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『〜Poker face〜 』
リュイ・ユウ0487

メビオス零


「JとKのツーペア」
「Qと8のフルハウスだ」

 周囲を取り巻いていたギャラリーが沈黙した。リュイ・ユウは蒼い顔で自分を見つめてくるディーラーを無視し、無言で差し出されたチップを手元に集めた。
 これで七連勝目。一回目はファイブカード。二回目はストレートフラッシュ。三回目でフルハウス………
 同じテーブルに何人もいるのに、ユウは簡単に連勝を重ねていた。ディーラーだけでなく、普段は見かけない顔であるユウがこうも連勝を重ねている事を訝しみ、中には露骨に怪しんでいる者もいる。これが普通の賭博場だったのなら、歓声が上がって囃し立てられる程度だっただろう。
 だが一度に賭けられるチップの総額は優に六桁………交渉次第では七桁は軽い様な賭博場である。そんな場所で連勝など、あってはならない事なのだ。しかも集まっている者達は皆“その筋”の人間であり、常人ならばこんな所に入った時点で回れ右をして帰っていっているだろう。
 しかし無愛想というか、表情を見せようとしないユウに堂々と文句を言う事も出来ず、静かにポーカー席を立って行った。
 手持ちの金を二倍近くまで増やせるチップを得たユウは、もう少しだけ稼ぎたいと思いつつも、カジノの奥から出てきたスーツ姿の厳つい顔をした男達を見て、微かに苦笑した。一人だけいやに若い男がいるが、恐らくこの男はオーナーだろう。

(どうやら経営者が代わった様ですね)

 裏の賭博であるため良心的だとかどうとかは言えないが、以前はこれぐらい勝っても特に何も言われなかった。しかし新しい経営者は、特定のお客以外に稼がせるつもりは全くないらしく、スーツ姿の男達に囲まれて、若い男がこちらへと向かってくる……

「初めましてMr.。景気が良さそうですね」
「お陰様で」
「いえいえ。私どもはお客様に楽しんでいただければそれで・・・どうですか?この私と一ゲーム?」
「良いですよ。やりましょう」

 ユウが言うと、黒服をバックにして若い男がテーブルに着いた。逆に入れ替わる様にして、今までユウと一緒にポーカーをしていた者達が一斉に席を立って、ギャラリーへと加わっていく。ディーラーも別の者と入れ替わり、先程までいたディーラーよりも慣れた手つきでカードを切っていく。
 ギャラリーもヒソヒソと囁き合っているため、ユウはそれだけでおおよその事態を把握した。どうやら、代わったオーナーは相当な厄介な手合いの様だ。

「では、カードを配ります」

 ディーラーが自分を含めてカードを配り始める。配られたカードを見てから、ユウは顔には出さずにムッとした。カードはあからさまにペアにならない様に組まれ、ワンペアにすらなっていない。要するにブタである。
 これでは交換したとしても、組を合わせるのは難しいだろう………
 反対にオーナーは余裕の笑みでユウを見ており、ディーラーは澄ました顔で黙々とカードの束を構えている。

(そう言う事ですか………それなら遠慮もいらないでしょう)

 ユウはそう判断し、カードを交換するためのチップを払った………

…………………
……………
………


――――十分後――――


「フラッシュ」
「ストレート」

 オーナーの男が睨み付けてくるのを、ユウは涼しげな顔で流していた。背後で控えていた黒服達は何時でも主人の指示で動ける様に構えており、ギャラリーも固唾を飲んで見守っている。
 オーナーの殺気に当てられたディーラーは………最初の澄ました顔で、淡々とカードを切っている。

「ハハハ。ポーカー強いんですね。まるでイカサマをしているようですよ」

 青筋を浮かべながら、静かにカードを受け取るオーナー………ギャラリーはまさか無視する訳にも行かないだろうとユウを見つめ、回答を聞き逃すまいと耳を澄ませ、唾を飲み込んで待ち受けた。
 ………ユウがそんな周りの空気に気が付かないはずがない。周囲に立ち込める雰囲気を察知しながら、それでも平然とした表情でユウはとんでも無い一言を言い放った………

「いえ。お互い様ですよ」

 ザワッ……
 ギャラリーだけでなく、待機していた黒服までもがざわつき、やがて小さく乾いた笑いを漏らし始めた。少しでもオーナーの気を削ごうと必死なのか、中には半泣きになっている者まで居る……
 肝心のオーナーは、プルプルと微かに震えながら微笑を浮かべ、ユウを見つめてくる。

(気色悪い男ですね。いっそキレてくれれば扱いやすいものを……)

 ユウは心の中でとんでも無い事を考えながら、オーナーの出方を窺った。流石にこんな賭博場を経営しているだけあってなかなか忍耐力がある。
 しばらくの間賭博場には険悪な雰囲気が流れていたが、オーナーの「次のゲームを最後にしませんか?」と言う声で、場が再び動き出した。露骨にユウを追い出しに来たが、ユウはその提案を受け入れた。元より、当面の目的である資金調達は達成されている。これで最後にしても、特に問題になるような事はない。

「そうですね。私も、もうそろそろ終わりにしようかと思っていた所です」
「それはちょうど良かった。それでしたら、最後のゲームですし……少々、賭け金を上乗せしませんか?」

 オーナーがそう言うと、背後で待機していた黒服達が一斉に銃身をスライドさせた。弾丸を装填し、断ればどうなるか………は、実に分かり易い。
 まぁ、これぐらいの人数ならば一人で相手出来なくもないのだが、こんな中途半端な場面で抜け出せば、後々が面倒な事になるだろう。

「構いません。何なら、持ち金の半分程賭けましょうか?」
「いえ。全部です。あなたが持っている金額を全て………私は、その倍を出しましょう」

 場がざわついた。ユウもこれには流石に躊躇し、目を細める。余程の自信があるのか、オーナーは青筋を立てながらも不敵な笑みを崩そうとしない……
 ユウはこの場から逃れる事は出来ないのだと覚悟を決め、静かに頷いた………





 それからしばらくして、ユウは店外に出てから小さく深呼吸をし、早々にその場を後にした。店内にいた客達は皆その後追おうとはせず、テーブルに突っ伏したオーナーと、床に倒れ込んでいる黒服達をどうした物かと困惑していた。
 ざわざわと近くにいる者達と話し合い、倒れている者達を見つめている。
 彼等がやるべき事と言えば、まずは救急車や警察を呼ぶべきだろう。だが裏の用心である者達が警察を呼ぶ事は出来ない。
 ならば証拠隠滅だろう。黒服達は銃を数発撃っているため、銃声は周囲に届いている。裏の賭博場であるこの場所は、虎視眈々と警察が挙げるために張っている可能性があるのだから………
 だが、まさかこんな事態になるとは予想していなかったため、誰もが驚き、右往左往していた。出て行ったユウに気が付いている者は、一体何割いるのやら………



―――やがて、皆がようやくその場に留まっている事が危険だと言う事に気が付いたときには、大勢の誰かが、裏と表の両方の入り口から入ってきた時だった……―――








〜後日〜

 賭博場で良いように稼いだユウは、市場に出回っていた一枚の新聞紙を買い取った。自宅へ届けられた新聞には書かれていなかったが、夕刊に出ている新聞記事は朝に届けられる物と内容が若干違う。

「…………ご苦労な事ですね」

 沢山の薬品が入っている紙袋を脇に挟み、新聞を片手に歩を進めた。道を歩いている者達は迷惑そうに避けていくが、そんな些末な事に、ユウはいちいち構おうとはしない………


――裏の賭博場にて一斉摘発!!乱闘と発砲騒動、原因はマフィアの抗争か!?――


 デカデカと印刷されている薄汚れた字を見て、ザッと呼んでから、新聞を店先に放置されているゴミ箱へと突っ込んだ。手持ちの金はちゃんと確保してから出て来たし、自分の特徴になりそうな物は置いてきていない。もし誰かが自分の事を証言したとしても、罪に問われるような事もないだろう………

「さて、まずはこの薬剤を調合しなければなりませんね」

 自分にまで害を及ぼす事ではないと判断したユウは、仕事場へと足を踏み入れた瞬間に賭博場での出来事を綺麗サッパリと流し、記憶の隅へと追いやっていた………










〜参加キャラクター〜
0487 リュイ・ユウ

〜ライター通信〜
 再びお目にかかれて光栄です。メビオス零です。
 前回の作品はお気に召して頂けたようで安心いたしました。初めて使うキャラクターの場合、非常に不安になる物で……
 今回も気に入って頂けたら幸いです。
 ご要望・感想・苦情などは、HPでいくらでも受け付けております。どうぞ、お暇でしたらBBSに書き込んでやって下さい。
 では、改めて、今回のご依頼、ありがとう御座いました。(・_・)(._.)

PCシチュエーションノベル(シングル) -
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2005年09月05日

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