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『『美味しいサツマイモの食べ方♪』 』
本郷・源1108


 秋、で思い出すのはなんですか?
 虫の音。そうですね。まだまだ暑さも残りますが、それでもその暑さの中で奏でられる虫の鳴き声が秋を教えてくれています。秋になってもまだしつこい蒸し暑さもそれで少しは紛れるというもの。雅やかな気持ち、感じられますよね♪
 運動の秋。なるほど、なるほど。日曜日ともなると風に乗って運動会の音楽や子どもらの声が聞こえてきます。血肉沸き踊るようなあの感覚、たまりません♪
 読書の秋。たくさんの面白い本、皆さん読んでいるみたいですね。だけど図書館で大量に借りてきた本、枕代わりにしちゃ、ダメですよ?
 食欲の秋。美味しい物、たくさん食べられたら、もうそれだけで幸せ♪
 秋の味覚。美味しい秋刀魚やマツタケとか、それから………
 そう、サツマイモ。
 女の子の秋はこれがないと始まらない。
 サツマイモは女の子にとってはただ美味しいだけではなく、色々と栄養も詰っていて大万歳。美容健康にも良いのがサツマイモの嬉しい所。そこが女の子に重宝される♪
 夏、あやかし荘の発する妖気の影響か、去年の夏に庭に飛ばしたたった数粒の種からスイカが大量に群生して、それがまたひと騒動起こしたのだけど、さすがはあやかし荘。そのスイカたちがようやく食べ終わり、夏から秋に季節が移り変わったかと思えば、まるでそれを報せるかのようにサツマイモが大量に自生して、繁殖してしまっていた。広大な敷地を誇るあやかし荘の一角がサツマイモに占領されてしまったのだ。
 だから今日は嬉璃の監視の下に女尊男卑を謳うあやかし荘の清々しいまでの男性重労働の光景が見えた。朝も早くから夜遅くまで男性陣はサツマイモ掘りに従事したのだ。その甲斐あってというか、嬉璃がそうさせたというのか、サツマイモはすべて掘られて、庭の一角のブルーシートの上に山のように積み上げられた。その数はおそらくは焼き芋屋を経営しても差しさわりの無い程の量。まず間違いなくそこにあるだけの量で焼き芋シーズンは乗り越えられる♪
 商人魂溢れる本郷源はそろばん片手にその売り上げを仮想して計算して見た所、かなり嬉しい計算結果が出たよう。
 移動屋台おでん屋【蛸忠】のシーズンはもう少しだけ先。それまでのお小遣い稼ぎにはちょうど良い?
 おかっぱ頭を小さく傾げさせて、そろばんの玉をぱちぱちと弾きながらにんまりと嬉しそうに笑う源に、しかし嬉璃は右手の人差し指一本立てて、ききりと表情を引き締める。
「しかし源よ、いかに商品は充分にあっても、その商品の味がダメでは商売は成り立たぬぞよ」
「うむ。それはわかっているのじゃ。では品評会、という事で味見をせねばならぬな、嬉璃殿」
「うし。では、さっそく品評会に向けて動こうではないか、源よ。耳を貸すのぢゃ」
 嬉璃は源の耳に口を近づける。最初はくすぐったそうにしていた源であったが、すぐに嬉璃が口にした言葉ににんまりとおかっぱ頭の下のかわいい顔に悪戯っ子の笑みを浮かべた。
「わかったのじゃ」
 座敷わらしと少女は仲良さそうにあやかし荘の廊下を走り渡って、嬉璃の部屋まで行く。
 もちろん、ノックは無しに扉を開けて、嬉璃は部屋に入っていく。引退したとはいえ嬉璃はやはりこのあやかし荘の女王だし、この部屋は彼女の部屋であるのだからノックは必要無い。だけれどもここにはもうひとり住人が居る。
 着替えをしていた最中で下着だけのセミヌード状態だった少女は小さく悲鳴をあげて、「ノックをしてください! ノックは人類が開発した一番の発明なんですから!」と、懇願した。
 しかしもちろん少女たちは右の耳から左の耳。
「うむ、すまなかったのじゃ」
「まあ、気にするな。なんぢゃったらおんしの肌を見た男は殺してやるから」
 さらりとぶっそうな事を口にする嬉璃に少女はぶるぶると壊れた玩具のように顔を左右に振った。
「そんな事よりもお願いがあるのじゃ!」
 そんな事、で流された事に年頃の少女は哀しげな顔をするが、しかし次に源が口にした言葉にその哀しげな表情を一変させる。
「実は今日掘ったさつま芋を明日にでも焼き芋にして、皆で食さぬか? とっても楽しいと思うんじゃが?」
 胸の前でぱちんと手を叩いて少女はとても嬉しそうに微笑みながら何度も頷いた。もう何やら嬉しそうにあれこれと考えているようだ。
 源と嬉璃は顔を見合わせてにやりと笑いあう。
 夏にあやかし荘の庭で採れた西瓜はとても美味だった。しかしだからといってこのさつま芋も美味だとは限らない。ひょっとしたらとんでもなく不味いかも。
 だったら毒見は男にさせればいい。
 あやかし荘とはそういう事がまかり通る場所だし、男とはそのためにいるようなものだ。
 ただ女尊男卑があやかし荘といえども、時には男に餌を与えてやるのも大切だ。男は生かさず、殺さず。焼き芋パーティーを開いて、それが不味ければまず最初の犠牲者となった男たちの反応で食わずともわかるし、美味ければ美味いで男とは実に単純な生き物だから、この焼き芋パーティーで日頃のあやかし荘女尊男卑体制へのうっぷんも少しは削ぎ落とせて、また何かあった時に扱き使えるというもの。
「ふふん。ほんに嬉璃殿は悪よのぉー」
「ちっちっち。源よ、男が馬鹿なんぢゃよ」
 こうしてあやかし荘において焼き芋パーティーが開かれた。



【レシピ1 焼き芋】


 用意する物。さつま芋。(長めのがいい感じじゃ♪)新聞紙。アルミホイル。軍手。火はさみ。大量の枯れ葉、もしくはバーベキューコンロ、炭。バケツ。水。
「ふむ。準備は万端なのじゃ、嬉璃殿♪」
「ん、ありがとうよ、源。それでは皆どもよ、まずは水で洗ったさつま芋を新聞紙で包むのぢゃ」
 右手の人差し指立てて嬉璃が口にするのは先代の管理人のおばあさんが彼女に教えてくれた焼き芋の作り方だ。
 るんるん気分で源は言われる通りに新聞紙でさつま芋を包む。なんだかとても楽しい!
「では次にその新聞紙で包んださつま芋をバケツの中の水につける」
 しかしそれに驚く源。そんな新聞紙に包んださつま芋を水で塗らしたりなどして上手く焼きあがるのだろうか? 源の心臓はどきどきとした。
「ふふん。心配せずともよいぞ、源。これもまた先代管理人の作り方のコツでな、新聞紙から水が滴るぐらいに塗らして、それをアルミホイルで包んで焼いてやると、アルミホイルの中でさつま芋が蒸れたような感じになるのぢゃよ」
「ほほう、そうなのか?」
 さらりと前髪を揺らして小首を傾げる源に嬉璃もにこりと笑いながら頷く。今の嬉璃は大人ヴァージョン。縁側に足を組んで座っている。火の始末を子どもにさせる訳にはいかない。次はあやかし荘の主として嬉璃は大人ヴァージョンで焼き芋パーティーを見守っているのだ。
 そしてその嬉璃の先代管理人の焼き芋の焼き方の説明をする口調も顔も実に優しく、その瞳は源を見ているようで、しかしどこか遠く懐かしい物を見ているようだった。
 どことなく今の嬉璃は少し切なげに見えた。母親とはぐれてしまった迷子の子どものように。
 そう、あの嬉璃、が………。
「ほれ、源よ、見してみよ。もう少しアルミホイルをきちんと巻かねば中の芋が焼け焦げてしまうぞ」
「うぬぬ。わかったのじゃ。嬉璃殿、これでどうじゃ!」
「合格、ぢゃ。持っておいき」
「うむ。わかったのじゃ♪ おっと、嬉璃殿の分もやらねばなのじゃ」
 嬉しそうに言う源を見る嬉璃の目はとても眩しい物を見るように柔らかに細められた。
 そしてそんな二人を少女はとても優しい笑みを浮かべて見守っていた。
 焼き芋パーティーは滞りなく進んでいく。
 焼き芋は新聞紙に濡らして、アルミホイルに包んで、火を点けた枯れ葉の中に放り込んで、それが焼きあがるのを雑談をして待つ。
 そうして焼きあがったあつあつの焼き芋を両手に持って源は嬉璃の方へと駆け寄った。
「焼けたのじゃ、嬉璃殿。すごく良い匂いじゃよ」
「ふむ。確かに良い匂いぢゃな」
 ありがとう、にこりと微笑みながら嬉璃は受け取り、そしてそこでぽん、と大人ヴァージョンから子どもヴァージョンへと変身する。
 幼顔を源と嬉璃二人で見合わせていひひひと笑いあう。それから二人で男たちを見つめる。果たしてこの焼き芋のお味はどうなのだろう?
 男どもは自分たちが毒見役とされている事にも気づかずにアルミホイルと新聞紙を剥がして、ぱくりと焼き芋にかぶりつく。
 じぃーっとその様を見つめる源と嬉璃。
 お味はどっち?
「美味い」
「うむ、美味いぞ、源よ」
「はい、本当に美味しいですよ、源さん、嬉璃さん」
 あやかし荘の男たちはとても嬉しそうに焼き芋を食べている。
 夏の西瓜もとても美味しかった。
 あやかし荘の妖気はどうやら最高の栄養剤なのかもしれない。さつま芋や西瓜を大量発生させて、そして美味しくする。
「嬉璃殿」
「うむ、源よ。それではいっせーのーで行くぞ?」
「わかったのじゃ」
 二人でいっせーのーで、でぱくりとさつま芋にかぶりつく。
 口の中に広がる甘味。ものすごく、美味しい。
 源と嬉璃、見合わせた顔をくしゃくしゃにして二人で手を取り合って感激する。
「すごく美味しいのじゃ、嬉璃殿!」
 くりくりとした瞳を大きく見開いて嬉しそうに興奮しながら言う源に嬉璃も半ば興奮しながら頷いた。感心したように呟く。
「うむ。これは本当に美味ぢゃ!」
 そして嬉璃は二本目に手を出そうとしている男どもを見て、きらりーんと冷酷に細めた瞳を光らせる。
「このあやかし荘において男は生かさず、殺さず。しかしあやかし荘においては女ぢゃなければ人権は無し、ぢゃ。あやつらに食わせるのはもったいない」
 さらりと酷い事を平気で言う嬉璃に源はどこかから出したハリセンを恭しく差し出す。
 それをあやかし荘の支配者らしく鷹揚に頷きながら受け取って、嬉璃は縁側から飛び降りて、男どもに肉薄して、必殺、
「ハリセンスラッシュぢゃ!」
 すぱーん、と全員の男どもの頭を叩いていく。
 そしてくるりと宙で一回転して着地した嬉璃はハリセンの先を男どもに向けた。
「おんしらの分は最初の一本のみぢゃ! 早々に立ち去り、掃除開始ぢゃ」
「「「「「「うぇー。ぶぅー。ぶぅー。ぶぅー」」」」」」
 文句を言う男ども。いつもは恐ろしくってそんな事は到底できないのに、食い物の恨みは恐ろしい。それぐらいその焼き芋は美味しい。
 男がこっそりと嬉璃の目を盗んで焼き芋を奪取。そのまま逃げ去ろうとするが、その前に水鉄砲を手にして立ちはだかる源。
「そうはいかぬぞ」
 ふふんと勝ち誇ったように微笑みながら水鉄砲の銃口を酷薄に彼に照準する。
「み、見逃してください。ぼ、僕は焼き芋が大好きなんです」
 必死な声で紡がれた懇願に応じられたのは無常にもそろばんの玉を弾く音だった。
「友人価格でこの値段じゃ。あとはもうびた一文まけぬぞ」
 にんまりと微笑む源に彼は眼鏡の奥の眼をぱちぱちと瞬かせて、そして口をあんぐりと開けた。
「お、お金を取るんですか!?」
「無論じゃ。この焼き芋はおでん屋【蛸忠】開店までの大事な資金源じゃからな♪」
 立てた人差し指の先で\の字を書いて、源はその指先をぴぃっと彼の顔の前につきつける。
「ささ、まるっとごりっとさらっと払うのか払わんのか、しゃっきと男ならば述べてみよ」
「ええっと、えっと、脱兎です」
 彼は散々迷った挙句に逃げ出した。小太りな癖に意外と軽いフットワーク。ボクサーのヒット&アゥエーよろしく源の前からひらりと逃げ出した。
「えーい、させるかぁ」
 源はさらにその軽いフットワークを越える素早さをもって彼の前に回りこんで、トリガー。噴出された水は彼の鼻と口にヒットする。
「ぎゃぁー」
 アルミホイルが巻かれた焼き芋をそれでも落とさずに彼は悲鳴を上げた。水鉄砲の中の水には辛子やら玉ねぎのエキスやらコショウやらが入れられていたのだ。そんな物を鼻や口の中に入れられたらたまったものじゃない。それでも焼き芋を落とさなかった彼のその心意気には素直に感心しよう。
「しかしそれとこれとは話は別じゃぁー」
 源はトリガーをさらに引こうとするが、しかし彼はくるりと身を翻して再び脱兎。大人気なく全速力ダッシュ。
 だがしかしその前に立ちはだかる影。
「き、嬉璃さん」
 悲鳴のような声で彼はその影の名前を呼んだ。大人ヴァージョンの彼女を彼は振りきれる自信があるというのか?
「あ、ごきぶりぃー」
 大声で彼が言う。
 きゃぁー、という女性陣の悲鳴があがる。
 しかし嬉璃は、
「引っかかるかぁー」
 の冷たいツッコミを入れながら横薙ぎにハリセンの一撃を放って、それはもろに彼の顔に叩き込まれた。
 彼の身体は衝撃にふわりと浮いて、そしてその場に沈んだ。
「さすがは嬉璃殿じゃ♪」
 取り戻した焼き芋を二人で一つずつ手に取って、源と嬉璃はぱちんと手を叩きあった。
「うむ。やっぱりこの焼き芋、すごく美味しいのじゃ」
 源は満足そうに焼き芋を口一杯に頬張りながら微笑んだ。



【レシピ2 さつま芋の炊き込みご飯】


 無事に焼き芋パーティーを終えて、あやかし荘は夕食時。
 そろばん片手にぱちぱちと玉を弾きながら源はさつま芋の消費量を計算する。
「ふむ。少々昼間に皆食べ過ぎたかのう?」
 あまりにも美味しくってストックしてあったさつま芋までも焼き芋にしてしまった。それでも焼き芋屋をやるには充分な量はある。保存法を間違わなければ【蛸忠】を営業開始するまでのお小遣い稼ぎには充分だろう。
 しかし………
「じゅるり」
 涎を啜る。
「もう少し食べたいのう」
 源は溜息混じりに呟く。
 そんな彼女の耳にどたばたと廊下を走る音。
「源よ、大変ぢゃ!」
「どうしたのじゃ、嬉璃殿」
「庭に。昨日、芋を掘った庭。来てみぃ」
 またぞろ何か問題が起こったのか?
 源は嬉璃と共に庭へと廊下を走る。
 庭の常夜灯の明度の低い明かりに照らされる庭には大量のさつま芋のツルがあった。つまり、
「また育った、という事じゃろうか?」
「そういう事ぢゃ」
 さらりと前髪を揺らして小首を傾げた源に嬉璃はこくりと頷いた。
 そしてぱちんと両手を嬉しそうに合わせあう。
「と言う事は好きなだけさつま芋が食べられるという事じゃな♪」
「そういう事ぢゃ♪」
 二人してくすくすと笑いあって、さっそく源は来た方を指差す。
「では、嬉璃殿、また焼き芋をせぬか?」
 嬉しそうにはきはきと言う源に、嬉璃はひょいっと肩を竦める。
「焼き芋も美味いが、今晩はさつま芋の炊き込みぢゃ。これも美味ゆえ腹を空かせておいた方がよいぞ」
「なんと、真か嬉璃殿! それは楽しみじゃ」
 そうしていると源の二匹の飼い猫が走ってくる。
「にゃぁー」
「みゃぁー」
 飼い主の源を二匹は呼んでいた。
 どうやら何かが起こったようだ。
 源と嬉璃は顔を見合わせあい、そして頷きあって戻った。
 鉢合わせする泥棒。あやかし荘の男ども。
「うぬぬぬ。よくもわしが居らぬ時にさつま芋を」
 男たちは手にしているさつま芋と源と嬉璃とを見比べて、そして、
「源さん、嬉璃さん、見逃してください!」
「見逃す? いいや、見逃さぬよ。そこにあるさつま芋はわしの店の商品じゃ。今すぐそれを置いて去れば許そう。しかし去らぬのなら命の保証はせぬ」
 コルトの源、誰がそう呼んだのか? コルトを弾丸とする拳銃を片手に構えて源は世の無常を儚む表情をする。
 嬉璃もその横でハリセンを居合切りのように構えた。
「うううう。見逃してはくれませんか、お二人とも。ならばしょうがありません。お覚悟を」
 男たちも手に武器を持つ。それは水風船だ。
「負けません!」
 男たちは二人に水風船を投げようとする。しかしその時にはトリガー。源の手にしている拳銃から発射された弾丸(コルク)は投射される前に水風船を撃ちぬいている。
 ぱしゃーん。水風船は破裂して、そしてぺんぺん草の住人はもろに水風船の中の水を頭からかぶって悲鳴を上げた。
 他の男も二人に水風船を投げるが、しかしそれを嬉璃が必殺ハリセン・振り子打法で打ち返している。連続で水風船が割れる音がしたのは嬉璃が打ち返した水風船が男どもの顔に当たって割れたからだ。
「ふん。わしと嬉璃殿、二人なら無敵じゃ!」
 ふふんと得意げに鼻を鳴らす源に嬉璃も当然と笑う。
 そして二人は顔を見合わせて笑う。
 もしも男たちがその時に二人の顔を見ていれば、その後に囁かれる砂糖のように甘く、そして母の腕の中の温もりのように優しい言葉の裏に隠されていた物に気づけたはずだ。
「しょうがないのう。では、庭に新に育ったさつま芋、それを抜いてくれるか? それは皆で仲良く分けようではないか。おんしら男に収穫量の3分の1を分けてやるのぢゃ」
 子どもを母親が宥めるように嬉璃がふふんと笑いながら言う。男たちはその彼女からの申し出に大いに喜んだ。収穫量の半分ではなく、3分の1。それでも彼らにとってそれは大いに喜ぶべき事なのだろうか? 量が少なければ、満足する事も難しくなる。そうしたらさつま芋がまた食べたくなって、そしてその時にはまた新にさつま芋が育っているはずなのだ。だからその時にもまださつま芋に飢えている男たちがさつま芋を掘ってくれるはず。そしたらまた二人は収穫量の3分の2を楽して手に入れられる。そこまでを嬉璃は計算し尽くしていた。
「さすがは嬉璃殿じゃ」
「ふふん。当然ぢゃ。男どもがさつま芋を掘ってくれればおんしはそれを売る事に集中できるぢゃろ?」
 ウインクする嬉璃。源は嬉しそうに大きく頷いた。
 ぱしん、と手を叩きあう二人を少女が呼びに来た。
「夕飯、できたよ」
「はーい、なのじゃ♪」
 当分はさつま芋ライフ、楽しめそうだ。源は心から喜んだ。



【レシピ3 さつま芋のポタージュ】


 朝ごはんはさつま芋のポタージュだった。
 とても美味しくそれを食べて、源は土曜日の午前中は屋台のメンテナンス&明日の焼き芋屋の準備をする。
 あれから一週間。
 源、嬉璃、少女は毎日さつま芋料理を食べていた。
 さつま芋は山のようにあるし、甘くってとても美味しいそれは飽きる事は無かった。少女のさつま芋料理のレシピも多いし♪
 焼き芋、さつま芋とニンニクの茎の塩炒め、さつま芋とクリームチーズのサラダ、さつま芋とプルーンのマリネ、さつま芋の胡麻焼き、さつま芋のサラダ。
「今夜もさつま芋の炊き込みご飯じゃと嬉しいのう」
 顔をくっしゃとさせて源は呟く。あれはとても美味しくって、お代わりも何倍もできるのだ。
 焼き芋屋も至極順調だった。
 毎日売り切れで、予約も入っているほどだ。
 どれだけ売っても、どれだけ食べてもさすがはあやかし荘、さつま芋は途切れる事は無い。きっと秋が終るまでさつま芋には困る事は無いのだろう。だから当然の如く源の焼き芋屋も黒字経営。さつま芋は美味しいし、焼き芋屋も美味しい。まさに濡れ手で粟。
 鼻唄を歌いながらご機嫌に屋台を磨いている源のお腹がぐぅーと鳴る。
 空の太陽ももう随分と高い場所に昇っていた。
「そろそろお昼じゃな」
 お昼は焼き芋だ。嬉璃とどちらが多く食べられるか競争する事にしている。
「うむ。嬉璃殿、負けぬぞ」
 かわいらしく両手を握ってにこりと笑う源。そこへ少女が呼びに来る。
「源ちゃん、お昼ご飯、用意できたわよ」
「わかったのじゃ!」
 屋台のメンテナンス用の道具を少女と一緒に片付けて、源は嬉璃の待つ部屋へと行く。そこでは丸いちゃぶ台の上に乗せられた大量の焼き芋を前にして今か今かと源を待ち続けていた嬉璃が居た。
「おお、嬉璃殿、お待たせしてすまぬのじゃ」
「おおー、良い良い。それよりも食べようぞ」
 ちゃぶ台の前に座る源。
 と、だけど彼女は不思議そうに小首を傾げる。
「焼き芋、食べぬのか?」
 彼女は何やら部屋の片隅に置かれた勉強机の椅子に座って、寒天などを食べ始めている。そんな物よりもこの美味しい焼き芋を食べればいいのに? ほら、こんなにも美味しい。
 もぐもぐと焼き芋を食べる源に少女はにこりと微笑んだ。
「その…………………………体重計さんが怖いかなって…………」
 何故かずーんと暗くって重い空気を発し始めた彼女に源はさらに小首を傾げる。
「一週間、さつま芋を食べ続けたからな。まあ、気にしてやるな、源よ。微妙な女心という奴ぢゃよ」
 伸ばした右手の人差し指をリズミカルに振る嬉璃に源もほうほうと首を縦に振った。
「女心と言う奴じゃな」
 少女は苦笑しながら女心について語り合う源と嬉璃を寒天を食べながら見ていたが、それを食べ終わると、買い物に出かけてしまった。
 そして管理人室には源と嬉璃の二人。
 二人して焼き芋を堪能している。
 本当にこのさつま芋はどんな風に調理しても美味しいのだ。
 それでもやっぱり一番の調理法方は、
「焼き芋じゃろうか、嬉璃殿?」
「うむ。おんしの意見に賛成ぢゃ」
 にこにこと笑いながら二人して焼き芋を食べているのだけど、さて、ここで少し源がぴくり、と身をよじりだした。
 そう、栄養豊富なさつま芋、それを食べ続けると当然少女が気にしていた通りに体重は増えるし、それにもう一つの問題………


「うぅ。が、ガスがお腹に溜まったのじゃ………」


 そう、ガスがお腹に溜まる。
 何かを声は無しに呟いた源に嬉璃は小首を傾げた。
「どうしたのぢゃ、源よ?」
「あ、や、何でも無いのじゃ、嬉璃殿」
 そう言いながら立ち上がる源。
「お、お茶をわしの部屋に取りに行ってくる」
 ナイスな言い訳を口にしながら立ち上がる源。自分の部屋に戻って、それで、その、あの、えっと、ぷぅー、をして戻ってこれば………
 どこか不自然な笑みを浮かべながら部屋を後にしようとする源の着物の袖をひょいっと掴んで、嬉璃は素で小首を傾げた。
「お茶ならあるぞ、ここに?」
 そう言って嬉璃はこの部屋に置いてある源専用の茶碗にお茶を煎れてくれる。
「ほれ、飲むが良い」
「お、おおう。ありがとうなのじゃ、嬉璃殿」
 でも本音は、お、おおう。あんまりじゃ、嬉璃殿。察しておくれ。およよよよ。
「気にするな」
 お茶を啜りながらにんまりと微笑む嬉璃。
 爆弾を抱えながら部屋から出るタイミングをなんとなく逃して、そのまま出づらくなった源。おトイレに行ってくる、そう言うのもなんだかはばかられる。だって女の子だもん。
 そのまま源はぼそぼそと焼き芋を食べ続けた。爆弾のエネルギーをそのまま蓄積していくのだ。
 と、ふいに今度は嬉璃が立ち上がった。
 その着物の袖の裾を今度は源が掴む。
「ど、どこに行くのじゃ、嬉璃殿?」
「う、うむ………」なぜか表情を強張らせて固まる嬉璃。明らかに様子が可笑しい。
 それから嬉璃は窓を指差した。
「窓ぢゃ。窓を開けようと思っての」
「あ、なるほど、それは名案じゃ」
 そして窓を開けに行く嬉璃。がらりと開く窓の音に重なって、何かを呟いた、嬉璃?
「何か、言ったか、嬉璃殿?」
「ん、いや、何も言ってないぞ、源よ」
 本当は察すれい、源よ、と嬉璃はぼそぉっと呟いたのだ。
 そう、嬉璃もちょっとガスが溜まっている。
 素直に言うのははばかれた。やっぱり嬉璃だって、女の子だもん。
 そして二人とも部屋から出て、その身に抱える爆弾を発射する機会を失ったまま管理人室でぼそぼそと明らかに食べる速度を落としながら焼き芋を口にする。
 たま〜〜〜に、
「源、最近小学校はどうぢゃ?」
「う、うむ。ぼちぼちじゃ」
 と、倦怠期のカップル…いや、久々に部屋に二人っきりとなった父親と思春期の息子の会話のように思い出したようにぎこちのない会話をしながら。
 いつまで続くこの我慢大会?
 源と嬉璃は女の子のプライドにぼそぼそと部屋を出るタイミングも逃したままずっと食べ続けていた訳だけど、ふいに源は勉強机の椅子を見て思いついた!
「そうじゃ。あの椅子をがたがた鳴らして、それでその音と共にぷぅーをすればいいのじゃ!」
 まるで初めて火のつけ方を発見した人類かのような大きな喜びを感じながら源はちゃぶ台の下で左手だけでガッツポーズを取った。
 右手の1時間ぐらいかけて食べている焼き芋を口に運びながらベテランの女優のような演技で椅子を見る。
「おお、あの椅子は随分と良い椅子じゃな。がたがたとお馬さんごっこで音を奏でさせたら、実に良い音を奏でそうじゃ」
 そしたらやっぱり実は同じ事を考えていた嬉璃も、
「うむ。おんしもそう思うか? 確かに良い音を奏でそうぢゃね」
 と、言う。
 そしてピーチフラッグかのように同時に源と嬉璃は椅子の方に走った。
 若干源が早い。
「わしじゃ。わしがお馬さんごっこをやれる権利をえたのじゃ!」
 やりましたぞ、名も知らぬ紫の薔薇をくれるお人よ。心の中でそう叫びながら源は椅子に逆にまたがって焼き芋を片手に椅子を鳴らす。リズミカルにがたごと、がたごと、と、まさしく馬に乗っているように。小さな子どもが楽しそうにやるように。顔は笑っていながらも、心の中では必死に。
「良し、このリズムじゃ。このリズムで、いち、に、の、さん、で、ぷぅーじゃ!」
 心の中で叫びながら、源は椅子の背に左手を乗せて、リズミカルに馬に乗っているように椅子をがたがたと揺らす。
 それを見る嬉璃も「おお、楽しそうぢゃな」、とどこかぎこちない笑みを浮かべながら同じ事を考えている。
「ふむ。このリズムぢゃな。このリズムでおんしは椅子を揺らすのぢゃな? ぢゃったら、この次の瞬間からカウントを取って、いに、に、の、さん、で、ぷぅーぢゃ!」
 と、嬉璃も呟く。
 二人ともぎこちない笑み。
 表面上は無邪気な子どもを装いながら、
 しかし内面では、この椅子の音! この椅子の音にかけるのじゃ(ぢゃ)! この椅子の揺れる大きな音に重ね合わせれば女の子としてのあいでんてぃてぃーは守られるのじゃ(ぢゃ)!
 などと計算し尽くしている。
 そして、がたぁ((いち))、がたぁ((に))、がた((の))、がたぁー、
「「さんじゃぁ(ぢゃぁ)―――――ぁ!」」
 源と嬉璃、二人は一番の大きく揺らして奏でた音に重ねるようにあそこに力を込めてガスを発射させた。



 ぷぅー。



 今までで一番大きく揺れた椅子。だけどその音でその二重奏が隠せるわけが無かった。だってそれは…………
 ―――どぉかっーん、という何かが大きく派手に爆発した音が奏でられた。
 あやかし荘で思い思いの時間を過ごしていた面々が聞いたのはひとつの音であったが、しかしそれはまったく同じタイミングで奏でられたからであって、本当は二つ。源と嬉璃が奏でた二つの音、ぷぅー、という二つでありながら一つに聞こえる音色が上がって、そしてあやかし荘が大きく揺れる。その発射されたガスがもたらした衝撃に。それを推進力に飛び上がった二人が管理人室の天井を、あやかし荘の屋根を突き破った衝撃に!!!
 あやかし荘の庭でさつま芋を掘っていた住人が見たのは蒼い空に浮かぶまるで海月のような白い月に向かって飛んでいく源と嬉璃だったとか。



「のぉーう。嬉璃殿ぉ――――ぅ」
「うぉーう。源ぉ―――――ぅ」
 飛んでいく二人。
 蒼い海にゆらゆらと浮かぶ海月のような真昼の白い月に二人で手を繋いで真っ直ぐに向かって。
 


 そして夜になって、街をウィンドウショッピングで歩き回ってカロリーを消費させて帰ってきた少女が見た物は天井に穿たれた大きな穴二つであった。
 その穴から夜空を見上げればそこには美しい中秋の名月。その衛星が地球に向けている面は永久に変わらず、そしてその地球から見える模様も変わらぬはずなのに、何故かその模様はうさぎというよりも、幼い少女二人が楽しげに餅をつく絵に見えたとさ。


 ― お終い ―



 ++ライターより++


 こんにちは、本郷源さま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 今回はご依頼、ありがとうございました。^^
 はい、覚えていますとも。こちらもずぅーーーーーっとまたかわいくって元気な源さん、源さんと嬉璃さんのコンビを書きたいと思っていましたもの!(拳)
 今回もまたとても楽しくって面白いプレイングをありがとうございました。^^
 とても楽しく書けました。^^ いかがでしたか? お気に召していただけていれば幸いです。^^
 プレイングに書かれていたラストの描写がとても楽しくって、かわいくって。
 源さんと嬉璃さん、二人の描写もここが一番書くのが面白かったです。タイミングを逃して二人で我慢している辺りがまたなんとも言えず。^^
 本当にとても楽しくって、かわいくって、そしてリズムの良い源さんを書けて本当に楽しかったです。^^
 ご依頼、こちらこそ本当にありがとうございました。^^



 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、本当にありがとうございました。
 失礼します。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月15日

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