▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夜空の恋人達 』
ジェイド・グリーン5324)&高遠・弓弦(0322)

「たなばた?」
 ジェイド・グリーンが耳慣れない言葉を聞いて、首を傾げる。
「知りませんか?日本の夏のお祭りなんですよ」
 元は中国のお話から来たんですけれどね、と高遠弓弦が言う。
 8月に入って暑い日が続く中、
「そう言えば、明日は旧暦の七夕ですね」
 弓弦がそう言ったのがきっかけだった。
 お祭りと聞いて、ジェイドが目を輝かせたのと、夏休みに入ってから遠出する事も無く家の中でのんびり過ごしていた弓弦を外に出そうという家族の目論みもあって、
「おはよう、弓弦ちゃん。用意出来てるって」
「…用意?」
 弓弦が朝起きた時には、すべての準備が整っていた。

*****

「浴衣ってこんなだったんだね。へえー」
「あ、ジェイドさん、あんまり動かないで下さい。位置がずれちゃいます」
 初めて着る浴衣の作りを面白がって、裾や袖を持ち上げるジェイドのお陰で、きちんと帯が締められずにいる弓弦がちょっと困ったように笑う。
「おっと、ごめんごめん。珍しくってさ、つい」
「浴衣を着るのは初めてなんですか?」
「うん」
 こっくりと頷きながら、突っ立ったままでいる彼の裾や胸元をきゅっきゅっと整えて、ふうと弓弦が満足そうに息を付いた。
「ひとに着せるのって、結構難しいんですね。はい、出来ました」
「へえー、あんな形をしてるのが紐一本で固定できるんだ。――よし、さあ弓弦ちゃん」
「はい?」
 ほのかに微笑んだ弓弦に、にんまりと笑ったジェイドが両手をわきわきと動かして、
「それじゃお礼に、今度は俺が着せてやろう♪」
 一瞬何を言われたのか分からなかった弓弦に、ずいと一歩近づいた。
「え――――あ、あの」
「遠慮しないで、ほらほら」
 あの、とかでも、とか口の中で言いながらじりじりと後ずさる弓弦に、満面の笑みを浮かべたまま同じ距離だけ近づいて行くジェイド。
 調子付いていたとは思う。思うが、だからと言って、1人着替えが済んだ室内に乱入してせっかんしようとするのはどうかと思う。
「あ、危ないよ〜」
 拳を逃れたのは良いが続けて攻撃が来そうな気配に身体を丸めると、弓弦がびっくりしたよな目をして慌てて止めに入った。
 そのまま、首根っこを捕まれてずるずると外へ排出されるジェイド。ゆらゆらと手を振りながら部屋の外へ消えて行く、そんな様子を呆然と見送っていた弓弦が、少ししてくす、っと笑った。
 ――そして、小さな小さな溜息を付く。
 外出が楽しくないわけは無い。けれど、それでも…ほんの少しだけ、もやもやとしたわだかまりが弓弦の心の中にあった。

*****

 2人の浴衣の状態と、弓弦の日焼け止めの具合をチェックした後、弓弦の目が届かなかった部分の塗り残しを塗ってもらって準備は完了。
 かちりと日傘を開き、巾着を手ににこりと微笑んだ弓弦と、お出かけでうきうきと楽しそうに笑みを浮かべているジェイドの2人が、玄関まで見送りに来た家族に手を振り。
 そしてやって来たのは――遊園地。
 渋い縞茶の浴衣を着たジェイドがぱたぱたとサンダルで元気良く動き回る中を、淡い青に金魚が泳いでいる涼しげな浴衣の弓弦が微笑みながらゆっくりと歩く、そんな姿があった。
「結構混んでるなぁ」
「夏休みですから、仕方ないですよ」
 ひとつふたつの乗り物に乗って、さて次はどこに行こうと日陰で考えている時、
「あ、あれ!」
 ジェイドが指差したのは、宇宙旅行を体験出来るアトラクションで、この夏に新設されたばかりのものだった。人気はあるらしく、ここからでも並んでいるのが見える。
「あ、でも開演まで結構時間があるか。それじゃあ…」
 ぐるりと周辺を見回しながらも、ある一点だけは綺麗に視線を外しているのに弓弦が気付き、そちらに目を向けると、あるのは洋風の館を模して作られたお化け屋敷。グロテスクさよりも優雅さに力を入れたと評判のアトラクションとパンフレットに書かれていた事を思い出し、ちら、とジェイドを見る。
「…あそこなんか、どうでしょうか」
 そして、指差した。もしジェイドが嫌なら、他の所で休憩するのもいいかな、と思いながら。だが、
「う、うん、いいんじゃないかな!?」
 わざと避けていた事さえも気付かれたくないジェイドは、少し大袈裟なくらいにっこりと笑いかけて見せた。
 ――そこは夜の闇。深い森の奥で、かさかさと草の鳴る音がする。
 木の上にいてこちらを見ているのは梟だろうか。光も無いのに目がちかりと光って見えるのは、きっと気のせいだろう。
 奥に見える建物の影で揺れるのは、焚き火だろうか――近寄れば、大鍋で何か煮ている魔女の姿が見えて来るような、そんな風景がお化け屋敷の中に展開されていた。
「だ、大丈夫、弓弦ちゃん?」
 まだ入り口に入ったばかりだと言うのに、お化け屋敷の中にある領主の館の入り口前で既にびくびくと周囲を見回しているジェイドが、引きつった笑みを見せて弓弦を気遣う。
「大丈夫ですよ、先に行きましょう」
 にこりと笑って一歩踏み出した途端、ぎぃぃぃ、ときしんだ音を立てて扉が開くのを、仕掛けだと分かっていながら小さく喉の奥で悲鳴を上げたジェイドがぎゅぅと自分の手を握り締める。
「此処のお化けはきれいなんですよー♪だから、大丈夫ですよ?」
 屋敷の中を半透明の姿をしたお化けが動き回るのが見えて半分涙目になっているジェイドに気付いたか、弓弦が今度はジェイドを気遣って進み始めた。

 ――が。

 ぐっ、ぐぅっ、うぅぅ…。
 うう〜〜あぁ〜うぅ……。
「………」
「………」
 通路に沿って屋敷の中を歩き回った先にあったのは、屋敷地下…と言う意味合いを持たせた室内。そこに無造作に積み上げられた棺桶からは、外に出ようと言うのかかたかたと蓋が動いたり、中からくぐもった声が聞こえたりしている。
 最初はそれなりに楽しんでいた様子の弓弦も、何度か脅かされたり、この部屋の様子を見て少し硬直気味となり、足が前に進まないでいる。
 そうこうしているうちに、後ろから他の客が進んでいる様子も聞こえ、また、こんな状況で1人怖がっている場合じゃないと、ジェイドがぐーっと奥歯を噛み締めて、
「行こう、弓弦ちゃん」
 ぎゅぅっとその小さな手を握り締めて、その場をダッシュで駆け抜けた。…こんなお化けに負けてられるか、と思いながら。
 ――手に汗をかいているのに、気付かれませんようにと今更ながらの願いを込めて。
 駆け抜けている間、弓弦がジェイドの横顔に視線を向けた気もしたが、それを問い返すだけの余裕は無かった。

*****

「お疲れ様でした。楽しかったですね」
 エアコンの効いた室内でのんびりと食事を摂りながら、弓弦がジェイドに笑いかける。
「まだ時間はあるから、もう少し何かに乗ろうか」
 …お化け屋敷を無事?にクリアした2人が、少し休憩を挟んで、宇宙旅行に行った後。ボートで建物の中を移動するアトラクションを2つ3つこなし、少し遅い昼食となった。
「あまり激しいのは困りますけど、他に何がありますか?」
「えっとね」
 ぱら、と園内のパンフレットを開いて、現在地と今まで乗ったアトラクションを確認し、2人で楽しめそうなものをいくつかピックアップする。
「まだこんなに。でも、乗り切れませんね。待ち時間もありますし…」
「ん?残念?」
 弓弦の、少し小さくなって行く言葉を耳にしたジェイドが顔を上げて彼女の顔を見た。
 え、と小さく声を上げた弓弦が、ほんの少しだけ顔を赤らめてうつむく。
「あ、はい…せっかく遊びに来たのに、って」
「だったらまた来ればいいんだよ。ほら、俺ならいつでも一緒させてもらうしさ」
「……そうですね」
 何かを言いかけて躊躇うような、そんな少しばかり言葉を濁すようにしながら、弓弦が小さく微笑む。
 その、どこか儚げな印象に、ジェイドが目を奪われたように言葉も無く見詰めていた。
「…ええと、ジェイドさん?どうかしましたか?」
「お?い、いやなんでもない。そうだな、じゃあ――」
 これとこれとー、と短そうな待ち時間の割には楽しめそうなアトラクションを上げて、その内容を想像して目が少し輝いて来た弓弦に内心ほっとしたジェイドが、ちゅーっと紙コップのジュースを飲み干して、
「行こうか」
 トレイを手に立ち上がった。

*****

「…ああ…風がとても気持ち良いですね」
 夕日が落ちて少し後。まだ辺りがほんのりと明るい中で、早くも空に輝き始めた星を見上げながら、弓弦が目を細める。
 川原に来たのは、此処から星が良く見えるとの弓弦の言葉に誘われてだったが、こうして土手に腰を降ろしてふうっと息を付くと、1日の心地良い疲れが流れて行くような感じがする。
 耳にはさらさらと川の流れる音、そしてどこかの草むらで鳴いているらしい虫の音。
「こう言うのを風情があるって言うのかな」
「ふふ、そうかもしれません」
 髪をさらさらと風に流しながら、少しずつ空に増えて行く星を眺めていた弓弦が、
「そう言えば、七夕の由来をお話していませんでしたね?」
 同じように空を眺めているジェイドへ話し掛けた。
 織姫は機を織り、彦星は牛を追う…そんな2人が出会ってしまい、恋に落ち、仕事に身が入らなくなった事を怒られて引き離された伝説を。
 そして、2人の間には天の川――ミルキーウェイが広がり、決して会えなくなった事。
 けれど、その事を嘆く2人を哀れに思った神様が、年に一度だけ会う事を許し、天の川に橋を掛けるのだと。…それが、7月7日の七夕の日の言い伝えになっているのだと、弓弦が静かに語って、それからゆっくりと口を噤む。
「…結局、一緒になれたわけじゃなくて普段は離れたままなんだね」
「そうなんです。本当は、いつも一緒にいたいのに、一緒にいると…周りに迷惑になってしまうから、離れるしかないんですよね」
 その言葉は、空にいる2人の事を言っているにも関わらず、何故だか酷く寂しそうで。
 思わず――ジェイドは弓弦の手を握り締めていた。
「俺達はこんなに近いじゃないか」
 こうして、手の届く位置にいるじゃないか――と、いつになく真剣な表情で言う。
「…近いということは、本当にいい事ですよね…有難う御座います」
 その手の温もりが伝わったのか、それとも、そうして手を握ってもらえた事が嬉しかったのか、弓弦はようやく顔を上げてにこりと微笑んだ。
「そうだよ。近くにいるんだから、弓弦ちゃんは1人で遠くに行っちゃ駄目だ」
「…え…」
 そう言い、顔を近づけて、銀色の髪がさらりと流れる額へそっと口付ける。
「っ…」
 びっくり。
 そんな風に目を丸くした弓弦が、顔を離したジェイドが照れたように横を向くのを見て、かあああ…っ、と顔を真赤にして、片手で顔を覆った。
「ジェ、ジェイドさん、あ、あの…」
「嫌だった?だったらごめん」
「いえっ、嫌なんて事は全然っ、ってそんな事を言いたいんじゃなくて…っ」
 ふるふると顔を振りながら、それでもジェイドと繋がれた手は離そうとせずに、弓弦が赤い頬を冷やそうと必死に手で顔を押さえる。
 そんな様子を目を細めて見守っていたジェイドが、すっかり一面の星で広がった夜空を見上げた。薄らと広がるミルキーウェイ、それを挟んで年一度の逢瀬を待ち焦がれる恋人達の姿を。
 そして――もう一度、自分はここにいる、と言うようにきゅっと弓弦の手を握る手に力を込める。
「…また、行こうよ。今度は夜にやっている遊園地とかさ」
 そして呟いた言葉に、隣で身じろぎする気配がして、

 返事の代わりに、きゅ、と――小さな手が握り返してきた。


-END-
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
間垣久実 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.