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『サマー・バカンス 』
ジェイド・グリーン5324)&高遠・弓弦(0322)


 室内プール、スパ、カジノなど、楽しみつつのんびりできる娯楽を各種取り揃えた豪華ホテル。いつも予約で一杯であり、お値段も素晴らしいものがある。
 そんなおいそれと泊まる事の出来ぬそのホテルにある室内プールの一角に、ジェイド・グリーン(じぇいど ぐりーん)はいた。プールサイドに置かれている椅子にゆったりと座り、そばに置かれたサイドテーブル上にはフルーツがたくさんついた青いトロピカルジュース。ザ・バカンスと言った所だろうか。
「ついに俺達の仲も認められたし」
 ジェイドはそう言ってにやりと笑った。家主の仕事先から、カップル様一日ホテル宿泊無料招待券を貰ったのである。
「本当に、いいホテルだもんな」
 ジェイドはトロピカルジュースを一口のみ、にっこりと笑った。程よいフルーツの酸味と甘味が融合したさっぱりした味と、しゅわしゅわときつくない炭酸が心地よい。
「部屋も綺麗だったしなぁ」
 そうジェイドは呟き、それから小さく「ちぇっ」と舌打ちした。部屋は申し分ないほど綺麗で、広かった。トイレとは別になっているお風呂に、ちょっとしたお茶が出来るようになっている可愛らしいテーブルと椅子、ベランダに出れば景色を一望できる。そしてベッドルームは素晴らしくスプリングのきいたベッドが二つ。
 ツインルームだった。
(そこは別にツインにする必要はないじゃん?てか、何でダブルじゃないんだよ)
 カップル宿泊券なのに、配慮がもう少し足りないとジェイドは心の中で主張した。だが、一緒にいた高遠・弓弦(たかとお ゆづる)が「素敵ですね」と綺麗に微笑んだから諦める事にした。
 まるで、花が咲いたみたいに嬉しそうだったから。
 嬉しそうに微笑む弓弦を思い出して、思わず微笑むジェイドに「お待たせしました」という声がかけられた。
「遅くなってしまって」
 そう言いながら、弓弦がやってきた。さらりとした銀髪を一つにくくりながらやってきた弓弦は、当然の如く水着姿であった。思わずジェイドは弓弦の姿をじっと見つめ、ごくりと唾を飲み込む。
「……へ、変ですか?」
 じっと見つめるジェイドに、弓弦は少しだけ赤くなりながら尋ねる。
「い、いや。凄く良く似合ってる……」
「ジェイドさんも素敵ですよ」
 にこっと笑いながら弓弦はそう言ってジェイドを見つめた。相変わらず、頬がほんのりと赤い。それがまた、より一層弓弦を可愛く見えてしまう。
「よ、よし!それじゃあ、泳ぎを教えようか」
「はい」
 ジェイドはじっと見つめつづける自分を振り切るようにそう言い、弓弦の手を取ってプールへと向かった。波が出たり滑り台があったりウォータースライダーがあったりというプールではなく、普通に泳ぐ為のプールに。そっと足をつけてはいると、肩までつかるくらいで足が届く。
「それじゃあ、俺が手を引っ張ってあげるから」
「はい」
 ジェイドはそう言って、弓弦を誘導する。ゆっくりと両手で引っ張ると、弓弦の身体もゆっくりと水面を動く。顔を上げ、ジェイドをじっと見つめながら弓弦は水面を通っていく。
「どう?」
「泳いでいるみたいです」
 弓弦はそう言って、ぎゅっとジェイドの手を握り締めた。しっかり持っていないと、不安なのだろう。その行動ががまた、ジェイドの頬を赤く染める。
 壁の方にまでその体勢で辿り着くと、次にジェイドは弓弦に浮き輪を渡す。
「じゃあ、次はこれを持ってみようか。ちょっとだけ、バタ足させながら」
「ちゃんと浮かぶか、不安ですけど」
 浮き輪をぎゅっと握り締めながら、不安そうに弓弦はそう言った。ジェイドはにかっと笑って弓弦の背中をぽんと軽く叩く。
「大丈夫!浮かばなかったら、俺が支えてあげるから」
 その言葉には全く下心が無いといえば嘘になる。だが、弓弦は何も疑う事なく「有難うございます」と言ってにっこり笑った。ジェイドの良心が少しだけ痛む。
「よ、よし!行ってみよう」
 ジェイドがそう言うと、弓弦はゆっくりと浮き輪を持ったままスタートした。ぱしゃぱしゃと頼りなく水を蹴っている。ジェイドはその隣をゆっくりと歩き、弓弦がバランスを崩すたびにそっと腰を持って支えてやる。下心はどうやらちゃんと納まったらしい。
 再び向かい側の壁に着くと、弓弦は達成感からにっこりと笑い、浮き輪から手を離しつつそこに立とうとした。だが、最初の地点とは違って深くなってしまっていた。
「あ」
 弓弦はそう言ってごぼ、と沈んでしまった。ジェイドは慌てて弓弦を抱き締め、水面に浮かぶ。
「大丈夫か?」
 ジェイドが心配そうに尋ねると、弓弦はちょっとだけ「けほ」と咳をした後、恥ずかしそうに笑った。
「ごめんなさい。足、つかなくて」
「俺こそごめん。ここがこんなに深くなってるとは思わなくて」
 お互い謝りつつも、抱き合ったままである。その状態に先に気付いたジェイドが顔を真っ赤にし、慌てたように浮き輪を掴んで弓弦に渡す。
「こ、これに掴まって。……で、次は純粋に遊ぼう」
「波が出るプールとかですか?」
 浮き輪に掴まりながら弓弦が言うと、ジェイドはこっくりと頷き、プールから出る。その後、手をすっと差し出し、掴んだ弓弦を優しくプールから連れ出す。
「じゃあ、遊びに行こう」
 プールに浮かべたままになっていた浮き輪を掴み、二人は波の出るプールへと向かう。時間ごとに色々な波が出るのを、弓弦は浮き輪に身体を通して、ジェイドは自らの体一つで体感する。
「少しだけ、休憩する?」
 大方の波を体感した後、ジェイドは弓弦にそう尋ねた。弓弦が「そうですね」と答えて波の出るプールから出ようとした。
「……水から出ると、重力が一杯あるんだなって思っちゃいますね」
 浮き輪を持ちながら弓弦はそう言って笑った。顔にほんの少しだけ疲れが見える。
「俺、疲れちゃった」
 ジェイドはそう言ってにっこりと笑う。すると、弓弦はそっと微笑む。
「じゃあ、プールはとりあえずやめましょうか」
 ほんの少しほっとしたような表情をした弓弦に、ジェイドはこっくりと頷く。そして最後にじっくりと再び弓弦の水着姿を拝んでから、待ち合わせを決めてプールを後にするのだった。


 ホテル内にある、ロビーを利用したカフェテラスでお茶をした後、二人はホテル内をのんびりと歩き始めた。ホテルの中にショッピング街のようなものまであるので、歩くだけでも飽きないようになっている。
「カジノだ!」
 ジェイドはその一角にカジノを見つけ、弓弦の手を引っ張って向かった。入り口でコインを貰い、何があるのかを見て回った。あったのは、ポーカー、ルーレット、ブラックジャック。
「何がやりたい?」
 ジェイドが尋ねると、弓弦はカジノの中を再び見回して口を開く。少しだけ照れたように。
「どれも難しそうですね」
「じゃあ、ルーレットにしよう。あれなら分かりやすいから」
 ジェイドはそう言って、ルーレットの所に進む。
「弓弦は、赤と黒のどっちが好き?」
「どちらも好きですけど……今の気分は、赤でしょうか」
 弓弦の言葉に、ジェイドはにっこりと笑いながら赤のほうにコインを全部置いた。「いいんですか?」とディーラー聞かれつつ。それにジェイドはこっくりと頷く。
 ディーラーは頷き、球を弾いた。金色の球が縁をくるくると回り、やがて減速しながら数字のある枠へと滑り込んでいく。
「綺麗ですね」
 その様子を見て、弓弦はそっと微笑む。それを見て、ジェイドは頬を緩ませた。
 球は、見事に赤に滑り込んだ。
「おめでとうございます」
 ディーラーはそう言い、賭けたコインの二倍をジェイドと弓弦に渡した。弓弦はそれを見て「凄いですね」と言いながら目を輝かせる。
「ジェイドさん、凄いですね!」
「凄いのは俺じゃなくて、弓弦ちゃんだよ。赤って言ったのは弓弦ちゃんなんだから」
 ジェイドが言うと、弓弦はそっと頬を赤らめて「有難うございます」と軽く頭を下げた。
「あちらで、商品と変えることが出来ますよ」
 ディーラーの示す方向には、商品引き換えコーナーがあった。得たコインをもち、ジェイドは弓弦の手を引いてそこに向かう。
「どれがいい?」
 ジェイドが言うと、弓弦はにっこりと笑いながら「どれも素敵です」と答える。
「それはジェイドさんが頑張ったから、ジェイドさんの好きなものと変えてください」
「それじゃあ……」
 弓弦の言葉に、ジェイドはそう言いながら何かを選んだ。選んだものを引換所にいた係員から受け取ると、ジェイドは「はい」と言って弓弦の左耳の上辺りに何かをつけた。
「何ですか?」
 弓弦は不思議そうに小首を傾げながら、そっと手に触る。ふわりとした触感が、手に気持ちいい。それから次に鏡を見た。
「……牡丹……!」
 それは、牡丹の花をモチーフにした髪飾りだった。薄紅色の花は弓弦の銀髪に美しく映えている。
「やっぱり似合う」
 ジェイドはそんな弓弦を見て嬉しそうである。弓弦は再びそっと牡丹に触れ、ジェイドを見てにっこりと微笑んだ。
「有難うございます」
 弓弦の言葉が、ジェイドの体の隅々まで染み渡っていくのを、確かに感じるのだった。


 夕食は、ホテル内のレストランで取った。普段では食べないような豪華な食材や料理が次々と運ばれ、どれも二人に舌鼓を打たせた。途中、何度も弓弦が「食べ過ぎかもしれません」と言っていたが、結局最後まで美味しく食べることが出来た。
「なんかこう、幸せだな」
 ジェイドはそう言って、デザートのチョコレートケーキを食べ終わった。口の中でとろりと溶けるチョコレートケーキは、クリームとスポンジの食感が絶妙であった。
「はい。幸せ、です」
 弓弦もチョコレートケーキの後の紅茶を口にしながら微笑んだ。と、その時「こほん」という咳払いがレストラン内に響いた。
「皆様、これより外に目をお向けくださいませ」
 支配人の言葉が終わると同時に、空に花が咲いた。ぱあん、という弾けるような音をさせて。
「花火……!」
「おお、綺麗だ」
 たくさんの花火に、より多くの歓声が響いた。一つ花が咲く毎に、人々の感嘆が漏れた。ジェイドはそっと椅子を動かし、外が見やすいように弓弦と並ぶように座る。
「本当に、綺麗だ」
 花火の光に照らされ、微笑んでいる弓弦を見てそっとジェイドは呟いた。弓弦は嬉しそうに微笑みながら外をじっと見つめていた。ジェイドはそれを見た後、再び外へと視線を戻した。
 花火はその後30分ほど続き、支配人の「有難うございました」という挨拶と拍手の中で盛大に終わっていった。
「夏も終わりだな……」
 ジェイドが淋しそうにそう言った瞬間、肩の辺りに温かさと柔らかな重みを感じた。ゆっくりと弓弦の方を見ると、すうすうと寝息を立てて眠っていた。
「今日、いっぱい遊んだもんな」
 ジェイドはそう言うと、そっと弓弦を抱き上げた。右手で背を、左手で両膝を支えながら。いわゆる、お姫様抱っこで。
 無事に部屋に辿り着き、ベッドにそっと寝かせる。弓弦はよほど疲れていたのか、相変わらず気持ち良さそうに眠っていた。
「いろいろ考えていたけど……ま、いっか」
 心の中で色々な計画というなの期待を膨らませていたものの、こうして気持ち良さそうに眠っている弓弦を見ていると、同でも良いようになってきたのである。
 ジェイドは再び弓弦を見つめ、そっと口付けをした。
「おやすみ」
 ジェイドはそう言い、窓にかかる薄いカーテンから差し込む柔らかな月の光に照らされ、より一層綺麗に見える弓弦を見た。見ているだけで、幸せと愛しさがこみ上げてきた。
「……ありがとう」
 ぽつりとジェイドはそう言うと、弓弦を起こさぬように、髪につけたままだった牡丹の花を取った。するりと髪を通って取れた牡丹の花に、ジェイドはそっと口付けるのだった。

<月明かりに牡丹の花が光り・了>
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年09月07日

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