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『〜そこから先は………〜 』
御崎・綾香5124)&和泉・大和(5123)


 夏休みが終わってから、一体何日経ったのだろうか……
 新学期が始まってから暫く経った今日も、まだ夏のような暑さが続いている。むしろ、台風が通り過ぎた影響でこまめに蒸し蒸しと暑い日が続き、不快指数は上昇傾向にある。
 そんな所為で寝不足なのか、和泉 大和はHRが終わって下校するという時でも、未だに眠そうに欠伸をしていた……

「どうしたんだ大和。お前が眠そうにしてるなんて、割と珍しい事何じゃないか?」

 級友の相撲部部長が話し掛けてくる。主立った大会が終わってもまだ稽古は続いているらしい。最近部室へと出向いていない大和へと、部活に出てこないかと言ってきた。
 …………彼にとっては、親友である大和が部活に来ないのは相当に気になっている事だったようだ。いつになく心配そうにして、励ますかのように大和の肩を叩いてくる。

「いや、悪いけど、今日は本当に眠いからな……パスさせてくれ。どうせ俺の仕事は、もう無いだろう?」
「まぁな。マネージャー見習いの一年もいるし……大和、お節介かも知れないが、悩みがあるんなら相談に乗るぞ?」

 …………妙な所で勘が良い。大和が相撲を続けるか、プロレスにはいるかで悩んでいる事を、漠然と感じ取ったようだ。流石に数年間続いている友人関係は伊達ではない。
 だが大和は、こういった相談を、この男にする気はなかった……別に信用してない訳ではないし、向こうも真剣に心配してくれているのも解っているのだが……

「……………」

 同じ教室内から、御崎 綾香の視線を感じる。昼休みに一緒に変える事を約束したため、わざわざ待っていてくれているのだ。
 気配を感じ取りながら、大和は確信する。

(相談するとしたら……)

 綾香の方へと相談するだろう(既に相談済みだが)。そっち先に相談しないと、恐らく自分が後悔する。

「悪いけど、もう少し待っててくれ。俺の方で決着付けてから話すから」
「……まぁ、お前がそう言うんなら良いけどよ。ってオイ、決着付いたら相談する必要ないんじゃないか?」

 苦笑しながら、級友は教室から出て行った。後に残された大和は、机の横にぶら下げてあった鞄を手にとって、廊下へと移動する。未だに“高嶺の花”である綾香との関係は出来るだけ表沙汰にはしないようにしているので、教室内ではほとんど会話をしていない。
 大和が教室から出るのを見て、綾香もすぐに席を立ち、級友達に挨拶をしながら付いてきた。下駄箱、校門と経由し、学校の敷地内から出てようやく大和と綾香は合流する………

「悪い、ちょっと遅くなったな」
「捕まっている所は見ていた。それに遅れたと言っても、ほんの五分だ」

 教室で待ってたんだから問題ないと付け足して、綾香は少しだけ、いつもよりもソワソワした様子で歩いていく。普段は大和の歩調に合わせられているのだが、今日は追い抜いていっている。しかも綾香は、気が付いていないようだった。

(やっぱりあれか、昼休みの話の事か……)

 大和は綾香の背中を見つめながら、今日の昼を回想する………






「礼?」
「そうだ。今度の土曜日、もし空いてるんだったら神社に来てくれないか?今年の夏祭りでは、散々手伝って貰ったのに、まだお礼をしていないだろう?」

 綾香がお弁当の箸を休めながら、ベーコンエッグサンドを食べ終えた大和に向かってそう言う。だが大和は、「お礼をして貰うほどのことはしてないと思うが……」と、夏祭りを思い出しながら考える。
 夏祭りでは、神社の境内を使って、盛大に夏祭りが行われた。御崎神社は古く格式があるため、夏祭りでは代々御崎家女子の神楽舞やら何やらをお披露目して盛り上げていたりした。
 大和がそこでした事と言えば………夜店の“金魚救い”を担当し、チビッコ達と遊んでいたぐらいである。ちなみに“金魚救い”の“救い”は誤字ではない。この時の金魚は、何故か高速回転する水流に揉まれ、グルグル回されていたのだ。それを救出するというのである……
 神社としてやって良いのか悪いのか……かなり微妙な心地で担当していた大和だったが、割と楽しんでいた事を記憶している。

「いや、俺も十分楽しんでいたからな。別に……」
「そう言わないでくれ。お祖母様も大和に会いたがっている。もしここで断れば…………」

 綾香がイヤな所で言葉を切る。同時に、大和も次のウメサンドに伸ばしていた手を硬直させた。
 ……………
 数秒間だけ、沈黙が降りる。

「そうか、なら行くべきだな」
「ああ、是非来てくれ。私がご馳走を作っておくからな」

 何処かソワソワしながら綾香がそう言い終わると、昼休み終了の予鈴が鳴った……






 そして今でも、綾香はあまり落ち着いていないようだ。綾香は今までも突然問題が発生したり、何か隠し事をしているような時にはすぐに落ち着かなくなり、周りの者に気取られてしまう。隠し事が出来ないタイプだ。
 大和は綾香が落ち着いていない事の原因は、たぶん祖母を出す形で無理矢理誘うようにしてしまった事への負い目だと判断した。

「なぁ、今度の土曜日……」
「!? あ、ああ。やっぱり都合が悪いか?」
「いや。楽しみにしているからな、って言いたいだけだ」
「そ、そうか……」
「ああ。綾香の手料理、楽しみに待たせて貰うよ」

 そう言って、綾香を神社の階段前に置いて、大和は自分の家へと帰宅していった。帰り道で一人になって帰っていく大和を階段の中腹から眺めながら、綾香は一人、忙しなく鼓動を続けている胸へと手を当てる。

「大和………すまない」

 小さく呟いてから、綾香は神社の境内へと上っていった………





 そして数日後……土曜日の夕方になり掛かっている頃に、大和は御崎神社を訪れた。さすがに昼間から来るのは気が引けたため、晩ご飯だけをご馳走になる事を綾香に承諾させている。
 予定外にカー助も連れてきてしまったが……まぁ、こいつ一羽分の食事ぐらいは都合出来るだろう。
 一応手土産として、家にあったお客用の饅頭を持参した。いくら手伝って貰った礼だと言っても、一食ご馳走になるのならこれぐらいは必要だろうと踏んだからだ。
 身嗜みも普段着に毛が生えた程度だが、悪くはないだろう。普段から全然気にしていないだけあって自信はないが……まぁ、大丈夫だろう。
 最終チェックを済ませ、玄関のチャイムを鳴らした。

「はーい!よ、よく来てくれたな大和!」
「お、おう」

 まるで待ちかまえていたかのような速さで扉が開いた。扉を開けたのは綾香だった。それを確認すると同時に、美味しそうな料理の臭いが漂ってくる……
 しかし出てきた綾香は、どういう訳か少しだけ顔を赤くし、いつもの落ち着きのない状態に入っている。
 大和はそんな綾香の状態に少しだけ驚きながら、落ち着かせるために気を反らせてやろうと、「来たぞ。お招きありがとう」と綾香に言い、手に持っていた饅頭の袋を差し出した。

「土産だ。……大丈夫か?顔が赤いぞ」
「!? だ、大丈夫だ」

 大和の問いに面白いように反応し、綾香は饅頭を受け取りながら、「それよりも、上がって良いぞ」と言って、扉の横に退いた。大和もお祖母さんが来ない事に多少の違和感を感じながら、「お邪魔します」と言い、靴を丁寧に脱ぐ。その足下でカー助が「カァー!」と鳴いて、綾香にじゃれついていた。
 そのカー助を撫でつけて落ち着いてきたのか、まだ顔は赤かったが、それでも随分と回復した様子で、大和の一歩前に立って廊下を歩いていく。
 大和は通された居間に並んでいる料理の数々に、小さく感嘆の声を漏らした。
 刺身に焼き物、煮物、漬け物、汁物………小さいが鍋物まである。神社だけあって和風の料理ばかりだが、何とも食欲をそそる物だ。
 驚いている大和に座るように言ってから、綾香は再び台所へと消えていった。何でも、まだここに運んできている途中だったらしい。
 食い付こうとしているカー助を拘束しながら、大和はこの家に入った時から気になっていた違和感の原因を探すために辺りを見渡し、すぐにその理由に気が付いた。
 お祖母さんだけではない。他の綾香の家族達が、誰も居ないのである。と言うか、この家の中に自分達以外の気配がない。あの家族の性格上、如何にあのお祖母さんが陰謀を企てようと、そう簡単には綾香と大和を二人きりになどさせないはずである………

「綾香、家族はどうしたんだ?」
「ああ……今日は居ない。今日明日と、私は一人で留守番と言う事になっている」

 料理を運んできながら、綾香はそう言った。さすがの大和も、その返答には驚いた。話を聞くと、今日は祭りの慰労会で、少々遅れて旅行に行ったらしい。二泊三日。今日と明日は、誰も居ないらしい………
 綾香の様子がおかしいとも思ってはいたのだが、まさかこんな事情だったとは……
 大和は目の前に広がった料理よりも、真向かいに座った綾香へと視線を向けていた。

「…………」
「…………」

 気まずい雰囲気が流れている。いくら胆の座った大和でも、ここまで来ると平常心を保つのは難しい。綾香も自分で呼んでおいてやはり恥ずかしいのか、こうしている間でも緊張感のある顔付きでジッと大和を見つめている……

(何か話を……)
(こ、こう言う時はどういえば良いのだ?)

 大和はこの沈黙をどうにかしようと考え、綾香も先程家族が居ない事を告げた勢いを出せずに、口を閉ざしている。
 料理が冷めるよりも早く、この状況を打破しなければならない。二人でそのきっかけを探している時、それは大声を上げながら走ってきた。

「カァーーーー!!」
「「こらカー助!!」」

 痺れを切らしたのか、それとも隙有りと見たのか………カー助は勢いよく料理(特にマグロの刺身)に飛びかかろうとする。
 大和と綾香は、それを全く同時に、カー助を掴んで押し止めた。カー助は不満そうに暴れているが、暫くそうしていると諦めたのか、拗ねたように卓袱台の下へと潜り込んでいった。

「あ………はは」
「はは……食べるか?」
「そうしよう」

 二人はカー助の御陰で気持ちが解れ、その後は会話をいつもの調子で交わしながら、箸を進めた。

……………
…………
………
……

 会話をしながらゆっくりと食事をしたが、それでも一時間程もしたらほとんどの料理が片付いた。あまりにも元の量が多かったため、二人だけでは全てを食べる事が出来ず、幾つかの料理はラップを掛けられる事になった。
 台所に料理を運び、保存処理をしている綾香を手伝いながら、大和は綾香に話し掛けた。

「なぁ、今日は誰も居ないんだよな?」
「………ああ」
「それなら、俺はこれでお暇させて貰おう。料理美味かった。ありがとうな………カー助を探してくる」

 最後の料理を綾香に渡しながら、大和はカー助を探すために振り返った。カー助は食事の時に少しだけ料理をやると満足したらしく、家の中を散歩しに行ってしまった。実に落ち着きのない奴なのである。

(まさか綾香の部屋とかに入り込んでないだろうな……)

 この状況でそんな所に行かれて堪るかと、大和が探しに行こうと台所を出ようとする所を、誰かが袖を掴んで引き留めた。弱々しい力で、振り切ろうとすれば出来たのだが、大和はピタリと動きを止めた。
 勿論、そんな事をする者は、この家には一人しか居ない……

「……綾香?」
「……………………大和、すまない」

 大和の袖を掴んでいた手に力が入り、小さくだが振り返らせられる。そして振り返った大和の胸に、綾香の軽い感触が伝わってきた……
 台所の入り口で、綾香は大和の胸に顔を埋めていた。大和は期待はしていても、まさかの出来事に驚いたように硬直する。綾香は自分の行動に自身で僅かに驚きながらも、それは今日、大和をこの家に招いた時から決めていた事なのだと……もう自分を止める事が出来ないのだと改めて認識し、それを隠すかのように、恥ずかしそうに大和の胸に顔を埋めていた。

「すまない……もう私は、『私』を抑え切れない……」

 そう言って泣きそうな顔になる綾香。
 大和もそんな綾香を見て回復し、ソッと肩に手を置いた。

「………この前言った事、俺は本気だからな」
「……それは……嬉しい」

 顔を隠すようにしていた綾香に顔を上げさせる大和。綾香は抵抗するような事をせずにそれに従い、真剣な大和の顔を見て、静かにゆっくりと目を閉じた。






――――二人の影が重なる。そこから先どうなったのかは………一羽の鴉でさえ、知る事はない――――





fin











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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生
5124 御崎・綾香(みさき・あやか) 女性 17歳 高学生
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■         ライター通信          ■
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 毎度ありがとう御座います。メビオス零です。
 では、まずは一言………今回は何ともイレギュラーというか、初めてな事がいっぱいでした。
 しかも話は中途半端です!!何とも微妙な終わらせ方………この二人は一体どうなったんだ!?
 まぁ、それはこれから(があるのかどうかは別として)のお話次第ですね。
 カー助は途中から放置プレイです。もしかしたら、大和の隙を見て綾香が拘束したのかも知れませんが……(ニヤリ)
 では………あまり書く事が思い浮かびません。ですので、ここでいつもの……

 改めまして、今回のご発注、誠にありがとう御座いました。次の御機会がありましたら幸いです。

追伸:偶にゲームノベル(本当に偶に)を開いていますので、『夢見ヶ原』へもお越し下さいませ(・_・)(._.)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2005年09月20日

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