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『魔法少女恵那 〜親友との対決〜 』
飛鷹・いずみ1271)&今川・恵那(1343)

 闇夜を駆け抜ける一陣の光。
 背に小さな天使の翼をつけ、赤いオーブを付けた杖を振り回すその姿は、正に聖なる巫女と呼ぶにふさわしいだろう。
 赤く大きな月を背に、純白の輝きを持つ戦乙女の姿をした今川・恵那 (いまがわ・えな)は、朗々たる声で深い闇に向かって叫び上げる。
「……これ以上悪事を重ねるのは止めて! いずみさんの心は……本当はそれを望んではいないはずよ!」
 名を呼ばれ、飛鷹・いずみ(ひだか・いずみ)は僅かに眉をあげる。
 いずみの姿は恵那と対照的に、闇のように黒いローブを身にまとっていた。
 その手には漆黒の輝きを持つオーブがはめられた、色違いだが恵那のものとそっくりの杖を握りしめている。
「お願い! その杖を放して……!」
「……『お母様』が私に望んでいるの。力のオーブを集めてくること……そして、この世界に恐怖を教えて上げることを!」
 いずみは恵那に向かって杖を突きつけ、力ある言葉を解き放つ。
「深淵(しんえん)に蠢(うごめ)く源は全てを飲み干す泉、滾(たぎ)つ波に飲まれるが良い……!」
 いずみの足元から突如として水が沸き出し、大きな高波となって恵那に襲いかかってきた。
 とっさに杖を振るい、簡易の防御結界を貼るも波の勢いは止められず、恵那は地面にたたき付けられるように押し流された。
「いたたた……」
 着地に失敗したおかげで、頭の奥が鈍い痛みをかん……じなかった。
 ぼんやりと疲労感があるような気がしつつも、不思議と足は地面にしっかりと立っていた。
 落ちたという感覚は、何故かかなり薄い。
 だが、そんなことより今大切なのは、眼前に立ちふさがる敵を倒す事だ。
 親しき友の悪事を何としてでも止めなければ、この世界の平和を護ることができない。
 この世界の命運は恵那の手にかかっているのだ……!
 
 何とか体勢を整えた恵那の眼前に、コウモリに似た黒い翼を広げていずみが舞い降りてくる。
 不敵な笑みを浮かべる彼女の瞳はひどくよどんでおり、一見すると何も見えていないようだ。
 鈍い光を放つ黒い杖を手に立ちはだかるいずみに向かい、恵那は必死に呼びかけた。
「いずみさん、こんなことをしていちゃ駄目。私達友達でしょう? お願い、もう戦うのはやめてください……!」
「……『お母様』を裏切るわけにはいかないの」
 いずみは再び杖を構え直す。
 冷えた空気がいずみの周りに集まりだし、急激に辺りの空気が冷え始めた。
 ぴきぴきと音を立てて、いずみを取り囲むように氷の矢が形成される。
「冷徹(れいてつ)なる裁きを以(もっ)て儚(はかな)さを知れ、絶対なる領域は凍れる箱庭となる!」
 いずみが杖を振りかざすと同時に、氷の矢が一斉に恵那へと襲いかかった。
 ……もう残された道は戦うしかないのか。
 恵那は強く杖を握り直すと、勇気を振り絞り、大声で力ある言葉を解き放つ。
「求めるは灼熱(しゃくねつ)の息吹、猛々(おお)しく大地を焦す炎よ!」
 恵那の杖から炎が舞いあがる。
 まるで生きているかのように炎は次々と氷の矢を飲み込んでいった。
「まだまだっ!」
 恵那は巧みに杖で炎を操り、いずみを追いつめていく。
 迫り来る炎にいずみは何とか対抗しようと簡易的な結界を作り出そうとした。
 その隙をついて、恵那は翼を広げていずみへ突撃をしかけた。
 風の力を身にまとわせて、一気に速度を上昇させる。
 飛ぶ燕のごとく空を駆け、念を込めたままの杖でいずみに振りかぶった。
「やぁああっ!」
 力が相殺し、いずみの作り出した結界が弾け飛ぶ。
 キン、と鋭い音が辺りにこだまし、双方とも、見えない力に貫かれたような激しい痛みを全身に感じた。
「……くっ!」
 体勢を整えようと後退するいずみ。
 そうはさせまい、と恵那は消えかけてた背の翼を再び創り上げ、その後を追った。
 宙を駆けながら杖の先に力を込める。
 杖の先にある玉が淡く白い光を帯び始めた。光は徐々に形を整え、雄々しい鳥の翼へと変化していく。
「天の言霊が流れ落ち時、総ての輝きは翼と成す、慈悲なき怒りをその身に受け止めよ!」
 恵那の言葉を引き金に、光の翼は矢のごとく杖の先から飛び立った。
 とっさに身構えたいずみの杖の先に当たり、派手な音を立てて杖に付いていたオーブを砕け散らせる。
「『お母様』……!」
 眼を見開き大声で叫ぶいずみ。
 その一瞬の隙をついて、恵那は開いている左手でいずみの杖をはたき落とした。
「……『お母様』……」
 何かが抜けたように、いずみはふっと意識を失った。
 すかさず彼女を抱きとめ、恵那は穏やかに微笑みかけた。
 
 意識の戻らないいずみを恵那はそっと地面に寝かしてやった。
 すると、2人を取り囲むように、地面からポンと音をたてて花が咲き始めた。
 リズミカルな音色と共に次々と咲いていく花を、恵那は呆然と眺めていた。
 やがていずみがゆっくりと瞳を開けた。
「ここは……私、いったい……」
 ぼんやりとした口調でいずみは足元から広がっていく花畑に視線を向けた。
「……命の力があふれてる」
「オーブの束縛から解放されたみたいですね」
 にっこりと恵那はいずみに笑いかける。
 ゆっくりと立ち上がり、恵那は笑顔のまま手を差し伸べた。
「もう総て終わったんです。帰りましょう」

―――――――――――――

「と、いうところで目が覚めたんです」
 楽しそうに語る恵那と向かい合うように座っていたいずみは、思わず力尽きたようにテーブルに突っ伏した。
 いずみの心境を察するかのごとく、興信所の前を走っていたトラックがクラクションを鳴らして走っていく。
 是非とも聞かせたい面白い話があると聞き、それならばじっくりと話ができる草間興信所事務所(平日の夕方が貸し切り状態になるのは、事務所として問題があるような気もするが)だろうと、わざわざ立ち寄ってまで話を聞いてやったが……
 滑稽千万な夢物語を語られるとは思ってもおらず、いずみは何だか急に疲れと頭痛を感じずにはいられなかった。
 自分の語りにすっかりはまっていた恵那は、いずみがいつの間にか机に伏しているのに気付き、不思議そうに声をかけた。
「……あれ、いずみさん? どうかしましたか?」
 きょとんと目を瞬かせる恵那。小首を傾げて問いかける様は実に愛らしい。
「何か、とっても疲れた……」
 とは言うものの。よくもまあ、そこまで豊かに想像出来るものだ、とむしろ称賛したい気持ちでもあった。
 夢は無意識の創作物。理想や実体験が折り重なって仕上がる代物だ。どの辺がどう混ざったのかは皆目検討がつかないが、恵那の想像力が豊かだという証拠は成されたということにしておこう。
「それより……ひとつ気になったんだけど……」
 顔だけあげて、いずみはじろりと上目遣いに睨みつける。
「あ、どうも有り難うございますー」
 恵那はのんきに出された茶をすすり始めた。
 ゆらりと立ち上がり、いずみはぐりぐりと恵那のこめかみを押しつぶす。
「な・ん・で・私が悪の魔法少女なのかな?」
「あぐうぅうぅーっ、痛いってばー!」
 いずみのぐりぐり攻撃に、恵那は今にも泣き出しそうだ。
 2人のやりとりをずっと眺めていた草間武彦は心の中で「似合いな配役じゃないか……」と呟きつつ、そっと視線を窓の外へ移した。
 気付けば空はすっかり茜色に染まり、水に流れるような細く淡い雲が夕焼けに向かって伸びていた。
「……そろそろ暖房でも付ける時期、か」
「いずみさん格好良かったですよー? 何怒ってるんですかぁ?」
「そもそもそんな夢を見る頭の構造から問うべきね! 昨日か一昨日までに一体何をしていたのか、白状しなさいっ!」
「えー……全部ですか?」
「勿論よっ」
 武彦はちらりと子供のケンカの真っ最中である2人に視線を移した。
 が、すぐさま夕焼けの空へと顔を戻す。
「そろそろ帰る時間だと思うんだがな……」
 愛用のタバコに火をつけ、ゆっくりと煙を肺に流し込む。
 今日も一日平和だったなぁ……
 細くたなびく雲を眺め、武彦はぼんやりとそんな風に考えていた。
 
ーおわりー
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
谷口舞 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年11月11日

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