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『人物鑑定依頼外伝〜あの兄にしてこの妹あり 』
綾和泉・汐耶1449

 …綾和泉汐耶。
 都立図書館の司書をしているお姉さんである。
 普段はカウンターに勤めており本の貸し出し返却等々やっているのだが、特別閲覧図書及び要申請特別閲覧図書――即ち、曰く付きの本、真正の魔術書の類――も一手に引き受けていたりする。
 それは、『封印する』と言う能力を持つ故で。
 基本的に現実主義だが、そんな力も持つ関係でか…別に頑なに物理科学至上主義と言う訳でも無く、怪奇現象の類も本物がある事はあると認識してはいる。…目の前で起こってくれれば一応信じはする。
 …外見の話に移ろう。
 この彼女、見たところは中性的な顔立ちで、伊達の銀縁眼鏡を掛けている。
 髪型はショート。
 で、百七十二センチと長身の上にスレンダーな体型、更にはパンツルックを好んでいるせいか――時折、男性に間違えられる事もある。

 そして。
 普段は冷静沈着だが、やられたら倍にして返すと言う過激な面もあったりした…。

 …と言っても、別に今回は綾和泉汐耶の調査を行えと言う話では無い。
 彼女は今回草間興信所に依頼に来た張本人である。
 普段は単なる常連もしくは時には調査員…ではあるが、稀に依頼人になる事も無い訳ではない。



 …そんな訳で草間興信所。

「また人物鑑定、か」
「と言うか、それもですが――交友関係の調査もお願いしたいんですよね」
 私の同僚になる女性なんですけど。
 言って、汐耶は探偵に煎れてもらった最早色すら出ていない出涸らしのお茶をのほほん啜っている。
 探偵――草間武彦の方もまた、汐耶が飲んでいるのと同様の、自分で煎れた出涸らしのお茶に口を付けている。
「利用者じゃなくて今度は同僚か」
 …この汐耶が人物鑑定と来る以上は――例に漏れずまた、要申請特別閲覧図書関連だとは武彦にも予想が付いていたが。ただ、今までは図書館利用者、即ち申請者の方についての依頼ばかりだったが…少し今回は様子が違うらしい。
「ええ。少し不審な点がありまして」
「お前の勘は当たるからな」
「勘が当たると言うよりそれなりの根拠もありまして」
 この彼女、要申請の書庫の鍵を探していた痕跡があるんですよ。まぁ、鍵自体に封印を掛けているので他人には認識出来ないようにはなってるんですけれど、探していた痕跡がある事は事実で。
「…そりゃ随分命知らずだな」
「…そう思われますか」
「…その時点で『責任者』を敵に回すだろ」
「…まったくその通りです」
 のほほん湯呑みを傾けたままで、汐耶。
「で、その当の彼女が――近頃私をよく合コンに誘ってくるんです。…気が向かなかったのでずっと断ってるんですけどね」
 今までも、その彼女とは特に仲が良かった――って訳でもないんですよ。
 それに、普段からそう言う話を持ち掛けてくる事が多い子だったりしたならそれはまぁ自然に受け止められますけど、この彼女の場合、最近になって妙に多くなってきたと言うのもありますし。
 …だからと言ってその彼女、最近いきなり遊び方が派手になった――と言うような節もないんです。
「それで、この合コンの誘いも裏があるかなって思えて来たんですよ」
 …鍵を探していた痕跡を見付けたのも、そんな中ででしたから。
「で、うちに依頼に来た訳か」
「そうなります」
「まぁ、確かに同僚となれば客観的にわかる決定的な証拠がない限り内部では如何ともし難いか…。わかった」
 …で、報酬の方だが。
「今までみたいに割り引きなくて普通でいいですよ」
「…いいのか?」
「何だか気の毒になって来ましたから」
 季節もこれから寒くなってくると言うのに。
 言って、汐耶は湯呑みに視線を落とす。
「…」

 湯呑みの中には白湯の如き出涸らしのお茶が。



 …数日後、草間興信所。

「出たぞ」
 と、探偵から汐耶の前に差し出された調査報告書には――何やら何処かで見たような気がする名前。
「交友関係でお前に以前渡したリストの中に居た奴が出た。…どうやらその男、お前の言うその同僚と付き合っているらしい」
 その男――申請者として要注意とされている人物。
 …カウンターに来たら色々理由を付けて門前払いにする事が確定事項の口だ。
「つまりは搦め手で来たって事が考えられそうだな。…それに、この彼女が合コンを企画して声を掛けたメンバーにもこの男が入ってる。それでいて二人の関係は隠したままだ。その上で、合コンの席でお前を狙おうとしているみたいだぞ」
 合コンのメンバーに変な根回しめいたものまで見えた。是非お前を誘って欲しい、お前に気がある――と言い触らして回ってる。お前も女だから――何とか懐柔してやろう、ってところか。
「…そう来ますか」
「御苦労な事だ。…そこまでして要申請特別閲覧図書が見たい訳か」
「そこまで舐められるとさすがに頭に来ますね」
「だろうな。…どうする?」
「…後どのくらい積んだらやってもらえます?」
 報復。
「…」
 言われ、探偵は反射的に迷う。
 果たしてここは素直に言うべきかちょっとくらい吹っ掛けてみるべきか、と。

 まぁ、受けない、と言う選択肢は初めから無いのだが。
 …対象が、調べた結果あまり放っておきたくない類の人間でもある上、正直な話をすればここは折角の稼ぎ時とも言えるので。



 …結果。
 更に数日後。

 探偵から具体的な報告は特に無かったが――汐耶の方に実感として先に来た。
 件の同僚の女性が勤め先から唐突に辞職していたのである。で、他の同僚やらに彼女どうしたのかなとそれとなく訊いてみると…要申請書庫の鍵の件が何故か上にバレ、更には他にも何か少なからず問題行動があったらしいと言う話で…自主退職の形にはなっているがそれはぎりぎりの温情で本質的には免職――クビも同然だったらしいと聞かされた。
 で。
 汐耶はそれから草間興信所に確認に行ってみる。
 と。
 頼まれた同僚――いや元同僚か――の彼女の方はそのくらいでいいだろと、探偵は自分の仕業であるとあっさり肯定。元々そのくらいなら自業自得の話、つまりは調べた件を汐耶の上司と言うよりその上の方に匿名で送り付けた訳である。…まぁ、ちょっと辛口のお口添えになりそうなお手紙を付けはしたらしいが。
 一方のその、同僚だった彼女のお相手の要注意人物の方は――草間興信所の伝手の方で、当人お目当ての『物』を使ったり参考にして喚び出される類の『凄まじい方々』を親切にも御披露、どっぷりとその身で実感して頂き。
 結果として…現在、社会復帰が叶うか否か微妙な状態に陥っていると言う。

 …きっと、本望である事だろう。
 合掌。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年10月27日

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