▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夢の中へ 』
オーマ・シュヴァルツ1953)&ユンナ(2083)

「どう?」
 耳をくすぐるようなユンナの柔らかな声に、オーマ・シュヴァルツがふぅっと息を吐き出す。
「おう。大分マシになったぜ。ありがとな」
「これくらいどうって事はないわ。実際の肩揉みに比べたらね」
 オーマとユンナの二人が、誰もいない診察室にいる。椅子の高さを一番低くしたオーマの背に、ユンナが取り付いて肩のマッサージをしているような仕草だったが、二人の間を流れる『力』はそれとは別の部分を癒していたようだ。
 ――オーマには、時折発作のような現象が起こる。それは、オーマの内にあるWOZが原因とユンナには分かっていた。ユンナ自身、自らの中にWOZがあり、それがオーマが発作、または痛みに近い何かを感じる度に共鳴作用を起こすからである。
 最初はオーマが誰にも言わずにいたため、共鳴を感じはするものの気付かずにいた。だが、オーマの態度の変化と共鳴が毎回同時に起こる事に気付いたユンナがオーマに問いただして後は、時折こうしてユンナがオーマの苦しみを和らげるようになっていた。
 不思議と、ユンナにはWOZを中に入れている事の代償は無く、オーマの発作めいた症状の時にマッサージを行うとじきに痛みが消え去っていくのだったが、その理由については二人とも良く分かっていない。
「違いない。その華奢に見える身体じゃ、筋肉ぱんぱんの俺様の身体を揉みほぐすのは至難の業だろうな」
「そうね」
 秋のぽかぽかと暖かな日差しを浴びながら、二人が顔を見合わせて微笑む。
 ――長い、付き合いだと思う。
 いつから始まったのかはもう覚えていないが、気付けば腐れ縁をとうに凌駕した関係になっていた。オーマが兄で、ユンナが妹で、と役割は最初から変わっていなかったが。
「そういやな」
 ぽつりと、そんな雰囲気の中、オーマが口を開く。
 彼にしては珍しく、こうした無言の時が落ち着かなかったらしい。ふと思いついた、と言う口調だったが、その内容にはユンナの眉を潜めさせる何かがあった。
 オーマが最近になってやたらと同じ内容の夢を見るのだと、オーマ自身は軽い口調ながら、目の奥にはどこか真摯な光がある。
 彼自身も感じているのかもしれない。その『夢』が、ただの夢ではない事を。
 それはいつも、巨大な戦艦の中だった。
 元は人も住んでいたらしいひたすら大きな戦艦。夢の中では荒れ果て、生きるものの気配はほとんど無い。
 唯一あるとすれば、それは戦艦を中央から貫く勢いで生えている巨木のみだと。そこには何かがあったような気がするが、所々が曖昧で思い出せないのだと。
「……気になるわね」
「ユンナもか」
 オーマが呟くと、こくん、と黙ったままユンナが頷く。
「今晩、潜ってみるわ。最近は毎日なのでしょ?」
「なんだ、気付いてたのか」
「そうでもなければ、オーマが私に相談する訳無いじゃない」
 オーマの簡単な説明だけで、どう言うわけか戦艦内部の状況がユンナの頭に浮かぶ。それは奇妙な生々しさを持って、彼女のまぶたの裏へ浮かび上がった。
 そして、その映像が、確認するまでも無くオーマの夢に出たものだと、何故だか確信めいたものを感じていた。

*****

 ――背もたれが斜めになっている椅子にオーマが座り、目を閉じている。
 その隣にはユンナが、同じく目を閉じて座り、オーマの額に手を当てていた。
 本当なら、額同士を付けた方が精神の具現同調には役立つ――が、そのまま夢の中に潜っていった場合、座っていないとユンナが床の上に倒れてしまう可能性が高いため、やや精度は劣るものの今回の形にする事にした。
 オーマは既に、軽く寝息を立てている。
 そこにユンナが、呼吸をオーマと合わせながら、ゆっくりと同調を開始した。
 『それ』は、とても簡単に繋がった。
 WOZを互いに持っているせいだろうか。そうとでも考えなければ、これほどまでにあっさりと相手の中に潜り込めはしないのだが――。

*****

「……お」
 いつもの夢の中を彷徨っていたオーマの目の前に、ユンナが不思議そうに辺りを見回しながら現れる。
「来たか。ここなんだが――どうだ?」
「……見覚えは……ないわね」
 話に聞いた通りの場所で、自分の想像通りだったにも関わらず、ユンナはこの場所に見覚えが無く、ゆるりと首を振って否定する。
「そうか。となると俺様だけかもしれねえな。じゃあしゃあねえ、今日はこれで止めてくれ。俺ひとりの夢となると、色々恥ずかしいモンがおまえさんの目に映るかもしれねえ」
 笑いながら言うオーマだったが、それは十分ありえる話だった。誰にも見せられない深淵を意図せず覗き込んでしまう可能性は否定できない。
「オーマの恥ずかしい部分なんて、私が知らない事は無いようなものだけど。まあいいわ、じゃあ術を解いて――」
 言いかけたユンナが、目を見開いて後ろを振り返る。
「どうした?」
「今、誰か――」
 オーマの問いかけにも、半ば上の空で答えると、ユンナは再び別の方向を見て、そこから逃げるように突如走り出した。
「ユンナ!?」
 慌てて後を追うオーマ。――が、ユンナの逃げる方向を追いかけたその背に、ぞわり、と何とも表現のしようのない『視線』が突き刺さった。
「っ!?」
 ばっ、と後ろを振り返るも何も無い。それは当然だ、自分の夢の中で、いつも自分は一人きりだったのだから。
 そうしている間にも、足音は遠ざかっていく。
「待て、ユンナ、先に行くな!」
 声に出して引き止めながら足を進める、と、突如前方から、後方から、そして上空からいくつもウォズが現れて行く手を塞いだ。
 それは誰かの意志のように。
「邪魔する気か、おまえら。……っつうか、ここは俺様の夢ん中だ。容赦しねえぞ」
 これを除けなければ先には行けないと分かったオーマが、呼吸を整えて地を蹴った。

*****

 ――どこまで走ってきたのだろうか。
「怖くて逃げた、なんて子どもみたいな事を言ったら笑われそうね」
 そうは言いながらも、夢だからか呼吸一つ乱れていないユンナがぐるりと辺りを見回す。そして気付く。オーマの夢の中に出てきた、空中庭園がここなのだと。
 その証として、巨大な木が文字通り天を貫くように聳え立っていた。
 巨木の真下に小さく見えるのは、なんだろうか。
「……」
 正直、近づくのが、怖い。
 ここまでの恐怖は今まで感じたことなど無かったのに。どうして、あの視線や、この場所に居るのがどうしようもなく怖いのだろう。
 ぶるっ、と一度大きく震えたユンナが、それでも意志に反して一歩、また一歩と近づいていく。
 そして、それが墓だと気付いた――いや、『知っていた』事に、何故だか激しいショックを受けていた。
 墓の上には、一枚の古びた写真がある。
 震える手でそれを手に取ったユンナは、こわごわと中を覗き込み、そして……。
「あ……あ、あ……」
 言葉が、出ない。
 中に写っていたのは、3人の人物。と言っても、中央にいる女性以外は上半身が破り取られ、足しか見えないのだが……中央にいる女性には、見覚えがあった。
 無いわけは無い。
 髪も目も色が違い、見た目の年齢も写真の中の女性の方が上とは言え、それはまさしくユンナそのものだったのだから。
「――――う……っ、ぐ……ぅ」
 左手に写真を持ちながら、右手で口元を押さえる。
 吐き気がし、眩暈が止まらない。にもかかわらず、その写真からは目が離せない。
 ここはオーマの夢の中ではなかったのか?
 それとも、もしかしたらこれは――オーマの夢の中に入ったと思った事が既に夢だった?
 ぐるぐると目の前が回る。
 吐き気が止まらない。がんがんと頭が締め付けられ、身体がばらばらになりそうだ。
 目の前が真っ白になる、そんな中でも『視線』は彼女を見詰めている。
 ――だから。
 ユンナは、さしたる抵抗もせずに意識を手放した。

*****

「―――――っ!」
 がばっ、と顔を上げると――そこは、自分の部屋の中。
 隣を見れば、まだ自分の手が額に乗ったままのオーマが、目を閉じ苦悶の表情を浮かべながら、びくびくと手や足を痙攣させながら眠りに落ちている。……何をしているのだろう、と苦笑を浮かべながら、ユンナが汗びっしょりの額を拭おうと、左手を持ち上げた。

 かさり、と。

「え――――」
 左手の中にあったものは、そこにある筈の無いモノ。
 それは、一枚の古びた写真――。

*****

「オーマ。いい加減起きなさいよ」
「……ぅ、う? お? あれ、ウォズはどうした?」
「なに? 夢の中でもウォズと戦ってたの? ホント飽きないわね」
「いやあれは飽きるとかそういうものじゃなくてだな……」
 ユンナを追いかけて行ったその途中でウォズに行く手を阻まれ、延々戦いを繰り返していたのだとオーマが言う。
「いやそれが妙に強くてよー。しかもダメージ受けても受けてもすぐに回復しちまうんだ」
「……それ、多分夢だからだと思うわ」
「そうかぁ?」
 きっとそうよ、と笑いながら頷くユンナは、だからあんなにびくびく痙攣してたのね、とにこりと笑う。
「なんだ、見えてるんだったら起こしてくれたっていいじゃねえかよ。こっちは苦労して戦ってたっつうのに」
「やあねえ。寝起きの顔なんて人様に見せられるわけないでしょ? 顔を洗いに行ったに決まってるじゃない」
 いやそれは酷ぇんじゃねえのか、というぼやきを聞き流しながら、汗ひとつない顔に笑みを浮かべるユンナ。
 その笑顔が少し翳っているように見えたとしても、オーマは何も言わずいつも通りに振舞っている。
 写真は、きちんと隠されていた。ユンナにしか取り出せない場所の奥底に。

*****

 こうして、オーマの夢を調べると言ったユンナの言葉は宙に浮いたまま、いつの間にか終わり。――ひとつ、不思議な事が起きていた。
 オーマの夢は相変わらずだったが、回数と見る時間が減ったのだ。
「まるでユンナが来たら満足したみてぇだな。俺様夢の中でひとりぼっちだったけど、そんなに寂しかったっつう事かね」
「……さあねえ。どうかしらね」
 どきりとするような事を何気なく言って来るオーマの魂胆は分かっているが、こればかりは言えない。言うわけにはいかない、とユンナはにこりと笑みの中にごまかし、
「少し減ってきたのならいいじゃないの。私の『治療』が役に立ったと言う事よ。オーマよりも私の医術が上と言う事かもしれないわね?」
「おう、そう来たか。そっちじゃ負ける訳にゃいかねえよ。……っと、患者らしい」
 軽く拒絶したと気付いたオーマがその話題から離れてくれた事に内心感謝しつつ、ユンナは気付けば爪跡が付くくらい、固く手を握り締めていた。
 ……その手は、開けばすぐそれとわかるくらいじっとりと湿っていた。


-END-
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
間垣久実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年11月02日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.