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『spiral angel 』
銀野・らせん2066)&松田・真赤(2849)


 街灯が規則正しく遊歩道を照らしている。ネオンに彩られた夜の街からまっすぐに伸びているこの道を、赤いシャツとジーパン姿の女性が考え事をしながら歩いていた。彼女は松田 真赤。人気バンド『STILL IN LUV』のヴォーカルをしている。日付が変わる時間に終わるファミレスを出て、彼女は当てもなくその辺をふらふらしていた。いや、そうせざるを得ないという方が正確なのだろうか。ともかく真赤は今、悩んでいた。
 原因はバンドのメンバーに「お前、1曲分の歌詞を書け」と言われたことだった。実は彼女の知らないうちにセカンドアルバムに向けた構想が練られており、作詞と作曲の割り振りがある程度決まっていたのだ。マネージャーもレコーディングからシングル発売、そしてアルバム発売までのスケジュールを提示し、メンバーに奮起を促す。ここで「えーっ!」と叫んだのは真赤だけだ。彼女は最近ラジオやプライベートで忙しく、なかなかメンバーと連絡を取り合う時間がなかったのである。
 ここまでの話を聞くと、真赤はずいぶん過酷な状況に置かれていると思うかもしれない。ところが制作期間は前のアルバムの時よりもかなり余裕があり、彼女の準備する歌詞もこのひとつだけ……逆に期日までにできない方がおかしいのだ。だがアーティストには『スランプ』というものがあり、まさに真赤はその真っ只中である。公園のベンチに座って空を見上げたり、浜辺の波打ち際でぼーっとしたり……さまざまな気分転換をしたがまったく効果なし。「今日こそは!」と意気込んでファミレスの片隅でノートを開き、無理やりにでも歌詞が出るようにずいぶんと頭をひねってがんばってもみたが、結局はただただコーヒーをたらふく飲んで無駄に時間を費やしただけに終った。そして今に至るのである。

 真赤はさっきまでまったく動かなかったペンを指で回しながらため息混じりに歩いていると、偶然とても不思議な光景に出会った。知らない間にロケ現場にでも入りこんだのだろうか……彼女は周囲を見るが、カメラや照明などはどこにも見当たらない。ただ目の前に獣人らしき怪物と機械仕掛けのヒロインだけが立っていた。彼女は長い髪を三つ編みにしており、グリーンのモニターを通して前を見ている。その腕には謎のドリルを装備しており、ふと宙に浮いたかと思うと目の前の敵に突撃した! その時の彼女の姿はまるで天使……少なくとも真赤にはそう見えた。そして白き光に包まれた螺旋剣で敵を貫く! すれ違いざまに大爆発を起こす獣人……真赤はあまりに唐突な出来事を前にしてビックリし、高鳴る鼓動を手で押えつつ街灯の裏にさっと隠れた。

 「撮影じゃ、ないんだよね……あれ。あ、あのコに見つかってないよね?」
 「正義は必ず勝つのよっ! 銀の螺旋に勇気を込めて、回れ正義のスパイラル! ドリルガール、ご期待通りに事件解決っ!」
 「ドリル、ガール? 完全にヒーローのノリじゃな……あっ、これだ! これなら行けるっ!」
 「あ〜あ、眠たいよ〜。明日も学校なのに……早く帰ろうっと。」
 「これがこうなってああなって、これこれこれがこれ……ああ、これはこの方がいいかも。ふむふむ、うんうん。」

 あくびをしながら空を飛んでその場を立ち去るドリルガールと街灯の光を頼りに何かを書き続ける真赤。そんなふたりはすさまじく意外なところで接点を生むことになる。


 あの事件から数ヶ月後が経った。
 神聖都学園高等部に通う銀野 らせんは、放課後に友達たちとCDショップに立ち寄った。店のスピーカーからは最近の新曲が次々と流れている。しかしそれを真剣に聞く人はあまりいない。新曲は視聴コーナーでいくらでも聞くことができるし、次にどの曲がかかるかわからないのにじーっと待っているのはあまりにも退屈だ。らせんは新曲を探す友達と一緒について回っていたが、スピーカーから流れたあるフレーズを聞いた瞬間に身体が凍りついてしまう!

 「い、今……ドリルガールって言わなかったっけ? あれ、なんかこの曲、あれっ、き、気のせい??」

 らせんは慌てて友達にこの曲は誰が歌っているのかを確認し、店の中をダッシュしてそのシングルを手に取った。ふわふわしたタテロールのウイッグをつけた赤毛の女性が大写しになっているSTILL IN LUVの新曲のタイトルを見た彼女は思いっきり悶絶した。

 「ス、ス、スパイラルエンジェルぅ〜〜〜っ?! こ、これってまるっきりあたしのことじゃないっ!!」

 動揺を隠せない彼女は近くに置かれていた無料配布の歌詞カードを手に取り、その内容を黙々と確認した。それと同時にジャケットの女性が松田 真赤であることを知る。らせんの目はせわしなく動き始めた。


■spiral angel
  作詞:松田 真赤 作曲・編曲:STILL IN LUV 


 街は回る 絶え間なく動いてるよずっと
 レンズの乱反射が今日を創る
 影が伸びる 暗く深い欲望のように
 その中から這い上がる悪魔たち

 人の弱さを語り 人を陥れてく
 誰もが強いわけじゃないけれど
 あたしは人の心の強さを信じてる
 目覚めるのなら 傷ついてもいい

 闇を切り裂く スパイラル
 光の粒巻き上げる エンジェル
 飛び立つ はるか遠く
 許せない悪を許さない!
 白銀の鎧に力を込めて
 みんなを夢の彼方へと……導く


 時は回る 淀みなく動いてるよいつも
 瞳に映るすべてに ウソはないよ
 辛い現実(リアル) 逃げ場のない悪夢のようさ
 手を差し延べ微笑む悪魔たち

 逃げるしかないだとか 落ちていくだけだとか
 誘惑の言葉に心揺れても
 あたしはあなたのことを きっと助けてみせるわ
 何度でも輝けるはずだから

 昼も夜でも オールウェイズ
 悲鳴を聞き走り出す エンジェル
 グリーンの景色の向こう
 悪の波動が広がってく
 大いなる名乗りを今高らかに
 正義の螺旋を振りかざせ ドリルガール!


  銀の螺旋に勇気を込めて、回れ正義のスパイラル
  ドリルガール、ご期待通りに只今見参!


 あたしは人の心の強さを信じてる
 目覚めるのなら傷ついてもいい
 あたしはあなたのことを きっと助けてみせるわ
 何度でもはばたけるはずだから

 闇を切り裂く スパイラル
 光の粒巻き上げる エンジェル
 昼も夜でも オールウェイズ
 悲鳴を聞き走り出す エンジェル
 大いなる名乗りを今高らかに
 正義の螺旋を振りかざせ ドリルガール!

  Oh,oh oh oh……夢見てるエンジェル
  Oh,oh oh oh……白い翼エンジェル
  Oh,oh oh oh……愛を呼ぶエンジェル
  Oh,oh oh oh……笑顔生むエンジェル


 らせんは最後まで歌詞を読み終えると、同じシングルを3枚持ってレジの上に叩きつけるようにして置いた。カウンターにいた男の店員は彼女の興奮した表情と行動に戸惑いながらも勇気を振り絞って質問する。それはごく普通の内容であるが、どうしても確認せずにはいられなかった。

 「あの……同じシングルですけどいいんですか? しかも3枚……」
 「視聴用、観賞用、保存用ですっ! 初回限定版ですからっ!!」
 「い、い、いいんですね、わ、わかりました……」

 完全に飲まれてしまった店員はらせんの言われるがまま会計処理を始めた。これを喜んで買ったのは何もらせんだけではない。STILL IN LUVのファンはもちろんのこと、一部の特撮ファンにもウケがよかったのだ。結果的に真赤が土壇場で書いたこの曲が、今年のスマッシュヒットになったのである。

PCシチュエーションノベル(ツイン) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月07日

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