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『静蒼と紅蓮の邂逅 』
神田・猛明3496)&山本・丈治(5638)


 其れは或る日の出来事だった。
 過ぎる時間は何時も通り。
 強いて変わった事は無かったが、唯一つ、二人の男が必然的に出会った事だけは特筆しても良いと思う。



 ――アレは……。
 普段通り道場で練習していた山本・丈治は、今し方道場に入って来た人間に眼を留めた。
 神田・猛明――元はボクサーを目指していた為か、拳による独特な打撃を主体とする格闘家。
 今迄実際に会った事は無かったが、其の顔はプロレス雑誌やテレビで良く見掛け、見慣れていた。
 彼も練習か……或いは何かの打ち合わせか。
 そんな事を思いつつ、丈治は不図興味が沸いて猛明に話し掛けた。
「やあ、神田猛明さんですよね。初めまして山本丈治です。御噂は予々。」
 爽やかな笑顔と共に丈治は手を差し出す。
 猛明は一瞬考える様な表情をしたが、直ぐに納得した様で其の手を取った。
「嗚呼……此方こそ御活躍は聞き及んでいます。神田です、初めまして。」
 二人は一度強く手を握ってから離す。
「此処へは練習で、」
「いえ、今度のシリィズの組み合わせで確認したい事が有りまして。」
 ――事務所の方に行ったら、担当は此方に来ていると云われたので。
 丈治の問い掛けに猛明は自然に返す。
 其れで御互いに、話し易い相手だと感じた様だった。
 多分、気が合うのだろう。
 喩え口調が敬語であっても二人の雰囲気は既に気さくな感じであった。
「お、次のシリィズに出られるんですか。」
「ええ、一応全試合に参戦させて貰います。」
 笑って答える猛明に、丈治は頷いた。
「其れは、活躍が楽しみだ。」
「山本さんこそ。……宜しく御願いします。」
 其処で二人はもう一度握手をして別れた。



「成程……宜しくって斯う云う事か。」
 後で丈治が日程を確認すると、確りと二人の試合が組まれていた。
 今日たった二言三言話しただけでも、猛明に対する興味は大きくなっていた。
 丈治はにやりと笑って其れを見る。
 猛明と闘う、其の試合が楽しみで、待ち遠しかった。


  * * *


 予定通りシリィズは始まり、順調に試合を消化して行った。
 猛明も、丈治ことジ・イリミネイターも各々魅せる試合を行い、ライトと歓声を浴びていた。



 そして、注目の一戦。シングルマッチ。
 誰もが、そう、本人達でさえ待ち遠しかった試合の鐘が今鳴らされようとしている。
 両コーナからコールと共に猛明とジ・イリミネイターが登場しただけで一気に観客は沸き上がった。
 黒パンツにリングシューズを履いた猛明と、トレードマークであるマスクに白パンタロンを穿いたジ・イリミネイター。
 御互いにオープンフィンガーグローブを填めて、リングへと向かう。
 二人がリングに上がる一挙手一投足を会場全体が高揚感と共に見守っていた。
 猛明とジ・イリミネイターはリング中央で睨み合う。
 其の侭の体勢で、ジ・イリミネイター――丈治が口を開く。
「じゃあ、此の試合、」
「避けた方が負けと云う事で。」
 其の呟きに、丸で決まっていたかの様に猛明が続ける。
 彼等の中で“避ける”と云う事は則ち“逃げる”と云う事である。
 何方とも無く、口の端を上げて僅かに笑った瞬間にゴングが響き渡った。
 其の音と共に一気に踏み込み拳を突き出す猛明。
 ガードこそすれ、一ミリたりとも動かず其れを受ける丈治。
「……うぉぉおっ、」
 そして其の侭猛明の腕を掴み、思い切り頭突きを御見舞いする。
「……ッ、」
 勿論猛明も其れを避けない。
 開始一分も経たない内に、猛明の頭にうっすらと血が滲む。
 観客が僅かにどよめくが、直ぐに丈治のボディに打撃が叩き込まれるのを見て歓声に変わる。
 其れを受けて丈治も負けじと地獄突きを繰り出す。
 上手く首元へ決まった其れは、パーンと激しい音を響かせ更に会場を沸かせる。
 そして丈治は蹌踉めいた処に続けてチョップを喰らわせ様とするが、持ち堪えた猛明のパンチを顔に喰らった。
 口の端を切って、血を滲ませ乍も丈治は笑った。
 愉しくて仕方が無いとでも云う様に。
 其れは猛明も同じであった。
 ――此奴には負けない、負けたくない。
 そんな考えが自然と脳裏を過ぎり、御互い一歩も譲らない攻防が続いた。
 猛明は常に正確な間合いを計って効果的な打撃を繰り出し、丈治は十六文キックやラリアット等プロレス流の打撃で派手に魅せる。
 其れは、或る種意地の張り合いであったかも知れない。
 然しそんな原始的な打ち合いに、会場は熱に浮かされた様に叫び続けた。
 何時しか両者は血塗れに為り、肩で息をする程に消耗仕切っていた。
 声援は最高潮。
 御互いが同時に踏み出し、最後の力を振り絞り攻撃を仕掛ける。
 最後迄相手の攻撃を避けなかった両者は見事御互いの打撃を受け、亦、同時に倒れ込んだ。
 其の瞬間、丈治も猛明も笑っていた。
 そして、会場にテンカウントが響く――。


  * * *


「然し、彼だけ愉しい試合は久し振りだった。」
 そう云って丈治は笑う。
 目の前に居るのはつい先日激闘を繰り広げた猛明。
 場処はリングとは打って変わって、落ち着いた閑かな喫茶店。
「此方こそ。全力を出し切った感じです。」
 猛明も笑って思い出す。
 シリィズは無事凡ての日程を終了したが、例の試合が一番盛り上がったのは云う迄も無い。
「亦闘りたいもんだ。」
 丈治の声に猛明は頷く。
「ええ。……でも、」
「勿論。」
 二人は拳を軽くぶつけ合う。


 ――今度は負けない。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2005年09月16日

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