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『The Shape of Love...or something like that 』
黒曜・ブラッグァルド5635)&宗像・悠(5606)
 ある満月の夜のこと。

「なぁ、散歩行こうぜ」
 黒曜・ブラッグァルドは、宗像悠を夜の散歩に誘っていた。
「こんな夜中に? 面倒だから嫌だ」
 返ってくるのはつれない返事。
 しかし、この程度は十分想定の範囲内だ。
「そう言わずにさぁ、頼むよ、なぁ、行こうぜ」
 なおもしつこく頼み続けていると、やがて悠も断り続ける方が面倒に思えてきたらしい。
「……しょうがないな」
 渋々と言った様子で、悠はようやく席を立った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 月明かりが照らす中、ブラッグァは悠を連れて一路街外れと向かった。
 そこに、彼女に見せたいものがある。
 喜んでくれるだろうか? 褒めてくれるだろうか?
 そのことを考えただけでも、自然と足取りが軽くなる。
「たかが散歩でそんなにはしゃぐな」
 悠には鬱陶しそうにそうたしなめられてしまったが、今のブラッグァにはそれすらも嬉しい。
「いいじゃんか、嬉しいんだから」
 そう答えると、悠は少し呆れたような表情を浮かべた。





 そうこうしているうちに、二人は街外れにある小山に――山と言うべきか、丘と言うべきか微妙なところではあるが、雰囲気的には「小山」と呼ぶのが一番しっくりくる――辿り着いた。
「登るのか?」
 目の前の上り坂を見ながら、明らかにだるそうな様子で尋ねる悠。
「ああ」
 ブラッグァが頷くと、すかさずいつもの返事が飛んできた。
「面倒くさい」
 とはいえ、せっかくここまで来てもらったのに、ここで引き返されてはたまらない。
「いいから」
 そう言うなり、ブラッグァは悠の手をとり、半ば引きずるようにして山を登り始めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 山の頂上に着くと、悠が怪訝そうに口を開いた。
「ここにあたしを連れてきたかったのか?」
「ああ」
 頷くブラッグァに、悠は辺りを一度見回してからさらにこう質問してくる。
「……で? ここに何があるんだ?」

 見つからないよ。いくら左右を見渡しても。

 そう思いながら、ブラッグァはそっと真上を指さした。
「見てみなよ」

 そこに広がっているのは、中央に満月を抱いた、満天の星空。
 これだけ綺麗に星の見られる場所は、少なくともこの近辺には他にない。

「へぇ」
 悠の口から、珍しく感嘆の息が漏れる。
 どうやら、それなりに気に入ってもらえたらしい。
「綺麗だろ? これが見せたくてさ」
 そう言って、ブラッグァは悠の隣に寄り添った。
 一緒に空を見上げながら、横目でちらりちらりと悠の方を伺う。
 そうしていると、やがて悠もブラッグァが何を待っているのか気づいたらしく、苦笑しながらブラッグァの頭を撫でてくれた。

 が、その至福のひとときは長くは続かなかった。
「あ」
 悠の手が当たって、ブラッグァのサングラスが落ちてしまったのである。
 サングラスの外れた瞳に、直に満月が映る。
 まずいと思った時には、もう手遅れだった。

 全身が、炎のように熱くなる。
 獣のような――いや、獣そのものの咆吼が、自然と口をついて出る。
 目の前の悠の姿が、だんだん小さくなっていく。

 気がついた時には、彼女の姿は完全に人狼に変わっていた。

「うわっ、やべえっ!」
 やってしまった。
 それも、よりにもよって、悠の見ている前で。
「ど、どうすりゃいいんだ!?」
 どうしたらいいのかわからず、ただただ右往左往する。

 と。
「うるさい」
 その声とともに、いきなり目つぶしが飛んできた。
 もちろん、そんなことをする人間は、ここには一人しかいない。
「……っつ〜……いきなりそういうことするかぁ?」
 ブラッグァが抗議すると、悠は顔色一つ変えずにこう聞き返してきた。
「うるさいからな。で、どうすれば元に戻るんだ?」

 元に戻る。
 その言葉で、ようやくブラッグァも落ち着きを取り戻す。

 元に戻る方法は、二つほどある。
「どうすればって……朝になるのを待つか、それとも……」
 そこまで言って、ブラッグァはつい口ごもった。
 二つめの方法は、言えない。
「それとも? それとも何だ?」
 催促されても、こればかりはさすがに言えない。
「早く言え」
 じれったくなってきたのか、悠が険しい目つきでブラッグァを睨む。
 この目に睨まれると、ブラッグァはどうにも逆らえなくなってしまう。
「お……俺の、好きな人に、キス……して、もらえれば……」
 仕方なく、ブラッグァはかろうじて聞こえる程度の声でそう呟いた。
 恥ずかしさと、情けなさと、そして微かな期待と。
「ふぅん」
 気のない返事をしながらも、悠は無造作に手を伸ばし、ブラッグァの顎に触れる。

 これは、ひょっとして――。

 ところが、ブラッグァの期待に反して、悠はそれ以上のことをしてくれようとはしなかった。
 その代わりに、彼女はにやりと笑ってこう言ったのである。
「キスしてほしいなら、自分でそう言ったらどうだ」

 そんなこと、面と向かって言えるわけがない。

 とはいえ、この状況で、言わずに済ませられるわけもない。

「……き……キス、して……くれ」
 恥ずかしさと照れくささとで頭が爆発しそうになりながら、どうにかこうにか言葉を絞り出す。
 すると、悠は満足そうに一度頷き……。

 次の瞬間、目をつぶる間さえ与えずに、いきなり唇を重ねてきた。

 例えようもない幸福感に、全身の力が抜けていく。
 自分の姿が、だんだんと元に戻っていくのがわかる。

 やがて、ブラッグァが完全に人の姿に戻ると、悠はそっと唇を離し……ブラッグァを見て、なぜか意味ありげな笑みを浮かべた。

 そこで、ブラッグァはあることに気がついた。
 人狼の姿になると、彼女の身体は一回りも二回りも大きくなる。
 ところが、彼女の着ていた服には、残念ながらそういった巨大化に耐える能力が備わっていなかったのである。

 つまり。
 一言で言えば、彼女は今真っ裸の状態だった。

「うわっ!?」
 大慌てで、足下に散らばる「かつては服だった布きれ」をかき集める。
 しかし、変身する前に落ちたサングラスと、羽織っていただけのコートが無事だった他は、どれもこれもひどく破れていて、とても着られる状態ではない。
 やむなく、残っていたサングラスとコートだけでも身につけてはみたが、これではほとんど、というよりどう見ても変質者である。
「どどどどうしよう!?」
 ブラッグァが頭を抱えていると、悠がぽつりとこう言った。
「そのまま帰れば?」
 どうやら、彼女はこの状況を楽しんでいるらしい。
「そんなぁ!」
 ブラッグァは抗議の声を上げたが、もちろん悠がそんなものを聞くはずもない。
「どっちにしても、あたしはそろそろ帰るよ」
 それだけ言うと、悠はさっさと回れ右をして山を下りはじめた。

 悠がわざわざ服をとってきてくれるとも思えない以上、もはやこのまま帰る以外に道はない。

 どうか、誰にも会いませんように。
 そう切実に願いながら、ブラッグァは慌てて悠の後を追ったのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<<ライターより>>

 はじめまして、撓場秀武です。
 このたびは私にご依頼下さいましてありがとうございました。

 さて、ブラッグァさんと悠さんですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
西東慶三 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月14日

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