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『【憎しみという名のDestiny】 』
イーリス(w3a525)&九条・縁(w3a525)

 ――このような悪戯が許されるものでしょうか?
 逢魔のわたくしめ――イーリス――と主である魔皇――九条縁――様は、新東京付近の復興途上及び再開発地区へと、デビルズネットワークタワーの依頼により駆り出されたのでございます。
 そこは廃墟と荒地に包まれ、幾つもの重機が機能を停止させたままの、ゴーストタウンでした。夕焼けで茜色へと染まる風景の中、乾いた風が吹き抜け、痛んだ看板が耳障りな音を鳴らして揺れております。その時は未だ、運命の悪戯を知る由はございませんでした‥‥。
「テロリストの鎮圧って依頼だが、どこにいやがるんだ?」
 縁様が風に茶髪を舞わせながら、辺りに青い瞳を流しておりました。乱れる長髪を気にしてか、端整なお顔の上で舞い踊る髪を手で掬い、撫で付けます。わたくしめは主様に応えるべく口を開かねばなりません。
「‥‥情報では確かにこの場所でございますが‥‥ガセでしょうか?」
 デビルズネットワークタワーには様々な情報と依頼が届きます。中には嘘の情報や不確かな情報、または罠などの場合も少なくありません。縁様は「そうだよなぁ? ったくガセネタかよ」なんて舌打ちしておりました。背も高く、逞しい身体つきをなさっているのに、こんな仕草が子供っぽくて。
『どこの飼い犬が来るかと思ったら、たった二人とはね!』
 突然女性の声が響き渡りました。縁様とわたくしめは声の主を視界に納めるべく、周囲を見渡します。声は確かに上から響いて来ました。ならば――――。
「緑様、あのビルでございます!」
 わたくしめが指を差し向けたのは建築途中のビルでございました。幾つも鉄骨が剥き出しで重なり合う中に、一人の女性の方が覗えたのです。それは類い希な美貌の持ち主でございました。そして、瞳を釘付けにしたのは、一般的女性の平均を圧倒的に凌駕する豊かな乳房だったのです。思わず視線を自分の胸元に下ろし、両手を添えてみました。うん、引け目は感じません。でも、主様はどんな顔であの女性を見ておられるのでしょうか?
「おまえがテロリスト魔皇か!?」
 緑様がテロリストらしき女性に言い放ちました。好みの女性だからでしょうか、明らかに動揺が魔皇様の真剣な横顔から覗えたのでございます。
「そうだよ、飼い犬に成り下がった魔皇ッ!」
「‥‥緑様? あの方」
「あぁ、ヤケに喧嘩売って来やがるぜ」
 わたくしめの声を答え、主様は舌打ちしたのでございました。更に緑様はテロリストの女性へ続けます。
「飼い犬ってよ、平和に何が不満だってんだよ! 俺達が望んだ平和だろ?」
「平和? 人間に従属するのが平和と思っているの? エンジェルと見せ掛けの共存をする事が平和なの? ‥‥死んだ仲間達が望んだ世界だと本気で思っているの!?」
 途端に女性の声に変化が顕われました。最後は叫びのように感じたのでございます。刹那、女性は金色のオーラを放つと共に刻印を浮かばせると、魔皇殻を召喚したのです。‥‥修羅の黄金。緑様と同じ刻印を持つ女性の魔皇‥‥。それに魔皇殻も主様と同じ‥‥。わたくしめの胸騒ぎを余所に、緑様は説得を試みます。
「待て、俺の話を聞けッ!」
「煩いッ! 気に入らないんだよ!」
 女性の魔皇は緑様へと攻撃して来ました。わたくしめは援護する為に主様の元へと駆け寄ろうと走り出した、その時でございます。
「貴女には拙者の相手をして頂こうか?」
「あなた様は!?」
 視界に割って入ったのは、均整の取れた長身の精悍な風貌の男性でございました。装備しているのは『魔操の篭手』。同じレプリカントの逢魔‥‥。
「あなた様がテロリスト魔皇の逢魔なのでございますか?」
「いかにも。よって邪魔立ては拙者が許さぬ」
「同じ道を歩みながらも、道を違え進んで行き、今度は魔に属する者同士で戦うのですか!?」
「‥‥おぬしがどうしても邪魔するというのなら、いたし方あるまい」
「‥‥ッ、ヴォルフカノーネ!」
 わたくしめは白銀の狼型魔獣殻を呼びました。魔獣殻は直ぐに駆け寄り間に割って入ると、前足を低く構え、攻撃の姿勢で威嚇します。それでも逢魔の男性は不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと片腕をあげると共に、名前を呼び、魔獣殻を呼び寄せたのでございます。滅多に動揺しないわたくしめですが、思わず口から声が漏れておりました。
「‥‥獣型の魔獣殻」
「拙者の魔獣殻が勝つか、おぬしの魔獣殻が勝つか‥‥面白い戦いになりそうだな。それとも、拙者達の拳で語り合おうか?」
 楽しいのですか? そんなにわたくしめの邪魔をする事に不敵な笑みを浮かべ、瞳を研ぎ澄ますというのでございますか? 膠着状態が続く中、響き渡るは魔皇殻の弾け合う音と、主様達の声でございます。やはり緑様は防戦一方で説得を続けておられるのですね。何故でしょう? 不思議な感覚が胸に痛みを与えるようです。
「どうしたの? 飼い慣らされて腕が鈍ったんじゃないの?」
「考え直せ! 今なら見逃してやるぜ!」
「ッ! 未だそんな事を言うのキミはッ! エンジェルなんて生かしてちゃいけないんだよ! 僕達とは分かり合える訳がないんだよッ! ギガプレイクスッ!!」
「緑様ッ!」
 強烈な斬撃が叩き込まれ、真天魔剣デュエルカイザーで防いだものの、主様が派手に吹き飛んだのです。更に魔皇の女性は真狼風旋で疾風の如く肉迫し、魔剣の切先を放とうとしておりました。
「ヴォルフカノーネ、緑様を護って下さいませ!」
「甘いぞ! 飛び掛かれッ! 魔獣殻よ!」
 刹那、大きな凶犬が鋭利な爪を輝かせて、ヴォルフカノーネを強襲しようと飛び掛かりました。わたくしめは瞬時に限界突破を発動させ、拳に力を蓄えると魔操の篭手を叩き込んだのです。鈍い衝撃と共に強固な装甲で覆われた獣は吹き飛び、土煙を噴き上げながら巨体は地面に叩き付けられました。それでも、ゆっくりと身体を軋ませながら魔獣殻は起き上がります。
 よかった‥‥ヴォルフカノーネはわたくしめの代わりに緑様の窮地を救ってくれたようです。ホッとしたのも束の間、腹部に強烈な痛みと鈍い衝撃が強襲し、わたくしめは呼吸が出来なくなって膝を着きました。更に霞む視界に男性の廻し蹴りのフォームが映り、咄嗟に腕をクロスさせたものの、腕ごと薙ぎ放たれた蹴りに吹き飛ばされたのです。土の味と血の味が口一杯に広がり、とても不快でした。
「かかったな! そこまでして魔皇を助けたい気持ちは褒めてやろう。しかし、レプリカントに限界突破を見せるとは笑止!」
 一気に目眩に似た感覚が襲い、息が苦しくなり、急激な疲労感が躰の自由を妨げました。霞む視界の中に男性を捉え、震える足を立たせようと懸命に奮い立たせました。
「ハァ、ハァ‥‥不意打ちとは、最低で、ございますね」
「おぬしが獣なぞ放つからだろうが! 拙者とて魔皇は大切な存在だ」
 立ち上がったわたくしめに男性の鋭い拳が次々と放たれます。何とか手で捌きながら廻し蹴りを放ちましたが、今の力では限界だったのでしょうか。容易く片腕で防がれ、瞳を研ぎ澄ますと共に鉄拳が鳩尾へと叩き込まれました。
「ぐふぅッ!」
 胃の中が一気に逆流する感覚に襲われながら、地面から足が浮き、ズンと重い衝撃と共に舞い上がったのを覚えています。意識が遠のいたものの、強かに地面に身体を叩き付けられ、悶絶する意識の中で、魔獣殻をメタモアームズさせる男性の姿が浮かび上がりました。バレルへと変容した魔獣殻の前足をわたくしめの胸に突きつけ、不敵な笑みを浮かべます。四足獣型魔獣殻のメタモアームズ形体はパイルバンカーを打ち出す射撃武器。‥‥ヴォルフカノーネは? どうやらダメージを蓄積させ、送還されてしまったようですね。
「せめてもの情けだ。回復など出来ない位に一撃で葬ってやろう」
「んあぁッ!」
 更に硬い感触を胸に押し付けられる中、乳房の痛みに悲鳴を洩らしたものの、視線を緑様へと流していました。申し訳ございません。わたくしめは‥‥もう‥‥。!? 何を?
「イーリスの胸に気安く触れんじゃねぇ! ハウリングスラッうあぁッ!」
「緑様!」
 僅かな隙に魔皇殻を叩き込まれ、緑様が再び吹き飛ばされました。
「おめでたい男だよキミは! 魔皇と対峙してて、逢魔の心配をするの? そうだよね、でも助けになんか行かせないよ★ キミは逢魔を失って暴走するんだから♪」
「だ、だったら俺も殺せ! イーリスを失う位なら、死んだ方が‥‥ぐはぁッ!」
「キミ、僕に何を言ってるか分かっているの?」
 仰向けに転がった緑様の肩に魔皇殻の刀身が突き刺さってゆき、女性から激しい憎悪のオーラが見えるようでした。でも、わたくしめは‥‥。
「わたくしめは‥‥緑様にお仕えできて幸せでございました」
「そろそろタイムリミットだ」
 トリガーがゆっくりと絞られ、わたくしめは瞳を硬く閉じました。漆黒の中、響き渡るのは緑様の絶叫と剣戟‥‥何度も名前が耳に飛び込んで‥‥。
『ぐはぁッ! ダークフォースだと!? 殲騎かッ!』
『チッ、退くよ! 増援が来るなんて‥‥きゃあぁぁッ!!』
『‥‥おい、イーリス! 返事をしてくれ! イーリスッ!』
 ――イーリス!
「‥‥緑、様?」
 ゆっくりと視界に浮かび上がったのは、くしゃくしゃに顔を汚した端整なお顔でございました。主様は笑顔を浮かべて顔を近付けると、再びわたくしめの名前を呼びます。意識を取り戻したわたくしめがどんな表情を浮かべていたのか覚えておりませんが、魔皇様へ口を開いたのです。
「緑様‥‥折角のお顔が台無しでござます」

 どうやら援護に現れた魔皇様達により、テロリストは殲滅されたと聞かされました。恐らく緑様は悔しい思いをされている事でございましょう。一方的な介入によって終わらされたのですから‥‥。
 それでも、主様はデビルズネットワークタワーに足を運びます。わたくしめは、傍を離れず緑様にどこまでもついて行く覚悟はできております。
 そう、どこまでも――――。


<ライター通信>
 この度は発注ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ アクスではお世話になっております。切磋巧実です。
 イーリスの視点で語るという希望でしたので、一人称視点で描かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか? 実は切磋、一人称はノベル初でございます(苦笑)。イーリスさんの口調が下僕口調であり、なかなかバリエーションが見つからず難儀しましたが(汗)敢えて挑戦させて頂きました。視点固定でいつもの(?)手法も可能ですし、お気に召したらまた発注頂けると嬉しい限りです☆
 今回は魔獣殻も表現しなければならなかった為、あのように演出させて頂きました。後は追い詰められ方ですね。ご満足頂けると幸いです。
 それにしても発注内容が予告編みたいで恰好良いですね。思わず冒頭に載っけたくなったのはヒミツです(笑)。運命の因縁を断ち切れヴォルフカノーネ!
 尚、今回はNPCだった為、このような展開とせざるおえませんでした。ご了承下さい。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
切磋巧実 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年10月18日

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