▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『あちこちどーちゅーき 〜幽霊も世に連れ歌に連れ〜 』
桐苑・敦己2611

 この辺りは、戦国時代初期から中期にかけての古戦場がいくつかあり、今でも落武者の幽霊が出るという。
 その話は、桐苑敦己も十分に知っていた。
 知ってはいたが、実際にその幽霊とやらに出くわしてみると、さすがの敦己も驚かずにはいられなかった。

 出てきた幽霊は、全部で五人。
 いずれも外見年齢はだいたい十代後半で、若くして命を落とした武将と、幼少時の遊び友達をかねていた側近といったところだと思われる。

 だが、問題はそこではなく、彼らの言動にあった。
「HEY、YO! あンた、東京の人かい?」
 一体どこでこんなノリを覚えたのかは知らないが、とにかく何かが違う……いや、むしろ何もかもが違う。
「ええ、まあ一応」
 半ば唖然としつつ敦己がそう答えると、彼らはわらわらと敦己に群がってきた。
「今、あっちじゃ何が流行ってんだ? なんか教えてくれよ」
「最近あんまり人来ねぇんで、何がどうなってんだかさっぱりわかんねぇんだよ」
 どうやら、彼らはこの一帯から動くことができないらしい。
 彼らの境遇を少しかわいそうに思った敦己は、少し考えてあるものを取り出した。
「俺も最近のことはあまりよくわからないんですが、よかったらこれを使って下さい」
 敦己の取り出した「それ」を、幽霊たちは興味津々といった様子で観察する。
「あー、懐中電灯、にしちゃごちゃごちゃしてんな?」
「ここになんか数字がいっぱいついてっけど?」
「取っ手があるってことは、これを持つんじゃねぇ?」
 いずれの意見も間違ってはいないが、この調子では当分正解にたどり着けそうにない。
「こうやるんですよ」
 少し苦笑しながら、敦己は「手回し式ラジオつきライト」の使い方の説明をはじめた。





 ラジオが聞こえるようになり、そこから聞こえてくるニュースや音楽などの話を少しした後で、敦己はこう持ちかけてみた。
「よかったら、それは差し上げますよ。
 その代わり、少しあなたたちの話を聞かせてくれませんか」
「いいけど、俺たちの話なんてそんなに面白くねぇぜ?」
「聞いてからつまんなかったなんて言うなよ?」
 よっぽどラジオが気に入ったのか、半信半疑と言った様子の幽霊たち。
「もし面白くなくても、それ返せなんて言いませんから」
 敦己がそう言うと、幽霊たちはようやく話に乗ってきた。
「なら、なんでも聞いてくれよ」

 最初の質問は、もちろんこれしかない。
「この辺りに落武者の幽霊が出る、という噂を聞いてきたのですが、あなたたちのことなのですか?」
 その問いに、幽霊たちは一度顔を見合わせ、口々にこんなことを答え始めた。
「さあ? この辺には、俺たち以外にも幽霊いるし。中には律儀に落武者やってんのもいんじゃねぇ?」
「ご家老様とか、やってそうじゃね?」
「多分、殿様があきらめてても、一人でやってそうだよな」
「『文武両道、分福茶釜!』とか言ったりしてな〜」
「茶釜は言わねぇだろ、茶釜はよぉ」
 いつの間にか、内輪ネタで盛り上がりはじめる幽霊達。
 これ以上黙って聞いていても話が全く前に進まなさそうなので、敦己は次の質問をぶつけてみた。
「ということは、もともとはあなたたちも?」
 すると、一同は揃ってきょとんとした表情を浮かべた後、再び先ほどと同じノリで次々と口を開いた。
「そりゃ、死んだ時は落武者だったけどよ、ンなつまんねぇこといつまでもやってられねぇっつーの」
「そうそう。うらめしやー、とか、御家再興、とか、流行んねぇじゃん? 今時」
「『御家再興』より、『Oh! Yeah! 最高!!』ってな生き方してぇよな」
「生き方って何だよ、俺らもう死んでんじゃんよ!」
 メチャクチャな話をしながら、またしても全員が一斉に笑う。
 笑いながら、ますます話をメチャクチャな方向に進めていく。
「そもそも、幽霊と言えば『うらめしやー』ってのもおかしくねぇ?」
「言えてる言えてる。恨んでる相手ならともかく、たまたま出会った相手に『うらめしやー』はねぇよな」
「『お前に恨まれる覚えなんかないぞ!』って、俺らもお前に恨みなんかねぇっつーの」
 放っておくと、どこまでもこのノリで脱線していきかねない。
 これは、何が何でも敦己が話を前に進める以外になさそうだ。
 気を取り直して、敦己は次の質問に移った。
「あなたたちが行ける範囲はどのくらいなんですか?」
 さすがにこの質問はこたえたのか、一同の表情が少し暗くなる。
「この辺りだけ。マジでこの辺りだけ」
「この森から出られねぇから、行ける範囲にゃ民家一つありゃしねぇんだよな」
「人に会うったって、こんなとこに来るのは、噂を聞いて、怖いもの見たさで来る奴ばかりだし」
「そのくせ、半分以上のヤツは実際出ると逃げるんだよな。ったく、何しにきたんだっつーの」
 そんなことをぼやきながら、かわるがわる大きなため息をつく。
 さすがに、まずいことを聞いてしまったかも知れない。
 敦己は一瞬そう心配しかけたが、引っかき回し担当の幽霊だけは、今回も相変わらずだった。
「全くだぜ。こんなになるってわかってたら、意地でも東国まで逃げ延びてたんだけどよ」
 その一言で、全員が一気に元の調子に戻る。
「渋谷の辺りとかよくねぇ? あ、でも、あの頃あの辺ってどうだったんだっけ」
「知らねぇよ。そもそも、俺ら渋谷の場所すらわかんねぇだろうが」
 幽霊たちがすぐに立ち直ったことに半分安心、半分ぐったりしつつ、敦己は最後の質問を口にした。
「最後に、一体どうしてこの世にとどまっているんですか?」
 わざわざ化けて出てくるには、やはりそれ相応の理由があるはずだ。
 敦己はそう考えたのだが、幽霊たちはこの質問に首をかしげ……やがて、リーダーがぽつりとこう呟いた。
「そりゃ、まあ、最初は死にたくなかったしよぉ、無念とか思ったから、化けて出てきたんだけど」

 考えてみれば、彼らは若干十六、七歳で命を落としているのだ。
 いくら「人生五十年」の時代とはいえ、その三分の一程度しか生きないうちに不慮の死を遂げて、未練がないはずがない。
 そんな彼らに、こんな聞き方をしたのは少し無神経だったかもしれない。

 けれども、幽霊たちはどこまでも前向きだった。
「けど、今はそうでもねぇよ。別に死んでてもそこまで不便じゃねぇしな。
 むしろ、死んだおかげでン百年もこの世にとどまってられてるし」
「まあ、今となっちゃ別に未練ってほどの未練もねぇし、そろそろ成仏してもいいんだけどよ」
「俺たち、生きてる間にあんまり楽しい思いできなかったから、もう少し遊んでから逝きてぇんだよな」
「老後の楽しみってか、死後の楽しみってヤツだな」
 あっという間にいつもの調子に戻って、またバカなことを言い始める。

 そんな彼らの強さと、尽きることのない若さが、少し眩しく思えた。




 
 それから、一月ほど後。
 たまたまその近くを通りかかった敦己は、気になる噂を聞いた。

 森の中から、時々歌声のようなものが聞こえてくる、とか。
 幽霊に遭遇した人が、「幽霊には足がないからサッカーができない」などと愚痴られた、とか。
 森で迷った人が、朝まで日本の政治を論じ合う幽霊を目撃した、とか。

(なんだか、想像以上に大変なことになってしまったな)
 予想外の事態に困惑しつつも、懸命に――もちろん、必ずしもそうする必要があるわけではないので、あくまで興味本位で、ではあるが――現代社会に追いつこうとしている幽霊たちの様子を思い浮かべて、敦己は心の中で彼らにエールを送らずにはいられなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<<ライターより>>

 撓場秀武です。
 ノベルの方、遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

 私、テレビは野球とニュースとお笑いくらいしか見ていないため、「ダーツの旅」がどんな感じなのか、少々よくわからなかったのですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
西東慶三 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.