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『たりない言葉 』
武上・豺5367)&波佐間・水那(5368)


 それは、少年の日常の一つであった。
 年は17。
 名は武上豺。
 表の顔は高校生である物の生まれ持った力のためか、誰の目にも明らかに風変わりな宿命を背負っていた。
 それ故にこの街の影に潜み、妖魔達との戦いを繰り返し続けている。
 今宵の相手は力が弱く只群れているだけの妖魔だが、数が多いのが特徴の相手だ。
 全て一度に片付ける様な目立つ事は位置的に滅多にないだろうとは言っても、無いとは言い切れないだけに目に付く事を考えれば出来ない。
 長引かせればそれだけリスクが増してしまう、誰かが何時物音に気づいてもおかしくないし……気まぐれにふらりとやってこないとも限らないのだ。
 一々攻撃を受け流しながら数を減らしていくのも手間が掛かる。
「………っ!」
 切り裂いたそのままの勢いで距離を取り、振り向きざまに覚悟を決めた。
 手っ取り早い、良い方法がある。
 ひゅっと短く息を吸い、妖魔の群れを睨み付けそのまっただ中へと走り込んでいく。
 腕を振り払う度に聞こえる声と腕や背をかすめる妖魔達の爪と牙。
 無茶とも言える戦法だが、こうして中央にいることで相手も集まり動きづらくなる上に、動揺して本能だけで反撃してしまう妖魔を端から倒していけば見た目よりは被害は少ない。
「あと………少し!」
 足をかすめた小物を靴底で踏みつぶし、ギリとコンクリートを踏みしめながら新たな気配を感じた方に視線を移し……動きを止めた。
 戦いの最中であるというのに。
 あまりにも不用意だと言われても、その通りだとしか答えようがない。
 そんな行動の理由は、豺と妖魔を阻むように水が現れたからでもあったのだが……それ以上に一人の少女の出現による物だった。
 一点を見つめ、心配そうにこちらを見つめる少女の名を呟く。
「……水那」
「また無茶な事して……」
 タッと軽い足音と共に、薄い色彩の金髪をなびかせながら走り寄ってくる。
 直ぐ側まで来るのを持つことが出来たのは彼女もまた力の所有者であり、水に守護されているからこそだった。
 同じ高校の制服を着た少女は豺の頬へと手を伸ばし傷を癒す。
「……ッ」
「怪我、痛みますか?」
 周囲にいた妖魔は新しい敵だと判断し、距離を離してこちらの様子を伺っている。
 戦いの最中に作られた大きな間の行方は……。
「どうしてきたんだっ」
 一瞬にして豺のペースに持って行かれてしまう。
「えっ」
 思いがけず大きくなってしまった声に水那も驚いたが、声を発した当の本人である豺も驚いていた。
「どうしてって……きっと、危ないことしてるって思って」
「なっ、だからそうじゃなくて」
「……?」
 不鮮明な言葉のかけらに水那が首をかしげる。
 危ないからこそ、一人で居ることを選んでいたのだ。
 戦うのも、怪我をするのも自分だけで良い。
 もっとはっきりと言ってしまうなら、水那だけはこんな事をさせたくない。
 たとえ傷の一筋でも付けられたらと想像すると………それだけでゾッとする。
「………っ! あー!! そんなきょとんとした顔したってダメだからな、帰れ」
「来たばっかりですよ?」
「そうだ、ここは俺だけ何とでも出来る」
「怪我してるのに?」
「こんな傷、何ともない」
 手の甲に流れた血の後をぬぐえば、そこに残っているのは薄くなり始めて居る傷跡。
 どうせ直ぐに治ってしまうのだ。
 そう暗に含ませた言葉に。水那は悲しそうな表情を見せ、静に首を振る。
「痛いのは同じです」
「……っ、水那っ」
 そっと傷口に触れようとした水那の背後に回り込んだ影に気づき、ぐっと腕を取り引き寄せた。
「……ッの!」
 逆の手でまた一匹妖魔を片付け、距離を取りながら声を張り上げる。
「だからっ、くるなって言っただろうが!」
「ご、ごめんなさ……」
「……」
 赤くなった水那に、改めて現状を理解した。
 咄嗟のことだとはいえ、この体制は……。
「………っ!」
 腕の中にいる水那につられて赤くなってしまいそうになるのを必死に押し殺し、群れ初めている妖魔らを睨み付ける。
「直ぐに終わらせる!」
 向けた言葉は水那に向けた物であると同時に、自分に対しても確認した言葉。
 彼女にほんの僅かでも触れさせる物か。
 側にいる水那を守りたい感情。
 傷つけようとする妖魔達に対する怒り。
 否応なしに高ぶっていく感情は、いつか制御できなくなってしまうのではないかと……それすらも不安となって煽り豺の心をかき乱していく。
「サポートだけでも……」
 だが最も動揺するのは、水那が見上げることなんて。
「ダメだ! サポートなんかいらない!!」
 背に庇うように動く豺の背を、くっと弱い力で引き留められた。
 簡単に振り解いてしまえる筈であるのに、どうしても出来ない。
 か弱いはずの手の動きは、こんなにも容易く豺を捕らえてしまえるのだ。
「私、守りたい」
「―――っ!」
 どきりと鳴る心臓の鼓動。
 思わず動きを止めてしまった豺に、隙を狙っていた妖魔が距離を詰めてくる。
「……! あぶなっ」
 水那ごと下がろうとするよりも早く。
 ぽふっと軽い感触と共に前へと回り込んで抱きついてくる軽い体。
 ぎゅっと抱きしめた手は頼ろうとしているのではなく、守ろうとしてくれているのだと解ってしまった。
 周囲を流れる水の涼しげな気配とは反対に、触れた場所から伝わる暖かさにカッと頭の芯から熱くなっていく。
 この細い腕に爪先でも掠めさせてなる物か。
 直前まで来た妖魔を端から薙ぎ払い、消し去っていく。
 低く呻きながら駆ける豺の姿は、まるで獣のように見えるに違いないとそう思えてならなかった。
 押さえたくて仕方のないその力を用いる事は、果たしてどんな結果へと導くのか解りはしない。
 こうしている今も、何かがゆらりと揺れている。
 戦いの最中であるから、それとも……。
「大丈夫?」
「………っ!」
 ヒートアップしすぎていた頭が一瞬にして引き戻される。
 しんっと静まりかえった周囲は、全てが終わった事を意味していた。
 普段の冷静さを保っていたのならば、すぐにここから離れた方が良いと考えていたであっただろう。
「大丈夫じゃない!」
 今度こそ明確な意志を持って張り上げた言葉に、ぎくりと水那が体をすくませる。
「どこか……」
「違うっ、俺が言いたいのはそうじゃない」
「………」
 無言のまま見上げる水那の瞳が、困惑に揺れながら、尚も豺の言葉を待とうとしていた。
「……っ!」
 素直で、優しい少女。
 彼女が触れることが怖くてならなかった。
 触れた瞬間に、傷ついてしまうのではないかと。
 取り返しの付かない事が起きてしまうのではないかという考えばかりが頭を占める。
「どうして一人で居ようとするの?」
「それで十分だからだ」
「そんなに怪我ばかりしてるのに」
「いいって言ってるだろ」
「私がそうしたいから」
 癒しの力を使おうとする水那から距離を取り、ズキリと痛む胸を押さえ叫んでしまった。
「俺はお前なんて好きじゃない! 好意の押し売りなんて迷惑なだけだ!!」
 口を付いて出た拒絶の言葉。
「………」
 うつむきながら瞼を中程までおろす仕草と表情は、水那を傷つけてしまったのだとはっきりと解った。
「………っ」
 頭が真っ白になる。
「ごめんなさい」
 謝られたことで逆にすうっと体の芯が冷え、胃の辺りに重い鉛を飲み込んだような気すらする。
「……ぁ」
 何を言おうか……言葉が見つからない豺の前から背を向けて走り去っていく。



 一人その場に立ちつくしていた豺は、苦々しく独りごちた。
「好きじゃない……」
 好きじゃない……なんて、そんな筈ある訳がないのに。
 それを伝えたい相手は、既に去ってしまった後だった。
 暫しの間水那が去っていった方を見つめていたが、唐突に髪を引っかき回し、低く呻き始める。
「あーーー! くそっ!」
 なんて事をしてしまったのだろう?
 それを考えるよりも前に、しなくてはならないことも出来てしまったようだ。
 派手に動きすぎたお陰で目立ってしまっただろうし、人の気配も近づきつつある。
「………」
 豺もその場所から何事もなかったように装いつつ離れながら、頭の中を占めていたのは水那の事ばかり。
 次にあったとき、なんて言えばいいのだ。
 何時だって不器用でままならない。
 それもまた……彼の日常の一部だった。




 
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
九十九 一 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月26日

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