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『【memory――その名は護竜】 』
神代・秀流0577)&高桐・璃菜(0580)

「そこだッ!!」
 神代秀流は右腕を突き出すと共に、重心を掛けた左足を軸として身体を捻った。そのまま踵を返すと、後ろ廻し蹴りを放つ動作となり、青年が回転する動きにメカニカルな恐竜の姿が重なる。最も獰猛な恐竜と謂われたシルエットのMS(マスタースレイブ)が繰り出したのは、長い尻尾を連想させるスタビライザーだ。
 多関節で作られた安定装置は鞭の如く薙ぎ振るわれたが、標的は既にバックステップを踏んで回避済みである。長い尻尾(スタビライザー)を放った反動で綺麗に回転してみせる『護竜』だったが、既に標的だったMSはタイミングを合わせて飛び込んでいた。
 ――Pi
 軽い音と共にニ体のMSの戦闘は止まった。
 記録した映像が停止したモニターを見ているのは、若い青年と少女だ。二人は食い入る様に見ていたモニターから視線を離せず、ただ沈黙が続く。静寂を破ったのは柔らかそうな緑色のロングヘアの未だあどけなさの残る娘だ。
「分析してみると、やっぱり違和感があるわね。確かに秀流の動きを護竜はトレースしているんだけど‥‥」
 口元に右手を当て、高桐璃菜は記録映像を巻き戻し再生する。大きな赤い瞳に尻尾を振るう姿が再び映し出された。
「ほら、もう相手のMSは回避運動に入っているわ。機体の重量や機動性能に問題があるんだと思うよ」
「何とかできないのか?」
 長めの黒髪にヘッドギアを嵌めている青年は、腕を組んでパートナーに結論を促がした。璃菜は秀流に端整な風貌を向ける。
「OSを弄って微調整してみるわ」

●父の思い出と恐竜の姿
「オーラーイ、オーラーイ、はいストップ! ゆっくり降下させて」
 璃菜の指示の元、秀流は天井に備え付けてあるリフターを操作し、MSの真上まで移動させると、手元の降下スイッチを押した。鈍い駆動音と共にフックのついたチェーンが降りて来る中、直ぐさま少女は軽くMSの上に登り、フックを護竜の上部装甲へと引っ掛けると、再び指示を出した。予めボルトは外してあり、恐竜の胸部ハッチごと上半身が上昇してゆく。
「さてと、秀流の分身みたいに動いて貰わなくっちゃね♪」
 璃菜は未だ18歳ながらメカニック担当でもある。とは言え、マシンテレパスを応用した内部プログラム関連の改良や処理が仕事だ。これまでだって二人だけでやって来た。この青年と少女には深い絆があるのかもしれない。
「俺の分身みたいに、か」
「ん? どうかした?」
 MSの中に潜って様々な部品をバラし、必要なパーツを取り出そうと格闘していた璃菜が顔を覗かせ訊ねた。
「いや、親父が護竜に託した想いを、俺は間違えていないのかと思ってさ」
「お父さん、か‥‥秀流ったら何時もお父さんの書斎にいたわよね」
 二人は顔をあげると、護竜の頭部を見つめた――――

 ――数年前。
 未だ秀流が幼い少年の頃、彼はよく養父の書斎で時間を刻んでいた。頬も丸みを帯びており、風貌はヤンチャそうな子供そのものだ。
 本棚には様々な本が収めてあり、綺麗に整頓されている。その中から手を伸ばして抜き取るのは、いつもの恐竜図鑑だ。満面の笑みを浮かべて秀流少年は床にうつ伏せになるとページを捲った。
「ねぇ、秀流〜遊ぼうよ〜」
「だーめ! もう本を読むって決めたんだもん♪」
 流石にこの体勢に入ると、璃菜が遊びをせがんでも動こうとしない。仕方なく幼い少女は頬を膨らますと、傍で人形遊びを始めた。彼女も柔らかそうな身体つきの可愛らしい女の子。大きな瞳は今も昔も変らない。
「おや? 秀流は恐竜が好きなのか」
 ふと大きな影が映る。少年は顔を向けると大きな瞳に養父を捉えた。瞳は爛々と輝いており、彼は大きく「うん!」と頷く。
「だって強そうだもん!」
 男は大きな笑い声を書斎に響かせると、秀流の傍でうつ伏せになる。大きな手が少年の黒髪をクシャクシャと撫でた。
「そうだな。でも、恐竜は強いだけじゃなかったんだぞ」
「えー? 強いの他に何があるの?」
「恐竜はな、群れで協力し合って生活して、子育てもしていたという『優しい』面も持っていたんだ」
 その時の養父の顔は覚えている。とても優しそうな表情だった。二人が微笑み合う中、話を聞いていた璃菜が満面の笑みで口を開く。
「じゃあ、秀流は恐竜さんだね。だって、喧嘩も強いし、とっても優しいもん♪」
「そいつは頼もしいな、いい父親になりそうだ」
 夕暮れの陽光が書斎を茜色に染める中、三人の笑い声は続いた。
 この時間が永遠に続くかのように――――

 ――数年の刻が流れた。
 少年は身長も伸び、未だ幼さは残るものの、顔つきは精悍さを帯びた青年へと変わっていた。少女も柔らかそうな身体は優麗なラインを帯び、大きな赤い瞳はそのままに、ほんのりと色香を感じさせる『女』へと変わろうとしている。
 そんな二人が思春期を終える頃、それは唐突に起きた。
 秀流と璃菜の瞳に映るのは、墓石だ。あげたばかりの花が添えられており、線香の煙が風に揺らめく。二人の表情は暗く、哀しみに彩られ、無言で立ち尽くしていた。
「お父さん‥‥どうして‥‥」
 瞳に涙を浮かべて、璃菜がポツリと呟く。
 ――事故による父親の他界。
 璃菜の父親であり、秀流の養父だった男は、帰らぬ人となったのだ。それから二人が笑顔を見せる事は無くなった。二人の育った家は静寂に包まれ、哀しみに暮れる日々が続いたのである。
 地面に雫が零れ落ちた。次第に雫が地面を濡らし、曇り空から雨が降り注ぐ。
「璃菜‥‥」
 ずぶ濡れになりながらも少女は動こうとしない。俯いたまま肩を小刻みに震わせていた。秀流は帰ろうとは言えなかった。何所にいても二人が変わる事はない。ならば気が済むまで傍にいようと決めたのだ。傘なんか必要ない。今なら涙も雨が流してくれるから。
「‥‥風邪ひいちまうぞ、おまえら」
 耳に飛び込んだのは男のしゃがれた声だ。秀流は聞き覚えのある声に振り向く。瞳に映ったのは、父親の友人である壮年の男だ。
「‥‥工場の、おっさん」
「ったく、なんて顔してやがる。おい、璃菜ちゃんもズブ濡れじゃねーか。秀流、傘くらい探して挿してやれねーのかよ」
「はい‥‥すみません」
 感情の篭っていない声で青年は答えて歩き出そうとした時だ。秀流の背中に、小さな声が雨音に交じって流れて来る。
「いらないから‥‥傘なんかいらないから」
 璃菜は離れるつもりはないようだ。整備士を生業とする男は、深い溜息を吐いて薄くなった髪をボリボリと掻いた。
「そいつは困ったなぁ。風邪ひかれちゃ親父さんに顔向けできねぇ」
「いいの‥‥、お父さんが迎えに来てくれるまで、私はここで待つから‥‥」
 青白い顔をあげると、緑色の髪は水分を含んで瞳を覆い隠す。青年は少女が力なく微笑んだような気がした。
 ――こんな時、なんて声を掛ければいいんだ‥‥。
「迎えなんか来ねぇぞ」
 秀流がただ立ち尽くす中、男はゆっくりと口を開いた。璃菜は振り向かず俯いたまま拳に力を込めると、半ばヒステリックに叫ぶ。
「来るまで待つもん!」
「来る筈がねぇだろ? 俺は親父さんに預かってるものがあるんだからよ」
 ――預かっているもの?
 初めて少女は整備士に顔を向けた。
「二人とも車に乗りな。預かってるものを見せてやるぜ」

●想いを託された姿
 二人は整備士の男と共に工場に辿り着いた。その間も三人に会話はなく、車から降りた男は短い溜息を吐いたものだ。
「中に入りな」
 促がされるままに工場内に二人は入る。中は暗くて何も見えなかった。男が壁のスイッチを入れると、工場内に明かりが注ぐ。
「こ、これは!」
「‥‥マスタースレイブ?」
 秀流と璃菜は驚愕の色を浮かばせ、口を開いた。
 二人の瞳に映ったのは、恐竜の姿を模ったMSだ。
「T−REX‥‥」
 青年は図鑑で見た恐竜を思い出す。正にMSは恐竜の王を彷彿とさせるシルエットだったのである。
「どうして‥‥恐竜の姿をしたMSが‥‥」
「これはアイツが秀流のために、と願ってカスタムしたものだ。荒々しくも優しい秀流にはこのカタチが合うはずだ。とな」
「親父が俺の為に‥‥」
「お父さんが残した機体‥‥」
 整備士が話す中、二人は吸い寄せられるように機体へと歩み出す。男は再び口を開く。
「この機体の名は『護竜』! 秀流、おまえが親父さんの意思を受け継ぐMSだ!」
 ――恐竜は強いだけじゃなかったんだぞ。
 恐竜はな、群れで協力し合って生活して、子育てもしていたという『優しい』面も持っていたんだ――――
 ――じゃあ、秀流は恐竜さんだね。だって、喧嘩も強いし、とっても優しいもん♪
 ――そいつは頼もしいな、いい父親になりそうだ。
「「護竜」」
 ――親父、俺は璃菜を護ってみせます! 恐竜のように強く、そして、優しく!
 ――お父さん、私は秀流の支えになるわ! いつまでも強く優しい恐竜であるように‥‥。もう泣かないから、今だけ‥‥。
 二人はMSに縋り付き涙を流した――――


「‥‥流、ちょっと秀流?」
 少女の声に青年は瞳を開く。顔を向けると、開け放たれた胸部ハッチへと身を乗り出す恰好で、顔を覗き込む璃菜が目の前に映った。小首を傾げ、若干心配気な表情だ。
「もうすぐ出番よ」
「ああ」
 意識を記憶から現実へと切り換え、秀流はぶっきらぼうに答えた。璃菜は「本当に大丈夫? 夜、遅かったから疲れてない?」と更に顔を近づける。慌てたのは青年だ。
「ち、近づき過ぎだぞ! 精神を整えていただけだ」
「そう? なら良いんだけど」
 タンッ☆ と軽やかな動作でMSから飛び降り、少女は護竜を見上げて再び声を掛ける。
「ね、秀流」
「‥‥なんだよ」
 起動スイッチを入れ、MSのセラミックエンジンが低い唸り声を響かせる中、秀流は微笑む璃菜を見つめた。
「いってらっしゃい☆ 勝っても負けても無事で帰ってきてね。お父さんも、そうだったから」
「おう!」
 気合で応え、青年は胸部ハッチを閉じると、ハッチで隠れていた獰猛な恐竜の頭部が曝け出された。護竜は咆哮をあげる如く駆動音を響かせ、前進してゆく。璃菜は勇猛なMSの背中を見つめ続けた。
 頑張ってね、秀流、護竜――――


<ライターより>
 この度は発注ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 続け様に様々な商品を発注して頂きましたが、いかがでしたか?
 護竜誕生秘話まで描かせて頂き、光栄です。
 回想で護竜に縋って泣くシーンですが、迷いましたが、色んな意味に取れるなと思い、心の中の声を付けさせて頂きました。未だ二人は恋人同士じゃありませんし、何か他に恋人同士となる決定的なエピソードがあるのかもしれないと思いましたから、このシーンの心の言葉は、義妹を想う気持ち、義兄を支える想い(気持ち的には世話焼きお姉さんかもしれませんが)とも解釈できるようになっています。回想が終わった後の台詞にも仕掛けを施してあったりします(笑)大したものではありませんが、お好きな解釈で☆
 そうですね、武器の腕を磨くエピソードもきっとあるんでしょうね。今回は戦闘シーンを意図的に省かせて頂きました。やはり恐竜の形と想いがメインですから、見送るシーンで幕を引くのが絵的に良いかなと(その後、エンドクレジットが流れるのですよ(笑))。でも、きっと勝った事でしょうね。最後に真っ暗な画面で歓声が響き渡ったと思って下さい(おいおい)。
 楽しんで頂けると幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2005年08月11日

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