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『『護衛』 』
シェラ・アルスター5267)&嵐・晃一郎(5266)



「今度の依頼は何だ?」
 携帯電話を耳から外したシェラ・アルスター(しぇら・あるすたー)に、嵐・晃一郎(あらし・こういちろう)は問い掛けた。
 二人が同居している倉庫街は、あまり人通りもなく常に静かであったので、家の中にいれば、よっぽどやかましい音を立てていない限りは、携帯電話が鳴った事はすぐにわかる。そして、電話をかけてくる相手と言えば、一人しかいない。
「またストーカー退治なんだろう?」
 携帯電話のボタンを押して保留モードにし、自分の方へと顔を向けたシェラに、晃一郎はもう一度言葉を投げかけた。
「確かにそうなんだが」
 そのシェラの表情からして、彼女自身、電話の話を聞いて何かを考えているようであった。
「草間興信所からなんだろ?」
 シェラは軽く頷くと、晃一郎の顔から自分の足元の方へと視線を落とす。
「どうかしたのか?」
「どうも、今回のヤツは普通じゃないらしい」
 シェラはしばらく沈黙したあと、話を続けた。
「草間興信所からの電話には間違いないんだが、かけてきたのは草間・零だ」
「という事は、妹の方って事だな」
 晃一郎はシェラの話に相槌を打つ。
「だが、普通でないって言うのはどういう事だ?少なくとも、厄介な相手には違いないだろうが」
 そう晃一郎が答えると、シェラがわずかに声の調子を落として答える。
「今回のストーカーは、おそらく人外だろうという事だ。所長では対処できないので、私達にこの依頼を振ってきたらしい」
「なるほど」
 晃一郎は今までの草間興信所から受けた依頼の事を思い出しながら、わずかに笑って見せた。
「そんな厄介な物を頼むとは、俺達も信頼されて来たって事だな〜」
「そんなのん気な事言ってる場合ではないぞ、嵐。私も元の世界で色々な連中を相手にしてきているし、人外なヤツが相手だからと言ってこの依頼を断る気はなかったが、零の声の調子が、少々怖がっていた感じだったからな」
 シェラは顔をしかめていたが、晃一郎は笑顔を絶やす事はなかった。
「大丈夫だろう、お前と協力するんだしな」
 その言葉を聞き、シェラが苦笑して見せる。
「まったく、その能天気ぶりは、最初に会った時からちっとも変わらないんだな。ま、それはともかく、依頼内容としては、ある少女をストーカーから護衛する事だが」
「言わなくてもわかっているだろ。零に返事してやってくれ。あと、出来る限り、そのストーカーの特徴を聞いておいてくれ」
 晃一郎の返事を聞き、シェラは何も言葉を返さず、携帯電話を再び耳に当てた。



「よろしくお願いします」
 晃一郎とシェラの顔を交互に見つめ、その少女が軽く頭を下げた。年齢は9歳ぐらいだろうか。晃一郎と視線が合っても表情を何ひとつ変えず、どこか怯えたような雰囲気があるところからして、彼女自身、ストーカーの影に恐怖を感じているのかもしれない。
「あなたを私達が護衛するから安心して?こっちのお兄さんは頼りにならないかもしれないが」
「こんな時に変な冗談やめろよな、シェラ」
 まったく、シェラの負けず嫌いがいつも変なところに出てくるのだから、と晃一郎は思いつつ、少女を心配させないように、優しく言葉をかけた。
「俺達二人で護衛するからな。もし、何かおかしな物に気づいたら、すぐに合図をしてくれ。俺達は必ずそばにいる。俺やシェラの姿が見えなくても、必ずそばにいるから安心してくれ」
「わかりました」
 少しだけ安心したような表情で、その少女が晃一郎に小さく頷いて見せた。
 少女を護衛する事が今回の任務だから、彼女が朝学校へ行き、家に戻ってくるまでを見張っている必要があった。
 翌日、晃一郎とシェラは、少女と一緒に学校へと向かった。少女を真ん中にして、その両側に晃一郎とシェラが一緒に歩くのだが、他の者から怪しまれないようにと、二人はカジュアルな普段着を着ていた。
 そんな格好をしていたせいだろうか、学校に到着した時に、少女の友達から、パパとママですか?等と間違えられた時には、シェラも苦笑をしているようであった。
「さてと、これからどう動くかだな。まさか、ストーカーが学校の中へ侵入したりしなければいいが」
 草間興信所から学校側へ連絡がいっていたので、二人は新人教師、という仮の肩書きを受けて、学校内を歩き回り調査を進めていた。
「おかしな人影はなかったな。一体、ヤツはどこに隠れているんだ?」
 そう言って少々苛立ったように、シェラが学校の窓から校庭を見つめている。
「本当に人外なら、どんな能力を持っているかわからない。それに、どういう理由であの子をつけているのかもわからないからな」
「そうだな。油断するなよ、嵐」
「シェラもな」
 二人は顔を見合わせ、お互いにそう言い放っていた。
 結局、何も手がかりを見つける事は出来ないまま、下校の時刻が訪れた。学校から子供達が次々に下校し、中にはまだ学校へ残っている者や、校門で友達ふざけあっている子供達もいる。
「この世界は本当に平和なんだな」
 その子供達の姿を見て、シェラが呟いた。
「細かい問題はあるみたいだが、子供達がとても楽しそうだ。私達の世界の子供達は、あんなに楽しそうにしていただろうか」
「俺達の世界か。戦いが絶えない世界だったが、それは今も変わらないのかもな」
 シェラの呟きに、晃一郎お静かに言葉を添える。
「おっと、シェラ、あの子だ。一緒にいるのは友達かもな」
 そう言って、晃一郎が少女に手を振った。少女は、クラスメイトと思われる女の子数人と一緒に、手を振った晃一郎の方へと駆け寄って来た。
「わー、このお兄さん達誰?」
 少女の友達が、晃一郎へと視線を向ける。
「うんと、私の親戚の人」
 と、少女が答える。
「カッコいいお兄さんだねー」
「こっちのお姉さん、超美人!」
 女の子達はしばらく騒ぎ立てていたが、せっかくだからと彼女達も一緒に、家へと戻る事になった。その道中、女の子達がシェラを何度も美人だと褒めるので、さすがのシェラも少し照れたらしく、女の子達と一緒になって笑顔を見せたりしていた。それでも、時々鋭い視線でまわりを警戒している姿は、さすがと言うべきだろうか。
 女の子達とおしゃべりをしながら下校であったので、女の子達と別れ、少女と晃一郎達3人だけになった時は、すっかり夕暮れ時になっていた。
「これから、ピアノ教室へ行くんです」
 家の近くにあるピアノ教室に少女が通っている為、そこへ着くまでまで護衛したのはいいが、その教室は個人宅であった為、不用意に中へズカズカと入り込むわけにもいかず、晃一郎達は少女がレッスンを終えるまで、外で待っている事となった。
 すでに時刻は午後5時をまわっており、オレンジ色の太陽がその姿を隠そうとし、道には少女を待つ2人の長い影が伸びていた。
「怪しい気配を感じたか、嵐」
 少女を待ちながら、シェラが問い掛けてきた。
「今のところは何もないみたいだな」
「そうか。一体、ヤツはどこにいるのだろうか。それとも、今日は現れなかっただけなのか」
 晃一郎は、シェラの表情を見ながら、今朝からの自分達の行動を振り返っていたが、その中に特に異常だと感じた事は何もない。
 やがて、少女が家から出てきた。先生と思われる女性に見送られ、夕日を浴びて赤く染まったその少女が歩きだし、彼女を見送った女性が家の中へ入ったその時であった。
 少女の長い影が急に立体的に盛り上がり、やがてそれは人間のような形となった。突然の事に驚いたのか、抜け殻のように硬直したまま動かなくなっている少女に、その人型の影が手を伸ばそうとする。
「シェラ!あの子を頼む!」
 やる事はわかっていた。晃一郎とシェラは同時に飛び出し、その影へ向かって走った。晃一郎は指先をその影に向けて電撃を放ち、わざと怪物の近くまで駆け寄った。
「やっと出たな。確かに人間じゃないな!」
 影をギリギリまで自分の方へと近づけ、電撃で攻撃をしながら、晃一郎は少女から影を引き離してゆく。
 視界の先で、シェラが少女を抱き上げ、その影から遠ざけたのを確認すると、両手を突き出し、影に向かって雷のエネルギーを打ち放った。雷はその影にまっすぐに命中し、晃一郎の目に影がよろめくのが見えた。
「離れろ、嵐!」
 追い討ちをかけるようにして、シェラが横から炎の弾を弾き飛ばした。晃一郎は影から一歩離れたものの、シェラの炎の熱を受け、額に汗が噴出すのを感じていた。
「まさか影から出てくるとは。いや、影そのものなのか?」
 晃一郎はそう言って、その影のいた場所を見つめた。二人の攻撃が命中したおかげで、何もいなくなっている。
「ヤツは、消し飛んだのだろうか?」
 まだ気を張った表情で、シェラがあたりへと視線を漂わせる。
「いや、まだみたいだぞシェラ。これはまったく、とんでもない依頼を受けたもんだ」
 晃一郎がそう言っている間にも、夕日を受けて出来た建物や自動車、草花といった全ての影から、次々に先程と同じような人型の影が浮き上がってきた。
「何だ、こんなに沢山!」
 シェラも動揺しているように見える。
「さっきの奴は消えたんじゃない、近くの影の中に隠れたのだろう。そして、影がある限り奴は自由自在!」
 何十、何百と湧き出た影が、一気に晃一郎達に襲い掛かってきた。晃一郎は電撃で、シェラは炎で影を次々に攻撃したが、影は増え続け、一向に減る事はなかった。
 どんなに晃一郎達が影を倒しても、また別の物の影から湧き出てきてしまい、きりがなかった。晃一郎は、余裕はまったく感じられなかった。次第に肩で息をするようになり、影が襲い掛かってきても、疲労でうまく体が動かなくなっていく。それはシェラも同じようで、彼女もその動きが徐々に鈍くなっているのは明らかであった。
 このままたただ戦っていたのでは駄目だ、何かいい作戦を考えなければ。影の攻撃を避けつつ、何か動きに弱点はないかと、晃一郎は影に視線をやった。影の怪物、影から出てきた魔物。影に弱点などあるだろうか。
 晃一郎がそう思った時、ひとつの考えが頭の中に浮き上がった。
「わかった。これしかないだろう!」
 晃一郎は身を翻して影を避けると、自分の背中に夕日があるのを確認した。そして、その夕日とは逆の方向に手を向け、雷球を打ち放った。
「シェラー!!その雷球を火で撃てー!!!」
 シェラにこの作戦を説明している暇などない。けれども、何度も一緒に戦いを潜り抜けてきたシェラなら、わかってくれるはずだ。
 予想通り、シェラは晃一郎の言葉のすぐに火球を作り出し、晃一郎が放った雷球に向けて放った。火球が雷球に命中し、爆発したかと思うと、次の瞬間強烈な閃光が生まれ、すぐそばに太陽が出現したのでは、と思うほどの強い光にあたりは包まれた。
 そして、その光を受けて、存在している物の影が一気に見えなくなる。それは、あの人型の影も例外ではなかった。
「シェラっ!!」
 もう一度晃一郎は叫んだ。
「わかってる!」
 たったひとつだけ、強い閃光を受けても消えない人型の影が残っていた。おそらくは、それがこの影達の本体なのだろう。シェラは影の本体に向かって無数の火球をぶつけた。
 さらに、シェラの攻撃でよろめき始めた影の本体に、晃一郎は走って加速をつけて自らの腕に電撃をまとい、スピードで勢いを増した電撃パンチを食らわした。
 確実な手ごたえが、腕から伝わってきた。影の本体はみるみるうちに形が崩れ、やがて音もなく消え去ってしまった。
「やれやれ、相変わらずうまい作戦を思いつくもんだ、嵐は」
 傷だらけの顔に、シェラがほっとしたような笑顔を浮かべた。
「奴が影そのものを使って分身を作り出していたからな。影の特徴を考えたら、とっさにこの作戦を思い浮かべた。とにかく、何とかうまくいって助かった」
 晃一郎は、そう言って自分の体から流れる血を手でぬぐった。
「さあ、早くあの子を家に届けてあげよう、嵐。人外なヤツでなくとも、危険なヤツはいるのだしな」
 シェラはそう答えると、少女の方へと駆け寄っていった。



「これで、任務完了だな。帰ったら草間興信所に連絡しておこう」
 シェラのその言葉に、晃一郎は無言のままに頷いた。二人は少女を家まで送り届け、住処である倉庫を目指して歩いていた。
 かなり疲労がたまっており、油断すると倒れてしまいそうであった。それはシェラも同じであろう。今回の相手はさすがに危機を感じたが、シェラとの連携のおかげで、何とか倒す事が出来た。
 かつては敵であったシェラだが、度重なる依頼をこなして行くうちに、敵ではなくてパートナーとしても十分やっていけるのでは、と感じ始めていたのであった。
 もうすぐ倉庫街だ、と晃一郎が思った時、どこからともなく、か細い声で、誰かが歌を歌う声が、晃一郎の耳に入って来た。

―赤い靴履いてた女の子、いじんさんに連れられていっちゃった…。

 晃一郎はそばに子供でもいるのではないかと思い、あたり見回したが誰もいない。晃一郎は、その歌にあった「赤」という単語を思い返し、反射的に隣を歩いているシェラの赤い髪を見つめていた。
 その歌が気になり、しばらくシェラの顔から目を離す事が出来なかった。
「ん?どうかしたのか、嵐」
 晃一郎の視線に気づいたのだろう、シェラは不思議そうな顔をしていた。
「おかしなものでもあったか?」
「いや、何でもない。いや、せっかくの顔が傷だらけだなーと思ってな!」
「何だ、またそういうつまらん事を。疲れているんだ、もっとマシな事言ってくれ」
 シェラは苦笑を浮かべていた。
 突然聞こえてきた謎の歌に、晃一郎はしばらくシェラから目を離す事が出来なかったが、考えすぎだろう、と思い、あまり気にしないように意識した。
 やがて二人は倉庫へと辿り着き、それぞれの部屋で休息を取るうちに、晃一郎は歌の事などはすっかり忘れているのであった。(終)



◆ライター通信◇

 いつもありがとうございます、ライターの朝霧です。
 今回は草間興信所からの依頼と言うことで、今までになくシリアスに話を展開してみました。
 影との戦いでは、自分の中で映画のように場面を思い浮かべて、描写してみました。護衛の少女は、ちょっと特徴を出して、年齢やどういう状況の中を護衛するのかを書き加えて見ましたが、イメージ通りになったかな、と心配しているところです(笑)
 それでは、今回もどうも有り難うございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月20日

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