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『狭間への帰郷 』
ラクス・コスミオン1963





 大量のレポート。
 以上が、彼女の里帰りの準備である。それすらも、羽に引っ掛けられるサイズに縮小されているので、殆んど身ひとつ。
 彼女を飾るのは、紫にも見える赤い艶やかな髪と、ナイルの河をはめ込んだような鮮やかで知的な緑の瞳。
 彼女が背負うのは、高原を行く鷲の翼。
 それらを支える、逞しきライオンの四肢。
 アンドロスフィンクス。知識の番人の異名をもつ、古代エジプトからの神獣。その中でもとりわけ、知識を守り、増やすことを使命としている一族に彼女は名を連ねている。
 ラクス・コスミオン、というのが、彼女の個体の呼び名であった。
 そのラクスの使命は三大図書館から紛失した本の探索であるのだが、それと同時に人間社会の観察と情報収集も行っている。
 この度の一時帰省は、その集めた情報の報告と、それから。
「皆様、お元気でいらっしゃるでしょうか」
 魔術を操り、得意とする錬金術で作った、もしくは作り変えた女性たちの、様子見もかねている。術師としては自信作なのだが、思いがけない不備が出る可能性は否定できない。故にいつかは様子を見に行こうと思っていたのだが、昨晩、集めすぎた資料の量に辟易して、『図書館』に報告に行く事にして、そのついでに彼女たちに会いに行こうと決めたわけである。
 思い立ったが吉日、という諺も、この国にはある。
 そうして、人には立ち入ることの難しい別の場所にある『図書館』へ、彼女は久方ぶりの里帰りと相成った。
 





 強大な鎧が守る石の門を潜り、吹き抜けのある開放的なホールに足を踏み入れて、ラクスは小さく笑みを浮かべた。耳元を微かにくすぐる声に、聞き覚えがあったのだ。
「お元気そうです」
 月のない夜に人としての生き方を捨てた少女を思い出し、軽くなった歩調でホールを突っ切る。今度は小ぶりの扉を潜って、そこからは正しく『図書館』。
 立ち並ぶ本棚は千里眼をもってしても果てが見えず、見上げても天井などどこにもない。申し訳程度に幾つか梯子はついているが、それとて、高所恐怖症であれば決して上れる高さではない。鼻腔をくすぐる古い本の匂い。色とりどりの背表紙が踊るように彼女を迎えた。
 そこで一度足を止め、大きく深呼吸。そうすれば、帰ってきたのだと思う。纏っていた魔術を解いても、そこでは彼女の姿は異形ではない。今も、見える範囲に一人、こちらは男性のスフィンクスが本を読みふけっているし、返却されたのであろう本を抱えて、メイドゴーレムが行きかう。
 彼女の、真実あるべき場所。
 顔なじみの受付係りと幾つか言葉を交わし、ともかく、情報を先に引き渡してしまおうと専用のカウンターに足を向ける、と。
「きゃぁぁぁぁっ!」
 突然前から悲鳴が上った。静寂を愛する『図書館』で、それはあまりに不似合いである。だが、驚いて足を止めてしまったのはラクスだけで、その他の者は驚くどころか顔も上げない。
「危ないですぅ!」
 え? と思ったときにはもう遅かった。驚異的な衝撃が背中に当たり、ラクスは余りの事に撥ね飛ばされる。慌てて顔を上げて、その衝撃が、何かがぶつかってきたのだと認識した。殺意も害意もなかったので、純然たる事故だろう。
 だが、『図書館』の中で、何かに撥ねられるなどという経験は、二百四十年生きていても始めてである。彼女の視線の中で、ぴこん、と鳥の尾羽が動いた。続いて娘が体を起こす。
「いたたたた……ごめんなさぁい」
 頭を打ったらしい。右手で頭をさするのは、ダチョウの下半身を持つ、二十前後の娘だった。その娘がラクスを見た瞬間、ぱ、と表情を変えたではないか。
「ラクス様!」
「ラクス、さま?」
 思わず鸚鵡返しに返したラクスに、娘はその自慢の脚力でにじり寄った。
「ラクス様! お久しぶりです。私の事、おぼえてらっしゃるでしょうか?」
 少しばかり不安げに眉を下げた、その表情に見覚えがある。
「お久しぶりです。忘れるなんてできません。お元気そうで何よりです」
 ラクスも体を起こして彼女と向き合う。ほっとしたように笑み崩れた娘は、確かに初めて魂を持った半人半獣として作った女性の一人。
「体に不備はないですか?」
 そう尋ねると、娘は嬉しそうにあれこれと近状報告をしてくれた。送られた当初は実験台にされる事も多かったが、今では『図書館』内部で、メッセンジャーとして走り回っているらしい。仕事を得て、活き活きと生活している様子が嬉しかった。
 しかし。
「あの」
「なんでしょうか? ラクス様」
「その、ラクス様、というのは止めていただけないでしょうか?」
「どうしてですか?」
 娘はきょとん、と首を傾げる。
「ラクス様は私たちを作って下さった、つまりは神とも言えるお方です。その方を様付けして呼ぶのは当然ではありませんか?」
 と、言われても、慣れないものは慣れない。幾つか言葉を重ねて説得すると、娘も不承不承納得してくれた。
「では、なんとお呼びしましょう?」
「様以外で、好きに呼んでくだされば」
 それは失言だった、と思い知ったのは直ぐ後である。
「じゃ、じゃぁ」
 娘は嬉しそうに頬を染めて。熱に潤んだ瞳で。
「ラクスお姉さま」
 がく、と力いっぱい脱力したラクスをおいて、娘は「恥ずかしいぃ」と自慢の脚力で走り去ってしまった。訂正は今更届かない。
 今度あったら、今度は呼び捨てにしてくれるように頼もう、とラクスは頭を切り替えて歩き出した。こんな所で撃沈している場合でもないのだ。
 そして、何歩も歩かないうちに。
「ラクス様!」
 後ろから呼び止められた。呼び止められれば振り返ってしまうもので、条件反射とは恐ろしい。
「やっぱりラクス様! お久しぶりです!」
 居たのは、羊の下半身にコウモリの皮膜を背に持ち、頭には丸い角を持つ女性で。彼女は片手に箒を持って、背中に背負ったリュックには叩きが見えた。そして、その彼女が引っ張っているのは水槽。中には、同じようにリュックを持った少女がいた。こちらは下半身がゴマアザラシで、そうそう見忘れる事ができるものでもない。
「お久しぶりです」
 そう返して、今度はラクスから歩み寄る。
「お元気ですか?」
「はい! 日々つつがなく過ごさせていただいていますわ」
 女性は嫣然と微笑んだ。その後ろで、少女が口を挟む。
「そうね。やーっと、花瓶を割る事もなくなったしねー」
 ぎろ、と睨みつけられたのもまるで意に介した風もなく、今度は少女がにっこりとラクスに笑いかけた。
「この体はちょっと移動には不便ですけど、水の中を泳ぐのは楽しいし、水槽の掃除も慣れると楽しいです」
「熱帯魚はおいしかった?」
 少女の笑顔が引きつった。ラクスは何か言おうとして―――
「一々過去の失敗を引き出さないでくれる?」
「最初に言ったのはあんたでしょ」
「ラクス様を先に見つけたのはあたしなのに、先に馴れ馴れしく話しかけたりするからよ」
「なにそれ? 私がここまで引っ張らないと移動も出来なかったくせに?」
「頼んでないし」
「親切心よ」
「日本って国では、そう言うの、小さな親切大きなお世話って言うのよ。知ってる?」
「誰があんたの為って言ったの。お優しいラクス様が、あんたみたいなひねくれ者の様子も知りたいだろうからって言うことよ」
「だったら恩着せがましく言わないで」
「感謝くらい当然でしょ」
「自分の常識を他人に押し付ける年増ってサイテー」
「礼の一言も言えない貧乳小娘に何言われても痛くも痒くもないわ」
「何よ」
「何かしら?」
 ラクスは眼の前で始まった壮絶な罵倒合戦から眼を逸らした。自分が作ったとはいえ、もう少し性格を一般的なものには出来なかったものだろうか。まぁともかく。彼女たちは、あの時と何ら変わらず、元気で楽しく、『図書館』で掃除をして働いているらしい、ということは解った。手も出ていないところを見ると、精神的に成長もしたらしい。
 そのラクスの前で、通りかかったメイドゴーレムが手馴れた様子で二人を分けて、さっさと仕事に戻す。温かく迎え入れてもらっているらしい事が解って、ラクスはほっとした。
「じゃぁ、ラクス様! また来てくださいねー」
「次は、お茶でもお入れします」
 二人に手を振りかえし、今度こそ、資料の引渡しを行うべく若干急ぎ足で歩き出したのだった。








 特に問題もなく、ラクスは人間社会の資料と、本に関する情報を引き渡した。色々と問答をして、自分が不在だった間『図書館』は随分と賑やかになったと笑顔で言われたりしたが。皮肉というよりは好意的だった、とラクスは思っておく事にして。
 宝物庫へと足を向けた。
 『図書館』には本だけではなく、それに関する芸術品や術具などもおいてある。そこを管理し、守るのはグリフォンの使命だ。そして、ラクスはそこについ最近新人を送り込んでいるのだ。それも、元は人間の少女である。
「こんにちわ」
 古馴染みのグリフォンに挨拶をすると、彼は気さくに返事を返した後、直ぐに彼女の用事を察したらしく、直ぐ傍の小さめの別館に行ってみるように言ってくれた。その指示に従って、そちらを訪れると、一頭のグリフォンが顔を上げて嬉しそうに羽を広げた。
 ラクスは贈った名を呼んで、その傍へと降り立つ。
「お久しぶりです」
「はい。変わりはないですか?」
 あの頃と何一つ変わらない、真摯な瞳は真っ直ぐにラクスを見た。使命感に満ちた雰囲気を感じて、ラクスは嬉しくなる。
 体調に関して暫く質問をして、今のところ何の問題もない事を確認した。ほっと笑うと、グリフォンも眼を和ませる。体の変化については違和感はないが、自分の精神年齢が上った事は、若干戸惑うこともあるというが、それは予想範囲内だ。慣れますよ、と笑って。
「毎日、とても楽しく過ごさせていただいています」
「そうですか」
「最初のうちは皆様と一緒にあちこち護衛させていただきましたが、今は、ここの別館を任せていただいています」
 そういった声の、なんと誇らしげなことか。
 人間の社会から抹殺される所だった。生きる価値がないのだと、捨てられた命だった。それを拾い上げたのはラクスだが、その可能性を実現したのは少女に他ならない。
 そして、生甲斐を見つけて、充実した毎日を送っている事が見て取れて、ラクスも一緒に誇らしくなった。
「本当に、良かったですね」
「はい。すべて、ラクス様のお陰です。あの時、貴方様に助けていただかなければ、私は死んで、それで終わりでした。生きるということの楽しさも、嬉しさも、何も知らないままでした。誰かに信頼され、必要とされる喜びを、与えてくださった事に、言い尽くせないほどの感謝を感じています」
 深々と頭を下げられ、ラクスはおろおろとする。グリフォンはその姿を見て、目を細めた。
 にっこりと、ラクスも笑い返す。
 それ以上仕事の邪魔をするのも気がひけたので、ラクスはまた訪れる旨を伝えてその場を後にする。帰り道で最初にあったグリフォンに出会い、少女の様子を客観的に見てどう思うか尋ねてみた。
 グリフォンは、実直で少しばかり融通が利かないが、信頼できる優しくていいこだと笑いながら言ってくれた。良く出来た娘のようだとも、目を細める。ここでも、温かく迎えてもらっている事に感謝を述べて、次に向かった。










 何人か同じ境遇の幻獣たちの様子を見て回って、最後に、ラクスは一応最後と決めた少女の元へ向かった。一番最後に錬成したその少女は、ラクスなりに一番難しい錬成であったのだが、果たしてどうだろう、と。
 元気にやっている事は、歌を通して伝わってくる。それでも、顔だけ見ておこうと思って、セイレーンに宛がわれた個室を覗き込んだ。
「お久しぶりです」
 広いその部屋で、拡声器のようなものに向かっていた茶色い背中に挟まれた、白い羽が振り返る。
「ラクス様」
 ここでも、ラクスは様で呼ばれるらしい。もう一々訂正するのも面倒だし、余計訳の解らない事になるのも嫌なので、それには何も言わずに笑顔を返す。
「お元気ですか?」
 横にいた二人のセイレーンにも会釈した。一人は穏やかな中年の女性で、もう一人は少女と同じか、少し下くらい。
 二人とも人好きのする笑みを浮かべて、少女を促す。少女もどこか嬉しさを隠しきれない笑顔で頷き返し、ラクスの元へ歩み寄った。
「お久しぶりです。お陰さまで、毎日楽しく過ごさせていただいています」
 はにかんだ笑顔で、言う。
 ラクスが人から錬成した幻獣たちは、皆、「楽しい」という事を強調する。人として生きていたとき、それを知らなかったものばかりだからこそ。
「体や喉に違和感はありませんか?」
「はい。あ、でも……」
 少女が言いよどんだが、ラクスは強引にそれを聞き出した。曰く、歌いすぎると頭がぼうっとすると。特に危険な感じがするわけではなく、気持ちのいい疲労のようなものだというが、ラクスは一つ心当たりがあった。
「やはり、魔力を精神力で補っているんでしょうね」
 人はあまり魔力を持っていない。時々持っている人間もいるが、それは極特殊な例だ。この少女も元々少し魔力があったからこそ、セイレーンの『歌声』から脳を守るバリアーが作れたわけだが、生粋のセイレーンと比べれば弱いのだろう。
「少ししゃがんでもらえますか?」
 少女はこくんと頷いて、真っ白な足を折った。ラクスも体を屈めて、その少女の額にこつん、と自分の額を当てる。
「あの?」
「すこし、眼を閉じていてください」
 この少女を錬成してから、実はこの件が気になっていたのだ。そこで、あれこれと調べたり勉強をして事態に備えていたのである。
 脳波を確認し、少女の魔力の波動を確認。よし、と頷いた。
「もう良いです」
 小首を傾げながら立ち上がる少女に、自分の羽に引っ掛けた鞄の中に唯一残った箱を取ってくれるように頼む。
「これでいいですか?」
「はい。それを開けてみてください」
 飾り気のない箱から出てきたのは、シンプルな金の額飾り。
「これは?」
「あなたのために作った、魔力の増幅をするものです。これで、一日中歌っても、それほど疲れなくなるはずですよ」
 感極まって泣き出してしまった少女を、歌を中断した二人のセイレーンが抱き寄せた。彼女たちとは羽の色も出自も違う。けれど、仲間として大切にしてもらっているのだと解った。
「幸せそうで、嬉しいです」
 もらい泣きをしながら笑ったラクスに、三人は笑み崩れて。
 幸せな気分でそこを辞した。
 涙で潤んだ歌声が、気持ちよく耳元を通り過ぎていく。






 帰省の用事を済ませたラクスは、今度は自分の知識欲を満たす為に『図書館』の内部を歩き回る。折角帰ってきたのだから、あれこれと本を読みたい。今までは興味がなかったり、読んでも良く解らなかったりしたものも、人間社会に触れたり、多くの錬金術を駆使するようになって、初めてわかったことや理解できるものもある。
 そう言う本を片っ端から探して回り、持ち出し禁止の分は眼を通して頭に叩き込んでしまい、それ以外は受付で写しを貰う。
 中でも、今回は遺伝子工学が眼を引いた。新しく増えていた本のコーナーにおいてあったのだが、眼を通して、呆れるを通り越して感心する。
 人間は、「クローン」を作りたいらしいし、現代の化学でそれは十分に可能である。既にウシやヒツジ、ネコなどが作られているとか。だが、その”利用目的”が、中々笑わせてくれる。
「良質な肉の確保、ペットなどの代替わり……ですか」
 不変を望むのか。何一つ変わっていかない世界を望むのか。同じものを幾つも作る。そこに、ラクスは意味を見つけられない。どんな生き物も、まったく同じではありえない。それが当たり前で、理由など考えた事もなかった。けれど、人は同じを望む。自分が死んでも、世界が変わっていかない事を望む。それは、人間の短すぎる寿命に原因が在るのかもしれない。
 長くて百年。その程度しか生きられない、牙も爪もない地球で最弱の生き物。群れなければ生きていけず、その群れからはじき出されれば死ぬしかない。
 その弱い生き物が、万物の頂点だと自負する。確かに、世界の全てを、人は蹂躙している。何一つとして『神秘』では赦せない。原因を明確にして、そして、人間社会にとって有益か無益かを判断し、利用するか処分するかを決める。
 けれども、それは果たして、正しいことだろうか。何もかもを知りたいという傲慢は、寧ろスフィンクスの方が強いだろう。だが、それら全てを、くまなく利用しようという気は、少なくともラクスにはない。
 知りたいと思う。知る努力をする。
 そこまでは同じだが、そこからは違う。
 また、その隣には原子爆弾に関する本が置かれている。一つの都市を消し飛ばせる威力を持つその爆弾は、現実に落とされ、地獄絵図を作った。更に、それより威力の強い水素爆弾が開発されているとある。
 飛行機を発明したライト兄弟は、空まで戦場にするのかと嘆いたという。放射線を発見したキューリー夫妻は、やがて世界が灰になるかもしれないと聞いたら、なんというだろうか。
 人類史上、兵器に転用されなかった発明はない、とまで言われている。
 やがて、遺伝子工学でも兵器が開発されるのだろうか。
 ラクスには想像もつかない。人間は地球を何度も滅ぼせるだけの力を持った。それのボタンを押してしまったとき、自分たちの愚かさに気がつくだろうか。
 一人一人は善良に見える。事実、ラクスの知る限り、善良な人が多いはずだ。けれど、歴史は戦争で綴られ、やがては、滅びていくのかもしれない、とラクスは薄ら寒い気持ちになった。
 スフィンクスは太古から放射線の存在も、重力の意味も、遺伝子の重要さも知っていた。けれど、知っているだけで、特別それで何かをしようとはしない。少なくとも、同族を殺すために人間ほど熱心にはなれない。
 人間は同じ事を知ったとき、全てを同族殺しの材料にしていく。
 ラクスが幻獣を作ったように、人間たちが作れば、その幻獣たちは、一体何をさせられるのだろうか。
 だからこそ、『図書館』には人間は入れないのかもしれない。ここには立ち入らせてはいけないのかもしれない。ここには、まだ、人間が知らない事がある。人間が知ってはいけない事がある。
 少なくとも、まだ。
 ラクスは人間に滅びて欲しいとは思わないから。
 腕に納めた本を、強く、強く抱きしめた。





 ラクスは十分に帰郷の意義を果たし、やがて帰途に着いた。
 戦果は上々。しかし、昂揚した気分も背中に積んだ本を思えば、少しばかり気が重くなる。
 眼下に広がるネオン。
 それらが、一瞬で灰になった時。ラクスは一体何を思い、何を感じ、何を行うのか。その時を、どこかで待っている自分がいる。そうなった瞬間の自分自身の想いを知りたいという、知識欲。
 けれど、決してそうなってほしくないという思いもある。
 人間たちは、幻獣たちよりも、ずっとずっと賢いのだから。その同族を殺す情熱を少しでも別の事に傾けて欲しい。
 そう、祈りながら、大家の待つ家に向かって滑空を始めた。




END
PCシチュエーションノベル(シングル) -
泉河沙奈 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年10月03日

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