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『『幼馴染達のお勉強』 』
月村・心(w3d123)&神崎・雛(w3d751)



 3年、という歳月を、長いと感じるか短いと感じるかは、人それぞれであるだろう。
 だが、その3年という歳月の中で、この世界に存在している3つの種族、神、人、そして魔は、お互いに向き合い、共存する事を心に決めた。
 勿論、いまだに戦いを続ける者達もいるのではあるが。3つの種族が共存し、共に学び合う巨大学園・トリニティカレッジは、その新しい流れから生まれた世界の、代表的な施設と言えるかもしれない。生徒や教師の中には、あの戦いに身をおいていた者もいるだろう。それでも、学園から賑やかな笑い声が消える事はなかった。
「この学校は、いつでも賑やかね〜」
 神崎・雛(w3d751maoh)がその巨大な校舎の方に顔を向けて言った。すぐに学校の中からどこか懐かしいチャイムが鳴り響き、しばらくしてから、生徒達が次々に姿を現した。
「学校かあ。何だか懐かしいな。あのチャイムの音を聞くのも、久しぶり」
 月村・心(w3d123maoh)の耳に、賑やかな生徒達の声が聞こえてきた。校舎から出てきた、高校生ぐらいと思われる学生達は、テストと思われるような内容の話をしながら、心達の横を通り過ぎていった。
「テストだって。そうねえ、今の時期って、丁度テストの時期よね」
 その生徒達の後姿を見つめながら、雛が呟いた。
「ま、学生のうちは勉強が仕事みたいなもんだからな!」
 心がそう答えると、雛が心の顔に視線を投げ、やがてクスクスと軽く笑った。
「どうしたんだよ、今の、笑うところか?」
 心の問いかけに、雛は軽く首を振ってみせる。
「違うわよ〜、今の言葉で、昔の事を思い出したの」
「昔の事?」
 眉間に皺を寄せて、過去の出来事を頭の中で探る心に、今度は雛が縦に一回だけ首を振った。
「どれぐらい前だったかな〜。そんなに前じゃなかったと思うけど。二人で、テスト勉強した事があったでしょう?その事を、今思い出したの」
 その雛の言葉を耳に入れ、心はしばらく記憶の糸を辿った。そして、ある地点にある記憶を思い出したのだ。
「ああ!そんな事あったな〜!あれだろ、確か、雛の家に行って、勉強しようって時の!」
 心の言葉を聞いた雛は、少しだけ嬉しそうな表情を見せた。
「そうそう。あの時は、楽しかったけど大変だったわよねえ」
「そうだったな。あの時勉強をしたおかげで、世界史のテスト、一問答えられたぞ」
「もう、どうせそれだけでしょう?」
 軽く怒ったような口調だが、雛の顔は笑っていた。
「でも、何だかんだ言って、楽しい思い出になっているわ」
 雛の笑顔を見つめながら、心は数年前の、その思い出の事を頭の中に蘇らせていた。



「来週からテストだよなあ。面倒だよなあ。何かこう、勉強しなくても授業の中身が覚えられればいいのに」
「そんな事出来るわけないでしょう?やっぱり、地道に勉強しないと」
 雛は幼馴染の心と一緒に、その日の学校を終えて家に帰る道を歩いていた。
 雛の手には、来週から始まる定期試験の日程表があり、それを読みながら今日からどう勉強に取り組もうかと、頭の中であれこれとスケジュールを立てていた。
「こういうテスト勉強の時って、ちょっと油断すると、すぐに別の物に興味が行っちゃうのよね〜」
「ああ、それはわかる。休憩しようと思ってテレビを見たら、結局何時間も見てたりとかな」
 心の言葉に、雛も一緒に苦笑をした。
「クラスの、成績のいいヤツは家庭教師つけてるヤツも多いよな」
「あ、確かに。人にもよるけど、やっぱり、一人で黙々とやるよりも、誰かと一緒に勉強する方がいいのかなあ?」
 その時雛の頭の中に、ひとつのアイディアが浮かび上がった。自分の視線の先には、友人よりも特別な思いを抱いている心がいたのであった。
「一緒に、勉強しない?どうせ、明日は休みだし」
「勉強?」
 心が顔をしかめて何かを言うとした時、雛はさらに話を続けて心の言葉を遮った。
「一人でやるよりも、二人の方がいいと思うの。わからない所はカバーし合えるしね」
 と言って、雛が可愛らしく笑顔を見せると、今まで面倒臭そうな顔をしていた心の表情に、笑顔が現れた。
「しょうがねえなあ。面倒だけど、1日ぐらいなら付き合ってやってもいいぜ?」
 けれども、その時の心の顔が、何となく楽しそうに見えたのは、彼にひそやかな好意を抱いている彼女の、ただの先入観であろうか。
「わかったわ。じゃ、明日朝ご飯食べたらウチに来て?ちゃんと部屋片付けておくから」
「午前中からやるのか?ああ、どこまで集中力が持つかなー」
 再び面倒そうな表情を見せた心であったが、雛はそれでも、明日がとても楽しみになり、明るく楽しい気分になっていた。

「このページに載っている数式は、全部重要よねえ」
 雛はそう呟くと、数学の教科書に載っている数式を、赤いマーカーで塗りつぶした。
「これ覚えないと、計算わからなくなるしね。あの先生の事だから、これを使った応用問題を出してくるはず。って、心、何してるのよ〜」
 時計は、やっと午前10時を回ったところであった。二人は雛の部屋で、1時間程前から勉強を始めたのだが、雛が教科書から心へと視線を移した時、幼馴染である彼は、後ろに手をついて床に寝転がろうとしていた。
「まだ1時間しかやってないじゃないのー。それに、心ってば、さっきから、窓の外見たり消しゴム転がしたり、ちゃんと勉強している所、見てないんだけど」
「集中出来ないんだよ、この数学の教科書に」
 つまらなそうな顔をしている心を見て、雛はふうっと小さなため息をついた。
「でも、今から頑張らなきゃ、ね?」
「それはわかってるんだけどな」
「とにかく、シャープペンちゃんと持って。頑張ってやろうよ」
 雛の言葉で気持ちが変わったのか、やっとの事心がノートに数式を書き始めた。やれやれ、本当に勉強するの面倒がるんだから。昔からちっとも変わらないわねえ。と、雛が心の中で呟いた。
 二人はしばらく黙ったまま、計算問題を解いていたが、10分もしないうちに、再び心の手が止まる。
「めんどくせぇ〜!」
 いきなり叫ぶと、心はシャープペンシルを机の上に投げ出した。
「もう飽きたの?」
「こんなもんに集中出来るわけないだろ?」
 心が足を投げ出してしまったのを見て、雛は時計に目をやった。
「これじゃあ進まないわね。お昼にはちょっと早いけど、何か食べに行く?気分転換になるだろうし」
 雛が提案をすると、心はようやくはりきたような顔をして見せた。
「よっし。そのアイディア賛成。そういやあ、駅前に新しいレストラン出来てたよな?せっかくだから、そこへ行こうぜ」
 勉強もこれぐらい乗り気なら、と思いつつ、雛は心と一緒に、駅前のレストランへと向かった。

「なかなかウマかったよな、あのレストラン。値段も手頃だし。また行こうな?」
 満足そうな笑みを浮かべる心に、雛は笑顔を見せて答えた。
「そうね〜、デザートも豊富だったし」
 レストランで雑談をしているうちに時間の事も等すっかり忘れ、ようやく戻って来た時には時刻も午後1時をまわっていた。
「さ、お腹も満足した所で、勉強をやりましょうね?」
 雛が、床に転がっていた心のシャープペンシルを渡し、それを心の手に持たせる。
「数式は計算が難しいから、別の教科からやりましょ〜」
 二人は、日本史の教科書を開くと、授業中に配られた資料のプリントと合わせて読みつつ、歴史の中で重要だと思われる人物や事柄にチェックを入れていく。
「年号は語呂合わせで覚えるのがいいって言うけど、うまく語呂にならないのもあるよね〜」
「そうだな、そういうのは、普通に覚えるしかないんじゃねえか?」
 しばらくの間、黙々と年号を覚えている雛と心であったが、再び心の手が止まり、心の視線が教科書から離れた。
「あーあ、眠くなってくるよな、こういうのって」
「寝たいのはわかるけど、まだ全然進んでないわよ?」
 雛が苦笑をして答えた。
「だけど、眠くて集中出来ないんだよ。頭がぼんやりしてきてさ」
「今度は眠気?」
「それもあるが、こんなんやってられねえ〜!」
 心が雛に叫んだ。顔をしかめる雛であったが、次の瞬間、心がぱっと顔を明るくした。
「そうだ、これからカラオケ行かないか?」
「え、何言ってるのよ〜、遊びに来たんじゃないでしょう、今日は」
「それがさ、今日でないと駄目なんだよ」
 どういう意味、と尋ね様とした時、心がズボンのポケットから、数枚の半券がくっついているチラシを取り出した。
「商店街のボロカラオケボックスが、この前リニューアルオープンしただろ?」
 そう言われて、雛は駅前の風景を頭に思い出していた。
「そんで、このあたりの地区の家に、カラオケ無料チラシ配ってたから、俺、とっておいたんだよ。それがさー、このチケット、今日までなんだよなあ。使わねえと、もったいないだろ?」
「そうだけど、今」
 行かなくてもいいじゃないの、と言おうとしたが、その言葉は心によって阻害された。
「気分転換も大事だろ?さ!」
 雛は心に腕を引っ張られて、半ば無理やりカラオケボックスへと連れられた。
 店についた頃には、もう勉強への気持ちは薄れ、あとで取り返せばいいかな、とまで思うようになってしまっていた。

「さ!今度こそちゃんと勉強しないと、今日何しに来たかわからないから」
 カラオケでノリにノって、本来1時間だけのカラオケ無料チケットであったが、1時間だけでは物足りないと延長に延長をし、家に戻って来た頃には、時計が午後7時を指ししめようとしていた。
「とにかく、あんまり遅くまでやってると、明日も学校だから良くないわ。集中して、重要な所だけでも抑えて覚えるわよ?」
 雛は、国語文学の教科書を広げると、そこに書かれている歴史上で重要な文学のタイトルや、それを書いた作者の名前をノートに書き出した。
「漢詩って、よくわからないよなあ。何でこんな特殊な読み方するんだろうな」
「それはいいから、今度こそちゃんとやらないと」
 心は、ぼんやりと教科書を読んでいたが、雛が散々に勉強を促したのもあって、ようやくノートに文学小説の名前を書き出した。
 やっと二人は勉強を再開し、黙々と自分の教科書やノートに向き合っていた。すっかり日も暮れて、とにかくこれから集中しないと、と雛が思った時、目の前に座っていた心が、急に立ち上がった。
「どうしたの?」
「夕食買ってくる」
「え?さっきカラオケで軽食とったから、そんなにお腹すいてないわよお?」
 雛が心に叫んだが、心の動きを止める事は出来なかった。
「飽きたからな、気分転換で散歩ついでに夕食買いに行く。雛の分も買ってくるからさ、ちょっと待っててくれ」
「ちょっと、心!それならもう少し勉強を」
 雛の言葉をさえぎって、心は外へと出て行ってしまった。
「もう、すぐに飽きるんだから。カラオケから戻ってきて、30分も経ってないじゃないの〜」
 ため息交じりでそう呟きながらも、雛はそんな心が憎めず、むしろ笑みさえ浮かんできていた。そんな心すらも、いとおしいと思う雛であったが、目の前にある事にはきちんと取り組まなければならない。
 数十分後、心がそばのコンビニの袋に弁当を二つ入れて戻って来た。
「デザート付だぜ?」
「うん、ありがとう。でも、これ食べ終わったら、エンジンかけて勉強しようね?」
 雛の言葉に、弁当を食べながら心が頷いた。
 結局、弁当を食べながら雑談で盛り上がり、ようやくペンを握った時刻は、夜の9時過ぎであった。
 さすがにもうあとがないと思い、雛は集中して化学の元素記号を覚えていた。心は、何度も飽きたとか、今日は終わり、と言っていたが、雛が何とかなだめて、ようやく心は少しは勉強をしているように見え始めた。
 ところが、である。性格なんて、早々直る物ではないと、雛はそれを聞いて実感したのだ。
「あ〜もうダメだダメだ!今日はもう、終わりだ」
「駄目よぉ、時間がないんだから、最後ぐらい頑張らないと」
 深いため息をついて、雛が答える。
「そうは言っても、これ以上集中出来ねえんだよ」
 眉をひそめて、心が返事をした。
「でも、もう少しだけ頑張ってみようよ。もう少しだけでいいから」
 幼馴染のその言葉が胸に響いたか、二人はやっとのこと、静かな勉強体勢に入っていった。
 それからは今までよりも集中出来て、雛が最後に確認した時には、日付が変わろうとしていた。



「あの後、気づいたら学校の始業時間ギリギリだったよな。遅刻するかと思った」
 当時の記憶を巡って、心は小さく笑う。
 せっかく、やっと勉強を始めたものの、心が気づいた時には、外が明るくなっており、雛と寄り添うようにして、眠ってしまっていた事を思い出していた。まるで、仲のよい幼子がくっついて寝ているように、部屋の中で、お互いの体温を感じながら。
「そうだったわねえ。二人で慌てて支度して、学校へ走って。間に合ったとは思うけど、あんな焦ったのは久しぶりだった気がする」
 二人はすでにトリニティカレッジを通り過ぎていた。昔の思い出を楽しく話しながら歩いているうちに、もう二人が分かれる地点へと辿り着いてしまっていた。
「だけど、楽しい思い出だよな。俺、ちっとも集中してなかったよな、勉強」
「そうよ〜。心を何度も何度も説得するの、苦労したんだからねえ?」
 雛が意地悪っぽく笑って見せた。
「それじゃあ、またな。雛」
 心が雛にそう言うと、彼女は少しだけ笑顔を見せて尋ねてきた。
「ねえ、あの時みたいな思い出、また作りたいな。楽しい思い出って、いくらでもあっていいと思うし」
「そうだな。でも、もう勉強するのは勘弁して欲しいけどな」
 二人一緒に楽しく笑うと、心は幼馴染と別れて、別の道へと歩き出した。(終)



◆ライター通信◇

 こんにちは、シチュノベへの発注、ありがとうございました!
 お二人の昔の思い出、ということで、勉強をしているシーンは、回想シーンとして演出してみました。現在のシーンは視点が心さん、回想シーンは雛さんの視点でノベルを書いております。
 すぐに飽きてしまう心さん、それをなだめて勉強させようとするものの、結局一緒に楽しんでしまう雛さん、のやりとりは書いてて楽しいです(笑)ああ、でも、すぐに飽きてしまう心さんの気持ちは良くわかったり(ぇぇ)
 お二人のやりとりを、楽しんでもらえれば、と思います。それでは、どうもありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年10月17日

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