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『 もしかして怪談? 』
シオン・レ・ハイ3356)&CASLL・TO(3453)



 人でごった返す海水浴場から少し離れた入り江で、白地に青のストライプのブラウスをジーンズから出してラフな姿で歩いていた女が、その岩場で立ち止まると人心地ついたような息を吐き出して、岸壁の下に広がる波しぶきを見下ろした。
 まるで、吸い込まれそうな、という形容がピタリとはまるのは、ここが自殺の名所だからだろうか。
 女は肩にかけていたカジュアルリュックから手帳を取り出した。
 そこに並んだ几帳面そうな走り書きの文字を辿って眉根を寄せる。
 自殺の名所。
 しかしここで自殺をした者など殆どいない。
 何故なら、死ねないからだ。
 昔はともかく相次ぐ地震と地殻変動故か、今ではここから飛び込んでも近くの海水浴場にすぐに流れ着いてしまう。よほど泳ぎに自信のない者でさえ、石を袖の下に入れていた者でさえも、多量の海水を飲みながらも浜辺に打ち上げられ一命を取り止めるのだった。
 幸いと呼ぶべきか、この町に住む者たちの記憶の中でここから飛び込み死んだという者は出たことがなかった。
 だが、ある日を境に、ここで人死が相次いだ。
 そのどれも自殺目的でここを飛んだわけではなかった。
 ある者は肝試しで、またある者は遊び半分で、ここからダイブしたのである。ある者は遠泳経験者だったり、ある者は水泳部の選手だったり。少なくとも泳げない人間は落ちていない。
 にもかかわらずだ。
 死を望んでいたわけではない。
 死因は溺死だった。
 それ以上でもそれ以下でもない。
 瞬く間にここは怪奇スポットの一つとなったのである。
 そう。ある日を境に。
「誰か、手ごろな実験体があればいいんだけど……」
 月刊アトラス編集部、鬼編集長こと碇麗香は何とも物騒な独り言を呟いて手にしていた手帳を閉じた。


 *****


 ロケを終えた帰り道、スタッフ達の誘いを断ってCASLL・TOは湾岸沿いをバイクで軽快に飛ばしていた。
 潮の香りが心地よい。
 近くに海水浴場でもあるのか、家族連れと思しき車が増えてくる。
 どこまでも広がる青い空。
 こんな日は泳ぐのも悪くはない。水着の持ち合わせはなかったが、いずれ海の家なら売っているだろう。そこに一つ問題があるとすれば、店の親父が売ってくれるかどうか、だ。
 CASLLは少しだけ胡乱なことを思い出して俯いた。今までそういった事はしばしば、ある。あまりいい思い出ではないので、思い出したくもないのだが。
 CASLLは車の流れに従って海辺へ折れると海水浴場を発見しその駐車場にバイクを乗り込ませた。
 1300ccの大型バイクは勿論輸入品だ。
 彼がバイクを止めるとバイク好きと思われる連中が遠巻きにチラチラとCASLLのバイクを盗み見た。
 CASLLがバイクから降りる。
 体感身長2mを超える彼の威風堂々たる体躯に、見ていた者たちは思わず息を呑んだ。やはり、あれくらいの体格がなくてはあの大型バイクは乗りこなせないのか。
 彼がヘルメットを取る。
 その瞬間、遠巻きに見ていた者たちが一斉に「ひっ」と喉の奥を鳴らして1m以上を後退った。
 彼の顔に驚いたのだ。
 職業悪役俳優は天職か。
 その極悪すぎる顔に誰もが裸足で逃げ出す勢いだったのである。
 しかしCASLLは彼らに気づいた風もなく、家族連れでごった返す海水浴場へと向かったのだった。



「かき氷はいかがですか。」
 似合わないアロハシャツを着て、シオン・レ・ハイはそこにいた二人連れの女の子ににこやかな営業用スマイルで声をかけた。手にしているお盆には、かき氷が二つ乗っている。氷には既にシロップがかけられ溶けかけていたが、彼は大して気にした風もない。
 普通、かき氷といえばオーダーメイドであろう。
 女の子達は困惑げに「どうする?」などと言い合っている。
「とっても美味しいですよ」
 シオンが意気揚々と二人にかき氷を勧めた時だった。
 女の子たちの背後に見知った顔を見つけてシオンは更に嬉しそうな笑顔で言った。
「や、これはCASLLさん。かき氷はいかがですか。」
 言ったシオンに女の子達がそちらを振り返る。
「ひっ……」
 女の子たちは、あのバイク好き共と同じく喉の奥で悲鳴をあげた。それ以上の声が出せずに固まっている。
「かき氷……」
 CASLLが口を開いて手をあげかけたのが合図になったのか、はたまた彼の視線がシオンに向けられていることに気づいてか、女の子達は一目散に彼とは逆方向へと走り出した。
「…………」
 ある意味、いつもの事である。いつもの事であるが慣れるかといえば、そうでもない。ほんのり凹む。この顔がいけないのか。この極悪非道な顔がいけないのか。だが、望んでこんな顔に生まれてきたわけではない。断じてないのだ。
「イチゴもレモンも美味しいですよ」
 シオンは逃げた女の子達を残念がるでもなく、かといってCASLLの落ち込みようを気にした風もなく、彼をテーブル席に案内するとそこに座らせ目の前にイチゴとレモンのかき氷をドンと並べた。
「待っててください。新作のマンゴーかき氷がまた絶品なんです。あ、CASLLさんには特別にレインボーかき氷も作ってあげます」
 CASLLが口を挟む暇も与えない勢いでそう言うと、さっそく店の奥に入ってシオンはかき氷製作に取り掛かった。ちなみにレインボーとはイチゴから始まって7色にブルーハワイとイチゴのコラボで終わるかき氷の事である。
 CASLLは内心で、そんなに食ったら……と思ったが断れなかった。あぁ見えて、もしかしたらシオンは女の子たちに逃げられ落ち込んでいる自分を元気付けようとしてくれているのかもしれないのだ。そんな風に考えると断れよう筈もなかった。顔はこんなでも性格は至って温和で控えめで大人しく心優しい彼なのだ。
 だから、たとえシオンが単純に自分のお手製かき氷を誰かに食べてもらいたかっただけだったとしても、彼が気づくことはなかった。
 とにもかくにもお互いの思惑はともかくとしてCASLLはかき氷を食べ始めた。溶けかかっているので、若干ペースは速めだ。
 しかしCASLLにとっては幸いと呼ぶべきか、その理由を知ったら多少は複雑な気分になったかもしれないが、かき氷は作られもしなければ、運ばれもしなかった。
 シオンが店長に休憩を言い渡されたからである。
 理由はいたって単純明快であった。
 CASLLとシオンが知り合いと知った店長が体よくCASLLを店から追い出す口実に使ったのである。彼が店に来た途端、一斉に客の腰が浮いた。それでも皆、何とか引きつった笑いを浮かべつつ談笑に興じていたのだが……CASLLがイチゴのかき氷を勢いよく食べたのがいけなかったのか、襲われる頭痛に顔をしかめた。その瞬間、店内は閑古鳥が鳴く始末に陥ったのである。これでは致し方ない。
 こんなところでちんたら全種類のかき氷を制覇されたのでは、商売あがったりであった。本人にその気は全くなくとも、結果としてこれはれっきとした営業妨害なのである。
 そんな次第で店長に休憩を言い渡されシオンはCASLLと連れ立って店を出ることになった。
 CASLLが水着がないというので、シオンが代わりに水着を買ってくる。勿論、お金を出したのはCASLLだ。
 海の家の更衣室で着替えて、水着にアロハシャツを羽織った出で立ちでCASLLが浜辺に出ると、そこにシオンの姿はなくなっていた。
 辺りを探すと、海岸線に停まっている軽トラックの前にそれらしい影がある。そちらの方へ歩き出すと、遠目にシオンが今にも涎を垂らしそうな顔つきでトラックの荷台を覗いているのが見えた。
 どうやらここまで売りに来たスイカ売りのトラックを覗いているようだ。
「スイカ割りをしましょう」
 笑顔でシオンが提案した。期待に目を輝かせ胸を膨らませている様子のシオンにCASLLは否が言えよう筈もない。しょうがないな、と見た目はどうあれ本人は控えめに笑みを返して頷いた。それにシオンは狂喜乱舞して喜んだが、一方スイカを売りの親父は仰け反った。今にも逃げ出しそうな風情である。CASLLは無論、睨んだわけではなく親父に愛想のいい笑みを向けただけだったのだが、相手にはそうは見えなかったらしい。
「知ってますか? 甘いスイカは表面がざらざらしてて、根元が凹んでるのが美味しいんですよ」
 シオンは二人の間の空気を知ってか知らずそう言って、荷台に積まれたバスケットボールより一回りも大きいスイカを一つ取った。
 CASLLにお金を出して貰う。
 親父は二人に破格の安値でスイカを売った。殆ど二束三文で売り渡すと運転席に飛び乗り一目散に走り出す。
 そんなトラックを怪訝そうに見送ってシオンはいそいそと砂浜にスイカを運んだ。CASLLは何とも複雑そうな顔をしている。
 浜辺にスイカを設置すると、シオンはCASLLに棒を握らせた。
 それだけで彼の周りから人が減り、海水浴場からも蜘蛛の子を散らすように人が去っていったのだが、シオンは気づいた風もない。
 いつの間にやら人の全くいなくなった砂浜で、シオンはCASLLにタオルを巻いて目隠しをした。
 勿論自分が指示を出す側だ。ずっとやってみたかったのである。
 スイカの前に座ってシオンは声をかけた。
「そのまま、まっすぐです」
 声は楽しそうに弾む。
 CASLLが歩き出した。
「あぁ、右です。もう少し右!」
 シオンは意気揚々と指示を出す。確かにそれは右だった。シオンから見て。
 CASLLは自分から見て右へ向かった。
「あぁ、違います。右ですってば。そっちは左ですよ」
 言われてCASLLは気がついた。どうやらシオンは正面に立っていて、彼からみた左右で指示を出しているらしいと。
 そして同じ時、シオンも同じ事に気がついた。
「あぁ、こちらから見ると右は左ですね」
 そう呟いて指示を出しなおす。
「左です。左!」
 CASLLは素直にシオンから見て左へ向かった。
「あぁ〜〜」
 棒を手にあちらこちらと全然違う方へ歩き回る極悪顔のCASLLは、果たして浜辺から少し離れたところで遠巻きに見守っていた人々にはどう映ったのであろうか。
「そこです!」
 何とかスイカの前まで辿り着いたCASLLにシオンが声をかけた。
 CASLLは軽く棒を振り下ろす。
 本人は軽くのつもりだったが、それは思いのほか力が入っていたらしい。
「あぁ!?」
 スイカは木っ端微塵に砕け散った。
「ひ…ひどいです……」
 シオンのそれまで嬉々としていた声が、まるで青菜に塩をふったようなしょげっぷりに変わる。
「ん?」
 CASLLは訝しげにタオルを取った。
 スイカは全くその原形を留めてはいなかった。
「……すみません」
 CASLLが頭を下げた時だった。
 そこへ警備員らしき人々が駆けてきた。どうやら誰かが通報したらしい。浜辺で凶器を持って暴れている男がいる、と。
 CASLLの頬に滴る赤い果汁を見て遠巻きにしていた野次馬の一人が叫んだ。
「血だ!!」
 その声に一瞬にして野次馬連中がパニックを起こす。その混乱ぶりに、最早弁明を挟む余地などない。
 二人は慌てて逃げ出した。
 勿論誤解ではあったが、誤解ですと言ってすぐに聞いてもらえるような雰囲気ではなかったのだ。
 二人は海水浴場から少し離れた入り江の岩場を登っていく。
 崖に一人の女性が立っていた。
「あら? 貴方たち……」
「麗香さん!?」
「追われているのね?」
 麗香は確認するようにシオン達に尋ねた。
「はい」
 それに麗香はにやりと笑みを零す。
 いい実験体が来た、と。
「ならここは私に任せて、あなた達は海へ逃げなさい」
「え?」
「さぁ、さっさと飛び込むのよ!」
「は…はい!!」
 二人は言われるままに崖を飛んでいた。





 あの日――――。
 この崖を一台の車がダイブした。さすがに車は波に押し流されることはなかった。そして、そう深くはない海の底に沈んだ。
 事故だったという。







 *****


 海はそれほど深くはなかった。
 高さ10mを飛んだ二人は果たしてどこまで沈むのか。海の底を蹴って浮上すべく手を頭上へ上げる。アロハシャツがまとわりついて泳ぎにくかった。
 と、その時、二人の前方から猛スピードで近寄る影があった。その正体に気づいたCASLLが驚愕に悲鳴をあげようとして水中にもかかわらず息を全部吐き出してしまう。
 吸い込まれる大量の海水に溺死しかけた時、その影が彼のアロハシャツの裾を口にくわえて水上へとダイブした。
「もがごほっげがっ……」
 CASLLが声にならない悲鳴をあげる。万事休すか。さすがの強面も海のギャングには通用しなかったらしい、こんな時に限って。
 最早、彼のパニックした頭ではそれが鯱なのか鮫なのかはわからなかった。たぶん、鮫。
「ありがとうございます」
 鮫の背に乗ってシオンが一人楽しそうに言った。
「げほがごっげがっ……」
 CASLLが目を白黒させながら叫ぶ。
「CASLLさんも背中に乗せてあげて下さい」
 シオンが鮫の腹を撫でながら言うと、鮫は咥えていたCASLLを離した。
 シオンがCASLLのアロハシャツを引っ張って彼を背びれの前に乗せてやる。そこに彼はぐったり横たわった。
「大丈夫ですか?」
「…………」
 返事はない。
 どうやら大丈夫そうだ。返事のないのは良い返事……なのか、シオンはニコニコしながら続けた。
「せっかくなので遊んで行きましょう」
 それに応えるように鮫が旋回する。
「しっかり掴まっててください!」
 シオンが言うが早いか鮫が水中へ潜った。
「げほがごっげがっ……」
 しっかり掴まる事も出来ず水面に浮いてしまったCASLLの袖をシオンが掴んで水中に引きずり込む。
「ごげごげごげぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!」
 CASLLの絶叫をどうとったのか。
「CASLLさんも楽しんでくれてるんですね」
 と、シオンが嬉しそうに言った。

 CASLLの為に合掌。



「あれ?」
 それまで鮫の背で一人楽しそうにはしゃいでいたシオンがふと真剣な顔をした。
「あそこで誰かが溺れているように見えます」
「溺れてる?」
 ぐったりしていたCASLLがそれに反応して顔をあげた。確かに波間を必死で掻き分ける小さな手が見えた。
「助けに行きましょう」
「あぁ」
 二人は鮫の背に乗って近づいた。
 それがまだ小さな子供だと気づいて二人は慌てる。特に子供好きのCASLLなどは顔面を蒼白にした。いや、元から海に揉まれて蒼白だったような気もするが。
 シオンが手を伸ばす。
 CASLLは海に飛び込み子供を抱えあげた。
 何とか鮫の背中に助けあげる。
 小さな男の子だった。年は5・6歳といったところだろうか。大きくてつぶらな瞳が別段強面の顔に臆した風もなくCASLLを見上げていた。怖いもの知らずな年頃なのか。
「おじちゃん。遊んで」
 子供が言った。
「…………」
 これまで、成人してから早16年。子供に泣かれる事は数知れずあろうとも、笑顔で遊んでとせがまれた事など指の数ほどもないCASLLである。恐らくはこれが初めてではなかろうか、場合によっては最後になるかもしれない。したくはないが。
 CASLLは俄然元気になった。
 目を輝かせて子供を自分の前に座らせると、シオンを突っついて鮫を沖まで走らせた。
「行けー!!」
 子供がはしゃいでいる。
 潮風を切って波飛沫を上げて水面を泳ぐ鮫に、かくして三人は大いに遊んだのだった。
 やがて日が西に傾き始める。
「さて、日が暮れる前に戻りましょう。お母さんも心配しているかもしれません」
 そう言ってシオンは鮫に乗ったまま海辺へと戻り始めた。子供も満足そうな顔をしている。子供好きのCASLLは感無量といった風情だ。
 一方、CASLLが去った後、平和を取り戻し人ごみでごった返していた海水浴場は、突如現れた巨大な鮫に再び騒然となった。
 そこここで悲鳴があがる。
「あぁ、誤解です」
 言いながらシオンは鮫から降りると自分を遠巻きにしている者たちに駆け寄った。
 その先頭に麗香が立っている。
「――――で、あなた達はせっかく誤解を解いてあげた私の顔に泥を塗りたいのね?」
 冷たい声が地の底から這うように響いた。シオンはたじろぎながらも答える。
「ち……違います。私たちは、子供を……」
「子供?」
 麗香が首をかしげた。
 シオンはCASLLを指す。
 CASLLが子供を抱いていた。
 しかしそれは麗香には見えなかった。
 CASLLが子供を下ろす。
「お母さんはどこかな」
 しゃがみこんで子供の顔をうかがうように覗き込むと、CASLLは人だかりの方を見渡した。
「ありがとう、おじちゃん」
 子供の言葉にCASLLが男の子に視線を戻す。
「う……ん?」
 CASLLは目を見開いた。
 子供が透けて見えるからだ。
「え?」
 CASLLは手の甲で何度も目をこすった。目が悪くなってしまったのかと思ったのである。
 しかし子供の向こうには砂浜が透けて見えていた。
 子供の肩に置いた手が空を切る。
 シオンもその光景に目を剥いた。
「え……?」
 淡い光が子供を包み込む。
「パパ!! ママ!!」
 子供はそう言って空へと駆け出した。
「…………」
 呆気に取られたようにCASLLはその背を見送っていた。
「楽しかったよ、おじちゃん達。ありがとう」
 そんな子供の声が聞こえたような気がした。
「えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!?」
「子供ってどこにいるのよ?」
 CASLLの一人芝居に呆れたように麗香が尋ねる。
「そ…それはですね……いや…だから、まさか……」
 シオンがおろおろと弁明の言葉を捜した。
「…………」
 CASLLは何も言わず、ただ少年の消えた空を見上げていた。


 ******


「助かるわ。これで、入稿出来るわ」
「はぁ……」
 シオンとCASLLは編集部の片隅に急ごしらえで作られた特設机――という名のみかん箱の前に正座をし、げっそりやつれた顔で応えた。
 あの海辺での一件の後、拉致監禁されてただ働きを強要されたのである。
 しかし、いろいろ助けてもらった――誤解を解いてもらった――手前、彼らに否の選択肢はない。
 鬼編集長にこき使われ、夜明けを迎えた二人は窓から入ってくる朝日に何とも眩しそうな視線を送った。
 ――これで開放してもらえるのだろうか。
「そう言えば、あの海岸で助けたって子供って、この子じゃない?」
 麗香はふと思い出したように一枚の写真を取り出し、二人の机の上に置いた。
「あ、そうです! この子です!」
「そっか。なるほどね……」
 麗香は肩を竦めてみせる。
 それは『あの日』ダイブした車に乗っていた少年だった。
「もしかしたら、昨日を境にあの岩場からの飛び込みでの死者は、なくなるかもしれないわね」
 そんな事を独り呟いて麗香は編集部を出て行った。
 後に残されたシオンとCASLLは寝不足と疲労に半ば意識を失ってその場に倒れこむ。
 ただ、今日のロケの時間になっても訪れないCASLLの携帯電話が、やかましく鳴り響いていた。



【大団円】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
斎藤晃 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月12日

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