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『花降る刻 』
彩峰・みどり3057)&一條・美咲(4258)


 桜舞う季節。
 錯誤しに校舎を見上げれば風に舞う桜の花びらが空の青さにきれいに映えていた。
 風に乱れた髪を整えた手の動きそのままに、高鳴る胸を押さえる。
 今日からここにみどりは通うのだ。

 きれいな校舎だと本当にそう思った。
「………」
 中高一貫の私立の女子校。
 大半を過ごす場所であるのだから、こうして見上げていることも感慨深い物だと感じられる。
 この道の先にある門をくぐれば、否応なしに新生活が始まってしまうのだ。
 決して嫌なわけではないが、どうしても緊張してしまう。
 仕事の時とはまた違った緊張感だった。
 学校は楽しく過ごせるだろうか?
 仕事の所為で大変なことになってしまわないだろうか?
 色々な想像が頭をよぎっては消え、不安と期待で頭の中が一杯になる。
「どきどきしてきた……」
 このままでは道の真ん中で百面相をしてしまいかねないし、そろそろ時間だ。
「早く行かないと」
 首を振り歩き出したみどりは背後の背後から何か悲鳴めいた声が聞こえてくる。
 少し変わったイントネーションの……そう、それはかわいらしい声で紡ぎ出される関西弁。
「……?」
 振り返ったみどりの視界一杯に、驚いた表情の少女がすぐ側まで走ってきた姿だった。



 新生活初日。
 仕度に気を回しすぎていた美咲が進みすぎていた時計に気づいたのは遅刻ぎりぎりの時間。
 まさか初日に遅れるなんて。
 出来るならそれだけは阻止したいと家から飛び出し学校まで走る。
 知っている場所で本当によかった。
 慣れない道であったのなら、迷い無く走るなんて出来なかっただろうから。
 校舎は見えてきたし、正門まで直ぐ側だけれど鐘もなっていない。
「よかった、まにあ……っ!」
 ほっと息をつき、さあラストスパートだと顔を上げた美咲の目の前には驚いた顔をした少女が一人。
「えっ!?」
 お互い避ける間もなく、みどりと美咲は一緒になってそれはもう見事としか言えない程に勢いよく転んでしまったのだった。
「きゃあ!」
「きゃっ!?」
 思い切りよくこけた衝撃で、目の前がチカチカしていたりどこかしら痛んだりと身動きが取れない。
「痛た……」
 くらくらする頭を支えながら、それでも起きあがろうとした頃には美咲も同じように起きあがれるようになっていて……。
「ごめんな、うち急いでて! ケガ無い!?」
「大丈夫、驚いたけど……」
「よ、よかったぁ……」
 急いで顔を上げた美咲はそのままその場にへたり込んでしまう。
「いきなり起きちゃダメだよ」
「あはは、うち何時もこうで……」
 はにかむように笑いつつ、今度こそ大丈夫と服に付いたホコリを払い、手を取り合って立ち上がる。
 互いにケガがないことを確認し、気づいたことがもう一つ
「制服同じだね」
「一緒の中学みたいやね」
 それなら一緒に行こうかとどちらかとも無く言い出しかけた直前。
 鳴り響いた鐘の音に二人はぴたりと動きを止める。
 いうまでもなくそれは、遅刻を知らせる合図であった。 



 急いでは見た物の、そこから間に合うはずもなく残念ながら初日から二人そろって遅刻となってしまった。
「怒られちゃったね」
「うん、せやけど二人一緒でよかった」
 仲良く並んで廊下を歩いているのは、遅刻の罰としてプリント運びを言いつけられたからである。
 初日だからだろうか、量もさほど多くなかったし、こうして二人で運べば重くもない。
「あ、まだ名前も知らなかったね」
「せやね、さっきはうちの所為でごたごたしてもうて、ほんまにごめんな」
「私あの時緊張してたから、お陰で助かっちゃった。そうだ」
「……?」
 少しだけ足を止め、プリントを片手に持ち替えて向き合うように体の向きを変える。
「私は彩峰みどりって言うの、よろしくね」
「よろしく、うちは一條美咲や」
 同じく向きを変えた美咲が、転んだ後一緒に起きあがった時とはまた別の理由で手を差し出す。
 パッと表情を輝かせ、嬉しそうに手を握り替えしたみどりが緊張しながら尋ねてみる。
「よかったら……友達に……」
「もちろんっ、仲ようしよなっ」
 即座に返された言葉に、みどりも緊張補といて今度こそ本当に嬉しそうに微笑み返す。
「うんっ」
 二人がうち解けるのに、そう時間はかからなかった。
 それが彼女達が始めて出会った日の出来事。






 仕事と学校の両立は目が回りそうなほど大変だったけれど、それでも両方選んだのはみどり本人の願いだった。
 どちらか片方だけじゃなく、どちらも頑張って初めて得る物があると。頑張れば頑張るだけ良いことがあると信じていたから。
もちろんそれが大変なことだから、最初から上手くいかない物だとはすぐに解った。
 何故なら……。
「あ、あの子テレビで見た」
「ほんとだ、なんか凄いねぇ」
 教室や廊下を歩く度に遠巻きに聞こえる声。
 変わらな何時も通りなのにとこっそりと肩を落とす。
 これが上手くいってない気がすると感じることの一つ。
 テレビに出たり、有名子役として紹介される度に周りから一線を引かれてしまうのだ。
 頑張ってみどりから声をかけようとしてみたことはあったが、緊張しているのが相手に伝わってしまうのかなかなか上手く切っ掛けがつかめない。
 昼休みになって楽しそうに話しているクラスメート達、なかなか上手くいかない物だとうらやましくもあったりする。
 そんなこんなでなかなか親しい友人が出来にくい状況ではあった。
 只、一人を除いて。
「みどりちゃん、一緒にあそぼっ」
 すっかり聞き慣れた大阪弁は美咲の声だ。
「うんっ」
「今日はなにする?」
「えっと、図書館に借りた本返しに行きたいんだけど、良いかな」
「もっちろん」
 彼女は本当に凄い人だ。ぱっと明るい笑顔は何時だって変わらないから、それだけで安心できる。
 机から本を取り出し、大事にそれを抱えながら図書館へと向かう。
「行こう」
「今日は何の本借りんの?」
「これの続き、面白かったから」
「それうちも借りよかな」
「うん、凄く面白いよ」
 仲良く並んで歩く姿を見ていた周りも、自然と和らいだ雰囲気が伝わっていったようだった。
 ゆっくりとではあったが、着実に。
「あっ、それにノートともまとめようと思って」
「気い早いねぇ、テストはまだ先なんに」
「忙しくなってからだと大変だから」
「せやね、うちもわからへん所あったから一緒にやろ」
「うんっ、今からノートまとめ直しておくと覚えやすいって話聞いたから」
「二人でやれば楽しいし名案やね、そうと決まればノートとってこよう」
 一度は後にした教室に戻り、今度は鞄を手に戻ってくる。
「なにからしよか?」
「歴史なら一緒に問題出し合えるよ」
「ええ案やね、どこからだそか?」
「時間はまだあるから、それも一緒に考えよう」
「うんっ」
 それだけで時間が五分もたってしまったけれど、走ってはいけないと姿勢を正して歩くペースを気持遅くした。
 それでも他と比べれば早かったかも知れないが、何せ昼休みの時間は限られている。
 二人が図書館に着いたときには、既に何人かの生徒が先に来ていた。
 まだ並んで座れる机はあったので、そこに鞄を置き本を返却したり新しく借りたりしてから、ようやく落ち着く。
「本は後で読むとして……」
「ノートのまとめからしよな」
 予想以上に静かな図書室では声を立てるのをはばかられたのだ。
 静かな図書館の中で、文字を書く音が小さく響く。
「………」
「………?」
 手が止まり、首をかしげた美咲にみどりが小声でどうしたのか問いかける。
「美咲ちゃん?」
「ここがちょっと抜けてる見たいなんよ」
「きっと取り逃しちゃったんだよ、私のノート一緒に見よう」
「ありがとな」
 嬉しそうに返事を返してしまったために、大きくなりかけた声をあわてて押さえる。
 笑って誤魔化していた美咲が、入り口の方に向けて手を振る。
「……?」
 何かと思って振り返るとそこにいたのはクラスメートで、手にした鞄から同じ理由でここに来たのだとはうっすらとだが解った。
 同時に……こちらに話しかけようとしてくれていることも。
「みんなで一緒に勉強せえへん?」
「その方がきっとはかどるよ」
 二人して手を振ると、彼女たちは顔を見合わせてからにっこりと笑顔でテーブルについて一緒に勉強を始めた。
「教室の前で話してるの聞こえたから」
「うん、一緒にと思って」
 みんなでノートや教科書を広げて、一つのテーブルを囲んで。
 静にしないとならないから多くは会話できなかったけれど、確かにこれを切っ掛けに親しくなり始めたのだ。
 次第にうち解け、クラスのみんなとも仲良くなるのは……それからすぐの出来事。





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九十九 一 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月26日

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