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『ピースを拾って 』
結城・二三矢1247)&月見里・千里(0165)



 風に舞って手元に飛んできた写真がもたらした希望。
 それは本当に小さなものだったけれど、俺のちりちりとした心の痛みも、そして彼女の涙も全て消せるかもしれない。
 そんな風に思えたんだ。



 たまたま入った喫茶店で、思わぬ偶然から目にした写真。それからというもの、俺は彼女に会いたくてたまらなかった。
 記憶の中での泣き顔と、写真の中の笑顔が脳裏に浮かぶ。
 どちらの表情を思い出しても、胸の何処かが傷んだ。切なくて胸が苦しくなる。

「なんだろう……。まるで昔から知ってて……恋……してるみたいだ」

 自分で呟いて恥ずかしくなる。しかしこの感覚はそれによく似ているような気がした。
 離れているのに、今どうしているんだろうと気になって仕方が無くなって。
 泣いていたらどうしよう、と突然不安になってみたり。
 今すぐに会えない事が焦れったくて仕方がない。
 俺はこんなに自分が他人の事を気にする日が来るだなんて思いもしなかった。良いのか悪いのか欧州を渡り歩いていたせいで、基本的に女性に対して親切にする方だとは思うが、これは明らかに度を超している。
 とりあえず、やっと見つけた手がかりを手放す事なんて出来ない。
 通っている高校も分かったのだ。これはありとあらゆる手段を講じて情報を集める必要がある。
 しかしどうやったらその情報を集められるか。その手段は少ない。
 学校は分かったのだから本当は校門前で待ち伏せれば良いのだろう。しかし写真が手元にない状態での聞き込みは難しい。
 写真が手に入ればなぁ、と思いながら時間は過ぎていった。
 日が経つにつれ、授業中はなんとか集中する事ができたが、余りにも彼女のことが気掛かりで休み時間は上の空になることが多くなった。友達の話も話半分に聞いて、とんでもない事態を引き起こした事もある。
 そんな俺を見てられないと思ったのか、今日こそは、とぼんやりと上の空で聞いていた俺に渇を入れる友達数名。

「オイ、悩みがあるなら聞いてやるから。ほら、さっさとぶちまけろ」
「毎日毎日上の空で人の話聞きやがって。ったく、そろそろ正気に戻れよなー」
「この間のアレか? デートの事か?」
「ちょっ、なんだそれ。俺、寝耳に水」
「二三矢、それ詳しく聞かせろっ!」

 一気に押し寄せてくる友達に俺は目を丸くさせながら笑う。

「違うって。あれはデートなんかじゃなくて人捜し」
「あぁ? そうだったのか。つまんねーな。じゃ、その人捜しは男か女か」
「良い質問だ! どっちだ?」

 パチン、と指を鳴らした友達が俺に問う。期待に満ちた視線が俺に注がれた。
 ここで逃げてもきっといいことなんて一つもないだろう。言ってしまって情報が貰えるならそっちの方が良かった。
 俺は観念し、溜息を吐きながら告げる。

「女の子。都内の某お嬢様学校に通ってるってとこまでは分かったんだけど……」
「誰だ? 何年?」
「分からない。だから困ってるんだけど……」
「某お嬢様学校ってあそこか。二三矢、俺の彼女の事探してるとか言うなよー」
「なんだ、お前あそこに知り合いいんの?」
「その話も寝耳に水だなぁ」

 ぼそりと漏らした友達の言葉に皆が食らいついた。俺も顔を上げてその友達を見つめる。
 両手を目の前で振って否定しているがきっと嘘だろう。

「写真とか持ってない?」

 駄目で元々。俺は希望を胸に聞いてみる事にする。可能性はゼロに近いけれど。
 視線を泳がせていた友達だったが、俺の真剣な表情を見てしぶしぶと鞄から写真を取りだした。

「ほらよ。出血大サービス」
「ありがとう」
「ただ、映ってるかどうかはわかんねーからな。学祭の時の写真だから、運が良ければもしかしたら映ってるかもしれねーけどさ」

 手渡された写真を眺める。にぎやかな学園祭の雰囲気がたくさん詰まった写真だった。
 目をこらしてその中から目当ての人物を捜す。

「まっさかいるわけねーよなー」

 大声で笑う友達。
 でも俺はその写真の中に彼女の姿を見つけた。
 凄い確立だ。まるで俺と彼女を引き寄せるように少しずつピースが埋まっていく。このピースを拾い集めたら、どんなパズルが出来上がるのだろう。崩されたパズルが元に戻るのだろうか。
 そんなことを思っていると、友達の声で俺は現実に引き戻される。

「で、居たのか居ないのか?」
「………居た」
「マジで?」

 急かす友達に俺が頷いてみせると周りの方が盛り上がった。まるで自分の事のように喜ぶ友達に俺は微笑む。

「やったじゃん。よーし、それじゃ俺が特別にその写真を譲ってやろう。元は俺が持ってるし」
「恩に着る。俺、ちょっと行ってくる」
「おー、見つかるのを祈っててやるよ」
「情報掴んでこいよ。お前の上の空はもう飽きたからな」

 俺は頷いて放課後の校庭を全速力で駆け抜けた。




 俺は彼女の通っているお嬢様学校の正門前へとやってきた。
 すでに下校の時間になっているらしく、帰って行く生徒が多数いる。顔をちらちらと眺めながら彼女を捜すけれど、やはりそう簡単には見つからない。
 俺の記憶と写真の中の彼女は肩くらいまでの髪だった。そのような髪型の人物を中心に視線を動かす。
 帰って行く生徒の中には俺の事を興味深そうに眺めていったり、わざと聞こえるような声で、誰待ってるんだろう、と話していく人物もいた。
 女子校の前に男一人、というシチュエーションが目立つ原因なのは分かっているが仕方がない。
 おおっぴらに聞き回っては、怪しい奴だと追い払われかねない、と俺はひたすら帰っていく人を眺め続ける。
 そこへ見覚えのある生徒が現れた。黒髪のロングヘアの生徒だ。俺は必死にその人物を何処で見たのかを思い出す。
 写真をちらりと眺め、そこにその姿を発見し俺は迷わず駆け寄った。

「あの、すみません。人を探してるんですけど……」

 訝しげな視線を向けてくるが、ここで引き下がる訳にはいかない。
 やっとここまで辿り着いたのだ。立ち止まる事なんて出来ない。
 俺はどうしても自分の胸が傷むのかを知りたいし、彼女の涙の訳を知りたかった。そして彼女の痛みを取り払ってあげたいと思うんだから。
 だから俺は真剣な表情でその人物に尋ねた。

「写真見て貰えますか? この人なんですけど」
「……急いでるんだけど。どれ?」

 面倒くさそうにその生徒は髪を掻き上げ、俺の差し出した写真を見つめた。

「アタシ映ってるじゃない。やだなぁ、だから声かけてきたの?」
「えぇ、そうです。あなたの隣に映ってるこの人の事が知りたくて……もしかして知ってるんじゃないかと思ったので」
「知ってるわよ。同じクラスだもの。まさか……変な事に使うんじゃないでしょうね」
「そんなこと絶対にしません」

 俺はきっぱりとそう断言した。
 するとその生徒は、そう、とやけにあっさりと言う。

「で、なにが知りたいの? 名前と学年までなら教えてあげる」
「それだけで十分です」
「住所までって言われたら先生に告げ口してやるとこだけど。いい? メモしなくて平気?」

 慌てて俺は携帯を用意して、生徒の言葉を待った。

「いい? 彼女は高校二年生。名前は、月見里千里よ。今日は来てないけどね」

 これでいい?、と生徒はちらりと時計を見る。本当に急いでいるのかもしれない。
 俺は礼を述べてその生徒と別れる。
 足早にその生徒は駅へと歩いていった。
 その背を見つめていた俺は、握りしめた携帯に視線を移す。そしてメモ欄に書かれた名前を見つめた。

「やまなし……ちさと……か」

 その名前を口にしてみると、何故だかとても懐かしい気がした。
 俺は一つずつパーツを拾って、彼女へと少しずつ近づいている。
 本当にその一歩は小さいけれど、少しでも近づいているという事実がなんだか嬉しかった。

「今度は会えるかな……」

 俺がまだ集め足りないのは何か分からないけれど。
 それでももう一度会いたいと思うから。

 俺はもう一度彼女の名前を呟いて、寮への道を歩き始めた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
紫月サクヤ クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年10月21日

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