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『明日は明日の風が吹く 』
鈴森・鎮2320


 ここは、白銀の姫というゲームの中に生まれた、電脳の世界。
 ジャンゴと呼ばれる都市を出れば、危険と冒険が参加者たちを待っている。


 回復手段――手製傷薬。壷の中にいっぱい。
 攻撃用アイテム――店売りのものは一通り。
 もしもの時に備えた脱出手段――魔法の閃光玉。購入済み。
 指さし確認の後、テーブルの上に山盛りに並べられていたそれらは、データ化されて軽装剣士風のマントの中にすっきりと収まった。
「よし!」
 ぽん、と最後に胸元の埃を払うと、鈴森・鎮(すずもり・しず)は席を離れた。
 くずかごの横を通り過ぎるついでに、ハンバーガーの包み紙と空っぽのドリンクカップを放り込む。
 気力、体力――腹ごしらえを終えて、満タン。
「システム・オールグリーン! いざ、しゅっつじーん!」
 天高く、鎮は拳を掲げた。
「よーーそろー!!」
「キュキュ!!」
 鎮の肩の上で、ふわふわの小さな獣が後足で立ち上がり、マネをして同じポーズをしている。ペットのくーちゃんだ。
 本人たちは至って真面目なのだが、どうしても微笑ましさを誘われてしまう光景であった。
「どうしたの、気合入ってるねえ」
 背後で吹き出す気配がしたので鎮が振り返ると、顔見知りの少年がパラソルの下で笑っている。鎮と同じく腹ごしらえをしに来たらしく、手に持ったトレイの上には軽食が乗っていた。
 機骸市場の中央部に位置するこのオープンカフェは、場所のよさに加え、飲み物さえここで購入すれば市場の他の屋台で買って来た食べ物を持ち込むことが許可されているので、人気のスポットだ。そういうわけで、ちょっとした社交場としての機能も持っている。こんな風に、冒険者仲間と不意に出会うことも多い。
「今からダンジョンに潜るの?」
「おう!」
 歩み寄ってきた少年に、鎮は元気良く胸を張る。
「よかったら、パーティー組む? 食べ終わるの待ってもらうことになっちゃうけど」
「あー、ごめん、今回はシングルで」
 ダンジョンに行くなら、レベルの近い者同士で組んで行動をしたほうが何かと有利だ。普段ならば受ける彼の申し出を、しかし鎮は丁重に断わった。理由があるのだ。
「今日こそはリベンジしようと思ってさ」
「ああ、例の?」
「そう、例の!」
 鎮の握った拳の上にくーちゃんが降りてきて、キュ!と鳴いた。
 

                    +++


 意気揚揚と鎮が向かった先は、ジャンゴに程近い場所にある洞窟だった。
 徒歩で出かけられる手軽な立地、比較的単純な内部構造、そして出現モンスターも低レベルという、初心者向けに設定されたダンジョンである。
 岩の壁面や天井に光る苔が生え、照明アイテムや魔法を使わずとも行動に支障がない程度には明るいというところも、低レベル冒険者に優しい。
 アサルトゴブリンを蹴り飛ばし、群れを成して現れた巨大ネズミたちを軽く踏み越えながら、鎮はどんどん奥へと進んでいた。
 ダンジョンの奥に行くに従い、ゴブリンの装備品が棍棒、短剣、モーニングスターとグレードアップしてくる。しかしそれも、今や鎮には恐れるに値しなかった。攻撃される前に、パンチとキックで完全ノックアウトである。
「よっし、調子いい!」
 空洞と空洞を繋ぐ細い通路を駆けながら、鎮は自分が強くなったという確かな手ごたえを感じている。以前は素早さを最大限に利用した奇襲がメインの戦いぶりだったが、今はもう逃げ隠れする必要など無い。レベルアップに伴い、攻撃力も防御力も上がったのだ。
 何度も潜ったおかげでマップも頭の中に叩き込まれている。奥を目指すなら、次の三叉路は右。
「キュ!」
 マントの中に隠れているくーちゃんが鳴き声を上げた。行き先に敵が居ることを知らせる声だ。頷いて、鎮は口の中で短く呪文を詠唱した。それに呼応して、鎮の指先に緑色の風が螺旋を描く。旋風だ。
 案の定現れたゴブリンたちが自動小銃をこちらに向けるよりも先に、鎮はその指を一閃した。
「行け、風!」
 鎌鼬である鎮は、風属性の魔法と相性が良い。放たれた旋風は周囲の空気を取り込んで瞬く間に成長し、行く手を阻む者たちをも巻き込んで壁に叩き付ける。
 いくつもの断末魔が、響き渡る間もなく風にかき消された。やがて、辺りがしんと静まり返る。
「……来た、な」
 乱れた息を整えながら、鎮は前方を見た。
 その先には光を発する苔が生えておらず、真っ暗だ。冷えた空気がゆるゆると流れてきて、暗闇の向こうに広い空間があることを予測させる。
 この先が、このダンジョンの最奥部。ボスモンスター、ジェノサイドエンジェルの居る場所だ。
 以前遭遇した時、既に他の冒険者によって手負いの相手だったにも関わらず、歯が立たずに逃げ出したという因縁が、鎮にはある。
 今日こそ、リベンジを。初心者向けダンジョンのボスとはいえ、基本的にはパーティープレイでの撃破が推奨されるモンスターである。いくらレベルが上がったとはいえ油断は禁物だ。
「HPよし、MPよしっ」
 手早く状態確認を終え、鎮は足を前へと踏み出した。
「行くぜ、くーちゃん!」
「キュ……!」
 身構えながら気配を殺し、前へ進む。背後からの光が届かなくなった時、鎮はマントの下からアイテムを一つ探り出した。手の中に収まるほどの小ビンの中身の液体は、この洞窟に生えている苔と同じ色に光る。光苔のエキスという名称で売られている、光源用アイテムだ。
 ぶん、と渾身の力を込めて、鎮は小ビンを高く放り投げる。ビンは天井に近い壁で炸裂し、ガラスの割れる儚い音と共に光をふり撒いた。
 マグネシウムを焚いたような強烈な光に、見覚えのある不吉な翼の影が浮かび上がる。その方向に、鎮は素早く向き直った。天井に飛び散った液体は、一瞬の閃光の後に穏やかな光を放つ。青緑色の薄明かりの下、凶悪な天使が不快げに目を細めるのが見えた。
「うわ、やっぱこえぇえ……!」
「キュー!」
 腰が引けかけた鎮の耳たぶを、くーちゃんがしっかりしろとでも言うように引っ張った。
 ジェノサイドエンジェルは首を巡らせ、鎮を認め。
 ば、と翼を広げた。届いた風圧に、鎮は我に返って身構える。
 人形のように無機質な肌をパキパキと鳴らしながら、天使が咆哮した。泥と血で薄汚れた羽毛の中に、光るのはミサイルランチャーの砲身。
「やべ!」
 火花を纏いながら迫ってきたは小型ミサイルを、鎮は風で巻き、進行方向を変えて辛くも逃れる。背後の岩壁が破砕され、もうもうと土埃が上がった。
「いたたた!!」
 爆風で飛んで来た岩が体に当たって、地味に痛い。失敗した、と思っていたら二発目三発目と立て続けに放たれた。
「うわわわ!」
 タチが悪いことに、逃げても追って来る追尾タイプのミサイルと来ている。
「――これでどーだぁ!」
 逃げながら放った小さなカマイタチで、空中で暴発させることに成功し、鎮は再びジェノサイドエンジェルに向き直った。
 火薬の臭いのする煙の向こうで、ギラギラと更なる光が生まれる。鎮を狙う銃口が増えていた。ガトリングガンか、ロケット砲か――詳細はあまり考えたくない。翼の中に生み出される無限の兵器が、ジェノサイドエンジェルの武器だ。
「それは勘弁!!」
 鎮はジェノサイドエンジェルに向かって掌を広げた。風が鎮の腕を取り巻き、螺旋を描いて唸りを上げる。
 ゴブリンの一群を跳ね飛ばすのにも使った、旋風の呪文だ。ただし、今は残った全ての魔力を全てつぎ込んで風を呼んでいる。
 向こうの武器が無尽蔵であるのならば、長期戦は不利。一か罰かの勝負にでるしか、勝機はない。
「間に合え!」
 無数の銃口の一斉放火と、鎮が風を放つのとが、ほぼ同時。
 ごう、と空気が唸った。直後に、とんでもない爆音がした。小旋風のレベルを越え、竜巻と呼んでも差し支えのない大きさに膨れ上がった風が、ミサイルだの弾丸だのを全て巻き込んで吹き戻したのだ。
 いける、と確信した瞬間。
「うわ!?」
 背後からの強風に足を取られそうになり、鎮は慌てて地面に伏せた。くーちゃんは咄嗟に手の中に庇う。
「あ、そうか、風……!」
 竜巻が洞内の空気を吸い上げる分、狭い通路から大量の空気が風となって入り込んでくることになる。その所為で起こっている強風だ。
 火炎を孕んだ竜巻に、ジェノサイドエンジェルは高々と吹き飛ばされる。
 火薬の爆ぜる音と、岩の砕ける音、天使の吠える声。
 最後に風の唸り声が消えた時、勝者は鎮に決定していた。 



                    +++


「そこで! 一撃必殺、スペシャルトルネェード!がキマったんだよ」
 夕焼けの空の下、オープンカフェでは鎮を囲むテーブルが出来上がっていた。
 テーブルの上には山盛りの食べ物と飲みもの。ジェノサイドエンジェル撃破によって入手した金銭で、鎮は祝勝会……要するに宴会を開いている真最中だった。
 相伴に預かりつつ鎮の話を聞いているのは、行きがけに会った少年のほか、何人かの顔見知りたちだ。
「ま、余裕だったね!」
 などと胸を反らした鎮に、横からツッコミが入る。
「その割には、ダンジョン行く前に、金庫にお金預けて行ってたけどねー!」
「べ、別にいいだろ、俺は慎重なの!」
 鎮が唇を尖らせると、どっと笑い声が上がった。
「何はともあれ、リベンジ成功に、も一回かんぱーい!」
 誰かが音頭を取って、皆が手に手にカップを掲げた。成年者はビールだが、ゲーム内とはいえ未成年者はソフトドリンクである。
 もちろん、鎮とくーちゃんも見た目だけはビールチックなリンゴ味飲料でご満悦だ。
 目の前には、皆がお祝いにと買ってくれた「リベンジおめでとう」ケーキ(チョコで本当にそう書いてある)。
「やっぱ、目標達成すると気持ちいいなー」
 今夜は良い夢が見られそうだと、鎮は口元を緩める。
「でも、ゲームのやりがいが一つ減っちゃったんじゃない?」
 思ってもいなかったことを言われて、鎮は目を瞬いた。
「明日は明日で、また新しい目標作ればいいし。楽しいことなんて、探せばいっぱいあるじゃん?」
 にっと笑ってケーキにフォークを立てた鎮の膝の上で、同意を示すように、キュ、とくーちゃんが鳴いた。




                                                       END













<ライターより>
いつもお世話になっております。ライターの階です。
今回も期日いっぱい使わせて頂いてしまい、申し訳ありません。
ジェノサイドエンジェルは、表面積の広さから風に弱そう&洞窟に生息していると飛べないので倒しやすそう、という条件が重なっておりますので、鎮くんの勝利で。
鎮くんは自然と冒険者友達が出来ているんじゃないかな……と思いましたので、祝勝会は大人数で。 
楽しんでいただけましたら幸いです……! 風の魔法は、ゲーム内での設定ということで、現実世界でのカマイタチとは違う感じで描写させて頂きましたが、イメージにそぐわない部分などありましたら申し訳ありません。
では、またの機会がありましたら嬉しく思います。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
階アトリ クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年10月13日

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