惑かけちまったな」
 苦笑いを浮かべてジュダへと話し掛けた。
「……なに」
 ふ、とジュダが、小さな小さな笑みを浮かべる。
「いつものことだ」
「――ってなんだと!?」
 打てば響くようにジュダの言葉に突っ込みを入れつつ、外に出ると、うーん、と大きく伸びをする。
「しかし参ったな。俺様以外が行方不明なんつったらバイト代どころか何をしてたんだって責められちまう」
「そうだろうな。危険が伴う仕事とは言え、このままではただではすまないだろう」
「良く分かってんじゃねえか」
 これではこのまま家にも帰れない。帰ったら何が待っているかを考えると空恐ろしい、と心底困った様子のオーマに、
「そこで、だ」
 ジュダがまるで取引するような言葉をかけ、何事かとジュダの方を向いたオーマの目の中を射抜くように覗き込んだ。

*****

 探索の結果はあまり芳しいものではなかった。
 それと言うのも、遺跡の中に放置されていた装具らしき品々は全て聖獣のそれと似せてはいたものの皆巧妙なレプリカで、遺跡を作った民族が聖獣装具を真似て作り上げた祭事用の武具だろうと結論付けられたからだ。
 もちろん、年代ものという意味では無価値なわけではない。だが、すわソーン創世の謎に踏み込めるかと意気込んでいた研究者たちにとっては、肩透かしを食ったようなものだった。
 ――そして。その遺跡にあまり価値が見出せない、と発表されて後の事。
 遺跡が放置されている間に何者かに盗掘され。中に置かれていた装具が全て盗まれ、他の遺跡探索へと出かけていった研究者たちは――行った先で、ふつりと消息を絶ってしまった。
 その探索へは、護衛代わりの冒険者がひとつ同行していた筈なのだが、彼も同じく消息不明になった、と言うのは何かの暗示のようだと一時エルザードで噂になっていたが、それも数日経たずして消える。
 まるで、誰かが情報を操作したかのように。

 そして……無事にバイト代を貰って一安心したオーマの耳に、今度の研究者たちが行方不明になった件が届く事は無く。――それを不審に思う事も、再び研究者たちに会いに行こうと思う事も、何故か無いままだった。


-END-
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
間垣久実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年11月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.