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『【あちこちどーちゅーき・今年最初の紅葉】 』
桐苑・敦己2611




あんなところで、バスを降りなければ良かった。
桐苑・敦己(きりその・あつき)は、少し苦笑気味にそう呟いた。
悔やんでも仕方が無いが、ちょっとはごちてみたくもなると言うものだ。
すう、と息を吸い込んでみる。森林の澄んだ空気が心地よかった。それもその筈、目に映る風景は、見渡す限り何処までも森に包まれている。
いつもなら徒歩で旅をする敦己が、珍しくバスなんか使ったのも、さすがにこの山を一日で越えるのは無理だと思ったからなのに。
「・・・これじゃあ、意味が無いじゃないか・・・。」
ひとけの無いこんな山奥で降りたのは、もちろん理由がある。その山渓が紅葉の名所として名高いと、麓の土産物屋のお婆さんにそう吹き込まれたからだ。
「そりゃあ見事なもんだよ。真下にある渓流に落ち葉が流れ込んで、美しくってねえ、」
ならば通り道だし、せっかくだから見に行こう。そう思い立って、丁度停車したバスに乗り込み、山頂付近まで上ってみた。揺られるうちに眠気が来て、ほんの少しうとうとと眠り込んだのがいけなかった。低くぼそぼそとした車内アナウンスに飛び起きると、慌てて目的地で下車して、・・・唖然、とする。
「・・・紅葉、してないじゃないか。」
早すぎたのだ。季節が。
一ヶ月後なら時期が良かったかも知れない。だが秋の初旬では、落ち葉が色づくどころかどの樹木もまだ青々とみずみずしい葉を茂らせていて、紅葉どころの話では無かった。
しかも。
運の悪いことは重なるものだ。下車したバスは、どうやら最終だったのだ。
まさかこんな日の高い内に、その日のバスが終わるとは思って無かった。バスの運転手も降りる時に一言告げてくれれば良いのに、無愛想に黙っているから分からなかったではないか。
念のため、逆向きのバスも確認する。こちらに至っては、二時間も前に最終バスが出てしまっている。実際の紅葉の季節なら観光客が車でも走らせていただろうが、この様子じゃそれも望めない。てことは、ヒッチハイクも不可能かも知れない。
「こりゃ、・・・どうしようもないなあ。」
歩いて降りるか、・・・明日までバスを待つか。
「ま、何とかなるでしょ。」
息をつくと、とりあえず敦己は歩き出した。
思いの向くまま気の向くままの旅は、こういう時、気楽だ。



「うーん、」
唸り声は、何度目だろう。
すっかり暮れ落ちた空を見遣りながら、敦己は少し重くなった足を叱咤するように、高く足音を立ててみた。
山道も徒歩の旅もお手の物の敦己にあって、この状況は予想外のものだった。
何故なら。
「・・・迷った、っていうんだろうな、これ・・・」
ここは、一体何合目なのだろうか。かなり下って来たと思うけど、皆目検討がつかない。
天を仰ぐ。空の高い位置に、大きく丸い月が昇っている。夜が更けてきたのははっきりしているが、自分の位置だけが掴めない。
『方向音痴』という言葉とは対極の位置にある敦己にしては、まったく珍しい事だった。
何より、・・・通ってきたコースは、迷いようの無い一本道だったのに。
バス停のあるその舗装された山道を、道に沿って下ってきたのだ。山を切り開いたこの手の道は、そのうちたいてい県道か国道に行き当たるようになっている。そう知っているからこそ、特に脇道にもそれず、のんびりそれを下ってきたのだ。なのに。
どうも、・・・その予想は外れたらしい。
道はどんどん細くなり、アスファルトがやがて土ぼこりに変わった。人の気配は一向にしない。獣道に似た道路を進みながら、時折後ろを振り返ってみる。道を戻ったほうが、まだ安全かもしれない。
幾ら先の知れない旅だといっても、好んで危険な目には遭いたくないし。
「・・・引き返すかなあ。」
せっかくここまで歩いて来たけれど。
まだ真冬ってわけじゃないし、野宿するのも別段苦にならないけれど。
一晩野で過ごすにしても、せめて雨風がしのげる場所はないだろうか。
幸い水と食べ物は持っているから、寝場所さえ確保できれば、何とか朝を迎えられると思うのだけれど…。
その時、だった。
「・・・あれ、・・・・明かり?」
ちらりと。
光が揺れた。確かに。
小さくとも明かりは明かりだ。光がある以上、そこには必ず人の姿がある筈。・・・万が一無かったとしても、寝床になるような場所は見付けられるかもしれない。
ちらちらと揺れる瞬きへと、足を向ける。
道を反れて山へと分け入る。ざくざくと木の葉が足に絡んだが、この際たいしたことではなかった。
光は、だんだんと強くなっていった。それと同時に、さりさりと足音が響く。やはり、誰か、いるのだ。
万が一悪人とも限らないから、足音を殺してそっと近づく。気配は完璧に消していたと思う。なのに、・・・その影は、くるりとこちらに振り向いた。
はたと目があったのは。
着物・・・それも、少々風変わりな仕立ての・・・をまとった、大きな目の少女だった。
ぼんやりとした明かりにも、黒い髪が艶めいている。
美少女と、言っても良い。
目があった瞬間、不意にその子が袖を掴む。
よかった、まにあった、小さな声がそう言った気がする。
「え、え、ちょっと、」
手を引かれるままに走る。子供だっていうのに大したスピードだった。田舎の子はすごいなあ、とどうでも良いことに感心していると、やがて大きな炎の明かりが目に入った。
「・・・えー、と。」
鳥居、だ。
明かりに照らされて、その目に映るのは古びた鳥居だった。
ずいぶんと年経りたものだというのは分かる。それがぼんやりとした松明に彩られ、走る二人の前にあった。
一気に、それを抜ける。
両サイドのに松明を掲げた石畳を、飛ぶようにかける。引っ張りあげられるように、たどり着いたところは境内の上だった。
・・・ここなら、一晩しのげそうだなあ。
のんきに、そんな事を考える。
それにしても、一体この子は誰で、なぜここにいるんだろうか。
そう声をかけようとした、瞬間だった。
「・・・わ・・・・・・」
いつの間だ。
いつの間に、・・・こんなたくさんの子供が、自分を挟んで立っていたのだ。
少女が、高らかに声を発した。
「やっと見つけたぞ。」
「おお、」
「おお、」
呼応するのは、少女の傍に立ち並ぶ子供達。
「見つけたがどうだと言うのだ。」
「おお」
「おお」
居丈高に声を返すのは、敦己の傍に立ち並ぶ子供達。
向かい合う形で、両者はにらみ合っている。
しかも、・・・彼らが手に握り締めているのは棒切れや、波切包丁、・・・少女に至っては小さな剣のようなものを携えているではないか。
・・・おかしく、ないか。
どうしたっておかしくないか。何だって、こんな深夜に子供ばかりが。
なんでこんな事を、しているっていうのか。
・・・俺は、一体何処に迷い込んだのだろう。
「その姿を求めて一万里、憎めども果たせぬ敵討ち、その願いも今宵叶う。」
少女の声はいっそう高くなった。
「父上と母上の仇、この手で晴らしてくれよう。」
・・・何て、言った?今。
仇?そんなのは知らない。
なのに。
「お前ごときに何ができよう。」
背後にいた子供が、高らかに笑う。
・・・その目は、・・・子供のそれではなかった。
赤く、赤く、火のような、血のような。
「・・・ちょ・・・っ」
何に巻き込まれたんだ。俺は。
俺は関係ない。今俺の後ろにいるこの子供達・・・子供とも思えない顔の子供達が、本当に他の子供の両親を奪ったのだとしても。
それと、俺は、関係ない。関係ない筈なのに。
無為木で、少女が、飛んだ。
それは。
武道をたしなむ敦己をしても、考えられぬ俊敏さだった。
「えっ!?」
ぐしゃ、と鈍い重さ。痛みは無かった。だが思わず触れた手に、赤く、濡れた感触。
なんで?一体?どういう事だ。
俺は、もしかして、その切っ先で。
呆気にとられて顔を上げる。黒髪の少女と視線が重なる。それを覆うように、周囲を他の子供たちが取り囲んだ。手にした木の棒切れが、一斉に振り下ろされて。
「何かの間違いだ!」
叫ぼうとした、瞬間だった。
「・・・ん・・・・・・?」
大きな目が、じ、と見ている。
やられたあー、と、・・・何故か自分の側にいた子供達が、ばたばたとひっくり返ってゆく。おいおい君達は何一つされていないじゃないか。なにやってんだ。言いかけた瞬間に少女と目があった。不思議そうな表情が、ちらりと顔によぎる。
あれ?
ここ、倒れなきゃならないとこなのか?
もしかして。
「や、・・・やられたー。」
意味も分からぬまま、反射的に体を伏せる。
床板の冷たさを頬に感じながら、敦己は上目遣いに少女の姿を見遣った。
毅然として顔を上げると、少女は剣をたいまつにかざす。きらきらと紅潮した頬に、剣に反射した炎が映って。
「うちとったり!」
瞬間。
わあ、と、・・・歓声があがった。同時に、辺り一体が一斉に明るくなる。
呆気にとられて、眼下を見る。暗がりだったから気付かなかった。境内の周りには、村の人と思われる大人達が、あちこちに固まって集っているではないか。別に、子供ばかりではなかったのだ。単に自分が気付いていなかっただけで。・・・仕方ないじゃないか。暗がりだし、他に誰の声もしなかったし。
そっと、濡れた腹に手を当ててみる。ぬるりとした感触の・・・血だとしか思えなかったそれを指に取り、そっと口に含んでみる。
口の中に広がるこの・・・。
「・・・マズ・・・・」
渋さ。
渋柿だ、これ。
「なんだこれ・・・。」
何のことはない、突き立てられた武器は作りもので、血糊ならぬ渋柿を、Tシャツにぶちまけられただけだったのか。確かに感触はちょっと似ている。このぬるぬるしたところなんか。
「・・・て、事は。」
やっと、分かった。
思い違いをしていたのだ。
物の怪なんて、いるはずなかった訳で。
周囲を見遣る。さっきは気付かなかった小さな社務所や古びた神輿、それが神社の端にぽつんと見える。
「・・・なんだ・・・・・・。」
つまりは祭の村芝居。子供達総出の演劇に、巻き込まれただけの話だったのだ。
割れんばかりの大喝采は、未だ鳴りやまない。何度も何度もお辞儀をして、少女は恥ずかしそうに微笑んでいる。死んだふりをしていた子供達も、一斉に立ち上がる。つられて立ち上がると、左右に並んだ子供からしっかり手を握られた。喝采に応えるように、皆で手を上げる。
「驚いたぁ・・・。」
それにしたって、・・・幾ら夜とはいえ、村の人かどうか気付きそうなものなのに。
今夜は満月。あんな綺麗な月が出ていれば、顔の区別などつきそうなものじゃないか。
「自分に、似た人でもいるのかなあ・・・。」
たまたまその子が祭りをすっぽかして、間違えられただけだというのだろうか。
慌て者の村人も、いたものだ。
祭の仕切り手なのだろうか、浴衣姿の老人と、法被姿の壮年の男が、舞台となった境内へと上がってくる。主役を務めた少女の頭をゆっくりと撫でると、二人して口々にこう言った。
「すばらしかった。」
「ここ数年で、一番の名演技だった。」
皆が少女をはやしたてる。本当は気弱な子なのだろうか、一番背の高い敦己の袖を掴むと、その後ろに隠れる。おかしそうに大人達が笑う。皺を深くして老人も微笑むと、その手にきらきらと光るものを差し出してみせる。
それは、・・・濃く赤い珊瑚のような色合いの、細工の細かいかんざしだった。それは光に透けると、宝石のように美しく陰影を描く。演技の商品なのだと、敦己は悟る。
「今年一番の演技者に、」
「今年最初の髪飾りを。」
浴衣に似合いそうな、鮮やかな色合いのそれに、脇役の女の子達がうらやましげな声をあげた。少女は大きく目を見開いて、それからおずおずと、老人の前に立った。それから、何を思ったのか少女がこちらを振り向いた。
目があって、・・・敦己は微笑みながら、かんざしを老人から受け取る。
少女の真っ直ぐで綺麗な髪へと、少し苦労しながらその朱を差し入れる。
「・・・良く、似合うと思う。」
そう言うと。
少しだけ誇らしげに、少女が笑った。
鮮やかな朱の髪飾りが、少女の頬の紅によく似合った。



「・・・若い方、どうしてこんなところで眠っていなさる。」
唐突な、その声で。
眠り込んでいたことにやっと気がつくと、敦己はぽかんと天を見上げた。
・・・くしゅんと一つくしゃみをする。冷えた山の空気が顔を撫でて行く。
朝だ。どう見ても。
「・・・というか、・・・いつ、眠り込んだんだっけ・・?」
祭に巻き込まれて、芝居に参加させられた所までは、はっきりおぼえている。思いながら、敦己は周囲を見回した。目の前にいる作務衣姿の男、頭を丸めたその男以外は、・・・誰の姿も、気配も無い。
ただ。
「・・・鳥居、」
昨夜くぐった、古い鳥居は。
確かに、視線の先に有る、それに間違いなかった。
顔を下へと向ける。冷たい感触は昨夜の床板だ。腹の辺りに出来ている染みは・・・見上げた頭上に茂る、大きな柿の木から実が落ちたと思われる。
「・・・あれ?」
どこまでが、夢だ。
どこまでが、現実だ。
夢だとしたらあの何もかも全部なのか。結局俺は何をしていたのか。。
・・・そうだ、祭。祭は、一体どうなったのだ。
「・・・お祭・・・。」
「なんだ、どうした?」
「お祭、やってなかったですか?ここで。」
そばにいた男に問うてみる。唐突な問いに男は怪訝そうな顔をしたが、それでもこう答えを返してくれた。
「祭などある筈がなかろう。この神社はずいぶんと昔に廃社されて、今は人も寄らない。」
言葉につられるように、自分の寝ていた境内を見遣る。軒下のあちこちから薄や萱が伸び放題で、荒れ果てている、と表現するのが相応しい姿だった。
「・・・そんな、」
確かに、・・・確かに昨夜、この神社の境内で村祭りが開かれていたはずだ。
出なかったら、あれは一体なんだったんだ。
「何かに化かされたような顔をしているな。」
「・・・化かされたんですかね、もしかして・・・」
参ったなあ、細めた目が男と合った。興味深そうににやりと笑みを作って、男は敦己の前に座り込む。
「話してみてはどうだ?この坊主に。」
「・・・お坊さんなんですか。」
坊主というには、あんまりにも闊達なイメージのする男だ。武道者とか修験者とか言った方が似つかわしい。そう思いながらも、敦己は男に事の顛末を話してみた。昨夜、ここで行われていた・・・かもしれぬ・・・賑やかな祭芝居の事を。
ふんふん、と適当に打たれていた男の相槌が、やがて止まる。目が大きく見開かれ、それからうーん、と一つうなり声を上げた。
「お前さん、この辺の出身ではないよな。」
「ええ、まあ。」
「だろうな、訛りが違う。」
だとしたら・・・と、何かを思い出すように天を仰ぎ、男は一つ息をつく。
「まだこの神社が廃社される前、社の祭で田舎芝居が演じられていた・・・なんて事は、当然知るわけ無いな。」
「え、」
有ったのか、本当に。
昔は、確かに、この場所で。
その当時は、ちゃんと人間が祭を執り行っていたって事か。
「もう、知っている者も少ない筈だがなあ・・・」
ううん、と息を吐き、男は首を振る。
「これでも坊主だからな、そういう話も別に否定しない。肯定もせんがね。」
「そういや、・・・そのお坊さんが、何でこんなところに。」
質問には、言葉を返さず。
敦己の目の前に、ずい、とビニール袋を押しやって見せた。
中に入っているのは、蒸した鶏のささみのようだった。
何だというのか、これが。
「まあ、・・・仮にそれがあやかしの類だったとしても、何の害も無かったんだろう?」
「そうなんですよねえ・・・。」
あれが。
もし万が一、あれが人でない者だったとして。
彼らは、何をしていたのだろう。
ありもしない村祭りなんかを催して、
「神や仏に遠慮しているもの達とて、たまには羽目を外したい時もあろうよ。」
人間の真似事をして、遊んでいたのかもしれんよ。
人間ごっこ。人間でない者達の。
男が笑う。
「・・・そうか。」
だから、少女は敦己を舞台へとあげたのだ。
あれが、何者かの化けた姿なら。
人間に似せていただけだったとしたら、人間の姿をしてる、イコール芝居に出る者に違いないと、そう思っても不思議ではないではないか。
「・・・そうか。」
ふと、思い出したように僧が天を仰ぐ。
青空に目を細めると、・・・青空の向こう側にある、今は見えない月の姿を追って。
「昨日は、中秋の名月だったなあ。」
「・・・そうですねえ。」
「だからかも知れないなあ。」
銘月につられて、人ならぬ者は浮かれ騒いだというのだろうか。
問うてみる。そうすると、・・・僧はいたずらっぽく笑った。
「それもあるが・・・中秋の名月なら、仏様の目はこの世に届かないかもしれんからなあ。」
どういう意味だろう、それは。
「・・・中秋の名月は、必ず仏滅になるんだよ。」
「え?」
必ず。まるで計ったように。
中秋の名月の晩は、仏滅と重なる。
もし、彼らがそれを知っていたら。
・・・その夜は必ず、仏の目が自分達に向かない事を、・・・知って、いたら。そうして。
時間を計る術を知らない彼らが、それを何かの目印に、していたとすれば。
「ほら、おいで。」
知らぬ間に、男はその厳つい体を折り曲げると、しゃがみ込んで境内の軒下に声をかけた。
かさりかさりと小さな音が3つ4つ、暗く奥まった場所から聞こえてくる。音はやがて近づいて、・・・薄暗がりから徐々にはっきりと、その小さな姿が現れてきて。
「・・・子狐・・・」
「可愛らしいもんだろう。」
ここに住み着いてしまったらしくてな、時々えさをやりに来る。それでお前さんを見付けたがね。男はそういって目を細めた。ささみを石畳の上に広げると、物慣れた様子でちょこちょこと歩み寄ってくる。鶏肉の匂いをかぐと、柔らかい甘い声で小さく鳴いてから、肉片の端に齧り付いた。
一匹を、除いて。
「・・・どうした?」
僧が、声をかけた。
兄弟達がかつかつと音を立て食事にありついているというのに、どういう訳かその子狐はえさにありつこうとしなかった。綺麗に前足を揃えて座ったまま、動こうとしない。その目と。
「・・・・なに?」
目が、合った気がする。そうして。
大きなまん丸の目。
どこかからくっつけて来たのだろうか、小さな紅葉が一枚、子狐の頭にちょこんと朱を添えている。
「・・・紅葉にはまだ日があるというのに、何処で拾ってきた。」
笑いながら、男が口にした。手を伸ばして葉を撮ろうとすると、子狐はすいとよけてみせる。
「・・・なんだ、お前のなのか。」
面白そうに、男が笑う。相づちを打つように、子狐が小さく鳴いた。
その姿を黙って見遣りながら、そういえば、美しいかんざしにも見えるなと、敦己はこっそりそう思った。



今年最初の紅葉は、秋の光を孕んで美しい朱を瞼の裏に残したのだった。




<<ライターより>>

 はじめましてKCOと申します。
 受注いただいたのに、遅くなってしまって大変申し訳ありませんでした。

 丁度季節の変わり目ですので、秋らしいものをと思い創作させていただきました。
 気に入っていただけましたら幸いです。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
KCO クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月16日

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