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『〜それから〜 』
和泉・大和5123)&御崎・綾香(5124)


 二人で一夜を過ごしてから数日後の日曜日、昼過ぎ………和泉 大和は、御崎 綾香の家へと呼び出された。金曜日の学校で、綾香に「両親が呼んでいる」と伝えられた時には驚いたが、ある意味覚悟はしていたので、御崎神社を目の前にしている今でも平静を保っていられた。

(バレるのがここまで早いとは思わなかったけどな………ふぅ、後は何とか……正直に真っ向から行くか)

 (嘘付いても、あの祖母さんにはバレるだろうしな〜)とこっそり思ってから、大和は御崎家の呼び鈴を鳴らした。
 以前と同じように、また呼び鈴の音が響いたと同時に扉がガラッと開けられる。だがその扉の向こう側にいたのは、綾香ではなくお祖母さんの方だった。いつもの事だが、満面の笑みを浮かべている。

「ふふ、いらっしゃい」
「…………お邪魔します」

 大和はお辞儀をしてから玄関に上がり、そして居間へと通された。
 居間には綾香の両親、二人の兄、そして綾香がいた。全員客用の大きな卓袱台に付き、二人の兄は両親を挟むようにしてそれぞれ両脇に座っている。綾香は両親の目の前に座らされ、居間まで厳しい視線を向けられていたのか、微かに疲れたような顔色をしていた。
 両親、とりわけ父親の方が、大和を見るなり怒気を含んだ視線を向けてきた。この様子だと、もしかしたら一部始終を知られているかも知れない。
 大和は覚悟を決め、祖母に促されるまま、綾香の隣に座らされた。祖母は家族の手前か、笑みを崩し、真面目な表情になって静かに上座へと座った。
 沈黙…………最初の一分間程の時間は、大和と綾香父との睨み合いで費やされた。
 家族が見守る中、父親が重々しい様子で、口を開いた。

「…………さて、和泉大和君………だったね。君には、色々と聞きたいことがある」

 尋問が始まった。もっぱら質問するのは綾香の父親ばかりで、他の者達はこれといって口出しするようなことはしない。この中で一番発言権があるはずの祖母は、答える大和と綾香の言葉を、一言一句聞き逃すまいとしていた。

(さて、ここからが戦いだな)

 大和は真っ直ぐに父親と目を合わせ、怯むことなく問答を繰り広げた………






 尋問は一体どれだけ続いたのか………日が段々と傾いてきた頃になって、ようやく大和と綾香は解放された。祖母から夕飯を食べていくようにと言われたのだが、大和は慎ましく辞退した。これ以上威圧を掛けられると、どうにかなりそうだ。
 大和は綾香に送られることになり、二人ともクタクタになりながら神社の階段をゆっくりと下りていく。二人とも未だに緊張した心地だったが、階段を下りきって周りに人が居ないのを確認すると、一気に張り詰めていた空気が消え去った。

「ふぅ、まったく。お父様もあそこまで言ってくるとは………すまなかったな」
「いや、御陰で吹っ切れたし、成果は上々だろ?良いじゃないか」

 大和は苦笑しながらそう答えた。綾香の父親は、娘のことを本当に大事に思っていたのだろう。大和は将来自分が進む道を、プロレスに定めることまで話を進められてしまった。
 少々強引にも思えたが、元々悩んでいたことだ。こうすっぱりと決められると、帰ってこれで良かったと思える。
 そんなことがあった長い戦いの末、綾香と大和の交際は認められることになった。将来のことを見据えての交際なのだから、一応“婚約”という形になるのだろうか?勿論、途中で退場することは決して許されない。
 だが元より退場する意志のない大和にとって、綾香の父のプレッシャーはそれほど効果を及ぼしていなかった。
 大和は階段下で綾香と別れる………と言う所で、綾香の肩をポンッと優しく叩いた。

「ま、明日からは、改めてよろしくな」
「こちらこそだ。」
「それと………学校の連中には言うなよ?たぶんとんでも無いことになる」
「ふふ……分かった。今みんなにバレると、学園祭に響きそうだからな」

 綾香と大和は苦笑しながら言い合った。大和も綾香も、互いに笑いあってから、いつものように別れていく。



 だが内心喜びで満ちている二人では、次の日の騒動のことなど、気が付くはずもなかった………




★★

 次の日の昼休み、学園祭間近と言うことで五〜六時間目も通して準備が進められることになり、全学年の生徒達はそれぞれ勝手な行動をしていた。
 昼食を食べる者。出店の材料を買いに走る者。予算争奪戦に参加し、大暴れする者。サボリを決め込んで賭けポーカーに興じる者。そしてそれを捕まえて罰する者…………時間に余裕がないためか、何処のクラスも慌ただしく準備を進めていた。
 大和のクラスでも、着々と準備が進められている。綾香は数人の女子と、体育館に飾る大きな看板を、下書きに沿って綺麗に絵の具で塗っていく。
 大和は、科学室に逃亡してカードゲームに精を出していた悪友を逮捕し、関節技を極めている。その傍らに、同じくサボリを決め込んでいた男子数名が、ピクリとも動くことなく横たわっていた……
 大和に極められている生徒が、苦悶の声を上げて助けを求める。

「そ、そこな女子………助けてたもれ〜〜」
「だってさ。どうする御崎さん」
「そうだな。皆がこうして作業をしているのにサボタージュを決め込んでいる者には、情けを掛ける必要はあるまい」
「せ、殺生な〜〜〜」
「うわ〜、まだ頑張るんだ。和泉君、やっちゃえ♪」
「おう」

 グキッ

「ウンジャマカァ〜〜〜〜!!」
「……………和泉君、その未確認生物、縛ってから廊下に放り出してきて」
「了解しました隊長」

 綾香の友人に敬礼をしてから、大和は足下に転がっていたビニルテープで失神した生徒を念入りに縛り上げ、廊下に放り出した。大和が生徒を放り出すよりも一瞬早く、クラスの女子が放り出した生徒の額に、【ただいま刑執行中。助けた者同罪と処す。悪戯は大歓迎♪】と書かれたお札を貼り付けた。
 他のクラスから悪戯されまくる悪友から目を背け、大和は意識を取り戻した男子達を起こしに掛かった。

「大丈夫か?」
「…………自分で掛けといてよく言うよ。ま、手加減してくれたことには感謝だけどな」

 首をコキコキと言わせながら、悪友二号が言う。そうこうしている内に、三号、四号が蘇生した。
 蘇った男子達に、リーダー格の女子が大声で声を掛ける。

「ほら!起きたのなら、ちゃんと仕事して!!チケットと売り場の制作は男子の仕事でしょ!男子達が提案して強引に決めたんだから、責任持ってよ!」
「俺はこんな企画には乗ってないからな」

 不機嫌そうに言ってくる女子に向かって、大和はそう答えた。いや、実際にはその女子の隣で「お前はこんな企画が好きなのか?」という顔でこちらを見てきた綾香に大してなのだが、誰も気が付いていなかった。
 親友に裏切られた男子のリーダー(相撲部部長)が、愕然とした顔になって膝を付き、大げさに手で顔を覆い、啜り泣くような気色悪い演出をした。

「裏切るのか大和!?お前だって「ミスコンか、誰が優勝するんだろうな」って興味津々だったじゃないか!!二人であの手この手の雑誌を読み漁ったあの夜は何だったんだ!?くっ、薄々思っていたが、やはり俺のことは遊びだったんだな?」
「堂々と事実をねつ造するな!?ついでに怪しい発言をするな!」

 怒鳴りながら、怪しい発言をしてきた相撲部部長を引き倒すと、再び関節技を掛けて動きを封じた。今度は手加減抜き。プロレス技も練習してきた大和にとって、これぐらいは朝飯前だった。
 関節技を掛けながら、ついにジト目になった綾香に視線を移す。意外にも嫉妬深いのか、何やら綾香から怪しいオーラが出てきたのを、大和は感じて、ついつい掛けていた関節技を弛めてしまう。
 綾香と目が合ったまま固まる大和。その瞬間、相撲部部長の脳内に、この場を切り抜ける策が思い立った。

「何だよ大和!どうせお前は、恋人の綾香に票を入れるんだろう!?」
「「なっ!?」」

 断末魔のように盛大な叫び声を上げる相撲部部長。隠しているはずの事を言い当てられて、綾香と大和が固まった。
 ついでに教室どころか、廊下を行き来していた他の生徒達まで一時停止し、やがて興味津々という様子で聞き耳を立ててきて、覗き込んでくる者まで出てきた。
 教室内のフリーズも段々と溶けてきた。だが当人達が回復するよりも早く、まずは綾香の友人達が復活したことで、静止状態から一気に混乱状態へと移り変わる。

「キャーーー!嘘ッ!?御崎さんが和泉君とぉ!?」

 叫び声とも似ているような、黄色い声が響き渡る。その声を聞き、ようやく綾香と大和は周囲の空気が変わっていることに気が付き、慌てて釈明を始めた。

「なっ!?なっ!?なにをっ!?」
「御崎さんが動揺してる………噂で聞いてたけど、本当だったの!?」

 だが綾香は、元よりこんな大混乱に適応出来る様な性格ではない。皆が思っているよりも顔に出やすいタチだし、動揺したら簡単に誘導尋問にすら引っかかってしまう。
 ………まぁ、赤面しながら混乱口調で冷静な言葉を言った所で、説得力は皆無だっただろうが………
 大和が危機を察知して綾香を連れ出そうとするが、あっという間に綾香は女子達に四方八方を囲まれてしまい、近付けなくなる。

「噂?どんなのどんなの?!」
「もう行くとこまで行っちゃったとか!?」
「ななな、何故それを……!!?」
「綾香落ち着け!その返事はまずい!」
「わっ!和泉君が呼び捨てにしてるーーー!!」
「うわぁあああん!お姉様が汚されたぁ!!?」
「なぜそこまでなる!?」

 大和が叫んだ時、後ろからガシッと複数の手で掴まれた。肩、足、手…………とりあえず掴める所は掴んだような感じで、背後に回った数名の男子が目を血走らせながら、鬼気迫る表情で大和を押さえに掛かってきた。
 動きを封じられまいと、慌てて手を払う大和。その男子達の向こう側に、この騒ぎの元である相撲部部長を見つけ、大和は睨み付けた。

(何で知ってるんだ?)
(お前、昔から鋭いのか抜けてるのか……いくら人気がないからって、校門や下駄箱で待ち合わせてれば、目撃者ぐらいはでるだろ?ましてやお前ら二人は有名人。印象にも残るし、見かければ目で追うような対象だぜ?)
(………とりあえず、この場をどうするつもりだ!?)
(知らん。まぁ、頑張れ!)
(やな奴になったな、お前)

 目で会話する二人。だが相撲部部長は爽やかな笑顔を残し、颯爽と教室から出て行った。追いかけて捕まえたかったが、手を払われた男子達が再び襲いかかってきたため、それは敵わない。

「おのれぇ!我ら【御崎 綾香ファンクラブ】を差し置いて!」
「そんな物があったのか!?」
「抜け駆けは極刑じゃあ!みんなで取り押さえろ!」
「冗談じゃない!」

 大和は急いで女子の壁に向かって走り、必死に掻き分けて綾香を捕まえた。綾香はあちこちから浴びせられる質問に混乱していたのだが、大和が来たことで、混乱状態からあっさりと脱出した。
 手を掴んで引っ張る大和。綾香はそれに逆らわず、むしろ追い越さんばかりに、颯爽と走り出した。走り出す二人に驚いたのか、反射的に道を空ける女子達………
 逃げられたと言うことに気が付いた時には、既に二人は教室から走り出していた。

「追え!追えぇ!」

 号令が飛ぶ。だが結局、綾香と大和は、放課後になるまで完全に行方を眩ませること2成功し、捕まることはなかった。
 ……………この騒ぎで、数クラスの文化祭の準備が順調に滞ったらしいのだが、それは二人の知る所ではない………




★★★

 放課後、綾香と大和は部活に顔を出して後悔することになった。
 今まで学校中あちこちで行われている捜査活動から逃れるので精一杯で気が回らなかったのだが、どうやら既に、学校中に二人の交際が知れ渡ってしまったらしい。
 綾香は顧問の教師が厳しい御陰で、何とか大騒ぎだけはやり過ごしたのだが、大和の方は凄まじい怨念の渦巻く土俵に上がらされてしまった。
 どうやら、相撲部にも【御崎 綾香ファンクラブ】の隠れ会員がいたらしい。と言うか顧問が会員だった。
 既に引退(間近)の大和は土俵に上がってから、対戦相手を見て、呆れながら溜息を吐いた。

「何だ。てっきり、今日はもう来ないかと思ったんだけどな」
「いや、部長の俺が来ない訳に行かないだろ?それに、コソコソするのはあまり好きじゃないからな」

 ヘヘッと笑いながら、この騒ぎの元凶が不敵に笑う。相撲部部長にして、【御崎 綾香ファンクラブ】会員ナンバー一号は、大和に笑いかけてから構えを取った。

「ほれ、構えろよ。これがお前の引退試合だ、さっきみたいに手加減なんてするなよ」
「…………分かった。思いっきり行くからな」

 二人が構えると、すぐに顧問から始まりの合図が放たれた。二人がぶつかり合い、相撲部部長が瞬殺される………
 この日、相撲部全員+顧問が、大和一人相手に全滅したとかしないとか…………
 当初の理由はともかく、この日の出来事は伝説として、数年間相撲部で語り継がれることになったのだった………





★★★★

 激動の一日を追えた大和は、久しく本気で、長時間相撲をしたことで疲れを訴える膝に喝を入れながら部室を後にした。リハビリにどれぐらいの時間が掛かるかは知らないが、完治するのは、そう遠い未来ではないだろう………
 本当に治り掛かっているのを喜びながら、少しだけ寂しげに、相撲部に別れを告げる……

「………そう言えば、何であいつは俺が相撲を止めるって事を知ってたんだ?」

 今になって首を傾げたが、そんな疑問は、校門で待っている綾香を見て吹き飛んだ。綾香は、数人の女子達と一緒に楽しげに話をしながら、大和を待っている。
 普段は一人で待っているだけに、大和は若干驚いていた。近付くと、向こうもこちらに気が付いたらしい。綾香を取り巻いていた女子達はこちらに手を振ったり、お辞儀をしたりしてから帰っていった。
 一人だけ残された綾香は、上機嫌に笑いながら、大和を待っている………

「嬉しそうだな」
「ああ。お前のことがバレたから………今まで話したこともないような子達から、色々と言われてしまってな」
「何だって?」
「“恋いも頑張ってください”、と。ふふ、大和と会ってから、どんどん私の周りが変わっていくな………前は、こんな事を言われたことはなかった………」

 大和に微笑みかける綾香。その笑顔を見て、大和は「一番変わったのは、綾香だな」と、本人に聞こえないぐらい小さな声で呟いた。最近よく笑うようになった綾香は、確かに数ヶ月前に比べ、随分と……………強くなっていた。

「? どうかしたのか?」
「いや、それよりも帰ろう。ここだと人目に付くからな」

 二人が歩き始める。周りで見ていた生徒達は、二人の邪魔にならないように見送っていた。
 学校から少しだけ離れ、周りに生徒達がいなくなった頃合いを見計らって、綾香が大和に言う。

「ああ。そうだ大和、変わったと言えば、実は門限が延びたんだ」
「ん?そうなのか」
「お祖母様の計らいでな。それで、な、大和、これから………お邪魔しても良いか?」

 「夕飯ぐらいならば作るぞ」と、小さく付け足す綾香。大和は「もちろんだ。それじゃ、少し急ぐか」と答えてから、綾香の手を取った………




fin












★★参加PC★★
5123 和泉・大和 (いずみ・やまと)
5124 御崎・綾香 (みさき・あやか)


★★ライター通信★★

 お待たせしました。メビオス零です。
 今回の作品はどうでしたでしょうか?二人は完全に恋人同士となり、他の人達も、一部(ファンクラブ)を除いて受け入れてくれたようです。
 勝手に大和を引退試合にしてしまって申し訳ないです。プロレスに行く事になり、友人との最終対決!そして伝説へ………!?(マテマテ)
 これからの二人はどうなっていくのか、学園祭(ミスコン)の行方は!?
 次回の発注も頂けたら幸いです。楽しく書かせて貰っていますので……
 では、改めまして、今回のご発注、誠にありがとう御座います(・_・)(._.)深々
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
メビオス零 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年10月17日

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