▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【memory――あの刻ふたりは‥‥】 』
モラヴィ1940)&パフティ・リーフ(1552)

 ――そこは漆黒の闇だった。
「きゃうッ! ぐぅッ! はぁんッ! やッ! あぁッ!」
 少女は見えない洗礼に悲鳴をあげて踊り続ける。
 身体をくの字に曲げ、時には仰け反り、左からの洗礼に足を縺れさせ、刹那、右からの洗礼を叩き込まれて振り子のように揺らされた。見えない打撃を受ける度に茶色のセミロングヘアは舞い、豊かな膨らみが揺れ、悲鳴と共にピクンッと後ろ髪から延びた二本の触覚が跳ねる。激痛と共に舞い散るのは真っ赤な鮮血だ。抵抗も出来ず、まるでサンドバックのように揺れ踊るパフティ・リーフの瞳に、暗闇から現れた巨大な口が映る。牙のゾロリと生え揃った大口は、一気に彼女の腹部に食らいついた――――。

「はぁッ!!」
 少女は瞳を見開く。目に映る視界は闇では無かった。陽光が窓から降り注ぎ、柱を組み合わせた天井が見える。小鳥の囀りや犬や牛の鳴き声も聞えた。ゆっくりと瞬きをしてみる。
 ――私は仰向けで横になっているのですか? でも、ここは‥‥。
 朦朧とした意識がハッキリとして来ると、身体中に珠のような汗が伝う感じを覚えた。
 ――シャワー‥‥浴びなきゃ、ダメですね‥‥ッ!!。
「いぃッ!」
 半身を起こそうと腰に力を込めた時、激痛がパフティを貫いた。再び柔らかいベッドに背中を預ける。藁の匂いが心地良かった。
 ――‥‥って、何で起き上がれないの!?
 少女は不安感に表情を強張らせ、恐る恐る視線を下ろしてゆく。先ず視界に飛び込んだのは自分の大きな二つの膨らみだ。この時ほど邪魔だと思った事はないだろう。白い膨らみには血の滲んだ包帯が巻かれており、しなやかな足にも白いものが丹念に巻かれていた。
 ――あれ? それって、私は服を着ていないのですか?
 いや待て。包帯だらけの身体? 動かない身体!?
「ええぇぇぇぇぇぇッ!?」
 少女の絶叫は天井を突き破り、周囲一帯に響き渡ったとか――――。

●記憶の邂逅
「つまりじゃ」
 パフティは頭を横にした。端整な顔立ちだが、美少女と言うよりは、母性的な色香を漂わす風貌だ。それもその筈、エマーン人は早熟で17歳で出産期が終わるのである。つまり、彼女は18という若さで双子を育てる母なのだ。
 先ほどから行ったり来たりの往復を繰り返す白衣の老人を目で追う中、医者の状況説明は続く。
「おまえさんは、骨折、打ち身、火傷、擦り傷などを至るところに拵え、機械と共に森の中に倒れていたのを村人に発見され、村で治療したっちゅーことじゃよ」
「‥‥はぁ、そんなに怪我を? 有り難うございます」
 どうやら、ここはエルザード辺境、アセシナートとの国境近くの農村らしい。それにしても‥‥なぜ? パフティは疑問を投げ掛ける。
「‥‥それにしても、どうして私がそんな大怪我をしていたのでしょう?」
「そりゃコッチが聞きたいわい。‥‥おまえさん、覚えておらんのか?」
 少女はコクリと頷いた――――。

 何とか動けるようになったのは数日が経過してからだった。
 パフティは農家の仕事を手伝い、食事を作り、精一杯の感謝を表わし、村人の中へと解け込んでゆく。元々家庭的な雰囲気を醸し出す少女は、エマーン人の奇抜な衣装に身を包んでいるものの、大衆からの評判も良かった。しかし――――。
「‥‥機械と共に森の中に倒れていた?」
 ふと脳裏に医者の言葉が甦った。
「機械? ああ、あの丸っこい奴かい?」
 世話になっている農家のカミさんに尋ねると、今度は鍋を掻き混ぜながら亭主へと声を響かせた。
「あのデカくて丸っこい奴かぁ? あれなら納屋に入れてあるさな。村人の力自慢数人で運んだんだが、壊れてたみたいでなぁ、錆びてなきゃいいが‥‥納屋だしなぁ」
「錆びているですって!?」
 ピクンッと二本の触覚を跳ね上げ、パフティは納屋へと急いだ。少女の後ろ姿に視線を流した後、農家の夫妻は不安げに顔をみつめ合う。
「娘が出来たみてぇで嬉しかったんだがなぁ」
「そろそろ行っちまうかもしれないねぇ」

●記憶の邂逅と再会
 ――鈍い音を鳴らして木製の扉が開く。
 痛んだ木の壁から茜色の陽光が射し込み、薄っすらと視界に埃と納屋の中を映し出す。若干黴臭く、腕を鼻と口元に当てて、ゆっくりと中へと入った。刹那、パフティは瞳を見開く。
 視界に飛び込んで来たのは、無雑作に転がされた2mの丸みを帯びた機械の塊だ。否、何もメカニカルな部分が曝け出されている訳ではない。優麗なフォルムは赤いラインの入った白に近い肌色の装甲に覆われ、半透明の青いキャノピーは割れているものの、機能的に問題ないようだ。黄色の丸いライトが子供っぽくて愛らしい。
 ――刹那、一部の記憶が甦り、少女は彼の名前を呼んだ。
「モラヴィ!!」
 慌てて駆け寄ると、ボディの彼方此方を眺め、装甲の小さなハッチを開いてスイッチを押し込む。風が空気を切るような駆動音が響き渡り、敷かれた藁を舞い飛ばしながら宙に浮き、モラヴィは状態を整えた。ゆっくりと機体を旋回させ、パフティに顔(正面)を向ける。刹那――――
<パフティ〜! 寂しかったよ〜>
 少女の豊かな胸に飛び込んで来たのは、少年の声を発した2mの機械だ。パフティは一瞬触覚を大きく跳ね上げ、戸惑ったものの、モラヴィの巨体を受けとめる。
「よかった! 慣性制御ユニットは無事だったのですね☆」
<俺、もうダメかと思ったよ〜>
 どうやら嬉し泣きしているようだ。そう少女は察した。
「ごめんなさい。私も大怪我をして意識を失っていたのです。それでモラヴィ‥‥」
「どうして私は大怪我を負ったのですか?」
<どうして俺は壊れたんだよ〜?>
 ――はい?
 二人の声は同時に発せられた。
 パフティはペタンと床に座り込み、放心状態の如く瞳を見開く。対するモラヴィは左右に身体を揺らして、ふわふわと浮いていた。
「‥‥モラヴィも、‥‥覚えていませんの?」
<それは俺が知りたいよ〜! 多分、メモリデータが壊れたんじゃないかと思うんだ〜>
 ――はっ! メモリデータ!
 少女は瞳を研ぎ澄まし、キャノピーを開くとモラヴィの中へと滑り込んだ。腹ばいの体勢になると、コックピットの機器を操作しだす。記憶が覚えているというよりは、身体が覚えていると例えるが正しいか。
「やっぱり‥‥メモリが一部、飛んでしまっています。データから予想すると、一番新しいデータですね」
<それって壊れる前のメモリってこと?>
 頷いたのか、ガクリと肩の力を落としたのか、パフティは俯いて小さな溜息を洩らす。二本の触覚もダラリと垂れ、気力を失った感じだ。
<おいパフティ、元気だせよ。人間の記憶は一時的に消えたりするものなんでしょ? きっと思い出すって☆>
「そうでしょうか?」
<ドリファンドに励まされてどうすんだよ〜>
 ドリファンドとはパフティがいた時空で使われている超小型メカの総称だ。更に大きく分類すると移動用搭乗メカはデバイスと呼ばれている。つまり、デバイス(移動用)のドリファンド(超小型メカ)・モラヴィとなる訳だ。
「そうですね! 私の記憶が一生取り戻せない訳ではありません!」
<よしよし! その意気だぞパフティ〜>
 こうして二人は治療と修理を農村で続けながら暮らした。しかし、記憶が甦る事はなかったという――――。
≪おわり≫

 ‥‥否、それは嘘だ。
 人の記憶とは不意に呼び起こされるものである。
「きゃッ! やだ‥‥ネズミですッ!」
 食事を壮年の夫婦と摂る中、床をチョコマカと一匹の小動物が駆けずり回った。カミさんは椅子に立ち上がり、旦那は木の端を薙ぎ振るって格闘する。
「このやろう! 我家に侵入するたぁ良い度胸だぜ!」
 ――侵入!?
 ピンッとパフティの触覚が跳ねた。

●再会と甦る記憶
 ――刻は数日前に遡る。
 コックピット越しに映る視界に浮かび上がるのは、漆黒に彩られた街の全景だった。致る所から突き出た煙突は黒煙を立ち上らせており、頭上の空は暗雲の如く漆黒に染め上げられている。半透明のディスプレイが出現し、拡大されるのは、中央に聳え立つ砲塔や対空砲でハリネズミのように武装した要塞だ。
「‥‥あれが王城ですね。モラヴィ、王都の様子は記録しました?」
<OKだよ☆>
 パフティは不敵な笑みを浮かべて見せる。
「王城に潜入しますよ、モラヴィ!」
<OK〜♪ 電磁波屈曲フィールド展開するよ>
 刹那、王都上空を浮遊するモラヴィは不可視となり、ゆっくりと音を低くして王城へと近付く。ここで何かしらの物音で気付かれたらアウトだ。更に不可視を見破られる可能性も否定できない。流石のパフティも緊張の色を表情に浮かべ、視線を辺りに流し続けた。ふと眼下に視線が止まる。
「モラヴィ、あのバルコニーに着地できます?」
<OKだよ>
 自然に小声となる二人の会話。そんな中、ゆっくりとモラヴィは降下してゆき、音を立てずに大き目のバルコニーに着地した。刹那、彼のシルエットが浮かび上がる。電磁波屈曲フィールドは接地する事で機能を果たさなくなるのだ。ここからは時間の勝負となる。少女は丸みを帯びた白いヘルメットを被り、バイザーを下ろすと、キャノピーを開いて飛び降りた。
「モラヴィ、二手に分かれましょう。危険になったら精神感応サークレットを通して呼ぶ約束は忘れないで下さいね」
<OK〜☆ パフティ、気をつけろよ>
「モラヴィもね☆」
 ウインクを投げて微笑むと、少女は城の奥へと駆けて行った――――。

「‥‥と思うんですけど〜」
 納屋の中、コックピットで頬ずえを突いてパフティは溜息を吐いた。どうやら甦った記憶は、ここで途切れてしまったらしい。
<おい、パフティ! 分かれたって事はパフティの記憶が戻っても俺の記憶は分からないんじゃないのか?>
「そうなんですよ〜。ここじゃ手に入らないけど、少し歩いた所で機械の部品が手に入るかもしれないって話ですけどね」
<だったら探しに行かなきゃダメだよね?>
「‥‥うん、そうなんですけど‥‥」
 少女はうつ伏せになったまま、寝息を立て始める。モラヴィは、突然甦った記憶に疲労感を覚えたのだろうと、黙って揺り篭のように機体を揺らし続けた。
 ――アセシナート公国。
 聖都エルザードに敵対する公国の事が知りたい一心で飛び込んだ一人の少女と一体のドリファンド。
 二人の侵入活動の記憶は甦ったばかりだった――――。


<ライター通信>
 この度は発注ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 モラヴィって何? と思い、イラストを見て大笑い。まさかドリファンドがPCになっているとは〜って感じです。
 冒頭は夢の中、身体に蓄積された痛みが悪夢となった状態を演出させて頂きました。冒頭から目が覚めたってのも味気ないですしね。あくまで悪夢なので、実際にどのような攻撃を受けたかはお任せしますね。
 発注からいきなり連作宣言嬉しく思います☆ 切磋も当時の記憶を呼び起こしながら、綴らせて頂きました。設定もシッカリしていて気持ち良く描く事が出来ました。ただ、パフティの口調は設定通りに修正させて頂きました事を御了承下さい。さて、連作に敵うノベルか否か‥‥。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
切磋巧実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年09月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.