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『TRAP OF LOVE? 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)
ここは、その道ではちょっと名の知れた魔法薬屋。
営んでいるのはシリューナ・リュクテイアという一人の女性。黒い髪に宝石のような赤い瞳、そしてスレンダーなその容姿には誰もが振り返るであろう美しい女性。しかしその優しい微笑みの裏に隠された"困った一面"を知る物は、ごくわずかである……。


ある日の昼下がり、シリューナはここ数日いつも以上に店が繁盛したため、少し寂しくなった棚に新しい商品を並べていた。
メインである治癒系の魔法薬はもちろんのこと、魔法の込められた石が埋め込まれた装飾品、呪術を封じ込めた呪薬類などが所狭しと並べられた店内は、昼でも独特の雰囲気が漂っている。

「こんにちはお姉さまっ★ よかったらなにかお手伝いしましょうか?」
そんな時、ちょうど店にやってきたのは、同じ竜族のファルス・ティレイラ。
ぱっと花が咲いたように笑う彼女。タイプの違う二人ではあったが仲が良く、まるで姉妹のようであり、事実二人を本当の姉妹だと思っている者も少なくはなかった。
「良いところに来たなティレ。其処にあるものを、棚に並べていってくれないか?」
「はぁ〜い、了解ですっ!」

鼻歌を歌いながら、なにやら御機嫌なティレイラは、指示された場所に商品を並べていく。たくさんの棚があるとはいえ、以前から何度も手伝いをしていたティレイラの手際はなかなかよかった。

彼女が居るだけで、周りの空気が明るくなったように感じるのは、決してシリューナだけではないだろう。
シリューナはそんな彼女を、優しく見つめていた。


「ん〜、お姉さま、これはどこに並べたらいいですか?」
ティレイラが手にしていたのは、竜をかたどった、まるで象牙のように白く美しいブレスレット。眼にはシリューナの瞳と同じ様な、真っ赤な石が埋め込まれている。なにか他の商品とはどこか違う、見る者を魅了するオーラのようなものを纏っていた。

「ふむ……そうだな、あそこの棚に頼む。くれぐれも気を付けてな。」
「大丈夫ですよ、まかせてくださいっ。」

指さした場所へパタパタとかけて行ったその手にはブレスレット一つだけ、まぁ少々そそっかしい所があるとはいえ、壊したりする心配はないだろう。そう彼女を信用したシリューナは背を向け、自分の作業に戻った。

指示された棚にはシンプルな装飾品が多く、また店の隅に存在することもあり、やけにひっそりとしていた。
ふと視線がぶつかったのは、そんな隅にある棚の、そのまた隅に置かれている妙な感じがする一つの箱。
さほど大きくもなく、特別ハデな装飾が施されているわけでもない。ただ気になるのは、他のどれにもあるような魔法石が、この箱には埋め込まれていないことだ。
そっと振り返ってみるが、シリューナは背を向けたまま、作業に没頭していてこちらに気付く様子もない。

にやり。

ティレイラはいたずらっぽく笑うと、ひょいと箱を取って棚の前に座りこんだ。
元々好奇心旺盛な彼女が、このままこの箱を見過ごせるわけがない。さっさとブレスレットを棚に置いてしまうと、膝の上に箱を置いた。

『なんだろう……もしかしてなにか、トクベツなものが入っているとか……?!』

瞳を輝かせ箱に手をかける。カギらしきものは特についてはいない、安易に開けることが出来そうだ。

『ごめんねお姉さまっ、ちょっとだけ……★』


第六感だろうか、何かを察知したシリューナが振り返ったときにはすでに遅く――。

「……ティレ?」
「ほへ?」

パチン、金具が外れた。
ほんの少し開いたフタの隙間から、眩しい光が漏れる。その光を真っ先に浴びたティレイラの手が、ピシピシと音を立てて石へと変わっていった。
「これは…もしかしていつものパターンッッ?!!」

涙ながらに差し出された手を取ることなく、シリューナは深くため息をついて首を横に振った。
「やれやれ、言うのが遅かったようだな……といっても、私の忠告をティレが大人しく聞いてくれていたのか、妖しいところだがな?」
「ごめんなさい、もういたずらしませんから、お姉さま助けてぇ〜〜!!!」
「今回は私の計画でも何でもない、自業自得だと思って諦めなさいティレ。」
「い、いやぁぁあああ〜〜そんなぁ〜〜〜!!」

それは今までにも何度か味わったことのある感覚。
ティレイラの身体はみるみる石像へと変わっていく。
もうこうなってしまっては、さすがのシリューナといえども手の出しようがない。出来ることと言えば自分まで巻き込まれないよう、離れて見ておくことだけ――。


「せっかく作った石化トラップボックスだったんだがな……まぁ、結果良ければ全て良し、ということか。」
シリューナは床に転がった、今では空となってしまった箱を拾い上げると、すっかり石像となってしまったティレイラの頬をつついた。
そのなんとも情けない表情がまた、シリューナの遊び心をくすぐった。
「さてと、お仕置きも兼ねてせいぜい楽しませて頂こうか、ティレ…?」




満月が綺麗なその夜、CLOSEの看板がかかった魔法薬屋の中から
さも楽しげに笑う女性の声を聞いた客は、そうそうに引き返したという――。


【Fin】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
光無月獅威 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月17日

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